医学界新聞

2008.02.11



MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


クリニカルエビデンス・コンサイスissue16 日本語版

葛西 龍樹 監訳

《評 者》福井 次矢(聖路加国際病院長)

質の高い診療を保証する簡明直截な情報

 本書は,英国医師会出版部(BMJ Publishing Group)が世界中の医師に「根拠に基づいた医療(EBM:Evidence-based Medicine)」を実践してもらうために作成・出版している“BMJ Clinical Evidence Concise”(第16版)の日本語訳である。

 内容は,日常よく遭遇する226疾患の治療法や予防的介入の一つひとつについて,有効性や有害性を示す根拠(エビデンス)を体系的(システマティック)に検索・評価し,次のような6つに分類したものである。

・有益である:複数のランダム化比較試験もしくはそれに代用可能な最高の情報源からの明確なエビデンスにより有効性が示されており,予測される害が利益に比べて小さい
・有益である可能性が高い:“有益である”に分類された項目に比べて,有効性が十分には確立されていない
・有益性と有害性のトレードオフ:臨床医や患者が,個々の状況や優先順位にしたがって利益と害を比較評価すべき
・有益性不明:現時点でのデータが不十分か,あるいはデータの質が不適切
・有益性に乏しい:“無効ないし有害である”に分類された項目に比べると有効性の欠如がそれほど明確にされていない
・無効ないし有害である:無効性または有害性が明確なエビデンスによって示されている

 たとえば,急性虫垂炎の治療については,「有益である」に手術+抗菌薬投与,「有益である可能性が高い」に腹腔鏡手術と開腹手術との比較(小児),「有益性と有害性のトレードオフ」に抗菌薬と手術との比較,腹腔鏡手術と開腹手術との比較(成人),「有益性不明」に抗菌薬(無治療/プラセボとの比較),手術(無治療との比較),「無効ないし有害である」に開腹手術における断端埋没と単純結紮との比較,などが挙げられ,それぞれに10行以内の説明が付されている。まさに,診療の現場(point of care)で必要なエビデンスを,必要最小限の情報量にまとめたものである。

 世界中の医療現場でEBMが実践されさえすれば,患者アウトカム(重篤な症状,QOL,生存率,障害,歩行距離,出生率など)が著しく改善することは確かであろう。問題は,どうすれば実現できるか,である。一人ひとりの医師が,眼前の患者で湧き上がった疑問点について,丹念にEBMの手順に則ってエビデンスを探し出し,信頼できるものかどうか評価し,エビデンスを患者に適用するかどうかを判断すればよいのであるが,実際上のさまざまな理由から,そのようなEBMの手順を踏むことのできる医師はごくわずかである。そこで,頻度の高い臨床問題については,専門家があらかじめエビデンスを検索・評価し,実践現場で使いやすいかたちで提供するための試み(診療ガイドライン,クリニカルパス,電子カルテの診療支援ソフト,リマインダー等々)が多くの国々で行われつつある。

 過去約20年間にわたって,EBMの普及に関して英国医師会出版部が行ってきたさまざまな取り組みは,まさに世界の医療界を常に先導するものであった。診療現場で役立つかたちでエビデンスを提供する本書がその典型であり,わが国においても,多くの医療者が座右において活用されることを心から願うものである。

A5変・頁1432 定価11,550円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00395-7


国際頭痛分類
第2版 新訂増補日本語版

日本頭痛学会・国際頭痛分類普及委員会 訳

《評 者》寺山 靖夫(岩手医大教授・神経内科)

頭痛診断のもっとも確実な道 あらゆる臨床医必携の書

 第11回国際頭痛学会(International Headache Society: IHS, Rome, Italy, 2003)における国際頭痛分類第2版(ICHD-II)の発表を受け,日本頭痛学会(坂井文彦理事長)では新国際分類普及委員会(間中信也委員長)を中心として日本語化に取り組んできた。本書は15年ぶりに改訂されたこのICHD-IIの系統的,合理的な分類の翻訳版であると同時に詳細な解説を加えた208頁の大著である。初期の翻訳版は日本頭痛学会誌(31巻1号,2004年)と日本頭痛学会ホームページ(http://www.jhsnet.org)上に掲載され,会員からはさまざまな批評と意見が寄せられた。これらの批評と意見をもとに加筆訂正が加えられ,Blackwell社との版権交渉も完了し『国際頭痛分類第2版新訂増補日本語版』としてこの度,医学書院から刊行されるに至った。

 原著のICHD-IIに見られた参考文献の誤りと引用形式の不統一に修正が加えられ,初期の翻訳版に見られた訳語と表現の不均一性が修正され,非常に理解しやすいものとなっており,きわめて完成度の高い日本語版である。

 本書では,ICHD-IIによる,一次性頭痛(第1部),二次性頭痛(第2部),および頭部神経痛・顔面痛・その他(第3部)の分類に先立ち,世界保健機関(WHO)の国際疾病分類第10版・神経疾患群(ICD-10NA)コード対照表が掲載されていることと,さらに巻末には,ICHD-IIの発表後も数回改訂が加えられた「慢性片頭痛」と「薬物乱用頭痛」に関する解説が掲載されていることが特徴である。新訂増補日本語版という所以がここにある。

