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第3034号 2013年7月8日


Medical Library 書評・新刊案内


神経診断学を学ぶ人のために
第2版

柴﨑 浩 著

《評 者》祖父江 元(名大大学院教授・神経内科学)

神経診察に関わる全ての人々に薦めたい啓発の書

 柴﨑浩先生の『神経診断学を学ぶ人のために』改訂第2版が出版された。この書は既に2009年に第1版が出版され大変好評であったが,今回,多くの改訂が加えられ装いも新たに出版されたものである。

 まず,柴﨑先生ならではの大変な労作であると感じる。序で先生自ら述べられているが,電算化や画像化がどれだけ進んでも,神経診断学は学習と経験に基づいた病歴聴取と診察の中から生まれるものであることをまず宣言されている。最近の神経診断がややもすると画像やコンピューターに基づく知識に偏りすぎていて,安直な形で進められてしまっていることへの警鐘にもなっている。神経診断学は,理論に基づき系統的に行えば正しい診断に達することができるものであり,かつその背後に潜む神経系の美しさや素晴らしさが見えてくることを示しているのが本書である。

 本書にはいくつかの特徴がある。

 その第1は,柴﨑先生がお一人で執筆された点である。先生の長年にわたる経験や考え方あるいは提言をまとめた書であることである。全編に満ちる確信の書きぶりと小気味よい端正な記述の流れは,まさにこのことによっている。

 第2は,診断や病態理解に至る解剖学的,神経機能的背景が,まさに互いに関連する形で述べられており,考え方の道筋が示されている。特に不随意運動,姿勢・歩行,運動機能などは先生ご自身の研究成果も多く取り入れられて,考え方の根拠がはっきり述べられている。

 第3には実践的であるということである。三段階診断法や病歴聴取,診療の手順を始め,各項目に診察の具体的な手順が述べられていて初心者にも診断の流れやポイントが理解できるようになっている。さらに具体的な疾患の記載が手際よく文脈に挿入されており,知らず知らずのうちに疾患にたどり着いている。

 第4には新しい神経学の知見が盛り込まれていることである。それは新規の疾患遺伝子であったり,治療法であったり,疾患分類であったりする。このup-to-dateは改訂版の大きな特徴である。

 第5には90にも達するコラムの存在である。ポイントを押さえたテーマの選択と簡潔な記述のコラム欄は本書の大きな特徴で,重要な情報が凝集されており,本文と絶妙な掛け合いになっている。

 第6は,視床の項の存在である。視床についてこれだけ簡潔にその系統的な機能がまとめられているものはあまり例を見ない。特にその中継核としての視床の重要性をあらためて考えさせられる項目である。

 最近の診療の電算化は電子カルテをはじめ,画像や検査,情報の扱いなど,われわれの日常の診療に大きな変化をもたらしている。もちろん多くの良い点が見られるが,神経診察の領域でも,ややもすると不都合が起こっているかもしれない。例えば患者の神経症候の変化を時系列でみることがおろそかになっていないか。感覚障害の分布や強度,modalityを細かく描出する作業は,以前は診察の基本であったが,IT化とともに稀薄になってはいないか。若い人たちは,電子化情報の中に本質があると誤解してはいないか。本書は,臨床神経学の本質は,患者が訴える症状とその時間的経過の把握,および診察によって得られる症候の組み合わせであるとする考え方は少しも変わってはいないことを教えているように見える。

 本書がこのような時代の中で,あらためて改訂版として出版される意義は誠に大きいと考えられる。

 本書は,一方では,神経診断は決して難しいものではなく,その背景を理解することによって多くの人が共有すべきものであることを述べている。また神経診察は極めて実践的なものであり,診断や治療に向かうtoolとして多くの人が共有すべきものであることを示している。

 神経診察にかかわる全ての人々に,啓発の書として本書を薦めたい。

B5・頁400 定価8,925円(本体8,500円+税5%)医学書院
ISBN978-4-260-01632-2


心臓外科の刺激伝導系

黒澤 博身 著

《評 者》中西 敏雄(女子医大病院心臓病センター教授・循環器小児科学)

先天性心疾患の診断治療に携わるすべての関係者必読の書

 本書評の結論をまず冒頭に述べたい。先天性心疾患の解剖や刺激伝導系の解剖は,外科医にとっては必須の知識であり,外科医には本書は必読の書である。内科医,小児科医にとっては,外科医と先天性心疾患患者の診断治療について討論する上で必要な知識が本書の中にちりばめられている。先天性心疾患の解剖を理解したいと欲する内科医,小児科医には強く本書をお薦めする。

