医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評特集


基礎から学ぶ楽しい疫学 第2版

中村 好一 著

《評 者》山縣 然太朗(山梨大大学院教授・社会医学)

「黄色本」と愛称される頭と体と心で学べる疫学テキスト

 「黄色本」。私の所属する講座ではこう呼んでいる本がある。疫学研究の第一人者,中村好一氏の『基礎から学ぶ楽しい疫学』である。その第2版が出版された。私たちの講座では毎朝8時から教員と大学院生とで輪読会を行っている。最新の疫学,公衆衛生の教科書を読むのである。英文の教科書が主であるが,「黄色本」の初版が出版されたころに,朝の輪読会で取り上げたところ,大変評判がよかった。その魅力は本書の3つの特徴による。

 1つ目はどんな「頭」でも学べるということである。本文が非常にやさしく,丁寧に記載されているので,誰もが基礎知識を必要とせずに学ぶことができる。私も医学部を卒業したばかりの時にこのような本があれば,もっと早く疫学を理解し,好きになっていたと思う。一方で,疫学的手法を用いた研究経験がある人も,目からウロコの記載を見つけることができるだろうし,今回の改訂の中心である疫学研究の倫理面での理解を深めることができる。

 2つ目は「体」を使って学べるという点である。疫学研究に必要な統計解析についてエクセルのワークシートを使用した計算式が記載されており,パソコンを使って実際のデータを解析することが可能である。頭だけでなく体(指)を動かした実習によって知識が定着する。

 3つ目は「心」に響く学習ができるという点である。この本で最も著者らしさが出ている部分は,随所に見られる著者注釈である。著者注釈を読むことによって,疫学研究に対する科学者としての厳しい目と同時に,著者の人間味あふれる疫学の「心」に触れることができ,無味乾燥な専門用語も生きた言葉に変身して,疫学の本当の楽しさを知ることができる。

 私は疫学者の一人として,疫学研究が健康課題を解決するための人を対象にした研究の最も基本的な科学的手法であることを多くの人が理解してほしいと願っている。そのために,まさにタイトルどおりに楽しく疫学を基礎から学べる「黄色本」を活用することをお薦めする。

A5・頁248 定価3,150円(税5%込)医学書院


消化器外科レジデントマニュアル

小西 文雄 監修
自治医科大学附属大宮医療センター外科 編著

《評 者》関川 敬義(東京逓信病院・第一外科部長)

日常診療に活用できる第一線の医師による書

 消化器外科をめざす研修医のみならず,外科系研修医全体の臨床研修のためにまとめられた,日常診療に携わるレジデントの手引書である。この種の本は多く上梓されており,外科患者の診療のマニュアル本として選択するのに迷うことが多い。従来のマニュアル本は,えてして教科書的で多くの事項について解説し,そのエッセンスを伝えようという本が多い。ところが,本書は自治医科大学附属大宮医療センター外科および第一線の病院で直接診療に携わっているスタッフと若手医師による執筆のためか,実に具体的で即利用できるレジメ,薬剤の使い方,知識,いろいろな手技の具体的な手順,そのピットフォールなどが網羅され,臨床研修をスタートしたレジデントに役立つようにわかりやすく記載されている。

 まず第1の特徴は非常に具体的で実際に即役立つ形で記載されている点である。総論においても各論においても実践的な対応について細かく記載されており,例えば抗生物質の章では,抗生物質の使い方の基本的なコンセプトに始まり,上部消化管手術,胆嚢手術の項目には,「セファロチン(コアキシン)〔1日1-6g,4-6回分割投与〕またはセファゾリン(セファメジン)〔1日1g,2回分割投与〕または……」のように,個々の疾患に対する抗生物質の種類・投与量・投与方法にいたるまで,細かく記載されており,日常診療にすぐ利用できる。インフォームド・コンセントのような哲学的な章では,術後の説明のしかたの中に,著者の経験からの具体的な話を入れ,その章のワンポイントアドバイスにも患者は何を求めているのか,患者の家族,家庭の事情を見て話をする必要があるなど,医師としてのあるべき姿,態度についても具体的に言及している。

