医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


《総合診療ブックス》
はじめての漢方診療十五話
[DVD付]

三潴 忠道 著

《評 者》齋藤 康(千葉大教授・病態制御治療学/細胞治療学)

漢方医学の疑問に答える明解な解説書

 本書の著者,三潴忠道先生は筆者が研修医の頃,一緒に働いた内科の仲間である。彼の医療に対する取り組みの姿勢は,患者さんの訴えや症状をきわめて丁寧に診るというものであったが,それは本書を見て一貫して変わらないと改めて感心した。

 本書はまず漢方医学がどんな時にその役割を発揮できるかということから始まり,実に丁寧に日常の疑問を解き明かしていく。1つひとつの漢方薬をどのように使っていくかを,質問に答える形で症例を提示し,かつ実際の症状や所見を多くの写真で示して説明している。

 本書は全体が15話になっていて,まず「外来診療を始めるとき」から説き起こし,陰と陽の基本の解説を症状や実際の症例で,あるいは実際の漢方薬の効果を交えて説明がなされており,かつその間に漢方薬の歴史や考え方を含めて解説している。西洋医学を学んできた医師あるいは医療従事者が持つような疑問を,丁寧に取り上げてわかりやすく解説がなされている。その他には柴胡剤,瀉心湯,瘀血,水毒,気の異常などについて,すべて疑問として著者に投げかけられた問題点に対して豊富な経験を通して解説している。

 本書は,漢方の専門家ではないわれわれが,気軽に漢方薬に頼りたい時,またこのようなことを漢方ではどう考えるのかという疑問について知りたい時に大変役に立つ。漢方独特の難解な漢字も少なく,読者の理解を助けるさまざまな工夫がなされているのも特色である。漢方をこれから学ぶ初心者にも,あるいは漢方診療を始めようとする医師,さらに広く漢方を利用したいと思う方などが活用できる解説書として推薦したい。

A5・頁300 定価5,250円(税5%込)医学書院


動画で学ぶ脳卒中のリハビリテーション
[ハイブリッドCD-ROM付]

園田 茂 編集

《評 者》岡島 康友(杏林大教授・リハビリテーション医学)

動画が理解を深める脳卒中リハの入門書

 FIT(Full-time Integrated Treatment)プログラムで有名な藤田保健衛生大学七栗サナトリウムのスタッフによって作られた脳卒中リハビリテーションの入門書である。ハイブリッドCD-ROMが添付されており,本文とともに動画,写真,表など見たいものをクリックすると詳細を見ることができるようになっている。流行の動画付きのインターネット・ホームページを見ているような感覚で読める本である。したがって,パソコンなくしては真価を発揮できない本ともいえる。なお,本書を編集された園田茂氏は昔からリハビリテーション医学に関するホームページを多く手掛けられており,本書にもそのセンスのよさが反映されている。

 本書は「第1章 症状・評価」,「第2章 運動学習」,「第3章 治療」から構成されている。第1章では麻痺,痙縮,感覚障害,肩手症候群,半側空間失認,失語,嚥下障害,歩行,ADLについて,何が評価のポイントとなるかが簡便に示されている。片麻痺の連合運動,共同運動,痙縮と歩容の関連など,動画を見ると一目瞭然に理解できる。これぞ動画の効用といえよう。なお,嚥下障害については嚥下造影や評価チャートも挙げられており,特に力を入れているように見受けられる。

 第2章では,長下肢装具立位・歩行の問題を例に運動学習について解説している。運動学習はリハビリテーションの根幹をなす課題であり,リハビリテーション従事者として最低限知っていなければならないことを示したものと思われる。短い構成ではあるが編者のリハビリテーション哲学を感じさせる章である。

 第3章は,本書のタイトルでもある脳卒中リハビリテーションの実際である。早期リハビリテーションにおける座位開始の時期の問題,関節可動域訓練上の注意,促通や強制使用(constraint-induced therapy)を含めた麻痺回復手技,痙縮に対するフェノールによるモーターポイントブロック,下肢装具選定と歩行訓練,失語症・構音障害の訓練,摂食・嚥下障害訓練など,オーソドックスな内容から構成されている。特に装具による歩行改善に力点が置かれていて,歩行に関する動画の構成は素晴らしい。

 藤田保健衛生大学七栗サナトリウムではリハビリテーション界をリードする新しい試みがなされていることは周知であるが,本書では敢えて堅実な内容に限っている。脳卒中リハビリテーションに対する真摯な姿勢を垣間見ることのできる書である。

 脳卒中診療に携わる脳外科医,神経内科医,看護師,またPT,OT,STなどコメディカルの学生にも使える脳卒中リハビリテーションの入門書として推薦する。

B5・頁90 定価4,935円(税5%込)医学書院


標準整形外科学
第9版

鳥巣 岳彦,国分 正一 総編集
中村 利孝,松野 丈夫,内田 淳正 編集

《評 者》黒澤 尚(順大教授・整形外科学)