 以下に本書の内容を私なりの理解で紹介する。

 まず刺激伝導系の発生,心室ループやAV concordance, discordanceと房室結節の位置の関係がわかりやすく解説されている。

 次に心室中隔欠損(VSD)についてであるが,VSDの分類は,多くの分類があって若い医師を混乱させるものである。本書では,その点が明快にされており,さまざまなVSDにおける刺激伝導系の位置について,凝縮されて解説されている。

 Trabecula septomarginalis(TS)の章が一つ設けられている。読者の中にはTSがなぜ重要なのか,と疑問を持たれる方もいるかもしれない。VSDにおけるHis束penetrating bundle,それに続く右脚の走行が,TSの後方進展(後方脚)で覆われている例とそうでない例があることを見いだしたのが著者である。外科医がVSDを閉じるときに,針のかけ方が異なるゆえに,TSの理解,前乳頭筋群との関係の理解は非常に重要になってくる。膜様部中隔欠損へのカテーテルでの閉鎖栓留置は,数%に完全房室ロックが発生するために,わが国や米国では認められていない。刺激伝導系がTSで覆われず内膜直下にある場合には,閉鎖栓で房室ブロックが発生しやすくなることが考えられる。この章はTSについて,他書にない見解が述べられており,外科医にとっても内科医,小児科医にとっても重要なものとなっている。

 刺激伝導系右脚は直接房室ブロックにつながるものではないが,著者は一章を割いてVSDとの関係,右脚ブロック防止方法を解説している。著者の右脚ブロックも防止すべきという考えが伝わってくる。

 本書が単に刺激伝導系解剖の本でないことは,「先天性心疾患の心機能」という章があることでもわかる。読者は,ここに来て,え? 心機能? とびっくりされるかもしれない。著者は,長年,先天性心疾患は手術して終わりではなく,患者が一生,普通の生活を送れるべく,術後の心機能に注意を払うべきという方針をとってこられた。刺激伝導系と心機能についての直接の言及はないが,先天性心疾患を手術する外科医が常に心しておくべきことが,術後,特に遠隔期の心機能であること,遠隔期の心機能を良くするには,心臓の解剖を熟知して良い手術をすべきであるという著者の哲学が伝わってくる章である。

 Nomenclatureとデータベースの仕事も著者のlife workの一つである。ここでは,Nomenclatureとデータベースについて解説されている。

 以上の総論に続いて,各論でさらに詳しく各疾患の刺激伝導系について述べられている。VSD,房室中隔欠損症,ファロー四徴症,完全大血管転換症,両大血管右室起始症,修正大血管転換症における刺激伝導系の走行が,多くの図説と手術写真に基づいてつまびらかにされている。特に両大血管右室起始症の刺激伝導系については,何度講演を聴いても筆者には理解できなかったものであるが,こうして本になって熟読すると,よく理解できる。

 本書は,刺激伝導系のみでなく,それぞれの疾患の解剖の勉強に役立つ。従来の先天性心疾患の解剖の教科書は,白黒写真で,立体関係がいまひとつわかりにくかったが,本書にはカラー写真が多用されており,非常にわかりやすいものとなっている。加えて,著者の先天性心疾患への深い造詣が満載されているので,読者は魅了されることであろう。

 本書は,今までになかった,先天性心疾患の解剖と刺激伝導系の解剖についての「立体がわかる」本である。著者のlife workが凝縮されていることは言うまでもないが,決して私見ではなく公平に分析された解説となっている。先天性心疾患の診断治療に携わるすべての関係者に一読をお勧めする次第である。重ねてになるが,外科医には本書は必読の書である。先天性心疾患の解剖を理解したいと欲する内科医,小児科医にも強く本書をお薦めする。

A4・頁224 定価18,900円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01504-2


医療者のための結核の知識
第4版

四元 秀毅,山岸 文雄,永井 英明 著

《評 者》長尾 啓一(千葉大名誉教授/東工大特任教授)

幅広い職種で共有すべき結核の良書

 評判の高い本書が上梓されたのは2001年3月であり,この度早くも第4版となった。医科学の進歩のスピードが目覚ましいからではあるが,結核医療が政策医療であることも理由の1つである。

 初版の序を読み直してみると,結核に立ち向かう著者たちの思いが伝わってくる。病原微生物としては不器用で鈍重であるが,紀元前からしたたかに生き延びてきた結核菌に畏敬の念を抱いているようにも読み取れる。そして今回の版では新たな著者により遺漏なく最新の知見が加えられ,さらに充実した。

