医学界新聞

2014.03.03

Medical Library 書評・新刊案内


ネルソン小児感染症治療ガイド
原書第19版

齋藤 昭彦 監訳
新潟大学小児科学教室 翻訳

《評 者》森内 浩幸(長崎大大学院教授・小児病態制御学)

キレのある感染症診療を行うための比肩なき治療ガイド

 この本を手に取られた方は皆さんよくご存じのように,監訳の労を取られた齋藤昭彦氏は,長年にわたって米国で小児感染症の研究と診療にいそしんでこられ,今はわが国の小児感染症分野の次期リーダーの1人として大活躍の人である。「監訳の序」の中で齋藤氏は,元来翻訳を出すことには抵抗があったと述べられているが,これには評者自身も共感する部分がある。翻訳にしてしまうとかえって読みづらくなってしまう理由の1つは,病原体名や薬剤名や疾患名がアルファベット順になっている点である。アルファベットのままなら流して読めるのに,それを日本語訳してしまうと何の順番で並んでいるものやらまったくわからなくなってしまう。

 しかしこの『ネルソン小児感染症治療ガイド』の翻訳本には,そういうおっくうがって引き気味だった評者の気持ちを跳ね返す力があった。米国では小児科医の誰もが白衣のポケットに入れている本書は,エビデンスに基づいた治療指針を簡潔かつ明解に示してくれる。本当に残念だが,まだわが国にはこのレベルに近づいた治療指針はない。短くピリッとまとめられた総論的解説に,(先に述べたアルファベット順のトラブルはあるものの)箇条書きで必要最小限度の内容をきっちりと盛り込んだ多くの表から構成される本書は,必要なときに必要なことを探し出すのに適している。日米の違いを踏まえた脚注も掲げてあるので,「これは何?」「あれがない!」と戸惑うことは少ない。新潟大学小児科学教室の先生方が手分けして翻訳されているが,翻訳文は熟れており日本語として自然で読みやすいものになっている。機械的に訳すのではなく,内容を理解しながら日本語に置き換えていかれたことが察せられる。

 昨今,日本ではサンフォード・ガイド「熱病」の日本語訳が出回るようになって,感染症に興味のある多くの医師のポケットに忍ばせてある。サンフォードの原著を薦めてもなかなか手にしなかった人たちでも,翻訳されていると一気に距離感が縮まるようだ。サンフォードも素晴らしい治療ガイドであるが,こと小児に関することではネルソンに比肩するものはない。きっとこの翻訳が出たことで,多くの小児科医のポケットの友として,エビデンスに基づいたキレのある感染症診療を行うガイド役になってくれるのではないかと,大いに期待しているところである。

B6変・頁296 定価:本体3,400円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01808-1


早期離床ガイドブック
安心・安全・効果的なケアをめざして

宇都宮 明美 編著

《評 者》讃井 將満(自治医大さいたま医療センター教授・麻酔科学)

現代的理学療法の知識と実践のギャップを埋める良書

 現代のICUでは,人工呼吸中でさえ患者はできるだけ覚醒し,見当識が保たれているのがベストとされている。ICUにおけるできるだけ良好な精神状態がICU退室後の長期予後に影響すると考えられているからである。そのためには,良好な鎮痛が得られていることが前提条件で,多くのICU患者が鎮痛薬のみ投与され,必要がなければ鎮静薬を使用しないプロトコールが主流となった。

 このような鎮痛をベースとした浅い鎮静は,人工呼吸器時間を短縮する一方で,それに伴う肉体的・精神的な有害作用を増加させないばかりか,長期の精神的,肉体的予後に好影響を与える可能性がある。さらに,このような浅い鎮静の効果を最大限発揮させるために,いわばセットメニューとして行うべきものが早期離床(early mobilization)である。人工呼吸開始早期から肉体的活動を段階的にアップさせ,最終的には人工呼吸器を装着したままの歩行をめざすのが標準になった(『週刊医学界新聞』第3041号2013年9月2日)。

 われわれ医療者にとって,文献や学会レベルで得た新しい知識と,その実践との間に横たわる障壁は高い。特に,新しく学んだ手技の導入に関しては保守的とならざるを得ない。しかしこの保守性は,見方を変えれば重症の患者さんを目の前にして極めて正常な感受性の表出であり,この感受性は,どれほどシミュレーション・トレーニングを受けた医療者でさえ,失ってはならないものでもある。本書『早期離床ガイドブック-安心・安全・効果的なケアをめざして』の主題である早期離床に関しても,一歩間違えれば生命維持に必須の管類が事故抜去され容易に危機的状況になるし,いつから始め,どのようなときには中止し,どのような段階を経てステップアップしていくかなど,経験のない医療者にとっては想像もつかず,障壁は高い。

