MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


普段の学習用にとどまらず,臨床検査技師の生涯教育にも役立つ
《臨床検査技術学6》生理学 第4版
菅野剛史,松田信義 編
松村幹郎,他 著
《書 評》伊藤機一(神奈川県立保健福祉大教授・人間総合専門基礎)
このたび,松村幹郎川崎医大名誉教授らにより臨床検査技術学(6)生理学の第4版が上梓された。本シリーズの通称「青本」は,臨床検査学・同技術学の教本としてI社「赤本」とは常に双璧に位置し,臨床検査技師養成のための大学・短大・専修学校などでの採用率はきわめて高い。さらに,医学・歯学・薬学・看護学・リハビリテーション学・栄養学など,多くのアライド・メディカルスタッフの副読本としても広く用いられているのは衆知の事実である。
学びやすさのための配慮
生理学は解剖学と並んで学生が初めて接する保健・医療の基礎的学問分野である。高校時代に学習した生物,化学,保健体育を基盤とし,患者さんの診療支援分野での病態把握のための「臨床生理学(生理検査学・画像検査学)」を修得する助走部分に位置している。しかし生理学の教科書の多くは,冒頭から電気信号的記載が充満していることなどもあって学生には取っ付きにくい分野でもある。その点を執筆の先生方は配慮されてであろう,本書では各章ごとにまず「キーワード」と「学習の要点」を掲げられ,さらに各章末尾には「理解度の点検と問題」が箇条書されているなど,より理解しやすいような工夫が随所になされている。また,学習心理的効果から,豊富な図表を下方にまとめたり,青本の青さをもう少しコバルトブルー調にした2色刷りで示すといった工夫により,教わる側,教える側双方に“癒し系効果”をも与えている。私事で恐縮だが,医学部学生時代,部活動として軽音楽倶楽部を結成,その時の顧問教員が生理学の故M・H教授であった。自身の著した教材を示しながら「生理学って面白いだろう。恋人と逢おうとする時に眼が輝くのも,胸がどきどきするのも,汗をかくのもすべて生理学のおかげだ」と交感神経の働きを例に自信あり気に語り,できの悪い私に生理学に興味を抱かせてくれたのを思い出す。そして私が後年,腎・尿路系の病態生理学,その第1のエビデンス(証し)である尿検査に関心を持ち,生涯の研究テーマとなったことも,これを導いてくれた恩師,さらには生理学があってこそと信じている。
随所で「へー,なるほどそうなの」
今回,書評を記す機会が与えられたので本書を時間を掛けて拝見した。もう1つの理由として私が4月から着任して教鞭をとっている看護学科,リハビリテーション学科,栄養学科では,従来の臨床病理学・病理学よりも病態生理学の講義に重点が置かれ,その予習のためにも生理学を学ぶ必要性に迫られたという本音もある。本書をひもときながら,昨今の人気テレビ番組「トリビア」的な感心事をいくつも経験した。例えば「カテコルアミンは中枢神経においては,主として抑制性伝達物質である」のところは逆に考えていた。もう1つ「神経終末から放出されるアセチルコリン(ACh)は,コリンエステラーゼ(ChE)の作用によってコリンと酢酸とに速やかに分解される(このChEの活性を阻害するのがあのサリンであり,縮瞳が持続)」までは知っていたが,これに続く「分解の結果生じたコリンは再び神経終末に取り込まれてAChの生成に利用される」の部分が「へー,そうだったのか」だったのである。この他にも数えあげたらきりがないほどである(自分の不勉強を暴露しているようなものだけど)。
本書の優れた点を最後に1つ付け加えると,ほどよい厚さということであるが,その割には,松村先生が序文で記されている「人体の巧妙な働きを総合的に理解することを常に考えてもらいたい」に対する必要十分な内容が網羅されている点である。IT時代となった現在,情報が多過ぎ,私などは“情報過多瘤(カタル)”に陥っているが,ほどよいスリムさは何より重要である。本書はスリムではあるが,医師国家試験に匹敵あるいはそれ以上の難問の出題があるとされる臨床検査技師国家試験対策にはもとより,各学会・団体の主催する認定試験,さらには今後ますます発展するであろう生涯教育のための教本として,最良である。


