医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


診療現場で力になる糖尿病の百科事典

糖尿病診療事典 第2版
繁田幸男,景山 茂,石井 均 編

《書 評》赤沼安夫(朝日生命成人病研究所所長)

糖尿病診療に欠かせない項目のほとんどを網羅

 本書の初版にあたる『糖尿病治療事典』が世に出て8年が経過し,この度,その第2版が編集者の繁田幸男,景山茂,石井均の3人の先生方の大変な御尽力と,実に160名にのぼる先生方の協力により出版された。ページを開いてゆくと,わかりやすい図,表が適切に組み込まれ,テーマごとに少ないページ数の中にも簡潔に要領よくまとめられていることがわかる。目次やキーワードを眺めると,糖尿病の診療において欠かせない項目のほとんどすべてが網羅されているといっても過言ではないと思われる。本書は糖尿病診療の場において百科事典的に活用できるのが最大の利点であろう。

 以下,項目のいくつかをピックアップして述べてみたい。疫学と予防では糖尿病の有病率,発生率,そして,それらの国際比較と日本人の糖尿病の特徴が述べられ,その背景にある遺伝因子と環境要因を取り上げ解説されている。糖尿病の一次予防については主要な介入試験について記載され,これらの成果などを参考に作成された健康日本21の要約が載せられている。診断の項では日本糖尿病学会の診断基準を2ページに簡潔にしかも正確にまとめてある。まず,読者にとってこの項は必読のところであろう。

 治療の項では食事,運動,経口薬,インスリンの各療法,コントロールの指標と基準や低血糖など多くの項目にわたり実に99名のエキスパートが著者に名を連ね,細部にわたり丁寧に解説している。治療の項は診療室において実地に最も活用されるものと確信する。 

合併症に関する項目は特に詳細に記載

 糖尿病治療の目標は合併症の発症予防と進展抑制にある。本書の24の主項目のうち,合併症に関しては最大のページ数,約130ページを費やして詳細に述べられている。編集代表の繁田先生は,多彩な糖尿病の合併症の病態解明に関して永年にわたり精力を傾けてこられた。まず先生は総論において,今日,治療法の進歩にもかかわらず血管合併症は年々増加の一途を辿っていること,この現状をわれわれは深刻に受け止めなければならないと警鐘を鳴らされているが,そのとおりである。われわれ臨床家はこのことを肝に銘じなければならない。さらに,先生は糖尿病の細小血管症と大血管症の違いを明解に記述しておられる。すなわち,細小血管症においては,諸悪の根源は高血糖であるのに対して,大血管症では糖代謝異常に加えて血圧,脂質代謝,喫煙など他の多くの要因も大きな役割を演じていること,食生活の欧米化が進んでいるわが国においては大血管症とくに虚血性心疾患はますます増加する危険性が大であると述べ,対策の必要性を強調されている。

 合併症のうち,網膜症に関しては眼科からその道のエキスパートの先生方が多数著者に加わっておられることも本書の特徴である。目の合併症の広範な領域で細部にわたり解説されている。糖尿病性腎症に関しては病期分類から血液透析,食事療法など21項目について細かく記されている。神経障害についても概念,診断,検査法から治療まで20項目に関して簡潔にして要を得た解説が加えられている。

 急性合併症としてはケトアシドーシス,高浸透圧性非ケトン性昏睡,乳酸アシドーシスが取り上げられ,病態生理,診断,治療を中心に図表も加えられ,実地にただちに活用できると思う。その他にも近未来の治療の研究や基礎研究領域の要約も加えられ,さらに,糖尿病を取り巻く資料も巻末にあり,本書の価値を高めている。

 このように,本書は診療室でも書斎でも気楽にページが開け,糖尿病に関する知識を拡大し深めるのに役立つし,治療の実際面にもただちに活用できる本である。特に第2版では必要な項目のページを容易に開けるよう工夫が加えられており,実に使いやすくなっている。多くの医療従事者の座右の書として活用されるものと確信する。

A5・頁584 定価5,880円(税5%込)医学書院


自己管理の必要な腰痛患者には一読を薦めたい

図解 腰痛学級 第4版
日常生活における自己管理のすすめ

川上俊文 著

《書 評》河合伸也(山口大副学長/日本脊椎脊髄病学会理事長)

