医学界新聞

 

教員が知っておきたい薬剤知識を解説

医学書院看護学セミナーの話題から


 第130回医学書院看護学セミナー「目からウロコのクスリ問答――教員が知っておきたい臨床薬剤知識」が8月5日,和歌山市のアバローム紀の国で開かれた。講師の荒井有美氏は,薬剤師として臨床業務に従事したあと,現在は看護師として勤務している(講師インタビューを本紙2590号に既報)。臨床に根ざした薬学教育のヒントを得ようと,熱心な看護教員が多数会場に詰めかけた。

臨床に即した薬学教育が必要

 荒井氏は,所属する北里大学病院の新人看護師オリエンテーションで,薬剤に関するプログラムを担当している。その際,「薬剤は患者に直接的で,重大な危険や障害を及ぼすリスクがあると強調している」と話し,新人看護師の薬剤に関する認識不足を指摘した。

 また,薬剤師として病棟で勤務したあとに看護教育を受けた自身の経験から,臨床に即した薬剤知識の伝達が卒前教育の場で実施されていないと分析。「OJTでは間に合わない。教育の段階である程度,臨床で使う薬剤の知識を教える必要がある」と訴えた。

 膨大な数の薬剤がある中,どこまでを教育の場で教えていけばよいのかに関しては,薬剤の特質,危険な薬剤や緊急時に必要な医薬品の最低限の知識の習得を学習項目として提示した。例えば,「注射・点滴事故はなぜ怖い?」という問いに対して,「直接体内に入るため効果の発現が速く,障害・死亡に直結する」という答えは当然のように思えるが,事故事例を紹介するなどしてその怖さを伝え,十分に注意して注射・点滴を行うよう教育していく必要があると語った。

 では,薬学教育のカリキュラムを各養成機関でどう見直していけばよいのか。現状では「薬理学」という単元を設けている教育機関が大部分であることに対して,「国試では薬理学の知識が求められている」と一定の必要性は認めつつ,「臨床で看護師として働いて,薬物と生体の相互作用を考えることはあまりない」とした。そして,実際に患者に聞かれるのは,「どのくらいで薬の効果がでるのか」など薬の使い方に関することだとして,これらを含めた「薬剤学」の授業を構築し,臨床に即した知識を習得することが大切であると提言した。

 教育時期については,1年次に薬理学を履修すると実習前には忘れている学生が多い実情に触れ,一方で「看護学校から講師を依頼される際,卒業前の学生に授業してほしいという依頼も多い」と,病院勤務に備えて薬剤知識を学ばせようとする最近の傾向を紹介した。

基本は「3回確認ルール」の徹底

 その後は,点滴・注射業務のプロセス(医師の指示→指示受け→準備→実施)ごとに,薬剤事故防止のポイントを説明した。

 指示受け段階では,「常用量・単位に関する知識を持とう」などを提示。例えば,ミリの単位といえばmgだけでなく,mlやmeqもあることを知らなければ,医師の指示を聞き間違って事故になる可能性があるとして,教育現場での指導を要望した。また,臨床では迅速な単位換算が必要となり,換算ミスが重大な事故を引き起こす場合もあることから,「換算ドリルでコツを習得しておくと役に立つ」と助言した。

 準備段階では,「薬剤の誤認事故を防ぐための3回確認のルール」((1)薬剤を保管場所から取り出す時,(2)薬剤を注射器などに準備する時,(3)アンプルやバイアルを捨てる時)などを提示。長らく語られてきた原則ではあるが,「身にしみるまで覚えれば,夜勤でアップアップの時も思い出す」と,基本の大切さを改めて強調した。

学生時代に知るべき3つの薬剤

 特に注意しなければならない3つの薬剤としては,キシロカイン(一般名:塩酸リドカイン),K.C.L.(一般名:塩化カリウム),インスリンを提示。キシロカインは規格によって投与方法が異なり,10%キシロカインの1回静注は心停止につながる要注意薬剤だが,「どの領域でも使う薬なので,早い時期から教えてほしい」と呼びかけた。K.C.L.に関しては,救急など切迫した場面での口頭指示による使用となりやすい実情を考慮したうえで,必ず希釈して点滴静注することや,単位にmlとmeqが使われるため間違えやすいことを事前に知っておく必要があると述べた。インスリンについては商品名の類似によるミスの多い薬の代表だとして,商品名の末尾にある記号の違いや用いられる単位U(ユニット)の理解が不可欠だと指摘した。

 最後は,看護師に期待される役割と責任にも言及し,「医療は多職種間の協同作業とはいえ,最終的な行為者が看護師となる場合が多い」と語った。そして,多様な看護業務の中でも薬剤を扱わない病棟はないとして,新人看護師による医療事故を減らすためにも,卒前での薬学教育の充実に期待しつつ講演を終えた。