医学界新聞

2010.09.27

第12回日本褥瘡学会開催

個の試みを統合し,QOLの保証された褥瘡ケアへ


 第12回日本褥瘡学会が8月20-21日,田中秀子会長(淑徳大)のもと幕張メッセ(千葉市)他で開催された。今,褥瘡医療・ケアの現場は,今年3月に発表された同学会理事会によるラップ療法容認や,「褥瘡予防・治療ガイドライン」の改訂作業など,変革期にある。そんな中開催された本学会のメインテーマは「QOLを保証した褥瘡ケア」。この目的を達成すべく,褥瘡の医療・ケアの入門者を対象とする教育講演から,最新の技術・知見に基づいた意見交換がなされたシンポジウムまで,さまざまな発表が行われた。


専門性を発揮した褥瘡ケアに期待

田中秀子会長
 会長講演「これからの褥瘡ケア――QOLを保証するための専門職の役割」では,田中氏が学会と自身のこれまでを振り返りながら,わが国の褥瘡ケアの在り方について語った。

 褥瘡ケアは,2002年の褥瘡対策未実施減算,04年の褥瘡管理加算,06年の褥瘡ハイリスクケア加算など,国家的対策のもと発展してきた。この背景には,診療報酬に結びつかなければ社会に認められないという関係者の強い意思があり,研究結果をもとに褥瘡ケアの重要性を示していったという。

 氏が米国のETスクールにてストーマ・創傷ケアを学んだのは1981年。一方で,90年代に入り日本の高齢者施設を訪問した際,抑制された高齢者や,褥瘡の発症と治癒を繰り返す高齢者の姿にショックを受けた。そこで,適切な日常ケアについて介護士に指導することの重要性を痛感し,褥瘡のアセスメントとケア,ブレーデンスケールの採点方法等をテーマとした勉強会を行ってきたと述べた。

 また,氏は本人の体型や動きを無視して使用されている車いすにより発生する褥瘡にも着目。同じ姿勢を長時間とらないこと,抗重力姿勢をとることなどに留意した,生体の働きを活性化するための姿勢保持具の使用が重要だと強調した。氏がかかわった患者の1人は,姿勢を正しく保てるように工夫したところ,心肺機能や食欲に改善が見られたという。

 氏はさらに,現在検討されている特定看護師(仮称)について言及し,看護職がこれまで以上に専門性を発揮し,活動していくことに期待感を示した。

個別の患者対応,職種間連携など,褥瘡患者の栄養管理は多様

 シンポジウム「QOL向上を目指した栄養管理」(司会=阪和第一泉北病院・美濃良夫氏,淑徳大・田中秀子氏)では,褥瘡の予防と早期治癒をめざす上で重要な栄養管理について,多職種から成る6人のシンポジストが実践例を示した。

 日本褥瘡学会の「褥瘡予防・管理ガイドライン」(以下,ガイドライン)には,褥瘡の予防および発生後のケアの指針が示されているが,そのClinical Questionの解答の推奨度は高くない。美濃氏はこうした事実を挙げた上で,学会推奨の具体的な栄養管理方法が示されていないと指摘。ガイドラインを踏まえつつ,実践的な栄養管理法を共有・発展させていくことを,本シンポジウムの狙いに位置付けた。

 口から食べるための支援をめざす「口のリハビリテーション」を紹介したのは栗原正紀氏(長崎リハビリテーション病院)。氏は,患者の病期に応じたリハビリテーションを実践している。急性期では,「口から食べる準備」として,乾燥した痰の除去などを行い,誤嚥性肺炎や窒息を防ぐ。さらに,亜急性期では,歯科との連携のもと口腔機能や摂食嚥下機能を改善し,「口から食べられる支援」を行う。さらに退院後の慢性期においても,地域の歯科医等との連携のもと,ケアの連続性を維持しているという。

 栄養士の幣憲一郎氏(京大病院)は,病院食づくりの工夫を紹介。食欲低下傾向の患者には,食欲回復のきっかけ作りとして七味唐辛子など食欲を刺激する調味料を多用した食事を提供しているという。さらに,食器の種類,旬の食材の活用,提供時の食材温度などにも配慮している。後半では,シンバイオティクスによって経管栄養実施時に起きる下痢等をコントロールする方法などを幅広く紹介した。

 日本静脈経腸栄養学会理事の井上善文氏(川崎病院)は,栄養管理に関する誤解を指摘。PEGを造設しても,適切な経腸栄養を実施しなければ患者は軽快しないとして,栄養管理に習熟することなどを喚起した。最後に,ガイドラインについて,学会員をリードしていくためには,エビデンスが不十分であっても,普及が求められる治療法には高い推奨度を付けるべきだと述べ,新ガイドラインに期待を示した。

 褥瘡の発生防止には,寝たきりの回避が有効な対策の一つになる。理学療法士の飯田有輝氏(厚生連海南病院)は,病態と体内の蛋白質量の関係から,リハビリテーションの開始時期を考察。急性期に大きな侵襲を受けると,体内では異化反応が進み,筋肉は減少するが,急性期を抜けると異化反応は和らぎ,筋肉の再合成が始まる。このことから氏は,急性期のリハビリは効果が小さく,異化の継続を助けてしまうと指摘。リハビリ開始には,筋肉の再合成を待つべきだとした。

 皮膚・排泄ケア認定看護師の木下幸子氏(岐阜大病院)は,症例をもとに,褥瘡患者の栄養管理における看護師の役割を述べた。重度の褥瘡を抱える患者へのケアとしては,スキンケアのほか,体重減少などに注目し摂取エネルギー量を柔軟に修正したことを紹介。経腸栄養剤投与などによる下痢で発赤・びらんが発生した患者には,経腸栄養剤投与方法の工夫や食物繊維の摂取機会の増量などを行ったという。さらに,がんによる疼痛を抱える患者の褥瘡発生例では,体位変換を実現するため,緩和ケアチームと連携したことを明かした。

来年秋の発行へ向けてガイドライン改訂が進行中

 シンポジウム「褥瘡予防・治療ガイドライン改訂:アルゴリズム・CQの検討」(司会=東医大・坪井良治氏,山口県立大・田中マキ子氏)では,「褥瘡予防・管理ガイドライン」の改訂作業の経過報告が行われた。現行版ガイドラインからの主な改善点は,(1)Clinical Questionの追加・増量と推奨度・推奨文の適正化,(2)全身療法への言及,(3)ラップ療法への言及,の3点。

 (1)推奨度については,治療法の有効性に対する認識が医療現場とガイドラインとの間で乖離しないよう努める方針。(2)全身療法では,栄養管理,基礎疾患への対策,感染症の合併,疼痛管理の4点を軸に作成していることが明かされた。(3)ラップ療法については,「医療用創傷被覆材の使用が原則」「非医療用材料の使用は医療用材料が入手困難な現場に限る」「十分な知識と経験を持った医師が患者とその家族の同意の上で実施」とする学会理事会の見解に基づき,今後の議論の展開も考慮してガイドライン策定に当たるとした。

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