“腰痛は生活習慣病の1つ”

 腰痛の原因はきわめてさまざまです。中には早急に厳密な治療を必要とする深刻な病気もありますが,多くの腰痛は長期にわたってしつこく痛みが持続し,あるいは何かするたびに痛みがでてきます。休んでいると少し楽にはなるものの,日常生活に支障が及ぶので,いろいろな治療を行ってみます。それでもすっきりとはしないタイプです。それは人体の構造が2本足で起立して活発に活躍するほどには進化しておらず,殊に人の腰や骨盤の部分は力学的な弱点であることに起因しており,腰の周辺の筋肉や靭帯に大きい負担がかかっているからです。

 そのために,腰痛は治りにくい病気と思われがちですが,腰や骨盤の構造を知ったうえで心身の自己管理をきちんと行えば,思っているよりも治りやすい面があります。また,日常生活における無意識な習慣的動作が,腰痛を悪くしていることもあります。これが,“腰痛は生活習慣病の1つ”と考えられている所以です。

患者が腰痛を正確に理解するために

 このような複雑な腰痛とその管理について,かなり詳しく,かつわかりやすく記載されているのが本書です。著者の川上俊文先生は長年にわたる友人であり,私が敬愛している整形外科専門医のおひとりです。誠実で,実直で,心から信頼できる脊椎脊髄外科指導医です。本書には,その川上先生らしさが如実に表現されています。腰痛について理解してもらいやすくするために,各頁に図表やシェーマを取り入れて,眺めているだけでも理解できるような工夫になっています。ただ,腰痛の原因はあまりにも多様ですので,一般の方には少し詳しすぎる部分もありますが,内科医やプライマリケア医にとって非常に参考になる事項がまとめられています。

 近年は,いろいろな媒体を通して腰痛に関する情報は氾濫しています。しかし,中には疑わしい情報もたくさん含まれていますので注意を要します。本書は少し難しい部分が含まれているとはいえ,長く腰痛に悩んでおられる患者さんやご家族の方々にとって,腰痛を正確に理解してもらうには,本書に記載されていることがらは必読であり,省くことはできません。

 前半は腰痛を来たす主な病気に関する内容ですので,多くの方々にはむしろ後半の「腰のしくみ」,「腰痛の自己管理」などから読んでいただくことをお薦めします。そして,病名が確定していれば,前半の必要な部分を詳しく読むという方法もよいであろうと思います。

 多くの整形外科医はこの中に記載されていることは理解していますので,自分の腰痛についてさらに知りたい場合には,本書を持参して担当の整形外科医と直接に相談すると,自分の腰痛がよく理解できて,その対応も容易になるものと思います。ともかく腰痛には自己管理が必要なことが多いですから,是非ご一読いただくことをお薦めいたします。

B5・頁296 定価3,780円(税5%込)医学書院


脳神経外科手術の奥義が読み取れる

脳神経外科手術アトラス 上巻
山浦 晶 編

《書 評》齋藤 勇(杏林大名誉教授/富士脳障害研究所付属病院院長)

 「20世紀の脳神経外科手術の総まとめであり,脳神経外科が誕生しそして世界に普及し,やがて急速に成長した20世紀に,脳神経外科医の技術はどこまで達したかをアトラスで示すことが本書の目的」と,序で編集者の山浦教授が述べている。

 A4版の大きめの本書をまず手にとってみると,そのずっしりとした感触に心が躍る。開いてみると,その鮮明に描かれた術野のスケッチがすばらしい。極めて精緻で繊細で,実写的である。手術のステップが手順に従って並べられ,それの解説にマッチしたシェーマがわかりやすい。

 この上巻では,麻酔,モニタリング,ポジショニング,脳神経外科の基本手技,手術機器総論,ガンマナイフ,腫瘍,神経内視鏡,機能的外科が含まれている。

手術上達のためのエッセンスが凝縮

 手術の上達のためには,経験することが重要であることは言うまでもない。しかし,上達の秘訣は,手術記録を仕上げた時に,その症例でやるべきだったこと,やってはいけなかったことの反省を書き加えておくことであろう。本書では,このDOs & DONTsが各手術ごとに赤い囲みで書かれている。各筆者がその経験から学んだエッセンスがそこに凝縮されている。「静脈洞からの出血はバイポーラで凝固してはいけない。硬膜が収縮して裂け目がかえって広がる」というDONTsなどである。

