医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評特集


AOマスターズケースコレクション
MINIMAX骨折治療
下肢・足関節・偽関節・骨移植

糸満 盛憲 監訳
田中 正 訳者代表

《評 者》佐藤 克巳(東北労災病院・副院長)

外傷を学ぶ整形外科医へ

 MINIMAXとは聴きなれない言葉であるが,もともとは携帯用消火器の名称であり,最小の機器で最大の効果をあげることを意味している。スイスのSt. Gallen州立病院のWeber BGを中心とする外傷グループは,これを骨折治療の目標として掲げ,最小の侵襲で最大の効果を得るために独自の努力と工夫を積み重ねてきた。

 本書は,St. Gallen州立病院整形外科で25年間に行われた約12万5000例の手術症例の歴史である。これらの症例に基づき収集された約8000枚のスライドから選択されたX線像が華麗に提供されている。AOグループの教科書は見事な内容と配列に定評があるが,本書はその中でも特筆すべき美しさがあり,著者のWeber教授と監訳された糸満教授の並々ならぬ決意の程が伺える。外傷専門医のみでなくこれから外傷を学ぼうとする一般整形外科医にもぜひ読んでいただきたい好著である。以下,その内容について論評する。

1)無菌的手技と感染のリスク
 わが国で骨折の手術を無菌手術室で行っている施設はあるだろうか。著者は,Charnley教授に触発され,空気感染を減少させるために垂直層流の無菌室を導入し,抗生物質に頼る感染予防の考えを戒めている。整形外科,外傷手術では骨,靱帯,軟骨,腱,インプラントを扱うので血行が乏しく感染への抵抗力が少ない。そのため術野の汚染は許されず,完全な無菌が必要と述べている。そして,感染防止のためのSt. Gallen州立病院での取り組みの歴史について述べ,無菌室の有用性を統計学的に証明し,無菌室を使用する際の消毒法,手術着の工夫,手術参加者の減少と時間の短縮についても言及している。その記述は精緻をきわめているが,わが国では外傷専門病院がないことを考えると採用されるまでにはまだ多くの時間を必要とすると思われる。

2)骨折治療のMINIMAXの原則
 AOの原則は,観血的解剖学的整復,強固な安定した固定,血行温存,機能的後療法である。これらの原則は単純骨折と関節内骨折では,厳密に守られる必要があるが,粉砕骨折や軟部組織損傷を伴う骨折,多発骨折では同じ考えではいけない。そして,症例ごとの複雑さに応じた治療法を決定する必要があると述べている。MINIMAXの原則は強固な最大侵襲固定と最小侵襲固定の中間であり,血行を温存した生物学的固定である。現在流行している最小侵襲手術に対しては,観血的整復と良好な固定の法則から離れていく方向にあると警鐘を鳴らしている。著者が使用する固定材料は標準的な架橋プレート,圧迫プレート,リームド髄内釘,創外固定,ギプスなどであり,X線透視やナビゲーションは必要でなく観血的に整復を行っている。

3)下肢骨折の治療法
 大腿骨骨折,下腿骨骨折,足関節骨折,足関節靱帯損傷,アキレス腱断裂,偽関節,骨移植法,脊椎の固定法について豊富な症例のスライドを駆使して供覧している。その治療はMINIMAXの原則に基づいている。血流を温存すること,解剖学的に骨折部を接近させること,骨折部を安定させることである。これらの1つが欠けると偽関節になりうる。偽関節は,骨折部の生物学的活性に基づいて治療計画を立てる。非感染性ならプレートによる強固な固定と骨移植,感染性ならデブリドマン,腐骨除去,創外固定と骨移植という古典的手技を貫いている。その結果のすばらしい成績をX線像にて見事に示している。

 本書には最近のトレンドであるMIPO,イリザロフ法による脚延長,横止め髄内釘,ナビゲーションなどについての記載はない。むしろ警告を発しているように思える。しかし,これらは古典的手技での欠点を補う手法として編み出されてきたものであり,適切な手技によってより低侵襲に早期に種々の骨折を解決できる可能性を持っている。また,ロッキングプレートとMIPOを組み合わせた最小侵襲手術法などについて見解を聞いてみたいが,残念ながら著者は2002年に逝去された。最新の手法は,ここに記載された標準的手法を凌駕する成績を出すことが求められている。

A4・頁224 定価15,750円(税5%込)医学書院


《標準理学療法学 専門分野》
日常生活活動学・生活環境学
第2版

奈良 勲 シリーズ監修
鶴見 隆正 編

《評 者》小林 量作(新潟医療福祉大助教授・理学療法学)

