医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評特集


Neurological CPC
順天堂大学脳神経内科 臨床・病理カンファレンス[ハイブリッドCD-ROM付]

水野 美邦,森 秀生 編

《評 者》田代 邦雄(北海道医療大教授・心理科学)

臨床神経学を学ぶすべての人に必携の書

 神経学の近年の進歩は目覚ましく,CT,MRI,SPECT,PETなどの画像診断が登場し,また分子生物学的アプローチにより,遺伝子レベルの異常が解明され新たな疾患概念が生まれるなど,その進歩はとどまることを知らない状況にある。

 しかしながら,神経学の基本は,患者(ある場合には家族)から十分な病歴を聴取し,神経学的診察に時間をかけ症候を分析し,正しい診断をつけていくことから始まることに変わりはない。画像診断が先行し,神経学的診察が不十分,また神経徴候のどこがポイントなのか注目できないことがあってはならないのである。

 このたび,医学書院より出版された『Neurological CPC』は,順天堂大学脳神経内科において過去約17年間に行われた97回のCPCの内(その全症例の雑誌連載時の誌面を収載したハイブリッドCD-ROM付),今回は1992-2005年のCPCより30編を厳選し単行本としてまとめられたものである。その目次一覧をみても興味ある,かつ多彩な神経疾患が収録されていることが明らかである。

 その方式は,New England Journal of Medicine(NEJM)に毎週掲載されているCPCと同じく,症例呈示,指名されたDiscussantによる臨床的・症候学的解析,画像や検査データを踏まえた臨床診断,そして鑑別診断が述べられ,ついで参加者が各自の考えを発言し,その後に病理学的所見の呈示があり最終診断が下されることになる。

 今回の30症例の特徴は,CJD 1例,FEMF(familial essential myoclonus and epilepsy)1例,ALS 3例を除けば,残りの25症例はパーキンソニズム,歩行障害,痴呆,眼球運動障害,行動異常なども含めた多彩な症候を示す神経変性疾患が中心となっており,指定されたChief discussantの見事な症候解析と診断・鑑別診断,そして次々と発言する参加者の見解,その中には学生も含まれて自分たちの意見を述べていく,しかも発言者の実名が記録されるという,まさに臨場感あふれる討論が展開されているのである。最後に病理学的には,その肉眼的所見,組織学的所見の解説がなされ最終診断が呈示されることになる。

 神経変性疾患の中でもPD,PSP,CBD,PNLA,MSA,DLBD,FTD,AD,Pick,PDC等の討論は,順天堂大学脳神経内科における神経学の歴史と伝統,そして世界をリードする人脈ならではのCPCであると感服する次第である。そこに示されたものは,神経変性疾患の臨床,そして最先端研究へも繋がっているものであり,どこの国にも負けない実績と言えるであろう。

 本書の序文にも述べられている如く,その模範となっているものは現在でもNEJMに毎週掲載されているCPCである(その中には年間でみるとNeurological CPCも必ず何例かは取り上げられている)。

 翻ってみると,Little, Brown and Co.より『Neurologic Clinicopathological Conference of the Massachusetts General Hospital』(MGH-CPC)と題する神経疾患50症例をまとめた本が1968年に出版されたことがある。当時は画像診断としてはCTすらなかった時代であるが,神経症候学的解釈と病理所見で確定診断するCPCにおいて,DE Denny-Brown,RD Adams,JM Foley,HH Merritt,M Victorら,神経学を学ぶ者にとっては憧れの的である著名な神経学者がDiscussantとして登場している。その方々が必ずしもすべて正解でなく,時には学生が正しかった例もあるが,大切なのは疾患そして症候をいかに解釈していくかのプロセスの重要性を教示したものだということである。

 この度の,水野美邦教授,森 秀生助教授の編集による本書は,先に紹介したMGH-CPCを,より近代化,updateした画期的なテキストであり神経学を学ぶすべての方々にとって必携の書であると言うことができ,その出版に心からの賛辞を表するものである。

B5・頁392 定価8,400円(税5%込)医学書院


こどもの腹部エコー
達人への一歩

木野 稔,藤井 喜充 著

《評 者》金子 一成(関西医大教授・小児科学)

