医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


胆道外科
Standard & Advanced Techniques

高田 忠敬,二村 雄次 編集

《評 者》窪田 敬一(獨協医大教授・第2外科)

パイオニアの手による胆道外科の集大成

 わが国における胆道外科は,肝門部胆管癌に代表されるように最もaggressiveな手術が積極的に施行され,そのレベルは世界をリードする立場にある。胆道外科の特徴として,その領域が狭いにもかかわらず胆道疾患は多種多様であり,それを対象とする胆道外科に画一的な手技はなく,また緻密なtechniqueが要求され治療が難しい,などの点があげられる。しかし,胆道外科手術手技を網羅した手術書はなく,ゴールドスタンダードとなる書が望まれてきた。

 今回,胆道外科を中心に豊富な経験をお持ちの高田忠敬,二村雄次両教授が編者となり,まさに消化器外科医,特に肝胆膵外科医が待ち望んでいた胆道外科の現在の集大成が出版された。言うまでもなく両教授はわが国の胆道外科領域のパイオニア的存在であり,この領域を牽引し続け,常に新しい情報を世界に発信してきた功労者であり,本書は編者の力の入れ込みを感じる書となっている。

 本書を読み始めた時,編者の序文にまず圧倒された。各項目で強調したい点が逐次記載されており,本書に対する編者の思いがひしひしと伝わってくる。本文は「胆道の外科解剖と生理」からはじまり,消化器外科医が最低限知っておかなくてはならない基礎知識がまず記載されている。その後,各項目で,病因,診断,術前管理,術式選択,術中管理,などについて丁寧に記載されている。

 本書の珠玉は「定型的手術術式と術後管理」という項目で,各疾患に対する定型的胆道外科手術手技が詳述されている点である。特に肝門部胆管癌,胆嚢癌などの悪性疾患に対する現時点での定型的術式がエキスパートによりわかりやすく記載されている点は特筆に値する。さらに「胆道癌の拡大手術」「胆道癌の姑息手術」では,定型的手術が施行できない進行癌に対してどう対処すればよいか,また,「術後合併症と対策」ではいざ合併症に遭遇した時どのように対処したらよいかが記載されており,日常臨床の大きな助けとなることは間違いない。

 さらに本書の特徴として,One Point Lesson,Do's & Don'ts,Coffee Break,トピックスなどコラムが随所に設けられている。トピックスでは,例えば胆管拡張を伴わない膵胆管合流異常症例で胆管を切除すべきかどうか,という点について,根拠をあげ,問題点を把握しやすいように記載されている。また,各手術術式では,推奨するポイント,やってはいけないポイントがDo's & Don'tsという項目でアピールされている。これらのコラムを読むだけでも勉強になる。

 このように胆道外科を網羅した本書は,消化器外科を学び始めた初学者にとどまらず,肝胆膵外科専門医レベルの先生方にも,また,それぞれの医療機関においても日常診療,手術の際に傍に置いて絶えず参考として使用するべき書として自信を持って推薦する次第である。

B5・頁448 定価21,000円(税5%込)医学書院


腸にやさしい
大腸内視鏡挿入法

高木 篤 著

《評 者》斉藤 裕輔(市立旭川病院・消化器内科部長)

すぐに使える,新しい大腸内視鏡挿入法の本

 大腸疾患の増加に伴い,大腸内視鏡検査の需要が増加している。機器が発達し,以前と比較してかなり容易となったものの,依然として患者さんにとって,大腸内視鏡検査はつらい検査の1つと思われる。

 本書は,ひとことで言うと,“感性に訴える新しいタイプの大腸内視鏡挿入法解説書”である。細部にわたり懇切丁寧に書かれ,初心者にもわかりやすく記載されており,読者の知識と理性に訴えるばかりではなく,豊富で具体的,かつ精巧な図,擬音的な表現など,感性にも大いに働きかける解説本である。

 著者の高木先生のお人柄が至るところによく現れており,各所にユーモアたっぷりのコメントも記載され,読み物としても楽しく(失礼),小生も一気に読破してしまった。指導医の「できるけれどわかっていない」,初心者の「わかるけれどできない」とはまさに格言であり,小生も「無意識に行っていた動きは,この原則に基づいていたのか!」と再認識させられる点が多々あった。特に,達磨大師から引用したという「面壁スライド法」は彼の師匠である工藤進英先生の軸保持短縮法を,さらに具体的にわかりやすく解説したテクニックであり,大変優れた本書の基本テクニックになっている。また,困った時にどのような手順で困難を解決していくかについて,こと細かく解説されている点もすばらしく,まさに「今日からすぐに使える教科書」となっている。

