医学界新聞

インタビュー

2008.10.06

【Interview】

よりよい学習環境づくりに向けて――
研修医の期待に応えるプログラムとは?


 新医師臨床研修制度の導入から5年目を迎えた。一定の効果が評価されるなか,プログラムの見直し論議が行われる今,「研修医の期待に応えるプログラム」について,初期研修の実施目的に照らして再評価する必要があるのではないか。

 では“研修医の視点から見た望ましい臨床研修プログラム像”とはどのようなものなのか。本紙では,「新医師臨床研修制度における都市・地域格差に対する影響」について初期研修医に調査を行った研究グループのうちの一人である聖ルカ・ライフサイエンス研究所の徳田安春氏(元沖縄県立中部病院内科副部長・臨床研修副委員長)にお話を伺った。


――調査研究の概要をご紹介ください。

徳田 厚労科研費「新医師臨床研修制度の評価に関する調査研究」(主任研究者:福井次矢氏)として,2005年度より3年間にわたり調査研究を行いました。この総括的な位置づけで昨年3月に都市部と地域の研修医間における知識・技術習得やプログラムに対する満足度の差異についてアンケート調査を実施しました。研修体制や各地域の教育資源の差異に起因する影響について調べようというものです。

 初期研修終了時の2年次研修医を対象に,全国の臨床研修指定病院1070施設に調査票を送付し,1025施設から有効回答を得ました。エリア分けとしては都市部は政令指定都市と特別区(東京都),地域はそれ以外にある病院と設定し,「研修先病院の形態(大学病院・一般病院)」「研修満足度」「基本的な臨床知識・技術・態度(98項目)の習得度」などについて質問しました。

――結果はいかがでしたか。

徳田 地域の大学病院・一般病院,都市部の大学病院・一般病院に分けてデータ分析を行ったのですが,「研修体制」「研修プログラム」「処遇・報酬」のすべてにおいて,4属性の中で都市部の大学病院が研修医からの満足度が最も低いという結果になりました。

――この結果をどのように分析されていますか。

徳田 研修体制に対する満足度を規定するファクターとしては,プログラムの内容,指導医の質,経験できる症例数などさまざまな要因があると思います。地域の病院は多くの症例が経験できるというメリットがあります。ただ都市部の一般病院の満足度が最も高かったことから推察しますと,単に症例数だけではなくプログラムの内容が大きな要因であると考えています。

 また都市部の大学病院は研修医の期待が大きく,結果的に期待とのギャップが大きかったという感想につながったかもしれません。一方,地域の大学病院はマッチング率の低さなどから危機感を持って丁寧にプログラムの改善などを行っているため,満足度に貢献したと推測しています。

 当研究所研究員の大出幸子氏が,今年の日本医学教育学会でこの結果を発表したところ,都市部の大学病院の教育関係者から反響がありました。

 現代の若手医師たちはインターネットや横のつながりを通じてさまざまな情報を持っています。大学病院離れを減らすためには,指導医の質とプログラム内容の充実が必要と思います。

――先ごろ厚労省から,現行の研修プログラムを弾力化し,臨床研修を行う分野や研修期間の見直しが可能か調査するという目的で,「臨床研修プログラムに関するモデル事業」が発表されました。

徳田 初期臨床研修の目標は,基本的臨床能力を身につけるための教育を実施して,医師の質を保証するというものです。「モデル事業」では大学病院に限って,各科の研修期間をある程度自由に設定できるということですが,これによって臨床研修の到達目標が達成できるかどうかを検証することが必要ではないでしょうか。

 われわれは本年度から厚労科研費「医学部教育,臨床研修制度,専門研修を縦断するカリキュラムの作成と医師養成の在り方に関する研究」として,さらなる調査を開始しています。

 よりよい医師育成を目指して,学習環境の評価について国内・国際比較を行い,学習環境と学習アウトカム達成度との関連を調査・研究し,分析していく予定です。

――満足度の高い研修プログラムは施設・地域に医師が定着する一方策といえそうです。ありがとうございました。

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