 第2の特徴は,図や写真・表が多く理解しやすい点である。虫垂炎はレジデントが救急で最初によくあたる重要な疾患で,時には診断が困難な症例に遭遇する。が,このマニュアルは非常によくできていて,診断の手順,方法はもちろん,画像診断の写真やピンポイント圧痛点の実際の手技を写真入りで説明し,診断のエッセンスを簡潔に要領よく記載してある。さらに手術操作のポイントについては,実際の手術経験がもとになったコメントで,手術法も具体的に記載しており,レジデントには非常に参考になると思う。

 第3の特徴は,忙しいレジデントが短時間に見たい項目が開けられるように表紙裏に各章の項目名があり,その章の番号が各ページの右端に書かれておりすぐ見られるように工夫している点である。

 他にも頻度等をはじめ,よく文献を広範に参考にされたと思われ,具体的な数値が書かれているのも患者さんに対する説明にも役立ち,ワンポイントアドバイスも実際の経験から出た知識の内容で,レジデントの理解をさらに深めるうえで役立つものと思われる。

 本書は,実際に第一線の病院で日夜患者の治療にあたって得られた知識があふれている。大学教授の監修でありながら,教科書的でなく,実際の診療に役立つマニュアル本であり,ぜひ毎日白衣のポケットに忍ばせて,いつでもちょっとした時間に開いて参考にしたいマニュアル本である。まだ初版本であり,医学は日進月歩,これだけ具体的に書かれていると,3-5年に1回は見直され,さらに改訂版を出していただきたい。

B6変型・頁312 定価4,410円(税5%込)医学書院


イラスト&チャートでみる
急性中毒診療ハンドブック

相馬 一亥 監修
上條 吉人 執筆

《評 者》大橋 教良(日本中毒情報センター・常務理事)

急性中毒診療に必須の精神神経医学を収載

 くも膜下出血の診療の専門家は脳神経外科医,心筋梗塞なら循環器内科医,というように多くの疾患でそれぞれの専門家がいて,それぞれの分野の専門書が数多く出版されている。では急性中毒はどうであろうか? かつて急性中毒は内科の一分野と考えられていた時期があった。しかし現在では,患者数の多さからいうと小児科? 自殺企図例が多いので精神科? あるいは急性期の全身管理という面からは集中治療? 救急外来での急性中毒に特有な診療技術からいうと救急医? おそらく,多くの病院ではたまたま急性中毒の患者さんが来院したときに当直をしていた,決して急性中毒診療の専門家とはいえない各科の医師が担当しているというのが現状ではないだろうか。

 急性中毒の分野は既存の各科の診療領域の狭間にあるがゆえに,専門家がなかなか育ちにくい。その結果,急性中毒の分野を全体的に俯瞰し,必要にしてかつ十分な内容を盛り込み,研修医から彼らを指導する上級医師まで急性中毒診療に携わるすべての医師に適切な指針を与えることができるテキストがなかった。

 このたび相馬一亥,上條吉人両氏により上梓された,『イラスト&チャートでみる急性中毒診療ハンドブック』は急性中毒臨床の分野で長らく嘱望されていた,わが国の急性中毒診療の実情に即した初めてのテキストといっても過言ではない。

 急性中毒の原因となる化学物質は無数にある。それらの物質すべてを網羅するテキストなどあり得ず,必要最小限の中毒起因物質を取り上げる必要がある。本書では,「中毒を起こす頻度が高い」「患者発生の頻度は低くとも非常に予後が悪い」「特殊な治療薬がある」「その物質に限って特別な診療上の注意点がある」といったキーポイントとなる物質40が厳選されている。通常の急性中毒の診療にはまず困らないであろう。急性中毒の領域でもいわゆるEBMの考え方が浸透し,治療の標準化が進みつつあるが本書には標準的治療や分析に関する知識など最新の情報もきちんと盛り込まれている。

 わが国の急性中毒の現状では自殺企図患者が大多数を占め,この分野は救急医にとって盲点となっているが,本書では急性中毒診療に必要な精神神経医学がわかりやすく解説されている。