 どんなに優れた手術アトラスでもそれを見れば手術ができる,というものではない。若手は本書を見ながらcadaverで手順を学んで欲しい。そして,先輩の手術に参加する前に本書を見ておくこと,実際の手術で本書と違ってよいと思ったことはこれに書き加えておくとよい。

 ベテランは自分の手術と本書のスケッチと手順を対比してほしい。「果敢に攻め,潔く退く」という手術の奥義が読み取れるし,必ず得るところが少なくないはずである。

 すばらしい手術書がやっとできたと思う。もし注文を付けるなら,STA―MCA anastomosis,CEAが基本手技として扱われているので,血管障害を含む下巻では,総目次としてこれらの手術法は上巻にあることがわかるように配慮していただきたい。

A4・頁448 定価39,900円(税5%込)医学書院


社会的関心高まる乳がん診療の向上にむけて

マンモグラフィガイドライン 第2版
(社)日本医学放射線学会/(社)日本放射線技術学会
マンモグラフィガイドライン委員会/乳房撮影委員会 編

《書 評》遠藤啓吾(群馬大教授・画像核医学/日本医学放射線学会理事長)

 乳がんが著しく増加している。社会的な関心も高く,新聞やテレビでも取り上げられている。

 乳がんの画像診断にはエックス線を使うマンモグラフィと超音波検査(US)が役立つ。(社)日本医学放射線学会でも関係する学会,団体などと協力しながらマンモグラフィの撮影,マンモグラフィの読影などに積極的に取り組んできた。1999年に本書第1版が発行されたが,近年の画像診断技術の進歩を取り入れて,このたび改訂第2版が刊行された。この第2版はわが国のマンモグラフィの第一人者である遠藤登喜子先生(国立病院機構名古屋医療センター放射線科部長)を代表とする委員会が取りまとめたが,その委員会には放射線科医のみならず診療放射線技師,医学物理士,外科医,病理医など多くの先生方に参加していただいている。

マンモグラフィの質の保証に必要な情報を網羅

 マンモグラフィを行う施設にあっては撮影機器,撮影法そしてマンモグラフィの読影の3つが不可欠となる。マンモグラフィを用いた乳がん検診,乳がん診療を行う施設は安全性,信頼性があり,しかも精度の高い検査を保証しなければならない。また,マンモグラフィを受ける患者には低い放射線被ばくで品質の高い画像が得られるよう,撮影機器の性能,品質管理が不可欠となる。本書は放射線技術学会との共同企画なので,このようなマンモグラフィの撮影にあたっての注意すべき点などもシェーマで示しながらわかりやすく書かれている。

 撮影装置が合格しても撮影技術などによって画質が異なる。第2版では画像評価の章が新設されており,画質をチェックして100-88点ならば申し分ないAクラスの合格だが,63点以下だとDクラス,不合格となるなど,マンモグラフィの質をどのように評価すべきかが解説されている。

 マンモグラフィ検査には検診用と診療用があるが,読影法は基本的に同じである。腫瘤の性状の分類,石灰化の形態などで判定するが,それらが写真,シェーマで理解しやすく示されているし,所見の記載方法も例を示しながら書かれている。マンモグラフィの正常像から,乳腺疾患の病理まで多彩な組織型も解説されている。

期待される乳がん診療のレベルアップ

 昨今,わが国でも視触診による乳がんの見落としが新聞紙面をにぎわし,社会的にも注目されている。日本に比べて乳がん患者数が多く,また乳がんの診断,マンモグラフィについての医療訴訟も多い米国では,放射線科専門医会(ACR)が中心となって特に力を入れてマンモグラフィガイドラインを定め,その標準化,質的向上に取り組んでいる。わが国においても,本書を通じて,全国の診療施設でマンモグラフィの所見,用語の統一とともに読影法の標準化が行われ,乳がん診療のレベルアップが図られることが期待されるところである。

 本書は放射線科医のみならず乳がん診療に携わる外科医,産婦人科医あるいはマンモグラフィを撮影する放射線技師など多くの方々に役立つ。特に,これから検診マンモグラフィの読影にあたる医師のみならず放射線技師などの関係者には必読の書であり,マンモグラフィ講習会のテキストとしても最適である。

