医学界新聞

2009.06.01

第83回日本感染症学会開催


 第83回日本感染症学会が4月23-24日,京王プラザホテル(東京都新宿区)にて後藤元会長(杏林大)のもと開催された。「感染症教育を考える」をメインテーマに掲げ,卒前から専門医に至る感染症教育の現状と課題や,ウイルス学,微生物学といった基礎分野から公衆衛生まで多領域にわたる感染症の学び方について幅広い意見交換が行われた。本紙では,その一部のもようを報告する。


後藤元会長
 新型インフルエンザによるパンデミックが現実味を帯び,さまざまな対策がとられる一方で,マンパワー不足も指摘されている。感染症専門家の養成は一朝一夕にできるものではないが,将来の新たなパンデミック対策のためにもますます重要なものとなっていくと考えられる。シンポジウム「感染症をどのように学ぶか――若手へのsuggestion」(司会=埼玉医大・前﨑繁文氏,東邦大・舘田一博氏)では,さまざまな場で感染症学の教育を受け,現在は指導する立場にある4人の演者が,主に海外での経験をもとにした感染症学の学び方についてそれぞれ報告した。

若手医師への道しるべ

 まず,押谷仁氏(東北大)が,氏のこれまでのザンビアやWHOでの経験から,感染症の専門領域としての公衆衛生・疫学を紹介。WHOの日本人職員がわずか20名ほどと,公衆衛生・疫学を専門とする人材が圧倒的に不足する現実を踏まえ,基礎医学,臨床感染症の知識の上に,感染症コントロールとしての公衆衛生の知識を持った人材がわが国に必要と主張,そしてその先に国際貢献があると訴えた。また,若手へのsuggestionとして「日本で使えない人材は世界でも使えない」と指摘した上で,日本の,そして世界の感染症コントロールのために公衆衛生・疫学のエキスパートが必要と報告した。

 本郷偉元氏(武蔵野赤十字病院)は,氏の日米での臨床感染症研修の経験から感染症の学び方を報告。全臓器をカバーし,耐性菌を作らないという社会的使命を持った臨床感染症の魅力を挙げるとともに,日米それぞれの感染症専門医試験の概要を紹介した。最後に,若手へは「専門医の前に内科医であることを自覚」「幅広く興味を持ちやってみる」,指導医へは「若手医師をサポートする」「どんどん他施設や海外に送り出し,その後もフォローする」などと提言し,口演を終えた。

 ドイツ,イギリス,アメリカと3か国で感染症を学んだ経験を持つ吉田敦氏(獨協医大)は,各国の感染症の医療事情について詳しく紹介。魅力ある“感染症専門医師”をめざすため,「よきロールモデルとなるメンターをみつける」「海外にも足を踏み出す積極的な姿勢を持つ」「広い視野と多角的な視点を持つ」ことが重要と訴えた。

 最後に,有吉紅也氏(長崎大)が,熱帯地で感染症学を学ぶことの勧めというテーマで口演を行った。熱帯地には未解決の医学的問題が無数にあると述べるとともに,輸入感染症の背景や感染症の多面性を知ることができる熱帯感染症の魅力を強調。また若手に対して,感染症のもつ広大な世界を見てほしいと呼びかけた。

 また,フロアからは,「感染症専門医が少ないのはなぜか」「米国留学後,日本で医師として復帰できるか不安だったがどのように克服したか」など,演者のユニークな経験に関連した質問が数多く挙がった。

 このほか,麻疹やインフルエンザ,臨床で問題となる日和見感染症などの感染症をめぐる最新情報を取り上げた18題の「感染症update」や,500題を超える一般演題など充実したプログラムが並んだ。

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