 執筆者の上條氏は,分析化学,精神神経医学,救急医学を修められた,わが国でこれまで存在しなかった本来の急性中毒診療の専門家といえる新進気鋭の救急医である。今述べた本書の特色も急性中毒の関連各領域に精通した専門家としての経験に基づいており,本書がすべての臨床家にとって急性中毒診療の座右の書となることを期待するものである。

A5・頁368 定価3,990円(税5%込)医学書院


インフォームド・コンセント
その理論と書式実例[ハイブリッドCD-ROM付]

前田 正一 編

《評 者》辻本 好子(NPO法人ささえあい医療人権センターCOML理事長)

臨床に携わるすべての医療者,医学生へ

 基本的に,というよりも個人的に,いわゆるマニュアル本の類は好きではありません。しかし本書は,私たち患者はもちろん,忙しい医療現場のドクターも希求していたに違いない,まさに時代のニーズに即した待望の一冊。患者の立場として,「医療側からの説明の際にせめてもう少し“わかってほしいメッセージ”があれば……」と願っていた矢先の出会い。願わくは,臨床に携わるすべての医療者と医学生諸君がインフォームド・コンセントの原則を常に見つめ,有効活用するために手元に置いてほしいと心から思いました。

 例えば胃がんと診断された患者の視点で,胃全摘術,胃切除術,腹腔鏡補助下胃切除術の説明文書実例を読んでみました。「なるほど」「そうか,そうか」と医療側が言わんとすることがよく理解でき,納得もできて,最後には「そう,こういう文書が手元にほしかった!」と思いました。ただ一つ,「間違っても日本中の病院が,医療者が,このままコピーした文書を手渡すだけであってほしくはない」とも願わずにはいられませんでした。

 言うまでもなく患者は個別の存在です。編者が「はじめに」の末尾で傍点を沿えて願っているように,本書は患者と医療者が“ともに納得できる方向に向かう”ための書。協働するためには,説明文書はもとより設定されたメモ欄の有効利用がなにより重要です。目の前の患者一人ひとりとやりとりする中で,“その人”に必要な情報を(読める字で)書き添え,伝えたい医療者の想いや言葉を添えることを,どうかくれぐれも忘れないでいただきたいと思います。

 15年間,COMLに届いた3万5000件に余る電話相談の中で,ずっと変わらず患者・家族が求めるのは「安全・安心・納得」です。特にここ数年,医療に対する患者の不信感がきわまり,「自分のことを知りたい」「自分で決めたい」と願う患者が増えています。また医療情報へのアクセス環境も日進月歩で向上しています。しかし情報を読み取る能力(リテラシー)は決して十分ではありません。それだけに,患者の自立(律)と成熟を助け補う意味での説明文書を望む声が,すでに患者の間では沸点に達しています。

 もちろん医療現場におけるインフォームド・コンセントの努力は,数年前に比べれば目を見張るほどの変化をきたしてはいます。しかし,残念ながら一方的な押しつけや儀式のような形骸化の現実が,「忙しさ」の中にはびこっていることも一方の現実です。たしかに患者のすべてが「話せばわかる」人ばかりではありません。それだけにこうした説明文書があれば,患者の理解・納得は深まるに違いありません。病院から帰ってじっくり読み返したり,家族と一緒に現実を受け入れる努力をするための道先案内になったりと,まさに本書はインフォームド・コンセントとコミュニケーションのツールです。患者の立場から,本書が医療現場に普及することを願っています。

B5・頁292 定価4,830円(税5%込)医学書院


PCIスタッフマニュアル 第2版

齋藤 滋 監修
村上 敬,原田 和美 編集

《評 者》添田 信之(星総合病院・臨床工学技士)

PCIにおけるチーム医療の実現へ

 PCIスタッフマニュアルを読ませていただきました。初版から5年が経過しているとのことで第2版に改訂され内容もさらに充実しています。

 われわれがカテーテル検査とPCIに携わったころは,このマニュアルに書いてあるようなことをまとめた本がまったくなく,現場で学んだ実戦,患者さんから得た経験,時に院外からいらっしゃる先生に教えていただくことがそのすべてといっても過言ではありませんでした。この仕事についた当初,放射線技師と看護師と私の3人で,PCIマニュアルを作成し,がんばるぞ!と熱く活動したことを思い出しました。