A4・頁96 定価2,940円(税5%込)医学書院


日本の医療制度が検討すべき課題を具体的に記述

「医療費抑制の時代」を超えて
イギリスの医療・福祉改革

近藤克則 著

《書 評》矢島鉄也(厚労省社会・援護局障害保健福祉部精神保健福祉課長)

医療の最適化は容易ではない

 わが国の健康指標は世界最高水準にある。これは戦後のわが国の医療政策・国民皆保険体制の成果であるといってもよい。しかし,医療費は高齢化の進行,医療コストの上昇などから,近年,国民所得の伸びや経済成長率を大きく上回って急速に増加している。医療保険財政は深刻な状況に陥り,制度の持続可能性が大きく揺らいでいる。

 経済財政諮問会議が6月3日にまとめた「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2004(骨太方針2004)」では4年続けて医療制度改革が取り上げられ,増大する高齢者医療費の伸びの適正化や,公的保険給付の範囲の見直しなどについて早期に検討・実施することが指摘されている。

 本書は,公的医療費を抑制した場合,どういう事態を招くかをイギリスの経験に基づき考え,それを手がかりにわが国の医療制度の実情を評価し,そして今後の医療の行方を考え,まとめたものである。イギリスの医療制度改革は,日本にとって大変参考になる。精神医療の分野でも学ぶべき点が多い。イギリスではNPM(New Public Management)と呼ばれる改革によって,民間企業のマネジメント手法と競争原理を積極的に導入している。

 拡大する医療費と経済のバランスをいかに保つかは,先進国共通の課題となっている。しかしながら,支払い者,患者,サービス提供者間の種々の利害が複雑に関連する医療の領域において,医療の最適化を行うことは容易ではない。特に経済的条件と医療サービスの内容との整合性を図りながら,また,絶えず革新途上にある医療技術を適正に評価しつつ,医療サービスの質と効率の向上を実現するためには,経済的側面と医療技術的側面の両方を検討するための指標(共通言語)が必要である。

日英にみる「医療の共通言語」

 日本では昨年から大学病院などでDPC(Diagnosis Procedure Combination)と呼ばれる診断群分類に基づく診療報酬の包括評価制度が導入された。これは本書が指摘するように日本の制度がNPMの流れを先取りしていることの一例と考えてもおかしくない。DPCという共通言語を用いることにより,医療情報の標準化,クリティカルパスなどを活用した病院間比較が可能となり,医療の最適化をめざすことが可能になったと言われている。

 イギリスも日本と同様,独自に診断群分類を開発している。イギリスではHRG(Health Resource Group)と呼ばれる診断群分類に基づく平均在院日数およびコストデータがNHS(National Health Service)によって毎年公表され,施設間の比較が行われ,この透明化された情報に基づいて各施設が自主的に診療行為の効率化を行うというベンチマーキング的なシステムが構築されている。米国のDRG(Diagnosis Related Group)が手術・処置を優先して(Procedure Dominant)事後的に作成される分類であるのに対し,日本のDPCは病名を優先して(Diagnosis Dominant)日常の臨床活動の中である程度の同時性をもって作成される分類である。日本の大学病院ではDPCが導入され平均在院日数は1年間で24.4日から19.3日まで約5日も減少した。医療にはまだ改善すべき点が多く残されており,提供される医療サービス内容を示したクリティカルパスなどを情報公開し,病院間比較を行い,どこに無駄があるのかを評価し,医療費の使い方やその成果を説明することなどの努力が進められている。

 医療費と経済のバランスに関する国民的議論と国民的理解を得るためには,医療情報の公開と評価と説明が必要で,DPCは有効な手法であると言われている。DPC導入から時間がないため本書では日本のDPCとイギリスのHRGに関する比較分析は行われていないが,今後に期待するところである。

 本書が指摘するように,日本では医療制度に関する実証的研究が遅れている。この分野の研究者が多くなり,国民やマスコミに公開できる情報が蓄積されることが必要である。DPCは病院間比較可能な標準的な情報を提供することになるので,実証的研究を行う専門家が増え,データが蓄積されることが期待できる。本書は,今後日本の医療制度が検討すべき課題について具体的に記述している。一読すれば役に立つ内容が多い。

A5・頁336 定価2,940円(税5%込)医学書院