第110回日本精神神経学会学術総会開催
2014.07.28
日本の精神科医療のこれからを考える
第110回日本精神神経学会学術総会開催
第110回日本精神神経学会が,6月26日-28日,宮岡等会長(北里大)のもと,パシフィコ横浜で開催された。「世界を変える精神医学――地域連携からはじまる国際化」がテーマに掲げられた今大会では,100を超えるシンポジウムが企画され,前回を大きく上回る約8300人が参加した。本紙では,薬物療法の実施時期を検討した会長企画によるシンポジウムと,大会テーマに即した「地域における精神科医療」を論じたシンポジウムの模様を報告する。
安易な薬物療法の実施に警鐘
宮岡等会長 |
初めに登壇した黒木俊秀氏(九大大学院)は,軽症うつ病患者への抗うつ薬の適用に対する見解を述べた。現段階で確実に有効性を示し得る治療法はほとんど存在せず「日本うつ病学会治療ガイドライン2012」でも,支持的精神療法と心理療法が治療の基本とされる。薬物療法の効果には症状自体の自然変動などの非特異的要因が占める割合も大きく,患者との信頼関係を構築しながら「どこまで薬物療法を実施せずに治療が進められるか」という視点での治療が必要と話した。
「昼間の活動に何らかの弊害が生じて初めて“不眠症”と診断される。『眠れない』という訴えだけで,すぐに薬物療法を行うべきではない」と話したのは司会の仙波氏。不眠症治療のポイントとして,(1)患者の主観的な訴えにこだわりすぎず生活習慣や日中の活動性にも注目すること,(2)睡眠衛生指導や認知行動療法(CBT)などの非薬物療法を優先すること,(3)睡眠薬の投与が必要な際には中止するための具体的な目標の設定まで行うことを挙げた。
なんば・ながたクリニックの永田利彦氏は,社交不安障害(SAD)はCBTと薬物療法のいずれも治療反応性が低く,特に「あがり症」や軽症例への薬物療法はプラセボ効果の意味合いが大きいと分析。併存症がない場合にはCBTを優先し,効果が見られなければSSRIの併用を考えるべきとの見解を示した。一方,うつ病やパニック障害の背景にSADが疑われる場合には,既に短時間型のベンゾジアゼピンを服用しているケースが多く,まずは長時間型に変更し,時期を見てSSRIへの切り替えやCBTを行うという自身のアプローチを紹介した。
DSM-5で初めて,独立した診断基準が記載された月経前不快気分障害(PMDD)。子どもへの虐待や離婚など,社会生活や対人関係にまで支障を来すことが特徴で,月経前症候群(PMS)や他の精神疾患との誤診に注意が必要となる。山田和男氏(東女医大東医療センター)は「PMDDならば何らかの薬物療法は行うべき」と主張。その診断は経験豊富な精神科医が行うべきであり,国内外のガイドラインでも推奨されているSSRIの間欠療法を治療の第一選択として挙げた。
近年注目を集める大人のADHD(注意欠如多動性障害)については松本英夫氏(東海大)が解説。まずは一人ひとり異なるADHDの特性分布...
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