 この障壁を乗り越えるための最も効率の良い方法は経験者に学ぶことであり,インターネットを通じて共通の医学知識を共有する現代でさえ,実地研修の輝きが失われることがない。さすがに「本書を読めば実地研修が不要になります」と書けば,今流行の偽装に当たるが,このような「実地研修の良さを疑似体験できる書です」と書いても過大広告に当たらないと思う。また,本書は既存の呼吸理学療法に主眼を置いたICUの理学療法本と異なり,冒頭に述べた現代的ICUの理学療法の意義をよく咀嚼した上で,重症患者の理学療法を安全に行うコツがちりばめられている。そして,図表,写真のないページがほとんどないほどに豊富で,多数の具体的なプロトコールが掲載され,ベッドサイドに置いておきたいと思わせる。

 著者の宇都宮明美さんとは,近年お仕事を一緒にさせていただく機会が多いが,多くの人を惹きつける,とにかく明るい太陽のような方であると思うのはボクだけではないであろう。本書は,そのような明るい宇都宮さんが,ICUにおける理学療法というまだまだ暗い道の多い領域にライトを当ててくれ,「日本はノウハウもスタッフも十分ではないけど一緒に頑張りましょう」と励ましてくれ,なんだか自分のICUでもできそうな気分にさせてくれる良書である。

B5・頁184 定価:本体2,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01687-2


《眼科臨床エキスパート》
オキュラーサーフェス疾患
目で見る鑑別診断

吉村 長久,後藤 浩,谷原 秀信,天野 史郎 シリーズ編集
西田 幸二,天野 史郎 編

《評 者》島崎 潤(東歯大市川総合病院眼科部長)

オキュラーサーフェス専門医の頭の中がのぞける一冊

 眼科の魅力の一つに「直接目で見ることができる」というのがあると思う。ラボデータや画像を介しての診断が主体となる他科と異なり,眼科疾患の多くはスリットランプや眼底鏡などで直接見て診断を下し,治療効果の判定を行うことができる。特にオキュラーサーフェスは,その全てをスリットランプで観察することができる。眼科医ならば誰でも,オキュラーサーフェスの観察は日常的に行っており,施設や器械によってできたりできなかったりということはない。

 すると以下のような疑問が生じる。「誰にでも見ることができるのであれば,誰でも同じように診断できるのではないか?」答えは当然「ノー」である。同じ症例を前にしても,レジデントと専門医ではその診断技術に大きな差がある。ではその差は,接したことのある症例数,いわゆる「経験の差」に由来するのであろうか? これは半分は正解だが,半分はそうとも言えない。確かにスリットランプという単純な器械でもその使い方は奥が深い。しかし専門医の診断技術の神髄は,その頭の中にあると思う。オキュラーサーフェスは診断や治療に頭を使う分野である。眼で見た所見と病歴を元に,頭の中で病態のストーリーを組み立て,それを元に治療計画を立てる。その過程こそが経験の差であり,単なるデータ量の問題ではない。

 ここに紹介する『オキュラーサーフェス疾患――目で見る鑑別疾患』を読むと,オキュラーサーフェス専門医の頭の中をのぞくことができる。単なる疾患写真の羅列ではなく,どのように診断を下していくかが丁寧に書かれている。総説Iの「オキュラーサーフェス疾患の診断概論」(西田幸二先生担当)は,オキュラーサーフェス疾患をその病態から分類して俯瞰しているし,総説II「オキュラーサーフェス疾患における細隙灯顕微鏡の使い方」(天野史郎先生担当)は,スリットランプの使い方の極意を懇切丁寧に書いている。

 各論も,角膜では「点状表層角膜症」「角膜上皮欠損」「角膜潰瘍」「角膜沈着病巣」「角結膜瘢痕」「角膜浮腫」と,所見別にその鑑別のポイントがわかりやすく書かれており,角膜以外の結膜,眼瞼,涙液と同様の構成となっている。あたかも症例を前にした眼科医に直接指導しているような趣がある。加えて,角膜形状解析や前眼部OCT,マイボグラフィーやその他の細胞生物学的・遺伝子診断などにも触れられていて,オキュラーサーフェス専門医にも有用な内容となっている。