ADLと生活環境についての明快なテキスト

 日常生活活動(ADL)学の講義を担当していて最初に悩むのは,テキストの選択である。基本的事項がわかりやすくまとめられ,臨床実習にも活用できる内容のテキストを欲張ると選択がなかなか難しいが,本書はこの要望を満たしており,推薦できる一書である。

 本書は本来ならそれぞれで1冊となるべきADL学と生活環境学の2つの領域を1冊にまとめたものである。ADLと生活環境は相互関係にあることから2部構成にしたものであろう。内容は基本と具体的なことを簡明にまとめてある。ADL学は「第1章総論」,「第2章各論-ADL指導の実際」(疾患別にI-IXまで),生活環境学は第1章から第7章まで構成されている。今回の第2版改訂に当たっては,内容を国際生活機能分類(ICF)の考え方に統一してある。

 ADL学では第1章の「II ADLと障害」でICFについて詳述,「VIII ADLを支援する機器(2)-歩行補助具」の項を新設,生活環境学では第3章に介護保険法と関係が深い“支援費制度”の解説を追加,などの改訂がなされている。卒前教育のみでなく臨床にも即応できる改訂内容をめざしたという。内容には図表を多用して読者が理解しやすい編集の努力が伺える。僭越ながらあえて注文を記すならば,筆者が関わる在宅理学療法の立場から考えて,本来の生活の場である在宅環境と在宅ADL,あるいは入院中の生活の場である病棟環境と病棟ADLなど,生活環境とADLをリンクさせた内容が加えられると学生にとっても,臨床家にとってもさらに有用な内容となろう。

 筆者の経験では,理学療法士の経験を積むほど,また,患者・障害者の現実の生活に接するほど,ADLの重要性を強く認識する。そんな経験から,学生にADLの重要性は繰り返し説いても強調しすぎることはないと考えている。時代に即した明快なテキストを基にしてADL重視の考えを学生に伝えられればと思う。

 ADLの自立度や方法は,ADL能力と活動を行う物理的環境との相互作用によって決まる。椅子からの起立が困難である場合,起立動作の練習をするだけではないし,直ちに手すりを付けることや座面を上げるなどの物理的環境整備だけで解決を図るわけでもない。起立が困難な原因を探り,起立に必要な運動機能を強化するのか,正しい起立方法の指導をするのか,物理的環境整備をするのか,あるいはこれらの組み合わせで解決を図るのかは,理学療法士が臨床でたびたび直面する思考過程である。運動機能,動作分析,物理的環境を関連づけて評価し,最良の方法を提示できることがADL学や生活環境学における理学療法士の専門性である。このような知識・技術は臨床場面で積極的に生かされてこそ意味をなす。臨床場面におけるADL指導や生活環境整備の充実は,常に理学療法士が意識していなければならない領域である。本書がADL学および生活環境学の重要性を改めて認識できる書として,学生にも,臨床家にも役立つことを願っている。

B5・頁336 定価5,670円(税5%込)医学書院


米国精神医学会治療ガイドライン
コンペンディアム

佐藤 光源,樋口 輝彦,井上 新平 監訳

《評 者》山内 俊雄(埼玉医大学長)

徹底したエビデンス重視
実践治療ガイドライン

 米国精神医学会(APA)は,1989年から実践治療ガイドラインの作成を手がけており,その成果を逐次出版しているが,その多くのものが,本書と同一の監訳者が中心となって翻訳され,日本精神神経学会監訳の名の下に日本にも紹介されてきた。このたび,APAはいくつかの治療ガイドラインをまとめ,「2004年版コンペンディアム」として出版したが,その邦訳が本書である。

 この本の特徴をいくつかあげてみたい。

 まず第一の特徴は,本書が最新のデータに基づいて書かれたものであることである。APAの治療ガイドラインは,5年に一度改訂され,常に新しいデータに基づいて更新されている。そのため,すでに出版されていながら,現在改訂作業中のもの,例えば,「物質関連障害の治療ガイドライン」は本書には掲載されていない。それほどまでに,「最新」にこだわっているといえよう。また,「自殺行動の評価と精神医学的ケア」の治療ガイドラインのように,重要で緊急性の高いものも,特別なトピックスとして本書には掲載されている。

 そのような事情から,本書には,上記の「自殺」の他に「精神医学的評価法」,「せん妄」,「アルツハイマー病と老年期の認知症」,「HIV/AIDS患者の精神医学的ケア」,「統合失調症(第2版)」,「大うつ病性障害(第2版)」,「双極性障害(第2版)」,「パニック障害」,「摂食障害(第2版)」,「境界性パーソナリティ障害」の11のガイドラインが収録されている。

