医学界新聞

2013.03.25

温もりのあるがん看護を探る

第27回日本がん看護学会開催


 第27回日本がん看護学会が2月16-17日,小藤幹恵会長(金沢大病院)のもと,石川県立音楽堂(石川県金沢市)他にて開催された。「未来と希望を拓く温もりのあるがん看護」をテーマに掲げた今学会には,全国から4000人を超える看護師や看護教員が参加した。本紙では,がん患者に求められる支援を多角的に考察した2つのシンポジウムのもようを報告する。


治療期の患者をいかに支えるか

小藤幹恵会長
 がん医療の発展により,がんを持ちながらも家庭や職場で日常生活を送る“がんサバイバー”が増加している。その生活の充実のためには,治療期からの手厚い支援が必要だ。シンポジウム「治療期の患者・家族の輝きを引き出すがん看護」(座長=石川県立看護大・牧野智恵氏,北里大病院・近藤まゆみ氏)では,がん治療期にある患者に対する外来での支援や就労の問題へのかかわり方,患者家族へのサポートなどが議論された。

 初めに登壇した嘉山孝正氏(国立がん研究センター名誉総長/山形大)は,がん医療の現状を解説した。氏は,「がん患者カウンセリング料」「外来緩和ケア管理料」など,近年がん領域における看護師のかかわりが,診療報酬上の評価として整備され,その役割が明確に位置付けられてきたことを紹介。再発時の看護,就労問題,緩和医療,看取りにおけるかかわりなど,がん医療における看護師の役割や活動の場が拡大しつつあると語った。

 がん患者自身が就労の継続を希望していても,治療と仕事の両立が難しく,結果的に退職や廃業を余儀なくされるケースは多い。がん患者が「働きたくても働けない現状がある」と述べたのは,桜井なおみ氏(HOPEプロジェクト)。企業の雇用期間の長期化や女性の社会進出の増加傾向が見られるなか,がんと就労をめぐる問題は今後ますます重要な課題になるという見解を示し,就労支援の充実が求められると指摘した。「患者自身が人生をどのように生きたいのか」という視点に立ち,現在の会社に勤め続ける意志があるのか,転職や休職を希望するのか,どのような補助を法的に受けることが可能かなど,患者の具体的な要望と利用できる権利や制度とを照合し,情報を整理する支援の重要性を訴えた。

 医療ソーシャルワーカーの大沢かおり氏(東京共済病院/Hope Tree)は,がんの親を持つ子どもの支援について発言した。氏は,親ががんであることを子どもに伝える際のポイントは,(1)がん(Cancer)という疾患名であること,(2)感染(Catchy)する疾患ではないこと,(3)子どものせいで引き起こされたものではない(not Caused by)こと,の“3つのC”を明確にすることだと紹介。子どもに対する説明時の留意点や具体的な接し方の他,米国で開発されたがんの親を持つ小学生のグループサポートプログラム「CLIMB®」の活動内容を概説した。

 続いて登壇した神奈川県立がんセンターの清水奈緒美氏は,医療相談支援室に寄せられた治療期にあたる患者の相談内容を調査した結果を報告。これによると,治療の意思決定に関連する相談が一番多く,次いで症状に関する相談が多かったという。特に外来治療の患者は限られた診療時間のなかで,医療者から受けた説明を基に自身の状況を吟味し,複数の選択肢から治療法を決定する必要があることから,意思決定の支援が求められると氏は強調。自身の実践例を紹介するとともに,外来治療中の患者に対するセルフケア支援を組織としてシステム化することを課題として挙げた。

 総合討論では,外来の短い時間のなかでいかに患者の話を聞き,要望に応えるかという問いに対し,清水氏が「患者さんの言葉からだけでなく,表情や仕草から思いを汲み取る姿勢が大事」と回答した。また嘉山氏は「患者さんの話を聞くことが体系的に整備されていないのは問題」と指摘。多職種で協働しながら支援する必要性が示された。

がん医療の質向上を模索

 パネルディスカッション「今を生きるために拓く」(座長=金沢大・稲垣美智子氏,金沢医大・紺家千津子氏)では,終末期,外来の看護や,最新の医療技術など多様な観点から治療や支援の質を向上させる方策が模索された。

 独立型ホスピスであるピースハウス病院の二見典子氏は,がん看護におけるエンド・オブ・ライフケアの在り方について言及した。多くの終末期患者とかかわった経験を持つ氏が強く訴えたのは,清潔や身だしなみといった「セルフケア支援」と,残存機能で可能な限りチャレンジするなどの「創造的活動の支援」。それらの体験が,終末期を迎え,一人でできることが経時的に少なくなることに苦悩する患者のQOLを向上させるかかわりになるという見解を示した。

 平均在院日数の短縮化に伴い,初回から外来で治療を開始し,治療日のみの短期入院を繰り返すなど,がん治療の場は病院内から外来・在宅へと移行しつつある。「外来でいかにケアを行い,それを継続していくかが重要な時代になった」と述べたのは濱口恵子氏(がん研有明病院)。いま看護師に求められることとして氏が挙げたのは,病棟と外来の連携・調整を図り,治療と支援が途切れないようフォローすること。さらに,外来で接することのできる短い時間のなかでも患者の全体像を把握し,今後予測される経過に適したケアを先取りして実施することの2つだ。また外来がん看護を充実させるための課題としては,外来の看護師配置数の増員,「外来放射線治療加算」「外来化学療法加算」における看護師の要件化や人数の明確化などを訴えた。

 医師の梅田尚季氏(金沢先進医学センター)は,免疫細胞治療の展望を語った。免疫細胞治療は,体内の免疫細胞を体外に取り出し,培養・活性化することによってその働きを強化した上で再び体内に戻す治療法。自らの細胞を用いるため,発熱や倦怠感などの副作用は極めて軽く,また約2週間に1回の通院治療で済むことから,身体的負担が少ない。また適応となる患者に年齢制限がなく,一部の血液がんを除いてはステージや部位を問わずに実施でき,手術・化学療法・放射線治療と併用することで相互に治療効果を高めることが期待されるという。氏は「副作用が少なく,身体にやさしい免疫細胞治療を推進するために努力したい」と意気込みを語った。

 分子標的薬を用いた治療では,皮膚障害の発症が薬剤の奏効を示す反応である一方,その増悪が見られる場合は治療中断となる。皮膚症状を適切にコントロールできる知識と技術の向上が,分子標的薬治療を継続させる鍵と言える。静岡がんセンターの青木和惠氏は,がん医療に専門性を持つ看護師の育成と,その看護師たちの能力を発揮できる体制の構築に取り組んでいる。同院で行われるがん看護関連の認定看護師教育課程(5課程:皮膚・排泄ケア,緩和ケア,がん化学療法看護,がん放射線看護,乳がん看護)修了者向けに,個々の領域で実施されているプログラムを盛り込み,互いの共通性・関連性を学ぶことのできるカリキュラムの開発や,看護師一人ひとりの能力を統合し,力を発揮できるシステムの構築を進めていると紹介した。

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