医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


クリニカルパスがかなえる!
医療の標準化・質の向上
記録のあり方から経営改善まで

立川 幸治,阿部 俊子 編

《評 者》日野原 重明(聖路加国際病院・理事長)

院内すべてのスタッフに パスの知識とノウハウを伝授

 『クリニカルパスがかなえる! 医療の標準化・質の向上』という本が,名古屋大学の立川幸治教授と,日本クリニカルパス学会を中心になって立ち上げた前東京医科歯科大学助教授の阿部俊子看護師の編集で医学書院から出版された。

 パスは1980年代に米国の入院患者の入院日数の短縮と医療の質の保証のツールとして生まれたものだが,これが日本クリニカルパス学会により日本全国に急速に広がった。そして,日本ではこれまで在来各医療職の職域ごとにバラバラであった医療の欠陥をつなぎ,同時に医師任せで患者不在であった医療を,患者に病名や病気の経過の見通しを正直に知らせて,患者の協力を求める方向に進む結果をもたらした。また,院内各種の職員のチームで,このパスの成果を期待するムードが高まり,さらに病院経営に合理的な手法を与えて,病院全体の質の向上のマネージメントに貢献するという,患者と医療経営側両者に大きなメリットを生じることになったのである。

 日本でもっとも早くパスを取り上げて成功した済生会熊本病院の須古博信博士が序論として「はじめに」を書かれ,以下次のような7章からなっており,それぞれ医師,看護師,薬剤師,経営担当者によりパスの作り方,運営の仕方,その評価と成果についてそれぞれの確かなデータによりEBMの評価のもとに解説がなされている。 1.医療の標準化はなぜ必要か 2.医療訴訟とクリニカルパス 3.病院内にクリニカルパスをどのように普及させるか 4.クリニカルパスを医療記録にしよう! 5.連携医療とクリニカルパス 6.医療経営管理とクリニカルパス 7.病院のあり方とクリニカルパス

 これこそ病院のすべての職務に携わる1人ひとりに明快な知識と,それを扱うノウハウを与えてくれるテキストとなるものと言える。

 各専門職が共に学ぶバイブルと思い,その普及を望む次第である。

B5・頁128 定価2,625円(税5%込)医学書院


誤りやすい異常脳波
第3版

市川 忠彦 著

《評 者》飛松 省三(九大大学院脳研教授・神経生理学)

脳波判読が自然と身につく 他に類を見ない入門書

 コンピュータ断層撮影法(CT)や磁気共鳴画像(MRI)の発達により,脳の形態異常を画像として捉えるのは容易になってきた。このため,脳波の有用性を理解している神経内科医,精神科医,脳外科医ですら,近年は脳波よりも画像所見を重視するようになってきている。しかし,画像として捉えられることの少ない機能的神経疾患群,特にてんかんの診断と治療には脳波は欠かせない補助診断法であり,代謝性脳症,脳死の診断にも有用な検査法である。

 脳波を自在に読みこなすには,脳波に対する経験と臨床的知識が不可欠である。しかも,脳波はアナログ情報であるぶん,記録用紙に書かれた膨大な量の波形に対して,どこが正常でどこが異常なのか見当をつけなければならない。その意味で初学者にとって脳波は厄介な存在である。本書ではそういった脳波波形のどこに目を向けて判読すればよいのかが簡潔にまとめられている。

 第3版は第2版に比べ,図が41枚,頁数も47頁増加した。これは新しく取り入れた脳波所見(ウィケット棘波,SREDAなど),国際臨床神経生理学会により波形の解釈が見直された項目(前頭部間欠律動性デルタ活動,psychomotor variantなど),異常と誤りやすい特殊脳波(small sharp spikes,14 & 6Hz陽性群発など)を独立した章としたためである。そのうえ,すべての図と表にビギナーコースとアドバンスコース名が標示されている。初級者はビギナーコースを読破すれば臨床脳波学の基礎を学ぶことができ,一定の経験を積んだ中級者には,修得してほしい波形がアドバンスコースとして用意されている。上級者や脳波を教える者は,基礎知識の確認あるいは疑問な所見を見たとき直ちに参照するのに便利である。

 脳波に関する教科書,解説書は数あるが,この『誤りやすい異常脳波』は従来の発想にない入門書であり,解説書である。そうした点が評価され,1989年に初版が出版されてから年を重ね,2005年の春に第3版が出版されるに至ったのであろう。著者のこの本に対する情熱と深い造詣に敬意を表したい。