 本書は,通読して頭の中を整理するにも適しているし,日常診療で診断に迷った際に開くにも適している実用的な好著である。

B5・頁320 定価:本体15,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01873-9


外来で目をまわさない
めまい診療シンプルアプローチ

城倉 健 著

《評 者》田中 章景(横浜市大大学院主任教授・神経内科学・脳卒中医学)

めまいに関連する神経症候を正確に診る

 神経症候学は,19世紀の神経学者ジャン-マルタン・シャルコー(Jean-Martin Charcot)らが活躍した時代に,神経症候を神経病理所見と対比することで症候に特異的な責任病巣を明らかにするという手法により確立した。この当時の知見は現代に至るまで脈々と受け継がれてきている。そして,現代においても神経症候学が色あせないのは,神経学の分野では,患者を問診し診察で神経症候を明らかにするというスタイルが,最先端の診断機器と比較しても遜色ないほど多くの情報をもたらすことに起因している。

 しかし,一方でMRIをはじめとする診断機器は客観的かつ正確に責任病巣を描出し得るし,遺伝子検査により100%確実な診断を下せる病気もある。このように患者から情報を得るツールが増え,その精度が飛躍的に向上するにつれ,古典的な神経症候学の相対的地位は低下してきていると言わざるを得ない。

 本書『めまい診療シンプルアプローチ』の著者である城倉健氏は,神経症候学を自らの専門分野の一つに挙げるほど,神経症候学に対する強い情熱を持っている。特に眼振をはじめとする眼球運動と生理機能・画像検査所見を対比する数多くの研究を通じ,めまいを主訴とする患者を神経症候の把握によって的確に診断する能力において群を抜いている。

 本書は,そのような著者が,これまでのめまい診療・研究を通じて生み出してきた知見,技術のエッセンスを見事に集約した一冊となっている。めまい診療は,文字通りの「目がまわる」だけでなく,「ふわふわする」「ふらつく」など患者の多種多様な訴えからスタートする。めまいの診断には,眼球運動を中心に全身の神経症候を正確に把握することが最も重要であり,神経疾患の中では先進的診断技術の有用性が相対的に低いといえよう。本書には,独自のフローチャートをはじめ,わかりやすいイラスト,さらには眼振の動画などが掲載されており,初学者や神経学を専門としない医師にも神経症候の診かたからその意義付けまでが容易に理解できる構成となっている。

 本書を通じて著者が読者に訴えたいことは,めまいに関連する神経症候を正確に診る技術を修得し,その診療効果を実感することで,神経症候学の面白さ,重要性を再発見してもらいたいということであろう。さまざまな先進的診断機器が利用できるようになった現代は,神経症候の意義付けが19世紀に比べればはるかに正確にできるようになっている。この点で,現代こそ,新たな視点で神経症候学を見直すことで,問診と診察だけで,責任病巣を予想し的確な診断を下しやすい時代になっているのではないかと思われる。本書がそのような神経症候学リビジットのきっかけとなれば著者にとってもこの上ない喜びであろう。

B5・頁152 定価:本体4,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01833-3


《精神科臨床エキスパート》
依存と嗜癖
どう理解し,どう対処するか

野村 総一郎,中村 純,青木 省三,朝田 隆,水野 雅文 シリーズ編集
和田 清 編

《評 者》齋藤 利和(札医大教授・神経精神医学)

嗜癖概念の実践的な理解に有益な一冊

 依存と嗜癖については歴史的にさまざまな意味付けがなされてきた。これまでのICD-10(WHO診断基準),DSM-IV(米国精神医学会診断基準)では1977年のWHOが示したアルコール依存症候群の概念の影響を強く受け,両診断基準の中に精神依存を中心とする依存症の診断基準が示されていた。

 しかし,最近出版されたDSM-5では乱用と依存とで構成されていた物質使用障害から乱用,依存の概念は消失し,乱用3項目,依存7項目の診断項目に「渇望」の項目を加えて11項目の診断項目からなる物質使用障害としてまとめられている。また大項目は"Substance-Related and Addictive Disorders"となり,ギャンブル嗜癖がそれに加えられた。インターネット嗜癖も近い将来加えられる可能性がある。これはDSM作成グループの依存から嗜癖に診断基準を修正し,物質に限らず,ギャンブルやインターネットなどの行為嗜癖を含めて,より広く診断の対象を広げたいという意向があることがうかがえる。第1部「総論」を担当している宮田久嗣,廣中直行の言葉を借りれば,「物質だけではなく,嗜癖行動を起こす対象物を広く包括し,社会的障害も疾患概念に含み,疾患の閾値を下げる(より広く診断できる)ようになったといえる。このことが,依存と嗜癖の違いになるのであろう」ということである。つまり,嗜癖概念は依存概念より広い分野を包含する,より現実的な,実践的な概念ということになる。

