医学界新聞


エビデンスを国内,そして海外へ

2008.03.17

 エビデンスを国内,そして海外へ
第23回日本静脈経腸栄養学会開催


 第23回日本静脈経腸栄養学会が2月21-22日,藤山佳秀会長(滋賀医大)のもと京都市の国立京都国際会館にて開催された。栄養療法への関心が高まるなか,学会参加者は5000人,演題応募は1000題を超え,会場は多職種の活気であふれた。「栄養療法のUpdate――さらなるアイデンティティの確立を求めて」をテーマとした今回は,シンポジウム「栄養療法におけるエビデンス発信への試み」など,近年本格化したNST(栄養サポートチーム)活動の成果を検証する企画が目立った。また,ESPEN(ヨーロッパ臨床栄養・代謝学会)との間で成立したパートナーシップの概要が理事長講演の場で報告されたほか,双方の学会によるジョイント・ミーティングも開催された。


ESPENの生涯教育プログラムを導入

 大柳治正氏(近大)による理事長講演「理事長在職5年間を振り返って」では,自らの研究業績とともに,学会における近年の取り組みを報告した。

 日本静脈経腸栄養学会の会員数は昨年末で1万1151人に達し,その内訳は医師3700人,栄養士3000人,薬剤師・看護師・その他がそれぞれ1500人程度と多職種で構成されている。学会では研究の推進のほか,教育の充実にも力を注ぎ,医師のための生涯教育コースである「TNT(Total Nutritional Therapy)プロジェクト」の受講者は累計1万人,コメディカルを対象に学会が認定する「NST専門療法士」の合格者は800人を超えるまでになった。一方,栄養に関わる諸学会・団体で構成する第三者機関「日本栄養療法推進協議会」が認定したNST稼動施設は約800施設。2006年度の診療報酬からは栄養管理実施加算も導入されている。

 大柳氏はこうした成果を述べたうえで,今後の新たな動きとして,昨年10月にESPENとの間で成立したパートナーシップの概要を明らかにした。契約には,学術交流の場を設けるほか,ESPENの生涯教育プログラムの導入,“Nutrition Day”(入院患者の栄養状態に関する世界規模のアンケート調査)への参加も含まれている。本年1月末の“Nutrition Day”では,時間的制約にもかかわらず,日本からの参加施設数が参加国中で最大であったと報告し,「日本の熱意を世界に示すことができた」と参加者らに感謝の意を述べた。

 最後は「すべての活動はバランスのうえに成り立つ」と強調。基礎と臨床,学会員の職種構成,世界とアジアなど,今後とも多方面で調和のとれた学会であることを求めて壇を降りた。

看護職がみたNSTの現状

 NST稼動施設の急増に伴い,今後は質の確保が重要となってくる。特に院内最大のマンパワーであり,患者にいちばん近い存在である看護職の関わりは,“NST成功のカギを握る”とも言える。パネルディスカッション「NSTの現状とupdate」(座長=東女医大・篠聡子氏,尾鷲総合病院・川口恵氏)では,病院の機能やNST運営の実績がそれぞれ異なる7施設の看護師が現状を報告し,看護師の立場でみた問題点を分析した。討論では,(1)急性期における課題,(2)スタッフへの教育やモチベーションの維持,(3)地域連携の3点を中心に議論がなされた。

 高度救命救急センターを有する急性期病院の立場からは,「週1回のNST回診では対応不足」という問題点が挙がった。特に救急やICUの症例では,病態の急変に伴う栄養療法の迅速な変更が必要となるため,カンファレンスなどを通じて徐々に連携を深めているという。また,入院期間が短縮されるなかでは,測定値の評価だけでは不十分であり,患者の活力などをみていく必要性も指摘された。

 教育については,「勉強会に参加者が集まらない」という悩みが演者から多く聞かれた。これに対し,勉強会のコツを紹介しあったほか,スタッフの入れ替わりが激しいからこそ「継続が重要」という意見もあった。また,NST専門療法士試験においては看護師の合格率が他職種と比べて芳しくないが,合格者は「NST回診の症例検討が役立った」とアドバイスを送った。

 そのほか,急性期だけの栄養管理では効果に一定の限界があることから地域連携の重要性が強調され,最後はNSTの魅力を演者らがそれぞれ語り,さらなる飛躍を誓った。

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