医学界新聞

2013.09.02

Medical Library 書評・新刊案内


心電図を見るとドキドキする人のための
モニター心電図レッスン

大八木 秀和 著

《評 者》高橋 哲也(東京工科大教授・理学療法学)

PTやOTにも役立つ,臨場感あふれる心電図本

 本書『心電図を見るとドキドキする人のためのモニター心電図レッスン』(以下,『モニター心電図レッスン』)では,波形の特徴からモニター心電図を極めてわかりやすく解説している。「この本はいい!」。心電図を教えた経験がある者ならば,必ずや誰もが共感する内容である。私もこれまで,医療チームの一員としてこれだけは覚えてほしい(国家試験対策のためにも覚えるべき)内容を厳選し講義資料を作成していたが,この本にはそのすべてが完璧に網羅されている。特に,まさに覚えにくい所,理解しにくい所に,小気味よいコラムが挿入されていて知識の定着をサポートしてくれている。

 心電図(特に不整脈)については理学療法士(PT)や作業療法士(OT)の国家試験で必ず出題されるため,ほとんどのPTやOTは心電図については一通り勉強しているはずであるが,心電図を苦手とする者は少なくない。かくいう私も心電図を理解するため何冊参照しただろう。二十余年の臨床生活でPTとして必要な心電図の基本はマスターし(たつもりで),現在は大学で教鞭をとっているが,経験の乏しい学生に心電図を教えることほど難しいものはない。

 QRSの形が違ったら「心室性~」というようにと,ゆっくりかみ砕いて教えても,数分後にはPVCを「しん……ぼ,……う?」と自信なさげに小声で答える学生がいる。顔で笑っても心では「どう教えたらわかるんだ?」と教員を辞めたくなったのは一度ではない。

 正直,これまでの心電図の成書は,教科書的であったり,専門的すぎたり,一長一短であった。いきなり,Einthovenの三角形,電気的ベクトルが,と書き出されてもそれがどのように臨床に直結するか臨場感に乏しく,波形を暗記するように心電図が列挙されているだけでは,少し形が違う波形が出るだけでわからなくなってしまう。

 3つのレッスンと2つの特別レッスンの章で構成されている『モニター心電図レッスン』では,「心拍数をすばやく知る方法」,「心電図波形を見極める3つのルールと4つのステップ」,「不整脈の重症度の理解」,「ブロック波形」,「心電図の略語」など,大八木秀和先生の心電図を判読する際の目の動き(思考のプロセス)が,見事に表現されている。読み終えると,臨床家としてのスタートラインに立つ自信が湧いてくる。

 「心拍数をすばやく知る方法? 心拍数なんてモニター見ればわかるじゃん」と思うのは早計である。心拍数を読ませる心電図の問題は,PTやOTの国家試験では頻出し,これができないとみすみす1問落とすことになりかねない。

 本書には大八木先生の臨床経験に裏打ちされた知識と,看護師などへの指導経験から,何をどのように話したら理解してもらえるかというノウハウが詰まっている。聞けば大八木先生は薬剤師と医師の2つの国家資格をお持ちとのこと,ダブルライセンスだからこそ丁寧で現場感覚に溢れた内容になっている。

 何よりもタイムリーに挿入されているイラストが最高に微笑ましく,実は心電図の理解を定着させるための最後の一押しになり,苦手な心電図がイラストとともに忘れられないものとなるだろう。

 看護師を主な読者対象として作成されたようであるが,現職のPTやOTをはじめ心電図に苦手意識を持つすべての方にお薦めの逸書である。特に,国家試験を控えた学生には,必ず読むことをお薦めする。

B5・頁112 定価1,890円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01617-9


《眼科臨床エキスパート》
所見から考えるぶどう膜炎

吉村 長久,後藤 浩,谷原 秀信,天野 史郎 シリーズ編集
園田 康平,後藤 浩 編

《評 者》前田 利根(前田眼科クリニック院長)