 さて,この本ですが,フローチャート形式になっており,PCIの流れが非常にわかりやすくなっています。PCIにおいてコメディカルに求められることは,患者さんを中心としたスムーズな環境を作ることです。その意味で,本書はこれからPCIのスタッフとしてやっていこうという方々にとって,現場のマニュアルとして非常に強い味方となってくれるはずです。

 また,新人のスタッフの方々には,日々の臨床でわからないことが目の前を通りすぎてしまわないよう,また1つひとつ振り返りながら自分のものにできるよう,ぜひがんばっていただきたいものですが,その際にはテキストとしても,活用できる本だと思います。

 この本を読んでわからないこと,不明点などありましたら,周りの先輩・同僚に聞いてください。それでも解決しない場合には,ぜひ本書の著者らに連絡して,あなたの疑問を解決してください。著者らも非常に喜んでくれると思います。PCIに携わるコメディカルは決して多くはありません。本を通じて情報を共有し,友達を増やし,ともによりよいチーム医療をめざしていきましょう。本書はその助けに必ずやなってくれると確信しております。

B5・頁216 定価3,780円(税5%込)医学書院


WM腎臓内科コンサルト

木村 健二郎 監訳

《評 者》富野 康日己(順大教授・腎臓内科学)

疾患を包括的に捉える基礎・臨床知識を融合

 医学教育については,これまで多くの先輩が考え,その時代にあった教育方法がとられてきた。私達が教わった頃は,一般教養から基礎医学,臨床医学へといった段階的教育方法であった。この勉学方法も決して悪いとはいえないが,近年の急激な医学の進歩に伴い学ぶべきことが大変多くなっており,勉学法にも変化が生じてきている。ベッドサイドラーニング(BSL)に重点がおかれ,さらに基礎医学と臨床医学を有機的に統合したカリキュラムへと変化してきている。疾患を包括的にとらえ診断・治療することは,医学生のみならず研修医や一般臨床医にとっても大変重要なことである。

 「WM腎臓内科コンサルト」は,聖マリアンナ医科大学腎臓・高血圧内科木村健二郎教授のご指導のもと,教室の仲間たちが翻訳され上梓された力作である。原書がワシントンマニュアルの姉妹本であるだけに,しっかりと記載されていることから,木村教授は多忙にもかかわらず本書の監訳を引き受けられたと推察する。腎臓は尿をつくり老廃物を排泄するのみならず,血圧,造血,骨代謝,水・電解質,酸・塩基平衡など多くの作用に関与している。そのため,腎臓病には機能的・器質的疾患が多く,それらをすべて理解することは難しいことから,とかく敬遠されがちである。

 本書は,各腎臓病の病態生理の理解から臨床所見,診断,治療に至るまで日常診療でよく遭遇する疾患を中心に記載されている。つまり,現代の医学教育・研修で求められている基礎と臨床の融合がコンパクトにまとめられているのが本書の特徴である。訳本といえば逐語訳が多かったり,訳者によって訳し方がまちまちであったりするが,本書はどこを開いても違和感はなく,よく統一されている。これも木村教授が各章の整合性を考えられて監訳された賜物であろう。また,訳本であるにもかかわらず,現在わが国で用いられている定義や基準を訳注としてさりげなく取り入れているのは,心憎いばかりの配慮である。しかし,原書の訳であるから仕方がない面もあるが,文章のみで示されている項目もある。特に,治療においては今後少し改善が望まれる。つまり,処方内容をまず図か表にまとめ,それについての解説を記載する方が臨床の場ではすぐに役立つのではないかと思われるからである。その点を除けば,付録の箇所も有益で各疾患をわかりやすくまとめた優れたハンドブックであり,医学生教育・診療に大いに役立つものと思われる。

A5変・頁376 定価4,830円(税5%込)MEDSi
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