小児科医必携 エコーを聴診器がわりに

 超音波検査(エコー)は小児の腹部領域でもかなり普及してきているが,聴診器のように使いこなしている小児科医はまだ少ない。しかし小児科の日常診療で腹部エコーを使いこなせるか否かによって,腹腔内蔵器の疾患における診断の正確さや迅速性,患児にかける負担の度合いに大きな差が生じる。

 腹部エコーを使いこなすためにはできるだけ多くの症例を経験する必要があるが,他の診療科に比べて検査症例が少ない。しかし一旦腹部エコーのコツ,すなわち小児の腹腔内蔵器のエコー所見の正常像と異常像を会得すれば,あとは症例の積み重ねによって徐々に実力をつけていくことができる。)

「こどもの腹部エコーのコツ」に必要な情報が詰まった一冊!

 本書では「腹部エコーのコツ」を習得するための最短かつ確実な方法を伝授している。医療手技における「コツ」というものは本来,それを会得している経験豊かな指導医に手取り足取り教えてもらうのが最善であろうが,指導者の数や時間的制約の関係で現実には容易ではない。そういう意味で,「こどもの腹部エコーのコツ」を機器の操作方法から懇切丁寧に記載している本書は類書の中でもとくに実践的である。中でも著著の経験に基づいた「コツ」をコラム(“奥義口伝”)で随所に紹介しているが,これは熟練した指導医に手取り足取り教えてもらうのに近い。

 本書の構成は全5章(第1章:超音波の基本,第2章:小児の正常画像,第3章:小児緊急超音波,第4章:症例編,第5編:小児科日常診療の場でのエコー診)から成っているが,特筆すべきは取り扱われているエコー写真がすべて2枚ずつ(オリジナル写真と矢印や線を挿入して位置関係を明示した写真)並べられていることである。これによって,とかく「検者しか位置関係がわからない」といわれるエコー所見がとても生き生きとした画像になっている。

 また「第2章:小児の正常画像」の項で腹腔内諸蔵器のエコーでの計測の仕方のみならず,小児の基準値を紹介していることもきわめて実践的である。エコーはその画像の性質上,臓器の腫大・肥大を客観的に捉えにくい面があるが,この指南方法によって多くの初心者もより客観的な計測ができるであろう。

 さらに「第5章:小児科日常診療の場でのエコー診」では30年近い小児科医経験を有する著者(木野)が,小児科の一般診療において聴診器と同様にエコーを用いて“腹腔内の診療”を行うその方法を伝授してくれている。

 本書は小児の腹部エコーの指南書として,著者らが長年の経験に基づいて蘊蓄を傾けた完成品になっている。小児の診察において「エコーを聴診器のように使いこなしたい」と思っている医師も,「ある程度は使いこなせる」と思っている医師もエコーのそばに常備しておいて損はない一冊である。

B5・頁168 定価6,300円(税5%込)医学書院


体外受精ガイダンス
第2版

荒木 重雄,福田 貴美子 編著
体外受精コーディネーターワーキンググループ 協力

《評 者》松本 清一(日本家族計画協会会長/群馬大・自治医大名誉教授)

生殖医療に従事する方の最高の手引き書

 不妊症の治療は体外受精を中心とした生殖介助技術の革新的進歩によって顕著な発展を遂げ,不妊に悩む方々に多大な恩恵を与えた。しかし反面,治療に伴う身体的,精神的,経済的な大きな負担や医療機関での対応,家族や地域社会からの外的圧力,また自分自身の内的圧力などに悩む方々が増え,治療とともに適切なカウンセリングがきわめて必要となり,そのため医療内容の十分な理解と適切な心理的サポートを患者に与える専門職「体外受精コーディネーター」が生まれた。

 名著『不妊治療ガイダンス』を1996年に世に出した荒木重雄博士はその役割を重視,2002年に体外受精コーディネーター福田貴美子氏とともに,実地臨床に即したわかりやすい画期的な著書『体外受精ガイダンス』を上梓したところ,医療者のみならず,不妊に悩む方々からも高い評価を得,早くも増刷が必要となった。

 そこで,この機会に,単なる増刷ではなく,さらに最近の文献を広く渉猟し,読者からの質問や問い合わせにも応えて,最新情報を網羅し,また各章のはじめに内容を要約した「キーポイント」という項を設けるなどして読者の便をはかり,76頁も増頁して全面的に書き直されたのがこの「第2版」である。