 初期翻訳版からわずか3年の間にこれほど完成度の高い日本語版が刊行されたことは驚嘆に値するものであり,翻訳関係者に敬意を表する。

 本書は頭痛発作の分類と診断基準を一冊にまとめ,一般社会で頭痛を取り上げる場合から頭痛の研究者が扱うレベルまで,あらゆる頭痛に詳細な診断基準を提示している。頭痛に関する新しいエビデンスや知見,初版に対する批判や意見を取り入れ厳密な改訂が行われた本書は,頭痛患者の診療にあたっては不可欠なものであることは間違いない。サイズもコンパクトなB5判であり,頭痛専門医に限らずあらゆる臨床医の必携の書として推奨したい。

B5・頁208 定価5,250円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00406-0


イラストレイテッド泌尿器科手術
図脳で覚える術式とチェックポイント

加藤 晴朗 著

《評 者》木原 和徳(東医歯大大学院教授・泌尿器科)

絵を描くことが手術トレーニング 加藤流「図脳」を伝える一冊

 加藤晴朗先生の『イラストレイテッド泌尿器科手術――図脳で覚える術式とチェックポイント』が刊行された。以前よりご本人から聞いていた加藤先生自身の1000点以上におよぶイラストで解説した手術書である。本書で言う加藤流の極意は,「手術は暗記」である。「優秀な外科医に求められるものを身につける究極の方法は,暗記である」「くどいようだが,手術は暗記である」。気持ちよく断言している。一人当たりの症例数の少ない日本において,どのようにして優れた執刀医になるか,いつも考え続けた術者が到達した「境地」である。日本とは比較にならないほど多数の膀胱全摘除を経験できるエジプトでの研修体験が大きな基礎となっている。

 加藤先生の言う「図脳」とは,図に基づいた頭脳の働きを指しているようである。手術を説明するには(「暗記」してもらうには),図が最優秀との意であろう。本書は泌尿器科の重要手術をほぼ網羅しており,次の項目から構成されている。(1)膀胱の手術,(2)泌尿器手術に必要な各種アプローチ,(3)前立腺手術,(4)陰茎・陰嚢・尿道の手術,(5)女性および小児泌尿器の手術,(6)尿路再建術,付録)マンスーラ~エジプトの泌尿器疾患と手術,である。先生自身の巧みな,解剖をよく理解した,うまい絵で,「美しい手術が優れた手術」という先生の思いを表しながら,代表的な泌尿器科手術の手順と手技のポイントが詳細に解説されている。膀胱の手術には特に力が込められている。ミニマム創手術にも言及がある(感謝)。絵を描くこと自体が手術のトレーニング(加藤流では暗記の訓練)になることを,無言のうちに伝えている。

 今は,腹腔鏡下手術がその口火を切った「手術の革命」の真最中である。年毎に新しい手術の概念が登場するように感じられる。「手術の傷跡もまったくなく,翌日には退院できる大手術」が現実のものになろうとしている。ただ,このような手術に到達するための土台,基本はいつの時代も変わらない。無数の先達が丹精して築き上げてきた開放手術である。「定型的な手術を暗記してしまえば,応用問題も可能であるし,そこから自分の境地も開けてくる」と著者が言うように,本書はこの土台の解説書であるとも言える。十分な土台を身につけることが,手術がうまくなる王道である。その延長上に,新しいテクノロジーと相まって創造的な世界が開けてくる。若い加藤先生が提示してくれたこの優れたテキストで自分の手術を顧みることは,泌尿器科医,特に若い泌尿器科医にとって,優れた手術トレーニングになるであろう。

 本書は,「手術とは何だろう」,「どうしたらうまくなるだろう」を加藤流に伝える本である。テクニックの解説から溢れる,手術に対する熱い思いに触れてほしい。患者さんに「手術が益になるか,不利益になるか」,まさに術者にかかっている。外科系の医療崩壊が危惧される今日,「天気晴朗なれども波高し」と士気を鼓舞した有名な海戦の言葉があるが,この本を手に取って晴朗先生に鼓舞される泌尿器科医がひとりでも増えることを願っている。

A4・頁400 定価17,850円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00398-8


イラストレイテッド肺癌手術
手技の基本とアドバンスト・テクニック[DVD付] 第2版

坪田 紀明 著

《評 者》伊達 洋至(京大大学院教授・呼吸器外科)

相談できるコンサルタントとして身近に備えておきたい名著

 DVDを伴って,待望の第2版が出版された。2003年に出版された初版は,坪田先生オリジナルのイラストを使ったわかりやすい解説から,多くの呼吸器外科医に親しまれてきた。そのわずか4年後の2007年に,進化版が世に出た。本書を手にとって読んでみると,坪田先生がこれまでの呼吸器外科医としてのキャリアの集大成として本書を完成させた意気込みが伝わってくる。

