本稿では最近日本で保険適応となった腹部大動脈瘤の新しい手術,ステントグラフト術を概説する。
動脈瘤が臨床的に問題となる理由はいくつかあるが,最も重要なのが破裂である。破裂したら,病院にたどり着いたとしても救命率は5割に満たない。破裂以外に,塞栓症(ブルートゥ),血栓症,尿管圧迫による水腎症,感染などが動脈瘤に伴うことがあるが,治療をする理由としては稀なほうである。
破裂を予測する因子として(1)動脈瘤の大きさ(男性5cm,女性4.5cm),(2)拡大速度(5mm以上/半年),(3)のう状瘤,(4)痛みの有無,(5)喫煙,(6)女性,(7)高血圧,肺気腫,(8)家族歴などが挙げられる。これら因子と,手術リスク,患者の推定余命などを総合的にみて手術の適応を決める。
いくつかのくじ引き試験で腹膜を開けない後者の術式のほうが,呼吸器合併症が少なく,経口摂取が早いことが証明されているので,筆者は腹膜外アプローチを第一選択としている。大動脈を露出した後に,遮断し人工血管に置き換える。
本法のメリットは,長期の成績が確立されていることである。短所としては,侵襲が大きく,80%に上る術後勃起障害のほか,20―30%と高率に発生する重篤合併症が挙げられる。また,少なからずハイリスクな手術不能例が存在する。
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| 図1 日本で薬事承認され保険適応となっている腹部大動脈瘤用のステントグラフト(左:ゴアテックスジャパン社製のExcluderステントグラフト,中:日本で初の薬事承認を得たCook社製のZenithステントグラフト,右:たばこ) |
ステントグラフトは細かく折りたたまれ,鉛筆ほどの太さのカテーテルに装填する。このカテーテルを経皮的あるいは外科的に露出した大腿動脈からレントゲン透視下(図2)に挿入し,所定の位置でステントを広げることにより人工血管を大動脈に固定する。
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| 図2 左:腹部大動脈瘤の術前血管造影。屈曲の強い動脈とともに大きな動脈瘤が描出されている。右:経皮的に挿入されたSG術後の血管造影。動脈瘤への血流が消失し,治療されたことがわかる。 |
手術のほとんどは局所麻酔か硬膜外麻酔で行っている。侵襲が小さいので術後3日以内に大半の患者が退院する。
欠点としては2次的処置の必要性が外科手術より高いことが挙げられるが,幸い2回目の手術も,ほとんどの場合,経皮的な低侵襲治療でできる。
なお欧米で行われたSG術対開腹手術を比較した割付試験では,SG術群で手術死亡率が著明に少なく(SG術群1.7%,開腹手術群4.8%),SG術の優位性が証明されている。
| 1)中枢側ネックの直径が28mm以下で長さが15mm以上 2)中枢側ネックに強い屈曲(60度)と著明な壁在血栓がないこと 3)外腸骨,総腸骨動脈に強い石灰化,屈曲,狭窄がないこと 4)両側に総腸骨動脈瘤がないこと(一側なら施術可能) |
また現時点では,保険適応は開腹手術のしづらいハイリスク症例に限られている。ハイリスク症例としては以下のような患者が含まれる。すなわち,高齢,心肺合併症,開腹手術の既往,肥満などである。
現時点では,こうしたハイリスク要素のない患者に対してSG術を行った場合保険償還できないが,前述したとおりSG術のメリットは開腹手術に比して死亡率が3分の1になることであり,死亡率削減効果は誰もが享受できるようにすべきメリットである。
SG術はまったく新しい手術法であるため,その使用に際しては十分なトレーニングを受けることが義務づけられている。そのため2007年7月現在SG術を行える施設は全国で25施設程度にとどまっており,昨年の7月に薬事承認後の国内総症例数は約200例程度と推定される(うち90例が慈恵医大で施行)。
また,大動脈瘤が破裂する前に治療するために,60歳以上の人に対しては一度は超音波あるいはCTによる検査を行うべきである。
大木隆生氏
1987年,慈恵医大卒。同大第一外科を経て,95年,米国アルバートアインシュタイン医大モンテフィオーレ病院血管外科研究員。同院血管外科部長を経て,現在,同大血管外科学教授,慈恵医大外科学講座Chairperson(統括責任者)および血管外科学分野教授を兼任。