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第2961号 2012年1月16日


interview

SHDインターベンション
心臓への新たな低侵襲治療"TAVI"の可能性

古田晃氏(川崎市立川崎病院循環器内科)に聞く


 血管内治療の在り方を一変させたインターベンション技術。その次のターゲットとして,SHD(Structural Heart Disease)に注目が集まっている。低侵襲という特性から,従来の外科的処置が困難な患者に対しても実施が可能で,革新的治療となり得るSHDインターベンション。本紙では,日本人として唯一,そのパイオニアであるAlain Cribier氏(フランス・ルーアン大病院循環器科)の元で修練を積んだ古田晃氏にインタビュー。SHDインターベンションの特徴と展望について話を聞いた。


――インターベンション治療の新たなターゲットとして,SHDが注目されています。

古田 SHDとは,非冠動脈心疾患を包括して表すために1999年にMartin Leon氏により初めて用いられた用語です。概念自体は約半世紀前から存在していましたが,SHDの再認識に伴いその病理機序への注目が増すとともに,解剖学的異常をより明瞭に示すイメージングやカテーテル技術の発達が,SHDの診断や治療に貢献してきました。現在,SHDは心臓インターベンションにおける専門分野の一つとして台頭しつつあります。

――これまでのインターベンションとは異なるのですか。

古田 従来の繊細なカテーテル手技を,ダイナミックに拍動する心臓という3次元空間で行うため,心臓解剖学や血行動態学的な知識,拍動とデバイス間に生ずる相互作用も理解して治療に臨む必要があります。

――SHDには,従来,他の手法で治療されてきた疾患も含まれています。

古田 これまで先天性心疾患の色が強かったSHDですが,高齢化に伴い動脈硬化性弁疾患が急増しています。特に高齢者の大動脈弁狭窄症(AS)では多様な併存疾患が故に,従来からの大動脈弁置換術(AVR)の施行が難しい患者が増えており,こうした患者への救済策として,より低侵襲のカテーテル治療に期待が集まっていることもSHDインターベンションの一面です。

大動脈弁狭窄症患者への新たな福音"TAVI"

――現在,実用化されているSHDインターベンションにはどのようなものがありますか。

古田 最も先行している治療は,Alain Cribier氏が2002年に発表した大動脈弁植込み術(Transcatheter Aortic Valve Implantation;TAVI)です。AVR施行が難しいAS患者の救済法として,世界中で普及し始めています。欧州ではEdwards Lifesciences社のSAPIENTMと,Medtronic社のCoreValve®が流通しています()。日本では,SAPIENTMの治験結果が2012年には報告され,13年以降承認される見込みです。また,CoreValve®の治験も始まりました。

図 現在のTAVIデバイス
A:Edwards SAPIENTM XT,B:CoreValve® Revalving System。

――先生は,欧州での治験に実際に参加されていたと聞きましたが,印象に残ったご経験はありますか。

古田 PREVAIL EUという治験でしたが,翌朝亡くなるかもしれないような末期ASの高齢者ですら,TAVIを行うと1週間後には元気いっぱいで退院されるケースが多々あります。中には数年ぶりに社交ダンスが踊れるようになったと,興奮しながら笑顔で話される患者さんもいたのが印象的でした。

TAVIはAVRの代替治療となるのか?

――これまでの治療法とTAVIはどのように違うのですか。

古田 AVRが硬い弁組織をロンジュールやキューサーで30分近くかけて丁寧に除去した後で弁を置換するのに対し,TAVIでは一瞬でこじ開け破壊した弁組織をそのまま土台として上に生体弁をはめ込むため,治療の発想自体が異なります。ただ,「弁」という巨大な組織をカテーテルで運ぶため経路は限定され,血管損傷リスクが桁違いに高い治療となっています。実際,デバイスサイズと手技の大胆さには,私自身,衝撃を受けました。

――アプローチ経路は限定されるのですね。

古田 最近の報告では,低侵襲である大腿動脈アプローチ(TF)が全例の4分の3を占めていました。ただ強引なTFは血管損傷を引き起こすので,左室心尖部を開いて運ぶなど,必要に応じた経路選択が求められます。低侵襲化の観点からデバイスの小型化に期待しています。