産婦人科医にとっての日頃の診療の悩みを解決する
《Ladies Medicine Today》産科臨床ベストプラクティス
誰もが迷う93例の診療指針
岡井 崇 編
《書 評》岡村州博(東北大教授・産婦人科)
「臨床は奥が深い」

“まえがき”の最初に「臨床は奥が深い」とある。臨床に携わる誰しもが持っている実感である。昨今,世界的な流れとして,EBMに基づく診療が強調されている。EBMは大切な概念であり,EBMのレベルまで決められ,それがあたかも診療行為のスタンダードであるかのように考えられている。しかし,果たして臨床がすべてEBMで解決するかというと,そのようなことはない。
まえがきの中段から岡井教授が述べているように,エビデンスというには症例が少なく統計的な処理ができないけれども,たいへん大切な診療行為があることは誰しも認めることである。診療の“コツ”と称していいかもしれない。臨床に長く携わっている医師であれば,このコツを1つや2つは必ず持っているものであり,これは実際にその医師のもとで学ばなければ奥義は明らかにできないものもある。誰もが迷う症例のなかにスタンダードでは解決できない問題が多々あるわけであるが,本書では各領域のスペシャリストと称される方々が惜しげもなくこのコツを披露し,EBMとともにこのコツを包含した診療指針を述べている。まさに,“ベストプラクティス”と呼べるものであろう。
臨床現場で常に参照できる
特に使いやすい点は,各項目にキーワードがあり,これに加えて実際に困った事項が具体的に記載されていることである。これは岡井教授が自身の長い臨床経験から実際の現場で困った内容をそのまま言葉として表したものと拝察した。若い産婦人科医が患者さんを目の前にして,考えに困窮したときに本書を開いてみると,そこには解決策があり,“ほっ”とする気持ちになるのではないだろうか。また感心した点は,各項目の最後に「ここがポイント」として記載されている事項がたいへん有用であるということである。特に昨今は,どのような診療行為に対してもインフォームド・コンセントの徹底などが周知されているところであるが,患者さんの立場に立って,どのような説明をすべきか,またどのような行為は避けるべきであるかなど,実際の診療行為を補完する大切な事項も盛り込んである。さらに,それぞれの内容を深く理解するうえで末尾に参考文献が記載されている点は,若い医師には都合がよい。
以上のような新しい視点を持って書かれた本書を臨床現場で常に参照できることは,日頃の診療の悩みを解決する有効な手段であると確信し,推薦するものである。


医療技術の伝承という意味でも重要な役割を果たしている
心臓カテーテルハンドブック 第2版The Cardiac Catheterization Handbook, 4th Edition
高橋利之,芹澤 剛 監訳
《書 評》阿部博幸(九段クリニック理事長/杏林大客員教授・第二内科学)
医術は医療の基本

言うまでもなく,医術は医療の基本であり,最も重視すべきものである。心臓カテーテル検査は,診断にとどまらず治療にも及ぶ高度な医療技術である。今日では冠動脈造影,血管内超音波イメージング,血管内視鏡,電気生理学的な検索など診断的心臓カテーテル検査は日常茶飯事に行われている。さらに,インターベンション手技としての冠動脈ステント植込み術や血栓吸引術もルーチンに施行されるようになっている。
一般に,これらの技術はよく修熟した医師が実際に行っているところをみると,いとも易しい手技のように思えるものだ。ところが,いざ自分が行ってみると技術上の困難や合併症にみまわれる。そのうちに上達するという「ラーニング・カーブ」の概念は,医療では許されるものではない。
安全にかつ確実に施術するにはルール(法則)がある。それは,一連の技術は,いくつかの基本的な操作の組み合わせからなっていて,その中には合併症を避ける手法,合併症が起こったときの処置なども含まれる。
「すべては患者のために」
Morton J. Kern,MD編著,高橋利之,芹澤 剛・監訳『心臓カテーテルハンドブック 第2版』(メディカル・サイエンス・インターナショナル)は,まさに上述の実践的な手技ばかりではなく,心臓形態学や心臓生理学までも包括している。日進月歩の心臓インターベンションもこれらの基本の理解のうえに成り立っているのである。この本を一読して,米国クリーブランド・クリニックのメイソン・ソーンズ博士の厳しいトレーニングを思い起こしている。師曰く「私が10年かかって築き上げた技術を君たちはたった1年で自分のものにしてしまう」と。
本書は医療技術の伝承という視点からみても重要な書である。図版や写真も多く,研修医にもわかりやすいが,専門医も今一度自らの技術を振り返ってみる点からも優れたテキストと言える。
この書には「すべては患者のために」という言葉が処々に読み取れる。技術一辺倒に偏りがちなわが国の循環器診療に一石を投ずるインパクトがある。常に,座右の書としたい1冊である。