診察,診断に力を入れた学生・研修医に役立つ教科書

 整形外科学の学生向け教科書の中でもっとも完備した教科書である『標準整形外科学』が改訂されました。2002年の第8版は大幅な改訂でしたが,今回は大部分それを引き継いでいます。その意味でこの書評は基本的に第8版の印象とも言えるでしょう。私自身整形外科講義の際には,まず『標準』にはどう書いてあるかを参考にしていますし,他の大学の多くの先生方も恐らくそうではないかと想像しています。

 本書の特徴は診察,診断の進め方に力を入れている点でしょう。第2編の整形外科診断総論には,「診療の基本」,「主訴,主症状から想定すべき疾患」,「整形外科的現症の取り方」の章があります。学生が臨床実習で,あるいは研修医が患者と面と向かった時,恐らくは「何を聞いたらよいのか,どこをどう触ったらいいのか,得た所見はどう解釈したらよいのか」といった基本的な入り口で戸惑うものです。医学教育で時間的にも内容的にも圧倒的に中心は内臓器疾患です。ですから学生や研修医が一応診察で頭に入っている問診での愁訴は発熱,食欲不振,腹痛,動悸,息切れ,体重減少といった消化器,循環器などの内臓器症状です。したがって「腰が痛い」だの「ひざが痛い」といった愁訴に対して,学生は最初からまったくお手上げです。その意味で豊富に写真と図表が入ったこの第2編は最も学生には役立つ箇所であろうと思われます。特に寺山和雄名誉教授が考案された「主訴,主症状から想定すべき疾患一覧表」(いわゆるブルーページ)は簡にして要を得て,なるほどよくまとまっているなといつも感心させられます。

 また,第8版から入った各疾患や部位別項目の先頭に挙げられている「診療の手引き」も同様な意味で大いに学生や研修医には役立つと思われ,その部分だけを抜き出してポケットに入るような大きさに仕上げた「整形外科臨床実習の手引き」の小冊子を付録にしたのは1つのおもしろいアイデアです。

 また私がもう1つ『標準』で感心しているところは,第1編「整形外科の基礎科学」です。綺麗な写真,図と科学的な姿勢は崩さず,一方で噛み砕いた説明は同類の書と比べると格段にそのすばらしさが光っています。

 このように『標準』は学生と研修医向けの教科書としてはますます抜きんでた存在になっています。しかし,唯一私が心配するのは昨今非常に忙しくなっている学生,研修医そして前述したような学生,研修医の実態にしては『標準』は厚すぎないか,網羅的すぎないかということです。前述した『標準』のよい点も大部の中に埋もれて目立たなくなってしまっています。教科書は改訂を重ねるほど厚くなっていくのは世の常ですが,ミニマムエッセンシャルとまでは言わないにしても,現状はミディアムエッセンシャルの域も超えているのではないかと心配です。次回改訂の際は思い切ったダウンサイジングを期待します。

B5・頁976  定価9,660円(税5%込)医学書院


外科臨床と病理よりみた
小膵癌アトラス

山口 幸二,田中 雅夫 著

《評 者》松野 正紀(東北厚生年金病院院長)

膵癌早期発見に向けた世界的権威によるアトラス

1.豊富な小膵癌症例
 膵癌による年間死亡者数が2002年に2万人を突破した。これは年間の交通事故による死亡者数の3倍に当たり,毎年増加している。統計上,年間の罹患数と死亡数がほぼ同じというのは膵癌だけである。膵癌が難治癌といわれるゆえんであるが,その理由は早期診断が困難であること,膵癌細胞の生物学的悪性度が高いことに尽きる。以前から早期診断と早期手術が叫ばれてきたが,世界的にみても残念ながらその成果は上がっていない。

 本書は,教室をあげて膵癌の治療成績向上に取り組んでいる九州大学臨床・腫瘍外科(第1外科)で経験した2cm以下の小膵癌症例を画像,病理の面から解析し,小膵癌診断への道を切り開こうとしたものである。大きさが2cm以下の膵癌の切除例は,多い施設でも数例しか経験していないものであるが,35例を経験しているのにまず驚かされる。これらは,小膵癌と鑑別を要する疾患も含まれているが,その豊富な症例には目を見張るものがある。

2.アトラスの真髄
 小膵癌の臨床上の特徴,病理組織学的な特徴は不明な部分が多い。本書は小膵癌と関係のある糖尿病,黄疸,疼痛,画像等の臨床所見や最近話題の膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)や粘液性嚢胞腫瘍(MCN)との関連を美しい写真で明らかにしている。摘出標本の写真や膵の画像は精細をきわめている。とくに標本の扱いや,バルーンERCPは見事で,著者らの教室の伝統をみることができる。かつて池田靖洋教授がバルーンERCPを駆使して『膵管像からみた膵疾患の臨床と病理』を出版し好評を博したが,本書の画像呈示と症例の解説はその流れを汲むもので,症例を1つひとつ大事にする九州大学第1外科の精神が脈々と生きづいている。精緻な写真のレイアウトと簡潔にまとめられた解説文のバランスのよさから,本書には最後まで一気に読ませてしまう魅力があり,「アトラス」の真髄をみる思いがする。

