医学界新聞

寄稿

2012.05.07

【寄稿】

男性糖尿病患者の
性機能障害を支援する看護の現状

村岡知美(埼玉社会保険病院 看護部/糖尿病看護認定看護師)


 「勃起不全(Erectile Dysfunction:ED)は自覚できる生活習慣病」といわれ,男性糖尿病患者の30-70%にEDが合併しているという(文献)。糖尿病や高血圧といった生活習慣病がEDの原因に深く関与している場合であれば,適切に療養生活を援助することでEDは改善につながる。しかし,EDは疾患の性質上,羞恥心などの理由から医療者,特に女性の多い看護師へ相談しにくい側面がある。そのために適切な治療が受けられず,精神的につらい思いをしている患者も多いことが考えられる。また,看護師もEDを持つ患者にかかわってよかったと思える事例だけでなく,接し方に困った事例も数多く経験しているはずであり,ED看護に対してさまざまな思いを持っていることだろう。

 筆者は,糖尿病看護認定看護師の有志とともに過去2年間,日本糖尿病教育・看護学会学術集会において,交流集会「本当はあなたの患者さんも悩んでいる? EDについて考えよう」「本当はあなたの患者さんも悩んでいる? そして私達も悩んでいる!? EDについて考えよう 第2弾!」を開催してきた。本稿では,交流集会の報告に加え,当施設のスタッフを対象に行ったアンケートの結果を通して,ED看護の現状を伝えたい。

踏み込んだ支援ができていないED看護

 糖尿病の合併症として,網膜症,腎症,神経障害の3つがいわゆる「三大合併症」として挙げられる。EDが神経障害であることは言うまでもない。だが,私自身,糖尿病看護認定看護師教育課程の研修を受けるまで,糖尿病とEDの関連性について意識して考えたり,その指導や支援に積極的にかかわったりすることはなかった。というのも,神経障害の中でもEDは生命維持に支障がないことから緊急性が低いと考えがちであり,またEDに関する看護研究や事例報告は皆無に等しく,糖尿病との関連性について学習する機会がほとんどなかったためだ。

 こうした現状を踏まえ,過去2年間に開催した交流集会では,普段私たち看護師があまり深く踏み込んだ支援のできていない領域として,EDにスポットを当てた。ED患者支援の促進につなげていきたいという思いから立ち上げた企画だ。

 準備段階から,「女性患者と生理や出産の話は必ずするのに,男性患者と性(ED)の話はなぜしないのか」「もしかしたら患者にとって,EDの話は大きなお世話なのかもしれない」「EDの問題が解決されれば,糖尿病についても前向きになれることがある」などの意見が聞かれ,企画者間で激論を交わすこともあった。

交流集会のもよう
第15回日本糖尿病教育・看護学会学術集会の交流集会「本当はあなたの患者さんも悩んでいる?そして私達も悩んでいる!? EDについて考えよう 第2弾!」には,計34人の参加者が集まり,ED看護について熱心な議論が交わされた。

ED看護は,できれば"避けたい"?

 私たち企画者もさまざまな思いを持って臨んだ交流集会だが,活発な議論を通じて,参加者から貴重な意見をいただき,有意義なものとなった。参加者に行ったアンケート結果からは,「EDについて考えるきっかけとなった」「糖尿病療養指導士の仲間たちに伝え,各施設で今後の研修課題としていきたい」「患者との初面接の際にEDについて話を聞きたい」「ポスターの掲示,パンフレット配布をしていきたい」「糖尿病教室の中で必ず話していきたい」「EDについて勉強したい」など,今後の実践に結びつくような前向きな意見が多かった。EDの看護について興味,関心を持つ看護師や,支援したいと考えている看護師が思った以上にたくさんいることがわかった。

 一方で気になる言葉もあった。「患者さんから相談されたときは,避けずに対応する」「教育の際は避けずに話をする」「EDについて目をそらさずに相談にのりたい」といった文中にある,「避けずに」「目をそらさずに」という言葉だ。彼ら彼女らにとって,「ED看護はできれば"避けたい"内容なのかもしれない」とくみ取ることもできる。特に女性看護師であれば,男性患者へEDの話を切り出すには,勇気がいる場合もあるだろう。実際,私自身もEDの話をしたときに,セクハラと取られるような発言を患者から受け,落ち込んだこともある。

 しかし,EDは糖尿病看護を実践していく者として積極的にかかわっていくべきテーマであることは間違いなく,患者に対して専門職として毅然とした態度,気持ちで接していくことが求められる。

より豊かな「生」を支援するために

 療養指導の場で,患者からEDについて率直な相談を受けることは少ない。相談しにくいという患者心理はもちろん,糖尿病とEDの関係を知らない患者が依然として多いことが理由として挙げられるだろう。糖尿病教室や療養相談外来における指導,パンフレットやポスターの掲示といった工夫により,医療サイドから積極的に患者へアプローチをし,EDに関する知識を伝え,適切な治療へと結びつけていくことが必要だ。

 それらを実践していくために,今後,ED看護を確立することが求められる。看護研究や事例報告の少なさから考えても,看護師のEDに対する関心が低いことがうかがえる。私の所属施設の糖尿病専門病棟看護師を対象に行ったアンケート結果からも,EDに関する知識は皆無に等しい現状だった()。患者からEDについての「訴えがない」「語られない」という以前に,まず医療スタッフの知識・関心の向上を図るべきだろう。

 EDの知識に関する当院糖尿病専門病棟看護師へのアンケート結果

 また,相談から治療までをスムーズに行える院内システムの構築も必要だ。当施設では,療養相談に訪れた男性患者にはEDの説明も必ず行うようにしているが,それでもその後の継続的な支援が行えていない現状がある。「積極的な介入は必要ない」という考えを持つ医師もいるため,看護師としてどこまで介入すべきか,できるかもあらためて考えなければならない。

 今後,「あきらめ」という思いを患者に抱かせぬよう,より豊かな「生」を支援するための看護支援を実現していきたい。

参考文献
1) 高橋良当.生活習慣病とED.クリニカルプラクティス.2005;24(12):1222-5.


村岡知美氏
1992年文恵高等看護学院卒。卒後,埼玉社会保険病院入職。2007年糖尿病看護認定看護師取得。同院の糖尿病療養相談外来の開設にも携わり,糖尿病専門病棟や外来で,患者の療養相談を行っている。

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