糖尿病診療のEBMの理解と実践に大いに貢献する
《総合診療ブックス》症例から学ぶEBM時代の糖尿病診療
門脇 孝 監修
野田光彦 編
《書 評》梶尾 裕(国立国際医療センター内分泌代謝科)
ガイドラインを有効に活用するために

患者の益となる糖尿病診療をめざして
本書が通常の解説書と異なる点は,各項目の記述の中心に「ガイドライン」の中心となるエビデンスにのみ焦点を当てるのではなく,臨床試験による病態の理解を重要視し,患者の意向にも配慮した患者の益となる糖尿病診療をめざした構成になっている点である。本文は,基本的には「ガイドライン」の流れに沿っているが,臨床の現場で使いやすいように項目を増やしている。各項目の構成は,項目に関連した症例を提示したうえで,1)「ガイドライン」のポイント,2)「ガイドライン」に沿った診療の進め方,3)専門医へのコンサルトのタイミング,4)症例からの教訓と続いている。項目に沿って読み進めてもよく,必要に応じてめくってもよい。どのページからめくってみても,日常遭遇する場面に応じて具体的な診療のアドバイスが述べられており,知識と経験の両面から得るところが多い。さらにメールアドバイスとして,患者の病態や背景に応じた適切な対処法が追加され,Noteとして専門医でないとわかりにくい用語や項目について適切で簡潔な解説を追加している。また巻末には,編者自ら糖尿病診療のうえで病態と治療を結びつけて考えるための留意点をAppendixの形で補完している。野田先生ならではの痒いところに手の届く,心憎い配慮と言えよう。
本書は,記述はわかりやすく簡潔でありながらも,味わい深い内容となっている。読者の期待を裏切ることなく,糖尿病診療のEBMの理解と実践に大いに貢献することは間違いない。


消化管の超音波診断のさらなる普及に期待する
消化管エコーの診かた・考えかた 第2版湯浅 肇,井出 満 著
《書 評》畠 二郎(川崎医大講師・検査診断学)
情熱にあふれる2人のパイオニア

また共著者の井出満先生は診療放射線技師という立場から超音波の特性を生かした描出のテクニックを究められ,また病態生理に関する豊富な知識から的確な画像解釈をされるこの道の達人である。いずれの先生にも共通することは,臨床に対する熱い情熱と超音波診断に対するあくなき探究心であろうか。
高度な内容までわかりやすく網羅
この両先生の書かれた本書は消化管の超音波診断に関してその基本的な描出法や画像の読み方まで,痒いところに手が届くという表現がまさに当てはまるほど大変わかりやすく,一方で高度な内容まで網羅された1冊である。その内容からも日々の診断にかける熱意がひしひしと感じられ,実際に自らが先頭に立って検査しておられるからこそ書ける貴重な記述に溢れている。明瞭な超音波画像とさらに理解を助けるシェーマが付記されており,最初のページから読んでもよいし,症例に遭遇する度ごとに紐解くのもよかろう。また画像をアトラスのように眺めたり,あるいは文章を丹念に読み込むのも大変有意義である。初版の段階ですでに完成度の高い著書であったが,今回はさらにドプラなどの新しい写真と知見を盛り込まれ,さらに豊かな内容となっている。
名著は読む度に深みが増すと言われる通り,本書もビギナーからベテランまで,幅広く役立つ本であると確信している。この本により消化管の超音波診断がさらに普及し,多くの患者さんにおける非侵襲的で効率の良い診断に貢献することを期待している。
B5・頁284 定価5,880円(税5%込)医学書院