――すべてのAVRがTAVIに代替される可能性はあるのですか。

古田 その考えは短絡的です。ASマネジメントにおいて,AVRだけでは高齢層に対応しきれませんが,TAVIだけではデバイスの耐久性の問題から若年層に対応しきれないかもしれません。デバイスの改良が進み耐久性や合併症の懸念が解消されたとしても,例えば多数の慢性疾患を抱える超高齢者に高額なTAVIを行うことは,医療経済的な面からも疑問です。現場で向き合っていると,そうした方のなかには積極的な医療を敬遠され,保存的治療あるいはせいぜい大動脈弁バルーン拡張術(BAV)での姑息的ケアのみを望まれる方も珍しくありません。

――これまで以上に治療が複雑になる場面が増えそうです。

古田 そうですね。いわゆる"High-risk AS"は,肺・肝・腎など多岐にわたる併発疾患と合わせてASシンドロームと総称されることがあります。病態は複雑で,開胸して弁を取り替えるだけでは予後改善は期待できません。標準的AS治療は確立していますが,TAVI時代を迎えASシンドロームのマネジメントも問われてくるでしょう。

 超高齢社会を迎えるにあたり,AVR vs. TAVIの図式ではなく,BAVも合わせた三神器がすべて共存し,それらを巧みに使い分ける必要があるかもしれません。

本場フランスでのTAVI修業

――先生はTAVIのトレーニングをフランスで受けられたとのことですが,そのきっかけは何ですか。

フランスでの師匠Alain Cribier氏と
古田 TAVIの発表当初,開発者のCribier氏は遠い憧れの存在でしかありませんでした。ある学会で先生の講演に興奮し,帰国直後に衝動的に書いたメールの送信ボタンを押してしまいました。当然返事はなく,気付いたら2通目も(笑)。いただいた返事は「留学生枠は数年先まで埋まっており,受け入れは絶対不可能」というものでした。内容はともかく,直接返事が来ただけで私は大喜びで,その感謝の気持ちをメールで伝え,いい夢を見たと思って半分あきらめたわけですが,今に思えば,彼との文通のようなことが,そのころから始まりました。

――文通ですか。

古田 はい。数か月おきに,恐る恐るメールすると,遅かれ早かれ返信が戻ってくるようになりました。「そばに移り住んで通いなさい」という言葉をもらったのは随分後のことです。

――そして,ルーアン大病院に行く機会を得たのですね。

古田 いや,当初フェローのポストは1年以上待つ必要があり,パリから不定期に通いました。その間は,パリの病院に身を置き,その後ようやくルーアン大病院の正式なポストを得ました。

――TAVIをリードする欧州で技術を習得する日本人は増えてきているのですか。

古田 後続組としてフランス行きを実現している医師が数人います。今ではフランスに限らず,イタリアやオランダでの修行を計画している若手チャレンジャーの話も耳にします。

SHDインターベンションのブレイクに向けて

――技術を修得された方が増えてくると,いよいよ日本でのブレイクも近いと感じます。

古田 現在の医療には,「治療の低侵襲化」という大きな潮流があります。その流れに乗っているからこそ,SHDインターベンションに脚光が集まるのだと思います。日本でも治験のデータベースが充実すれば,新たな治療法として普及が始まるでしょう。SHDインターベンションは,循環器内科医と心臓外科医との調和に加え,イメージングの専門医の協力やMEなどのコメディカル部門も含めた,集学的なアプローチが必須となります。心臓医療における新たなスタイルのモデルになるかもしれませんね。

――ありがとうございました。

(了)


古田晃氏
1997年慶大医学部卒。同大病院にて初期研修後,同大関連病院を経て渡仏。07年パリ・欧州ジョルジュ・ポンピドー病院にて心臓再生医療班に所属。08-10年ルーアン大病院循環器科臨床フェロー。帰国後,慶大心臓血管外科を経て11年より現職。全国若手医師による研究会活動「ストラクチャークラブ」への参加や,カテーテルによる低侵襲性心血管内治療研究会「TREND InterConference」の立ち上げ,各地での講演や執筆活動等を通し,大動脈弁治療を中心にSHDインターベンションの啓蒙・普及活動に取り組む。