 本書は,高度生殖医療,ART(Assisted Reproductive Technology)による治療,卵巣刺激の必要性の解説に始まり,調節卵巣過剰刺激におけるGnRHアナログの役割,採卵から胚培養までの操作,胚移植と着床,顕微授精の有用性,凍結保存技術の進歩,男性不妊への対応,ネガティブに作用する要因とその対応,卵管を利用したART,合併症とその対応,新しい試みとその評価,不妊カップルの多様な悩みへの対応,倫理と法規制などに関して,高度の専門的知識や技術を大変わかりやすく解説しているうえ,新たに「ARTについてよく聞かれる質問」の1章を加えて63問のさまざまな質問に懇切に答えている。また,第1版と同様に,各章に「体外受精コーディネーターと不妊カップルとの会話」が挿入されているほか,「最新情報Q&A」という項や,ところどころに「ちょっと一言」という囲み解説が挿入され,読者の理解を助けている。そして,欄外には引用文献とその概要を示して,専門研究者の要求にも十分に応じている。

 著者の荒木博士は1966年札幌医科大学卒業後,群馬大学,米国コロンビア大学で生殖内分泌学を学び,自治医科大学助教授・同看護短期大学教授を歴任して,優れた研究業績を挙げるとともに,不妊治療に熱心に取り組んできた経験豊富な専門医であり,現在,国際医療技術研究所IMT College理事長,日本生殖医療研究協会会長として活躍,不妊カウンセラー,体外受精コーディネーターの養成にも努めている。

 また,福田氏は,1991年山口県立衛生看護学院助産科卒業後,九州大学教育学部,北九州大学外国語学部で学び,現在,九州大学大学院医学部修士課程に在学中。1991年から済生会下関総合病院に助産師として勤務,1995年蔵本ウイメンズクリニック看護師長・体外受精コーディネーターに就任,1996年米国,2004年英国で体外受精コーディネーターの研修を受け,現在学会活動,不妊患者の支援活動にも力を注ぎ,高い評価を得ているわが国における第一人者である。

 このお2人の息の合った最新の著作はまさに「体外受精の最高の手引き書」であり,生殖医療にかかわる方々にも,また不妊に悩む方々にもぜひご一読をお薦めしたい良書である。

A4変・頁308 定価7,560円(税5%込)医学書院


統合失調症の薬物治療アルゴリズム

精神科薬物療法研究会 編
林田 雅希,佐藤 光源,樋口 輝彦 責任編集

《評 者》武田 俊彦(慈圭病院・精神科)

本邦の臨床薬理の到達点を示す書

 第2世代抗精神病薬がわれわれの臨床現場に登場して,既に10年が経過しようとしている。この薬剤の登場とほぼ軌を一にしてわが国でも,統合失調症治療が随分変化してきた。特に薬物療法の分野では,急性期から維持期への治り方そのものが問われるようになってきている。病を持つ患者の生活を最終的にいかに豊かなものにしていけるかだけでなく,いかに患者に負担の少ない自然で綺麗な経過でそこまで到達できるかが問題とされてきている。“終わりよければすべてよし”式の治療は今や完全に否定されている。

 そんな臨床現場の潮流の中で本書は企画され,今回1998年に発表された日本版アルゴリズムの改訂版として刊行された。アルゴリズムは臨床研究によって得られた実証的証拠に基づいて作製された治療手順である。統合失調症の薬物療法の基本が網羅されていると言ってよい。臨床薬理を専門にしている者にとっては,アルゴリズム自体は当たり前のことが簡潔に記載されることが多いので,この手の本は退屈なものが多い。しかし本書では,解説に十分な紙面を割き,その内容も臨床的なセンスに富み,手軽な総説として面白く仕上がっている。それは解説にオピニオンの意見も適宜採用して,より臨床現場の細部にまで行き届いた記載がなされていることも一因である。特にわが国オリジナルのエビデンス,オピニオンに重点をおいた編集方針は,現在のわが国の臨床薬理の到達点を示すものであり興味深い。

 さらに本書は,有害事象の評価と対策にアルゴリズム全体の半分以上の紙面を割いていて,その解説も丁寧である。体重増加,代謝障害,突然死など最近話題の有害事象への対応も今回取り上げられた。これは,患者に負担が少ない自然で綺麗な経過をもとめる最近の臨床薬理の動向と合致するものであり,この本の編集に当たった精神科薬物療法研究会の意図もここに読みとれる。