 脳波所見報告書を書く際,評者自身が肝に銘じていることは,脳波をできるだけ客観的に順序立てて判読することである。また,報告書は第三者が脳波所見を頭の中にすぐ思い描けるものでなくてはならない。本書は評者が考えるような手順を踏み,特徴ある脳波所見を明解に解読しており,自然と脳波判読が身に付くよう配慮されている。本書により,多くの医師が脳波に興味を持ってくださるものと確信する。

 なお,本書では視察的な波形分析に力点がおかれており,脳波の最も基本的な正常脳波や定型的な異常脳波の発生機序についての記載はほとんどないので,初心者には本書と脳波入門書をあわせて手許に置くことを勧めたい。

B5・頁296 定価5,775円(税5%込)医学書院


《総合診療ブックス》
はじめての漢方診療 十五話
[DVD付]

三潴 忠道 著

《評 者》山口 哲生(JR東京総合病院・呼吸器内科部長)

漢方初学者への 最適の指南書

 親友の三潴忠道先生がすばらしい漢方の解説書を書いてくれた。

 実に読みやすい本だ。漢方の解説書というと,陰陽虚実の証の話からはじまって,西洋医学だけをやっている者にはなかなかとっつきづらいものや,症状別・病名別に使える漢方薬を羅列して説明してあるものが多かったが,この本には漢方の考え方と具体的な使い方,診察の仕方が実にわかりやすく書かれてある。読みはじめると,まず入り口としての簡単な解説がある。それからすぐに「これが漢方診療の実際だ」と,どのような患者にどのように使うのかが,著効例をあげながら具体的に書かれてある。いかにも患者さんを大切にする三潴先生らしい切り口だ。

 それから漢方の考え方の話,診察の仕方と進んでくるが,べったりとすみからすみまで解説しようというよりは,白い紙に墨汁を落とすように,大切なところに焦点をあてながら,じわじわと話を広げていく。白い頭で読み進むうちに,いつしか墨汁の広がった部分の面積が多くなり,まとまった知識となってくるのを感じることができる。そんな本である。

 陰陽虚実の考え方はくり返し書いてあり,そのイメージがつかめたら,あとは本のどこからでも墨汁の一点として読み出すことができる。だから読み飽きない。重要な気血水の解説がうしろにまわっていてもそこだけ読むことができるし,大切な解説は繰り返しているのもよい。DVDもよい出来だ。待望の「目で見る漢方診療DVD」と言える。

 通読して三潴先生に感じるものは,1つは「本物の漢方の実践」である。「冷え性で力がない」という患者に,「とりあえず補中益気湯か,人参湯か,真武湯でも」という漢方ではない。本書で記されている「陰証期の治療」の四逆湯類の解説には迫力がある。ここまで切り込まないと治せないぞという厳しさがある。これは本物だと感じさせる。そして2つ目は「優しさ」である。1人ひとりの患者さんを大切にしている様子が伝わってくる。DVDで子供の腹診をしている場面などはほのぼのとした彼らしい優しさがにじみ出ている。陰陽の解説で「藤平健先生はこのように言われていた」と言い続けている律儀さも彼らしい。

 少しほめすぎのきらいもあるが,本書が,特にこれから漢方を学ぼうとする者にとって,最適の指南書であることは間違いない。

A5・頁300 定価5,250円(税5%込)医学書院


メディカル クオリティ・アシュアランス
判例にみる医療水準 第2版

古川 俊治 著

《評 者》寺野 彰(獨協医大学長/獨協大法科大学院教授)

医療における重要判例を 学生にもわかりやすく解説

 待望の古川俊治氏著『メディカル クオリティ・アシュアランス-判例にみる医療水準(第2版)』が出版された。5年前に刊行された同書初版についても高い評価を獲得し,筆者も大変勉強させていただいたものであるが,今回の改訂版は内容もレベルも大きな変化をみせている。確かに2000年から2005年に至るこの5年間,医療事故,医療安全をめぐる情勢は一変した。横浜市立大事件,東京女子医大事件,さらに慈恵医大青戸病院事件など社会的にみても大きな衝撃を与えた医療事故が相次ぎ,メディアも厚労省当局も病院の医療安全体制に対してはきわめて厳しい姿勢をとるようになった。当然患者の意識も大きく変化し,医療不信は現在でも増加している。本書はこのような変化を敏感に捉え,今後の医療安全,医療事故防止への基本的な方向を示すきわめて重要な内容を有している。

 古川氏はすでに広く知られているように,慶應義塾大学の現役外科医であると同時に,弁護士としても活躍中の俊才である。現在は英国オックスフォード大学の留学を終えて帰国され,さらなる活躍が期待されている。

