医学界新聞

 

Dream Bookshelf

夢の本棚 7冊目

渡辺尚子


前回よりつづく

新医学教育学入門
教育者中心から学習者中心へ

著:大西弘高
医学書院
2005年
A5判・176ページ
2,310円(税5%込)

 久しぶりに看護学校時代の仲のよい友達と小さい同窓会を開いた。みんな性格も,外見も,そして仕事も変わっていない……と楽しんで話していたら1人がこう切り出した「私ね,転勤になって,看護学校の教員になるのよ。学校嫌いだった私が,それもこんな中途な時期にね」。今にも泣きそうなで憂鬱そうな彼女。「学生時代の落ちこぼれが,いい先生になるって言うじゃない!」。励まそうとしたこんな言葉も,彼女の助けにはならなかったようだ。

 「あ~今日は楽しかった,みんなに会えて。やはりメールや電話で連絡をとっていても,顔を合わせるって楽しいわ。それにしても人生って本当にわからない。バイトに明け暮れて本当にギリギリの成績で何とか卒業できた彼女が先生か……なんか,笑ってしまう」。同窓会の楽しかった余韻と,それから少し友人の心配をしながら眠りについた……。

 「また来たね,あなたの書斎に」。いつも思う,この聞き覚えのある声。誰だったっけ? もう少しで思い出しそう……。そう思っていると,本棚から一冊の本がその背表紙を覗かせていた。書名をみると『新医学教育学入門』。医学教育? 私には関係ない本? あるとしても『看護学教育』でないと。よく見ると副題にこんな言葉が書かれている『教育者中心から学習者中心へ』と。医療の現場では今は当然の『医療者中心から患者中心へ』であるが,教育においても『学習者中心』という言葉が広がっているのだろうか? 病院で働いていると,医療の変化はわかるけれど,それをめざす人たちが日々学習する場「学校」のことはまったく知らなかった。これは友人に役立ちそうだわ。

 前書きを読んで,学生時代を思い出す。「ともかくも評価なんて担当教官の胸三寸で決まってしまうということに苛立ちを覚えたのでした」という著者の言葉。思わず苦笑い。次に目次を読むと,なんか難しそうな言葉が並んでいる。「医学教育の枠組み」「カリキュラム」「教育目標」「タキソノミー」「評価」などなど。少し頭が痛くなる。しかし大切な友人のためにも読んでみなければ,と思ってページを開いていくと……「そうそう,学生時代こんな思いがあった」とか,「学校の先生方も大変だったんだわ」と思ったり。“懐かしさ”が手伝ってどんどん読めてしまう。共感し,そして笑ってしまう文章が続くのだ。眠りながら受けてしまった講義を思い出し,思わず当時の先生に向かってこうつぶやいた「先生も努力していたんですね,ごめんなさい」と。そして,ただ単に受けていた講義は,こんなに医療人になるための将来を考え,長期的に考えられ組織的に行われていたのかと驚いた。「そうか,看護教育もいろいろ考えられて作られていたのかもしれない。それに,今はもっと医療人育成のための細かい教育的取り組みがなされているのだ」と知り,医療の世界は,病院の中だけでなく学校も含めて大きな変化が起きていることがよくわかった。「先生方も大変そうだし,受ける学生も,主体性を持っていないといけないのだわ……とすると,これから私の職場に入る医師や看護師の人たちって……!」

 わくわくした気持ちで目が覚めた「何だろう,この心地よい緊張感って。」そして「彼女ならできるわ“先生”。きっといい先生になる!」そう確信した。それに,この著者は医師なのだが,なんとなく彼女に似ている気がする。「“はじめに”をよく読んで」と,夢に出てきた本を紹介してあげよう。自分にそっくりって思って,勇気が出るはず!

次回につづく


渡辺尚子
最近心配なことがある。数少ない「夢の本棚」の読者が,これを私自身のエピソードだと思っていはいないかと……。内容はすべてフィクションです。でも紹介している本の内容はもちろん事実です。そして授業中寝てしまったことは……少ししかありません。