医学界新聞

寄稿

2011.09.12

特集

良い医師を育てる秘訣とは?
亀田総合病院総合診療科研修


 「医師としての人格の涵養」「基本的診療能力の獲得」を理念とした新医師臨床研修制度の開始から6年。まだまだ多くの研修病院で試行錯誤が続くなか,この理念を体現し,知識・技能・プロ意識を兼ね備えた医師を養成し続けている研修病院が千葉県房総半島南部の過疎地域にある。

 充実した臨床研修で全国にその名を轟かせる亀田総合病院。毎年,医師臨床研修マッチングで人気を集めるこの病院が,良医を育て続けている秘訣はどこにあるのか。本紙ではその核心を探るため,同院の初期研修医全員がローテート(基本は1年目2か月,2年目1か月)する,"教育の核"である総合診療科研修の一日を追った。

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 亀田総合病院総合診療科の一日は,研修の要である「朝回診」からスタートする。

 朝8時15分,受け持ち患者の回診を終えた研修医たちがカンファレンス室に集まってきた。前日,同科に入院した患者の症例プレゼンと回診を医師全員で行う朝回診の始まりだ。取材日は,2人の新患について担当の1年目研修医がまずプレゼンを行った。

〈左〉「朝回診」におけるプレゼンのもよう。総合診療科の医師全員が集合し,指導医の司会のもと活発な質疑討論が展開される。抗菌薬の選び方などのレクチャーもここで行われる。
〈右〉初期・後期研修医,指導医で行う「チームレビュー」。適切な初期研修医の報告には,「素晴らしい」などの言葉が指導医から掛けられる。

学びのカギは「現場」にあり

 最初の症例は,誤嚥性肺炎の入院歴があり,嘔吐と発熱が主訴の60代女性。研修医は,自身がカルテに記載した現病歴,検査結果に沿って,プロブレムリストから鑑別診断を提示していく。感染症を疑いグラム染色の結果を説明していると,「嘔吐と発熱はどちらが先?」との質問。あいまいな部分には容赦なく突っ込みが入る。研修医が戸惑うと,指導医は診断における経過の大切さを説く。指導医は地域に多い感染症など自身の臨床経験を研修医に伝え,1症例に30分以上をかけプレゼンは行われた。その後は全員で回診。プレゼンで指摘があった点や疑問について,実際の臨床現場でフィードバックがなされていった。

 朝回診の後は研修のもう一つの要,「チームレビュー」が続く。同科では,ローテート中の初期研修医・後期研修医・指導医の3人強で構成されるチーム体制をとり病棟の診療を行っている。5つのチームに分かれ,初期研修医が受け持ち患者約10人の状態をチーム内で報告。後期研修医はこれを補足し,指導医は治療方針の確認と心電図の読み方などの教育を研修医に行う。報告の後は,チームで患者のもとへ行きまた現場で確認。ここで初期研修医の報告に対しフィードバックがなされる。指導医は研修医の見本となるよう,積極的に自ら診察に当たっているところが印象に残った。

研修の目標は「問題解決能力の修得」

病院を背景に総合診療科の医師が集合
 総合診療・感染症科部長の八重樫牧人氏は,総合診療科研修の目標を「患者さんが抱える問題を解決する能力を身につけること」と語る。将来どの診療科に進むにしても,予防も含めた問題解決に至る基本的な流れが身についていなければ適切な医療は行えないという考え方が教育の原点だ。逆にそれが身につけば,その上に専門医としての深い知識・技能も得られるので,医師としての幅の広さと深さが担保できるという。

 毎日の「朝回診」と「チームレビュー」を核とし,臨床現場で実践とフィードバックを繰り返すことでこの目標を達成できるよう,層の厚い教育体制を構築している様子がうかがえた。

医師に必要な能力を学ぶ多様なカンファレンス

 さまざまなカンファレンス()があるのも同科研修の特徴だ。取材日は15時から「Journal Club」が行われた。「朝回診」はプレゼンを学ぶ場だったが,こちらは論文の批判的吟味,すなわち患者さんの問題解決に有益なエビデンスを選別する能力を養う場だ。研修医は,普段から指導医に「その治療を選んだ根拠は?」と問われるなど,エビデンスに基づいた医療を行うことを意識付けられているという。

 総合診療科の「週間スケジュール」(2011年7月改訂版)
スケジュールの一部を以下に解説する。
プレラウンド……チームレビューの前の回診(初期研修医単独,もしくは後期研修医とともに行う)。
外来レビュー……後期研修医による当日の外来症例のレビュー。
総診カンファ……後期研修医による初期研修医向けの基本事項確認のカンファレンス。
MKSAP……米国内科専門医試験教材を用いた勉強会。
カイゼンカンファ……医療の質「カイゼン」のためのカンファレンス。
退院レビュー……過去一週間に退院した患者のレビューを行う。
症例相談……診断・治療・倫理面で困難な症例について,他チームの指導医・後期研修医からフィードバックを受ける。