 結核医療は結核専門の医師だけでなるものでなく,一般医家,コメディカルスタッフ,行政職員との協働がなければ成り立ちゆくものではない。したがってそこに関与する者全てに,結核に関する必要最小限の知識を有していることが求められる。そのためには幅広い職種を対象とした結核に関する良書が必要となるが,本書こそまさにその目的に叶った書であろう。

 まずは,結核の歴史,疫学,検査,治療,予防についてコンパクトではあるが深く解説されている。項目ごとに「ポイント」と称して重要事項が箇条書きにされており,概念を頭にインプットしやすい。結核の病態は極めて多岐にわたるため,ともすると結核が鑑別診断に上がらないこともある。免疫不全と結核,さまざまな結核症例の提示の項,さらに付録の非結核性抗酸菌症は,一般診療の場で遭遇する多様な結核症およびその類縁疾患を知るのに極めて有用である。また,政策医療であるがために多くの届け出・申請が必要となるが,それらの書類すべてが巻末に参考資料として掲載されており,実務面でも大いに役立つと思われる。

 適正な結核医療のためにもぜひ座右に備えていただきたい1冊である。

B5・頁208 定価3,570円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01686-5


もしも心電図が小学校の必修科目だったら

香坂 俊 著

《評 者》青木 眞(感染症コンサルタント)

心電図が苦手な人にこそ薦めたい1冊

求められるパラダイムシフト
 帰国以来20年,評者の営みは熱やCRPを治療する感染症診療から患者を治療するそれに変えようとするものであった。その循環器版を遥かに高いレベルで行われるのが香坂先生である。元来,機械が好き,手技が好きな日本人と循環器科の相性は極めて良い。しかし,そこがまた落とし穴になる。冠動脈が狭くなっていればそれを広げ,不整脈があればそれを止めて良しとするのではなく,患者を治療し予後を改善しなければならない。何のためらいもなく毎年,検診と称して行われる心電図が,どれほど人々の健康に寄与しているのか,逆に被害を与えているのか……。広い意味でのパラダイムシフトが求められる今日の日本の医療である。本書は単なる心電図の教科書ではなく,循環器の世界観を垣間見せながらわれわれが追求すべきアウトカムを意識した医療を再考させるものである。

今日から使える内容
 本書では心電図が日常のどの場面で使えるか,逆に使ってはいけないかが極めて明確に記述されており,循環器音痴+心電図アレルギーの評者でも「これは使える……」といったものが目白押しだった。例を挙げると,

〈診断に関して〉
1)心房と心不全:心不全では心室の収縮が障害される前に拡張が障害されており,それが心房の負荷・拡大となって表現される。心房の大きさや心電図上の変化は心不全を考える良い材料である。
2)ST上昇を認める病態は複数あるが,鏡面像の変化を伴えば心筋梗塞によるそれの可能性が高い。
3)心電計のコンピュータは横方向の異常(例:房室ブロック,脚ブロック)に強く,縦方向のそれ(例:ST上昇)に弱い。一般的に「正常」の診断は信用できることが多いが,「異常」は信用できない。
4)心外膜炎,気胸,くも膜下出血に特異的な心電図変化はあるが,臨床現場では身体所見,胸部X線,頭部CTで診断すべきもの。

〈治療に関して〉
1)房室結節リエントリー頻拍といったマクロエントリー回路にはアブレーションによる治癒率は95%を越える。
2)低リスクの安定狭心症には至適薬物療法のみで十分。PCIは不要な場合が多い(COURAGE試験)。
3)一定以上に割れた左脚ブロックのQRSには両室ペーシングが有用。
4)カテーテルによる治療(PCI)にするかバイパス手術(CABG)にするかは内科・外科領域双方の専門家による議論で決定し,その際にはSYNTAXスコアなどを参考にする。

心電図が苦手な人にこそ薦めたい
 評者は素人的に循環器の領域を弁,冠動脈,心筋・膜,リズムなどに分けている。このうちリズム以外の領域は超音波その他の画像検査などにより,その対象を視覚化できるのに対し,リズムだけは心電図という抽象化された情報を扱うことになり背景にある電気生理を含めて苦手とする医師は少なくないと思う。しかし自身にとって処女作となる心電図の論文を『Stroke』という超一流誌に載せることからキャリアを始めた筆者は,心電図の背景にある複雑な電気生理を十分理解しつつ「現場で使える」部分のみを切り取りわれわれに提示してくれた。その点で本書は数式を用いない統計学の本に似て親しみやすく,同時にノーベル賞クラスの理論物理学者が小学生に算数を教えるような広さ,高さ,奥行きを示している。

 評者のように心電図を学ばんとしては敗退を繰り返してきた方にも,循環器を専門とする方にも強くお薦めします。

A5・頁192 2013年03月 定価3,360円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01711-4

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