 本書を読むことで,初心者は本解説書の通りに検査を行って名人をめざしていただきたい。必ずなれます。また,ある程度経験のある内視鏡医は挿入困難例を減らし,さらに「腸にやさしい,痛くない大腸内視鏡」をめざしていただきたい。また,ベテランの内視鏡医(小生も自分ではそう思っている)も,自分の挿入法と比較して本書から得られる多くのヒントを密かに(公にすると格好悪いので)利用して,さらなるスーパーCF名人をめざしていただきたい。最後に本書で勉強し,高い挿入技術を持った内視鏡医が多くの大腸疾患を,また新たな大腸疾患を発見することで,本書が消化器内視鏡学そのものの発展に寄与することを願っている。

B5・頁184 定価8,400円(税5%込)医学書院


誤りやすい異常脳波
第3版

市川 忠彦 著

《評 者》山内 俊雄(埼玉医大学長・精神医学)

脳波の日常的な疑問に答える深みのあるガイドブック

 脳の検査法は格段に進歩している。特に画像診断はCTからMRIへ,そして3次元画像からさまざまな機能画像へと,その進歩はとどまるところを知らない。そんな中にあって,いわゆる臨床脳波は,脳から導出された電流を波形としてみるという方法をかたくなに守っている。もちろん,脳波のコンピュータ解析やマッピングも行われてはいるが,脳波波形を通して,脳の働きを読み取ることができるという臨床脳波の意義は,今でも変わらない。

 それにしても,脳波波形を通して脳機能を読み取る姿勢が,教育現場から少しずつ薄れていっていることは残念なことである。それはおそらく,現代では,アナログ的姿勢よりデジタル的姿勢がより好まれ,数字化されたものに,より安心を求める風潮とも関係しているように思われる。

 とはいえ,脳波のもつ情報量の多さと,機能診断として優れた検査法であることに変わりはない。したがって,脳機能に関わりを持つ者すべてにとって,脳波を駆使して,脳についての理解を深めることが必須の要件となる。

 本書は,脳波の持つ,とっつきにくさ,わかりにくさを払拭するために,著者自らが経験した200例に及ぶ脳波を呈示して具体的に説明しており,その意味で単なる解説書とは異なるものである。しかも,「このα波の出方は異常か」「この程度の左右差は正常か」「高振幅で先のとがったα波をどう考えるか」などなど,いずれも日常的に遭遇することの多い疑問に答えるような項目が満載されている。それもレベルによって,必ず修得しなくてはならないビギナーコース,もっと経験を積んでから学べばよいアドバンスコースと1つひとつの項目にレベル設定がしてあるのも,メリハリが利いて,学ぶ者にとっては大いに助けとなる。

 本書は,第3版とあるように,1989年に初版が出て以後,好評裡に,16年の間に版を重ねて,今回の大幅改訂となったものである。今回の改訂は,国際臨床神経生理学会が用語を改訂し,いくつかの波形の解釈に新しい指針を打ち出したのに合わせて,項目の追加や解説を付け加えたものである。その結果,図も159枚から200枚へと大幅に増え,内容の充実もはかられた。

 著者は,国内で臨床脳波の研鑽を積んだ後,フランスの臨床脳波学の泰斗Gastaut教授の下で学んだ,この道の第一人者である。そのこともあって,脳波の解説の随所に,例えばこの波は一次性両側同期か,二次性の同期化によるものかといった,病態に関わる解説がある。単に現象を読み解くだけではない,深みのある解説となっている。

 これまでの経験から,脳波に親しむのは研修初期のまだ若いうちである。医師になって何年かすると,多くの者が脳波を記録したり,読んだりするのが億劫になり,この有益な脳機能判定の武器になじめず,自らの能力を放棄する。したがって,医学生や研修医,あるいは検査に携わる者や医療関係者はなるべく早い時期にこの本をもとに勉強すべきである。さもないと能力を高める時期を逸することになる。

 その意味では,先輩を囲んで本書をネタに,臨床と脳波の結びつきも含めて,お互いに議論しながら勉強するのが,脳波を自家薬籠中のものにする最良の方法ではないだろうか。そのことがとりもなおさず,巻頭にあげられたGastaut教授の言葉,脳波学を学ぶことも大切であるが,もっと大切なことは,『患者と2人で,一種のシンポジウムを行うことである』という趣旨に添うことになろう。

B5・頁296 定価5,775円(税5%込)医学書院


新医学教育学入門
教育者中心から学習者中心へ

大西 弘高 著

《評 者》田中 まゆみ(聖路加国際病院・内科副医長)