 今回は糖尿病とHIVの2論文について,担当の後期研修医が概要を説明した後,初期・後期研修医と順にその論文の良い点,悪い点を挙げ,実際の患者を想定しながら論文の読み方を学ぶ。挙げられる点は上級医になるにつれ高度になり,研修医はその考え方を吸収していく。カンファレンスを確実に自分の能力向上につなげているようだ。カンファレンスの重要性を研修医が認識しており,指導医がその大切さを研修医に教えるところも,同科研修の特徴なのかもしれない。

 研修における不満な点を初期研修医に尋ねてみた。「常に上級医のスーパーバイズを受けるため,一人で患者を診る経験が足りない」とのこと。研修を行う上で患者の安全を守ることは絶対条件であるため,教育効果との天秤にはかけられないが貪欲に次のステップをめざしていることの表れだろう。

 伝統的に教育を重視し,先輩が後輩をしっかり見て育てる文化がある。そして徹底した現場主義のもと研修医の知識と技能を上級医が高める。"良い医師"を育てる秘訣はそこにあると感じた。

■研修医に聞く!! 総合診療科研修の魅力

<こんなことを聞いてみました>
Q1 亀田総合病院を選んだきっかけは?
Q2 研修を受けて感じる総合診療科研修の魅力
Q3 役立っているカンファレンスは?


古賀由里恵氏(1年目研修医)

左から古賀氏,高橋氏,佐野氏
Q1 私はリハビリテーション科を志望しているため,病院以外にも老健などの施設を持ち,急性期から回復期まで一貫して同じ考え方で診療に当たれること,リハ科以外の領域もきちんと修得することができ,なおかつしっかりしたリハ科があることが亀田総合病院を選んだ理由です。

Q2 知りたいことを何でも教えてもらえる幸せな環境だと感じています。学生のときは,「これを聞いたら怒られるのでは」などと考えてしまい,結局知識が得られないことも多かったのですが,研修中に勇気を出して聞いてみると,想像していたよりも多くの知識を得ることができ,自分の成長を実感しています。

Q3 「多職種カンファレンス」が役立っています。多くのスタッフがいて医療が成り立つという認識は学生時代から持っていましたが,研修医になってもその実感はなかなか持てませんでした。総合診療科をローテートして初めて他の職種の方ともコミュニケーションが取れるようになってきました。


高橋侑子氏(2年目研修医)

Q1 医学部6年時の亀田総合病院への見学がきっかけとなりました。志望している腫瘍内科と総合診療科を見学したのですが,とても温かく迎え入れてくれ,学生にも惜しみなく教えていただき,そして研修医が本当に楽しそうに診療をする様子をみて,私もぜひその一員になりたいと思い希望しました。

Q2 亀田総合病院でもしっかりとしたチーム体制をとっているのは総合診療科だけです。わからないことは屋根瓦式で順々に教えてもらえますし,研修医全員がある程度のレベルまで達することができるよう指導を受けます。専門科研修を行う際も総合診療科で学んだことがベースになっていると感じています。

Q3 「Journal Club」が勉強になっています。医療にエビデンスが大事といっても,それをどうやって勉強すればよいか,1年目のときはさっぱりわからなかったのですが,結論などの内容ではなくエビデンスとして信頼できるかに重きを置いて論文を評価する「Journal Club」で,その考え方を学んでいます。


佐野正浩氏(後期研修医,卒後3年目)

Q1 私は初期研修は大学病院で行い,後期研修で総合診療科を選択しました。大学病院の研修では各科で専門的な知識を学び非常に勉強になったのですが,将来は開発途上国で医療活動を行うことを考えており,そのとき求められる"コモンディジーズを診る力"が身についたかというと怪しい部分がありました。大学病院から市中病院に来るのは勇気がいりましたが,コモンディジーズの診かたをしっかり学びたいと考えています。

Q2 カンファレンスが魅力です。カンファレンスは,プロブレムを発見するとともに自分の間違いを正すきっかけにもなる重要な場です。施設や専門科によってはカンファレンスを休憩時間としている方もいますが,指導医がカンファレンスの大切さを教え,また研修医もカンファレンスの重要性を認識して取り組んでいるところは大きな魅力ですね。

Q3 「グラム染色道場」が面白く勉強になりました。顕微鏡の使い方から学びましたが,顕微鏡には意外にいろいろな機能があり,使い方によって細菌の見え方が全く異なることを学びました。これはかなりお薦めです。

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