 本書では,最終章で抗精神病薬の作用機序に関する解説がなされ,最新の実験データも多く記載されている。それらの多くは臨床から直接引き出されたものではないが,確かに最新の科学的エビデンスである。アルゴリズムは地図であるが,すべての道が網羅されているわけではない。臨床家は個々の症例を目の前にして,盲目的にアルゴリズムに当てはめるのではなく抗精神病薬を主体的,創造的に使用していかなければならない。特に予想された効果が発現しない場合や,予想外の有害事象が発生した場合には臨床家の真価が問われる。

 日常臨床から得られる臨床家の確かな経験と,臨床薬理から得られたアルゴリズムと,薬物の基礎データから合理的に導き出される薬理学的視点,3方向からの立体的な視点が,エビデンスを越えた薬物療法の臨床的センスを育むと考えられる。やや難解な箇所も見受けられるが,ぜひ本書の最終章も読了されることをお薦めする。

B5・頁136 定価3,675円(税5%込)医学書院


胆道外科における
Cチューブ法ハンドブック

藤村 昌樹 編

《評 者》谷村 弘(和歌山労災病院・病院長)

若い消化器外科医へ実践的なテクニックを解説

 Cチューブの開発普及に尽力された編者は,京都大学の外科に勤務されていた頃より,非常に独創的な感覚を持って一途に問題解決にのめり込む臨床医であった。滋賀医科大学に赴任されてからも,胆道外科の手術をしながら,コツコツとCチューブ法の工夫を重ねられ,その成果がこの本に結実した。本書はまさに真の臨床医の手になる力作である。

 編者らは,1970年初頭よりTチューブの代わりに,胆嚢管から総胆管に挿入した細いチューブを術後も留置する方法について考え,1980年にCチューブの第1例目の臨床応用を行った。当初は胆嚢管チューブCDT(Cystic Duct Tube)と命名していたのを,1990年以降はCチューブと呼ぶことにしたという。その後,解説書などが出版されることはなく,名称のみが一人歩きしている感が否めないということで,この本が出版されることになった。

 他方,わが国で胆石手術の先駆的業績のある九州大学では,早くからTチューブの代わりに細いネラトンチューブを総胆管の別の部位から挿入して胆道ドレナージを行っていたことは,関係者にはよく知られていた。

 評者も,1982年,バルーン付きTチューブの開発による胆汁完全体外誘導法を開発した際に,シリコン製のチューブは瘻孔形成が起こりにくいので,わざと天然ゴム製のものを特注した経験がある。

 胆道に関する内視鏡技術の進歩により,総胆管内に遺残結石を見落とすことは少なくなり,不必要な総胆管切開術を避けるためにも,胆汁ドレナージだけの意味なら太いチューブはもはや必要なくなった。内径の細いチューブでも,十分に胆汁のドレナージ効果が得られるのがCチューブの「ミソ」である。

 また,胆嚢管の処理において,胆道内圧が5-10cm H2Oであるのに,動脈と同様に二重結紮を行うことを編者は疑問に思い,弾力性のある3-0エラスチック縫合糸でチューブをループ型に結紮するのみにとどめ,腸管運動が回復すれば,たとえ胆嚢管が完全に閉鎖されていなくても,再手術を要するような胆汁漏に進展しないことから,弾性糸によるCチューブの固定法を考えついた。これにより,腹腔鏡下手術においても挿入や留置が容易で,抜去時の安全性も向上し,自然抜去がなく,胆道ドレナージも良好であるCチューブ法が完成されたのである。

 その他,Cチューブ法は胆道ドレナージ以外でも,肝切除術や成人生体肝移植時においても,術中・術後の処置・管理に大変に有用なテクニックである。

 こうして編者は,安全確実な手技として開発された本法について,東北労災病院の徳村弘実氏や明和病院の山中若樹氏らによる追試経験とさらなる工夫を加えて,本書を実践的なテクニックの解説書に仕上げている。若い消化器外科医に,臨床医としての哲学を学ぶためにもお薦めの一冊である。

B5・頁128 定価6,300円(税5%込)医学書院