3.小膵癌発見へのインパクト
 著者の山口助教授,田中教授は膵疾患,特に膵腫瘍の研究についてはわが国の第一人者であり,すでに2000年に上梓した膵嚢胞性腫瘍の英文テキスト『Atlas of cystic neoplasms of the pancreas』は海外でも大変好評を得ている。

 田中教授は2004年仙台で開催された国際膵臓学会で「IPMN/MCNのコンセンサスミーティング」を司会され,お二人が中心となってそのガイドラインをまとめられた。また,お二人は日本膵臓学会の「膵癌診療ガイドライン」作成に精力的に携っておられる。このような膵癌の世界的なエキスパートによって著された本書は,小膵癌を理解するための入門書となると同時に,膵癌早期発見への強烈なインパクトを秘めた「アトラス」となっている。

 膵臓病を専門としている医師はもとより,広く消化器病学,臨床腫瘍学に携っている方々にぜひ一読をお薦めしたい好書である。

A4・頁184 定価15,750円(税5%込)医学書院


セイントとフランシスの内科診療ガイド
第2版

亀谷 学,大橋 博樹,喜瀬 守人 監訳
Sanjay Saint,Craig Frances 編

《評 者》宮城 征四郎(臨床研修病院群「群星沖縄」研修センター長)

幅広い知識が身につく日常臨床に役立つ良書

 『セイントとフランシスの内科診療ガイド』の原著が出版され,聖マリアンナ医科大学総合診療内科亀谷学先生を中心とする総合診療内科の諸先生方の手により,日本語版が翻訳・監修され発刊されたのは2000年のことである。それから5年,第2版が上梓され,同じ亀谷先生の監訳によりその日本語版が完成した。筆者はこの第1版についても書評を依頼されたが,肩書き(当時沖縄県立中部病院長)が異なった今回もまた,同様な依頼を受けた。

 前回の書評を引き受けた当時,筆者は呼吸器科医として専門教育に従事しており,専門分科医の立場からこの本に目を通し,書評した記憶がある。しかし,今回はまったく違う立場で読んでみた。

 現在,筆者は21病院からなる病院群臨床研修プロジェクトのリーダーとして,1学年約50人,2年合計100人余の研修医を相手に7つの管理型病院を巡回しつつ,problem-oriented teaching roundを通じて内科臨床の基礎を指導する日々である。

 第1版の書評では,筆者はこのガイドブックが分科専門医が自らの分野を参考にするマニュアルではないと述べた。すなわち,専門分科医から見ると,あまりにも専門分科の内容に乏しく,省略的で深みに欠け,物足りなさを感ずるとも書いた。しかし,筆者の現在の立場からすると,1人の患者が持つすべてのproblemsを列挙し,その各々の病態生理ならびに鑑別診断を詳細に討論し,指導しなければならない。言わば総合内科的基礎知識を日々,要求されるのである。そういう観点から,再度読み直してみると,1人の内科指導医がこのガイドブックに記されている循環器をはじめとする呼吸器,腎疾患,血液,内分泌,膠原病,神経,救急その他の全般にわたる内容すべてに通曉しているとしたら,なんと豊富な知識,なんと高い指導技術かと驚かずにはいられない。

 今回の改訂版では新たに,「緩和ケアと疼痛管理」,「院内合併症」,「胸水」,「高ナトリウム血症」,「高カリウム血症」,「低カリウム血症」および「皮膚・軟部組織感染症」などの項目が追加されている。また,重要な文献が各章に追加されたことも喜ばしい。

 このガイドの惜しいところは,循環器の項目では診察法が実に活き活きと丁寧に記載されているのに,呼吸器や消化器その他でその記載がもれており,各分野の横断的な統一性に欠けていることであろう。できれば,「全身的身体所見の取り方」,「バイタル・サインの生理学的解釈法」などの項目も追加していただければと思う。

 しかし,一般内科医として記憶すべき鑑別疾患・病態の覚え方の語呂合わせによるコツの工夫は見事であり,われわれも日常診療において同様な工夫をいくつかは試みているが,これほど多岐にわたって網羅されているのは類例がない。ただし,語呂合わせにこだわるあまり,頻度順の配慮に欠けているのは残念である。この書は決して通読するものではなく,臨床上遭遇する問題の整理に,その都度その項目を紐解いて役立たせる類いのものである。

 ともあれ,この書は内科研修医が一般的知識として修得すべき内容とレベルを知り,指導医が内科研修医との教育回診に要求される幅広い臨床の知識を整理し,開業医の諸先生方が必要な幅広い知識として日常臨床の実践に資する参考書として目を通すのに格好の良書である。

A5変・頁672 定価6,510円(税5%込)MEDSi