 次にあげるべき本書の特徴は,当然のことながら,治療ガイドラインが厳密に検証されたエビデンスに基づいて作成されていることである。そのことは,それぞれ推奨できる臨床的信頼性の程度を「高度」「中等度」「個人の状況に応じて推奨できる」の3段階に分け,記載内容の末尾に明示していることにも現れている。また,引用文献についても,そのデータが無作為割付臨床試験によるものか,コホート研究あるいは縦断的研究か,症例対照研究かなど,データの由来を明示しているなど,徹底したエビデンス重視となっていることである。

 ところで,治療ガイドラインという書名から,薬物療法を中心としたものを思い描く向きもあるかも知れないが,実際には,それぞれの疾患の有病率や原因,病態を述べたうえで,「治療原則と選択肢」,「治療計画の策定と実施」,「治療の決定に影響する要因」,「研究の方向」などについて記述しており,薬物療法にとどまらず,心理社会的な側面や身体的な因子などについて総合的に考慮したうえでのガイドラインとなっている。そればかりか,インフォームド・コンセントや病棟内の情報の取扱い,法律的な問題,行政上の問題など,きわめて実践的なことに関する記述が随所に見られることも,本書の特徴である。

 治療ガイドラインについて,本書の中で,「特定の治療計画を選んで実行する最終的な決定は,精神科医自らがその患者の示す臨床データ,可能な診断と治療の選択肢に照らして行わなくてはならない」と述べているように,硬直した治療手順を示すものでなく,治療者が1人ひとりの患者に最もふさわしい治療の選択をするにあたって,すべきこと,してはならないこと,そして治療原則と選択肢を,その根拠とともに示したものである。

 したがって,本書は治療ガイドラインと銘打った教科書とも言えよう。それも,これまでの教科書がややもすれば,概念的な,時には抽象的なものとなりがちであったのとは異なり,Practice Guidelinesという書名が示すとおり,優れた実践的な教科書となっていることも大きな特徴である。

 このようないくつかの特徴を持つ本書は,「標準的な現代の精神医学教科書や精神科レジデントの研修プログラムに求められている診断や治療計画の基本原則に,読者が精通していることを想定している」と述べている。時あたかも,わが国では,精神科専門医制度がはじまったが,この本は,さしずめ専門医試験を受けようとする人や,更新のための試験を受ける精神科医が対象者となろう。

 いずれにせよ,自らの知識を確かめ,先端的な知識を学び,日常の診療ですべきこと,してはならないことを確認するために常に机上に置き,折に触れて自分の知識や診療行為を確かめるために,精神科医一人ひとりが持つべき必携の本といえよう。

B5・頁984 定価15,750円(税5%込)医学書院


精神科面接マニュアル
第2版

張 賢徳 監訳

《評 者》吉内 一浩(東大講師・心療内科)

痒いところに手が届く実践マニュアル

 本書は2001年に初版が出版され好評を博した『精神科面接マニュアル』の第2版である。本書のテーマは,効率よくかつ正確に診断面接を行うための実践的方法の伝授,ということで,そのとおりの内容となっている。

 本書の特徴は,“実践的である”ということにつきる。余分な情報は一切含まれず,各章の最初には,簡潔なまとめやスクリーニングのための具体的な質問方法が記載されており,時間のない場合にも役立つよう工夫されている。

 特に,自殺の問題や性生活の問題など通常はどのように質問してよいか戸惑う問題も扱っていることや,「面接をいやいや受ける患者に対する技法」(7章),「しゃべりすぎる患者に対する技法」(8章),「詐病患者に対する技法」(9章,第2版で新たに追加された)など,初診時に頻繁に遭遇する“困った状況”への対処方法が具体的な会話の例とともに記載されていることは特筆すべき点である。また,特に精神科以外の医師に読んでいただきたいのが,「人格障害の評価」(30章)である。日常臨床では,対応に困ったり,トラブルをよく起こす患者さんに遭遇することが多いが,バックグラウンドにパーソナリティ障害があるということが理解されずに対応され,状況をさらに悪化させてしまっているケースが多い。本書では,グランド・アップの技法と症状ウィンドの技法の2つの技法が実例をあげながら具体的に記載されており,パーソナリティ障害の評価を体系的に行うことが可能になる。

 さらに,DSM-IV-TRの主要な疾患の診断基準の記憶術や,初回面接時の評価のためのテンプレート,患者用質問票,患者教育用パンフレットなど,便利な付録が巻末に収載されている点もありがたい。

 以上のように,本書は,まさに“痒いところに手が届く”内容となっているとともに,日本語訳にも工夫がこらされており,大変読みやすくなっている。本書を監訳された張先生に感謝するとともに,白衣のポケットに入れておくべき1冊として,精神科・心療内科のみならず,他科の医師,研修医,医学生や看護師,臨床心理に携わる方などパラメディカルの方々にも,ぜひ本書をお勧めしたい。

A5変・頁360 定価3,990円(税5%込)MEDSi
 http://www.medsi.co.jp/