医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評特集


《標準理学療法学 専門分野》
日常生活活動学・生活環境学
第2版

奈良 勲 シリーズ監修
鶴見 隆正 編

《評 者》内田 成男(富士リハビリテーション専門学校・理学療法学科長)

ニーズに応えた改訂ADLスタンダードを網羅

より洗練された,up to dateなADLのテキスト
 1999年-2000年にかけて,21世紀の理学療法士・作業療法士教育に向けたテキストが,セラピスト主導の下に刊行された。それは膨大な知識・技術について系統的な学習が可能となるように編集されており,新たな理学療法教育の幕開けを意味していた。本書はそのシリーズの中の一冊である。

 障害や疾病を持つ人々の生活スタイルは大きな変貌を遂げ,それに呼応して理学療法を取り巻く環境も目まぐるしく変化している。日常生活活動(ADL)を1つの学問分野として解説するためには,このような時代の変化を鋭敏にとらえる必要がある。本書はまさに現在の要請に応えた発展的な改訂がなされ,社会科学・人文科学・自然科学の立場よりADLを考究した格好のテキストに仕上がっている。

的確な改訂,スタンダードからインディビデュアルへ
 ADLのように変化が著しい分野では,的確な改訂が求められる。本書の大きな変更点は第2版の序において編者が述べているように,国際障害分類(ICIDH)から国際生活機能分類(ICF)への移行に伴う変更である。すなわち,生活機能を重視し,ICIDHのカテゴリーから,ICFの機能・構造障害,活動制限,参加制約に修正し統一したことである。特に日常生活活動学の第1章「II ADLと障害」では,まずICF採用の経緯や意義について解説している。次に「障害がADLにおよぼす影響・因子」について,代表的疾患を例にICFによる障害構造の分析を図説したうえで,ADLとの関係を追求している。この解説によりICFを応用した分析,ADL上の課題や理学療法上の指針が具体的に理解できるようになっている。

 その他の主な変更点を列挙すると,日常生活活動学では,(1)第1章「IV ADLと運動学」:不要な部分を削除し,実際的な動作(立ち上がり動作)を例題として,動作分析について詳述,(2)第1章「V ADL評価」:評価表を「リハビリテーション総合実施計画書」に改め,「目標とするADL」についても言及,(3)第1章「VIII ADLを支援する機器(2)-歩行補助具」:歩行補助具について解説と紹介をした章の新設などがあげられる。

 生活環境学では,(1)第3章「生活環境と法的諸制度」:支援費制度について追加,(2)第4章「生活環境としての住宅・住宅改造」:住宅改造の不適切例を提示,(3)第7章「地域環境と公共交通」:「公共交通機関旅客施設の移動円滑化整備ガイドライン」を一覧表として提示,などがあげられる。この他にも細部にわたり図表の追加・修正・位置の変更などがなされ,読者の便宜を図っている。

 以上のように,本書は今回の改訂において可能な限りのupdateがなされ,最新のADLスタンダードを網羅している。また,ADLと生活環境について一連の理学療法支援の流れが理解でき,学生のテキストとして,あるいは臨床における参考図書として,有用な書籍である。

 ぜひご一読され,本書により基本を学び,対象者となる方々へ個別性(individual)を重視した支援に発展させてほしい。

B5・頁336 定価5,670円(税5%込)医学書院


Tumor Dormancy Therapyの実際
外科医からの提案

高橋 豊 著

《評 者》北島 政樹(慶大教授・外科学)

TDTを中心に抗癌剤のすべてを包含した書

 癌を含めた疾患の治療に対して,20世紀は標準治療を求めてきたが,21世紀は個々の患者に適した個別化医療の研究に焦点が当てられている。

 個別化医療,すなわちオーダーメイドあるいはテーラーメイド医療というキーワードには,常に患者に優しい(低侵襲)という意味が包含されていると理解している。

 今回,医学界が標準化を求めていた時代に敢然とtumor dormancy therapy(TDT)のコンセプトを世に問い,多くの批判,評価の中でこのコンセプトを科学的に証明し,確立した高橋豊博士の勇気と努力に敬意を表したい。

 高橋博士は10年間のTDTに関する臨床および研究の成果を『Tumor Dormancy Therapyの実際-外科医からの提案』というタイトルで成書として出版されたが,拝読していて,一字一字に彼の研究に対する熱意と,癌患者を一生支えていきたいという思いがひしひしと伝わってきた。

 特に興味を引いたのは外科医としてなぜTDTを発想したのかという序章である。

 最近でこそ,本書にも記載されている分子標的治療剤や新規抗癌剤の出現により難治癌や再発癌に対しての治療効果は目覚ましい進歩を認めるが,以前は外科的治癒切除術と思っていても,再発を経験し外科治療の敗北感を味わった外科医は何人となくいたことであろう。私もその1人であるが,この時,高橋博士は発想の転換をし,今日のTDTのコンセプトに到達したのは,常に癌患者に対し,助けたいという情熱をもって臨んできた結果と理解し,思考の柔軟性を評価したい。

 本書の中で最も評価したい点は,私自身も本理論に到達するまでの高橋博士の紆余曲折,共同研究者の支援をよく熟知しているが,iMRD(individualized maximum repeatable dose)理論である。現在の抗癌剤治療を「継続性」と「個々の適量」の2点から改革する方法であり,従来のMTD法と比較しても,経済性でも優れている。

 iMRD法は本邦のみならず欧米においても高い評価を受け,本書の冒頭ページにもあるようにtumor dormancyの産みの親でもあるJudah Folkman博士とも共通のテーマとして,お互いの研究の発展を誓い合っている。さらに,本理論はオーダーメイドの治療法の1つとして認知されており,多種の癌において全国規模の臨床試験が実施されていることは周知の事実である。

 さて,本書を読破してみたが,癌の生物学,分子標的治療剤,抗癌剤治療の改革など,今,必須の抗癌剤の知識がすべて包含されており,TDTを中心としたup-to-dateな癌治療の完成された成書といっても過言ではない。

A5・頁145 定価2,940円(税5%込)前田書店