 本書はDSM-5の登場によって依存概念から広げられたこの新しい嗜癖概念の実践的な理解に有益である。すなわち,第3部「嗜癖問題への対応と考え方」では,この手の本では取り上げられることのなかった病的ギャンブリングとインターネット嗜癖に多くの部分を割いている。さらに本書では,この第3部を含め,第2部「アルコール・薬物依存症の問題への対応と考え方」から第4部「回復支援施設からみた依存・嗜癖」に至るまで極めて実践的な姿勢で貫かれていることは注目に値する。またその内容も初心者からベテランに至るまでを満足させるような幅広い内容となっている。すなわち,第2部を例に取れば第1章の「臨床家が知っておきたい依存症治療の基本とコツ」(成瀬暢也)では治療にとって必要なことが漏れなく書かれているだけではなく,著者の長年の経験から生まれた,秘伝のコツまでもが書かれている。そのほか,併存する精神病性障害,暴力,自殺,家族支援に至るまで,これまで現場で苦闘をしてきた専門家の得難い助言が満載である。従来の依存概念から,より広い嗜癖概念へとかじを切ったDSM-5の出版直前に出版された本書はまさに当を得たものと言えるだろう。

 本書は医学生,研修医から専門家までの要求にこたえられる内容ではあるが,平易な理解しやすい文で書かれており,医療関係者や当事者・家族にも広く読まれることを期待したい。

B5・頁216 定価:6,090円(税5%込) 医学書院
ISBN978-4-260-01795-4


《標準理学療法学・作業療法学 専門基礎分野》
内科学
第3版

奈良 勲,鎌倉 矩子 シリーズ監修
前田 眞治,上月 正博,飯山 準一 執筆

《評 者》椿原 彰夫(川崎医療福祉大学長・リハビリテーション医学)

リハ関連専門職に持ってほしい内科学教科書,待望の改訂版

 「標準理学療法学・作業療法学」の専門基礎分野の教科書として長年愛顧されてきた名著『内科学』は,今回,第3版として全面改訂を完了した。その最大の特徴は,内科系疾患とリハビリテーション医学の双方を熟知する3人のリハビリテーション科専門医が執筆したことにある。リハビリテーション医療を必要とする障がい者の多くは内科系疾患を合併するようになり,安全に的確な機能訓練を進める上においても,その疾患の理解は不可欠である。リハビリテーション科専門医が日常臨床を実践する中で,リハビリテーション関連専門職に熟知させる必要があると判断される内科的知識が,本書の中には随所に認められる。これらの内科系知識を習得することによって,症状や病態生理が十分に把握できるようになることはもとより,機能訓練施行中の障がい者の変化にも即座に気付くことができ,効率的で確実・安全な治療を提供できるようになるであろう。

 近年,循環器・呼吸器・腎臓・肝臓・消化器疾患,悪性腫瘍など,内科系の疾患に基づく障がいがリハビリテーションの対象となっており,その全身管理がリハビリテーション関連職種にも求められている。本書にはこれらの関連疾患について,内科とリハビリテーション科の両方の視点から解説されている点が魅力的で,実際の臨床に大いに役立つものである。一方で,内科学を初めて学ぶ者が読みやすいように,そのエッセンスや症状の解説,検査所見の見方など,基本的な要素が最初に記載されており,内科学への導入を容易にしている。後に続く系統的・臓器別疾患の理解を深めやすい構成になっている。したがって,本書はこの一冊で,広範な内科学をすべて習得できるといえる。

 内容的には理学療法士・作業療法士国家試験ガイドラインに準拠したものであるが,国家試験対策のみならず,広範な内科学の知識を取得できる。ここに取り上げられている疾患は,障がい者に生じる併存疾患・合併症として頻度の高いものであるため,臨床場面では辞書としても役立つものである。加えて,解剖生理図が色彩豊かでわかりやすく,X線などの臨床画像が多数使われ,リハビリテーション関連専門職に最低限知っておいてほしい検査値や診療ガイドラインなども包含されている。

 本書はリハビリテーション関連専門職の待望の内科書として今後のリハビリテーションの質を高めていくものであり,学生の教科書としてだけでなく,臨床の現場に置いてほしい書物としてお薦めしたい。

B5・頁408 定価:本体6,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01707-7

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