すっきりとまとまった全眼科医必読の書

 そもそもぶどう膜炎は難しい。というか勉強がしにくい。原因不明のぶどう膜炎がそのほとんどであるから難しいのだろうか。医局員時代,先輩にステロイドの使い方をこまごまと指導されたからとっつきにくくなってしまったのだろうか。だいたいステロイドの使い方を別の先輩に尋ねると必ず違った使い方を指示されたものだ。ゴールデンスタンダードがないんだ,この世界は。

 と思っていたところ,この本が出版された。聡明な人たちが作った本は大変面白い,というのが読み終わっての正直な感想だ。

 この本のお薦めポイントは特に総論に力を入れているところだろう。総論だけ読んでも十分面白い。総論だけで1万円くらいの価値がある。疾患別にばらばらに治療法を記載するでなく,特にステロイドの使い方など,ぶどう膜炎ならどれも同じだろう,くらいの感じでバサッと総論でまとめているのがすがすがしい。その分,疾患別各論はのびのびと記述されており,読んでいてすっきり感がある。でもなかには大変珍しい疾患で治療法が記載されていないパートもある。これはおまえらには治療は無理だから大学に送れや,ということなのだろう。

 PCRをはじめとする新しい検査法の出現をもって,ぶどう膜炎の世界は明らかに別世界に移行した。古き眼科医も,新人眼科医も全部まとめて眼科医必読の書だと思う。

B5・頁308 定価15,750円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01738-1


胸部画像診断スタンダード

髙橋 雅士,上甲 剛,高橋 康二,栗原 泰之,田中 伸幸 編

《評 者》本田 浩(九大大学院教授・臨床放射線科学)

主な胸部疾患を網羅したコンパクトで実践的な書

 胸部領域での画像診断の中心が,胸部X線写真とCTであることは周知の通りである。三十数年前,放射線科医になりたてのころ,Felsonを何度読んでも胸部X線写真が十分に理解できなかった。その後,高分解能CT(HRCT)画像の出現や伸展固定肺を用いた病理所見との比較を目の当たりにして,HRCT画像の精度の高さに驚き,胸部画像診断の奥深さと面白さを実感した。振り返って胸部X線写真を眺めると,それまで見えなかったものが見えてきたような気になった。

 本書の発想は,「コンパクトで実践的な書」がベースになっている。日常臨床で高頻度に遭遇する胸部疾患を網羅し,胸部領域の非専門家でも気軽に利用できるテキストとなっている。放射線科専門医および放射線診断専門医のための「新しいガイドライン」を踏まえて,その目的に沿うように疾患が選択され,症例ごとに,放射線科専門医レベル,放射線診断専門医レベル,指導医レベルの表示がある。専門医試験をこれから受験する諸君にとっては,受験するための知識の目安に役立つ。全10章から構成され,腫瘍,縦隔疾患,感染症,びまん性疾患,血管性疾患,胸膜疾患,外傷,先天性疾患など,胸部領域で知っておくべき多くの疾患について解説されている。疾患ごとに,重要項目(Essentials)を押さえた後,臨床的事項,病態生理・病理像,画像所見の順に記述され,画像はいずれも,胸部X線写真とCT画像が示されている。すべての疾患で同様の配列がなされているため読みやすい。

 かつて米国から輸入された画像診断はパターンと鑑別診断の暗記が中心であった。それに対し,わが国の放射線科医は,病態や病理所見を基に,画像の組成解析から診断に至る努力を重ねてきた。このことがわれわれに,画像診断の奥深さと面白さを実感させてくれたように思う。このたゆまぬ研さんを積んだ,わが国を代表する44名の胸部領域の専門家による書である。知的活力が横溢する諸氏にもかかわらず,知識のエッセンスを凝縮し,コンパクトにまとめていただいたことに感謝する次第である。それだけに,われわれ読者は,行間に潜む執筆者諸氏の思いを受け止め,胸部領域の画像診断への理解をさらに深める努力をしなければと強く思う。そのようなきっかけを与えてくれる書である。

B5・頁348 定価6,300円(税5%込)MEDSI
http://www.medsi.co.jp/

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