 本書の特徴は,まずアートともいえる独自のイラストである。坪田先生が手術記録をていねいにつけられていたことが窺われるが,これほどポイントを押さえたわかりやすいイラストは見たことがない。これに術中写真,気管支鏡,各種画像,そして坪田先生独特の臨場感あふれる解説が加えられている。緊急大出血に対する心嚢内での肺動脈確保法などは,読むだけで手に汗を握る。

 次に,各論にみられる多彩な手術手技の解説である。肺葉切除といった基本的手術から,坪田先生が生み出した拡大区域切除術や,特殊な気管支形成術まで網羅されている。特に拡大区域切除術に関しては,初心者にはわかりにくい亜区域支レベルの術野での解剖が見事に描かれている。読者がまれな手術に臨む場合には,本書を前日に読んでおくと術野のイメージを作ることができることだろう。

 さらに,200分を超える46本もの手術手技をまとめたDVDが第2版では付録された。坪田先生が数々の学会で発表してこられたオリジナルビデオであり,一本一本がていねいに作られており,画質も見事である。手術室の音がそのまま聞こえてくる臨場感に加え,随所に坪田先生ご自身のナレーションで解説が加えられている。本書と見比べながら勉強するのに非常によい。

 坪田先生の30cmクーパーの逆さ持ちの解説もおもしろい。トロント大学のPearson先生から坪田先生が学ばれたテクニックである。小さな開胸創から深い胸腔内の手術を行うときにきわめて有効である。私もこのテクニックを使っているが,呼吸器外科医にはぜひマスターしてもらいたいテクニックである。

 本書は,初めて呼吸器外科を学ぶ初心者,肺葉切除をはじめた中級者,そしてすでに呼吸器外科専門医として活躍している上級者,そのすべてに読んでいただきたい。坪田先生が,それぞれのレベルに応じた教育を大切にされてきたことが,本書に生かされているからである。

A4・頁216 定価18,900円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00461-9


レジデントのための感染症診療マニュアル 第2版

青木 眞 著

《評 者》大庭 祐二(ミズーリ大准教授・呼吸器集中治療内科)

感染症診療の原則から実践的かつ貴重な情報がちりばめられた一冊

 感染症診療においては既に定番書となっている『レジデントのための感染症診療マニュアル』が改訂,出版された。著者の青木眞先生は,公私において私の恩師の一人であり,緒方洪庵の適塾の門下生で種痘の普及に尽くした湯浅芳斎の末裔でもある。

 私の専門の一つは集中治療であるが,感染症を制するものが集中治療を制すると言っても過言ではないほど,感染症診療は多くの臨床診療科においてかなり重要な位置づけを占める。しかし残念ながら,日本では臨床感染症という領域はかなりの長期間軽視され続けてきた。

 そこで本書であるが,この本は初学者が臨床感染症学を学びやすいように非常にうまく構成,記述されている。外国語の場合,初学者はまず文法を知ることが必要であるが,まず総論部分において,すべての医師が初期研修中に身につけるべき感染症診療の文法が述べられている。

 副題にもなっているPrinciples & Practiceという言葉に集約されるように,感染症診療のいろいろな原則を知っていれば,随分と診療が楽になる。感染症を制するための必須の第一歩である。また初版にはなかった,敗血症,予防接種の章が加えられており,かなり包括的な内容となっている。

 特筆すべきものの一つとしては,以下に挙げるような臨床医として長年診療に関わったものにしか得ることができない,臨床上重要なエッセンスや数々の格言があちらこちらに惜しみなくちりばめられていることである。

・ペニシリンGの力(巻頭図譜21)(千の言葉より一枚の写真)
・培養検査に関して「嘘をつく」菌がいる。(26頁)
・腎機能低下時は「容器」からの排泄が遅くなっているだけで「一定の容積に一定の濃度を作る」初回投与という作業とは直接関係がない。(60頁)
・ESBLの耐性は「結婚詐欺」,AmpC耐性は「心変わり」……(124頁)
・押しても消えない皮疹(出血性皮疹)を伴う発熱患者にはもっとも恐ろしい感染症や病態が伴うことが多い。(365頁)-鑑別診断(368頁)
・免疫不全にはいくつかのタイプがある。それを知れば,問題となる微生物の種類とその探し方,そして事態の緊急性をも決定することができる。(1133頁)
・抗菌薬の使用にもかかわらず血液培養の陽性が続く時の対処法。(1313頁)

 その他に,著者の臨床感染症家として本領発揮といえる第3章の「検体の採取と取り扱い」,また不明熱,リンパ節腫張や皮疹を伴う発熱について書かれた第4章などは,感染症専門医が希少な日本において,実際的でかつ非常に貴重な情報である。各論に関しては症例にあたるたびに読み返してほしい。第15章の「重要な微生物とその臨床像の把握」も経験的治療を決定する際に知っておくと非常に強力な武器となりえる重要な情報である。

 本書は日本の感染症診療の現状に対する現代の「種痘」である。多くの医師が研修早期に本書に触れ,ここに書かれている原則を診療に生かし,それによってより多くの患者さんが恩恵を蒙ることを願ってやまない。できれば研修医などがいつも持ち歩けるように要約版やその電子化が今後期待される。

A5・頁1464 定価10,500円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00387-2

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