真の医学教育改革のために

 臨床研修の必修化・スーパーローテート化,マッチング,研修医評価の標準化,研修プログラムの標準化・評価…今や日本の医学教育は短期間に劇的展開をなしとげつつある。どんな改革にもある程度の混乱はつきものであるが,この改革の根底にある国際的医学教育改革の潮流を理解しない限り,その混乱は一層深まるおそれがある。米国イリノイ大学とマレーシアの国際医学大学で医学教育学の研鑽を積んでこられた大西弘高氏ほど,その解説に適任な医学教育者は見当たらない。本書は『週刊医学界新聞』連載中から識者の注目を集めていた,待望の医学教育学総論である。

 著者は序文で個人的体験に基づいた「教育の評価」への疑問を投げかけて,型どおりの退屈な本ではないという期待を抱かせてくれる。続いて各章の冒頭に医学教育責任者のプログラム作りの試行錯誤のようすをプロットで描くなど,期待を裏切らぬ人間味にあふれた記述が魅力である。それでいて基礎的用語や体系の説明は簡潔明確であり,特殊用語にもすぐ慣れて読み進められるようにできている。このような工夫のおかげで,優れて実践的であり,今日からでも役立ちそうで読んでいて手応えがある。

 もとより,評者は教育学においては素人なので,医学教育学が教育学全般の中でどれほど特殊なのかはわからないが,「成人教育」の特徴をふまえなければならないという点は非常に重要であるように思えた。患者への教育も成人教育であるが,医師(doctor)は患者を教育(docere)する者というのが語源のわりには,患者教育が下手なようだ。医学生を教えるのが苦手というのも同じ延長線にあるように思う。医学教育を見直すことで患者教育にも多くの気づきが得られるのではと考えるのは評者だけであろうか。タキソノミーなどそのまま応用して,「半年後に糖尿病患者の80%が合併症の早期発見のための眼科検診と検尿の重要性を理解する」などと患者教育の具体的な目標をたてられそうである。

 教育目標をこのようにいちいち教育専門用語に翻訳する背景には,研究助成金獲得のためによい企画書を書くためということがあるのは明らかだが(特に米国では),形を整えて事足れりとするのでなく,血の通った教育改革への志を持続させていきたいものである。そのような決意を新たにさせてくれる力が,この本にはある。著者の人間性の賜物であろう。

A5・頁176 定価2,310円(税5%込)医学書院


標準精神医学
第3版

野村 総一郎,樋口 輝彦 編集

《評 者》高橋 清久(国立精神・神経センター名誉総長)

精神医学の“標準”を示す他に類を見ない教科書

 本書は他の類書に見ない大きな特徴がある。まず第一に,簡潔でわかりやすい表現である。教科書というと重々しく,学生が読むには抵抗がある表現をよく見かけるが,本書に限ってはそのようなことがない。第二に精神医学の歴史の記述などに見られるが,物語性があり,読者をあきさせない面白さがある。

 第三には,内容に偏りがない。教科書であるから内容が偏っていては困るのであるが,本書は類書に比べて生物―心理―社会という精神医学の重要な側面がバランスよく取り入れられている。第四に内容が新しい。今,精神医学は多くの新しい知見が蓄積されており,国の施策も大きく変わり,精神医療・福祉の発展が著しい。司法精神医学の新たなスタートである医療観察法も最近施行された。このような新しい内容も簡潔に盛り込まれている。

 学習に便利なように,各章に「学習目標」「キーワード」「重要事項のまとめ」を入れてあることも特徴的である。それに加えて,「エビデンス」という囲み記事を入れており,精神科領域のEBMを紹介している。これによって読者は精神医学においてもEBMが重要視されていることを知り,認識を新たにすることであろう。さらに,医学部を卒業して何科に進んでも役に立つようにと,巻末には「プライマリケアのための精神医学」がある。編者のサービス精神がここに極まった感がある。

 以上のような特徴に加えて,もっとも特徴的なことは本書が精神医学の標準を示していることだ。2001年の第2版出版の際に,編者が交代し,執筆者も一変した。その際の序文に,編者の「本書は学生向けの教科書であるが,同時に『精神医学の標準とは何か』を示そうとしたものである」という意欲的な言葉がある。読後感としてその言葉通りに,現在の精神医学の標準的なレベルというものが示されているという印象を持った。

 このように標準的な精神医学が,わかりやすく,簡潔で,しかもバランスよくまとめられて読者に提供されたのは,いつにその編者・執筆者の尽力によるものと思われる。精神医学の幅広い分野の中で,各分野のもっとも相応しい研究者が編集し,執筆している。そして,1人ひとりの執筆者の意欲が伝ってくる。そこに本書の特徴があると思われる。

B5・頁512 定価6,825円(税5%込)医学書院