 本書を通読したところ(内容が膨大なので精読していたら書評の期限に間に合わない),第一の特徴は最近の判例に至るまできわめて多数の重要判例をほぼ余すことなく「事案」,「裁判所の判断」として見事にまとめ上げていることである。筆者にも経験があるが,長文の判例をまとめ上げることは大変なエネルギーを要するものであり,よくもこれだけの判例を整理されたと敬服する次第である。

 1-2章は「医療訴訟の概要」,「説明義務」という形でわかりやすく解説しており,医師,法律家のみならず医学生,看護学生さらに一般人にも必要な医事法学の基礎知識が容易に得られるよう工夫してある。続いて3-6章では「薬剤」,「救急医療」,「麻酔」など医療事故の最も生じやすい場面について解説する。7章以降は内科,外科領域はもちろんのこと,産婦人科,小児科,精神科などすべての専門科について判例を中心に,氏の見解を交えながら詳述する。そして,本書を一貫しているコンセプトは,タイトルにもあるように,判例から導かれる医療水準の解釈であろう。医療水準については,未熟児網膜症をめぐる裁判以来,その解釈をめぐって多くの判例,学説が登場したが,医療,医学が今日のごとく急激な進歩,発展をみる時代にあっては,その内容も大きく変化するのは当然である。しかし,この医療水準という概念は判例によって決められるものではなく,医療側が決めるべきものであり,そのためにも,医療者は多くの判例を通じてその考え方をしっかりと打ち立てる必要がある。そのためにこそ本書のような解説書が必須であり,古川氏からの重要なメッセージが込められていると考えられる。

 昨年発足した法科大学院においても,医事法は重要な科目として各校とも重視しているようである。医師の資格を有する者も多数入学していると聞く。筆者も獨協大学法科大学院で「医療と法」を担当しているが,古川氏も慶應大学において医事法を担当しておられる。本書は,法科大学院の教員ならびに学生諸君にとってもきわめて有用なテキストブックになるであろう。

 本書を専門家のみでなく,第一線で活躍中の医師,弁護士など法曹関係者,医学生,看護学生,法学部学生さらに広く医療に関心を持たれている一般の方々におすすめする次第である。

B5・頁528 定価5,880円(税5%込)医学書院


WM血液・腫瘍内科コンサルト

畠 清彦 監訳

《評 者》上田 龍三(名市大病院病院長/名市大教授・臨床分子内科学)

世界に通じる臨床腫瘍医必携の ハンドブック

 最近の研究によりがんの本態が解明されるにつれて,画期的な診断法や治療薬の開発が進み,臨床の場は大きく変革している。これら科学的で先進的ながん治療法の臨床導入に対応すべく,本格的な臨床腫瘍医の必要性が医療担当者や患者さんのみならず,厚労省や製薬業界からも強く望まれている。わが国ではまだ明確となっていない臨床腫瘍認定医や専門医の資格の問題が学会や新聞紙上で大きな話題となっているが,この問題は日本医学会(高久史麿会長)の調停もあり,早急な解決が期待されている。

 第一線のがん臨床を担う臨床腫瘍医が,患者さんやカルテを目の前にした際に要求される必須の最新情報や実地診療をわかりやすく一冊に凝縮したのが本書である。本書にはいくつかの特徴がある。まず第1に,欧米で50年の歴史を持つ臨床腫瘍医にとっての実践的臨床情報を提供することにより,わが国のがん治療を,EBMに立脚し,グローバルな立場から行うよう啓蒙している。

 第2に,本書は血液・腫瘍認定医(Hematology/Oncology Subspecialty)として習得すべき血液学と腫瘍学が一冊に纏められている。薬物療法を主体とする臨床腫瘍医にとって最も重要で緊急を要する血液検査の見方,貧血,出血,血栓症に対する対応法が理解しやすく纏められており,臨床の場での有用性が高い。特に各章のKey Pointは,一般の教科書からは得ることのできない診療の現場からの有益な知恵の宝庫である。

 第3に,ワシントン大学(セントルイス)の血液・腫瘍部門のスタッフが一貫性を持って纏めたものを,新築移転した癌研有明病院で日本の腫瘍医育成の先頭に立っておられる化学療法科・血液腫瘍科畠清彦部長が監修したことで,結果としてその行間に癌研病院のがん治療に対する意気込みが感じられる。特に日米の医療制度や臨床試験の過程から生じている現実的な問題点や相違点を脚注として記載することで,わが国のがん治療に直結させている。

 この小さなハンドブックがわが国における臨床腫瘍医の必携の書となり,社会が望む,世界に通じる臨床腫瘍医の育成と質的水準の維持に臨床現場で貢献することを大いに期待している。

A5変・頁364 定価4,830円(税5%込)MEDSi