医学界新聞

 

経験知の共有と看護技術の探索

第1回日本看護技術学会が開催される




 昨年11月に発足した日本看護技術学会の第1回学術集会が,さる10月20日に,川島みどり会長(健和会臨床看護学研究所長)のもと,東京・文京区の文京シビックセンターで開催された。
 初の学会では,「これまでの豊富な看護実践の蓄積を再評価するとともに,個々の技術の根拠を探求することを抜きに新しい時代における看護師としての専門的責務を果たすことはできない」との川島会長の考えにより,メインテーマを「経験知の共有と看護技術の根拠の探索-臨床からわき上がる発想の仮説に」とした。
 このテーマに沿い,ビッグフォーラム「技術教育と実践能力-一人前の看護師に求められる看護技術とは」や,コアセッションとして,I「技ありフォーラム:経験知の共有」,II「IT時代の先端的看護技術-テレナーシング」,III「技術の科学的検証」の3テーマを企画。なお,一般演題は27題の発表が行なわれた。また,学会前日の19日には,緊急フォーラム「看護師と静脈注射について」(記事を掲載),およびプレセッション「知的所有権と著作権」も開催された。


 川島会長は,学会開催にあたり「現在看護系の学会・研究会は120を超えるようになったが,多くの看護職者が蓄積してきた経験知を明らかにし,合わせて個々の看護技術の科学的根拠を究めていくことをめざして発足した当学会は,社会に貢献でき,認められる内容を表していきたい」と述べ,学会発表全体の中から参加者の投票によってグランプリ,準グランプリを決める「学会大会賞」の企画を発表した。

教育・臨床の双方向から論議

 ビッグフォーラム(総合司会=川島会長,東医歯大大学院 井上智子氏)は,「臨床現場では,経験年数に関係なく1度にいくつもの課題を同時に実施しなければならない特性がある。そうした状況下であっても,エラーを起こすことなく,必要な課題について優先順位を適時的確に処理する能力を持った看護師を一人前としてはどうだろうか。ハードルは高いかもしれないが,これを宿題とすべく演者の見解を得て,参加者とともに教育,臨床の双方向からの論を展開したい」との趣旨により企画された。
 フォーラムでは,小松美穂子氏(茨城県立医療大)が「わが国の看護技術教育の現状と課題」を,山内豊明氏(名大)が「米国における臨地実習について」,森田孝子氏(信州大医療短大・前信州大病院看護部長)が「臨床実践能力につながる技術教育に求めること」を,それぞれ1時間ずつ講演。その後,フロアの参加者との全体討論「一人前の看護師と看護技術」が行なわれた。

日米の現状の違いからみえるもの

 この中で山内氏は,日米における(1)医療職数とベッド数,(2)勤務交替と人員配置,(3)入院コスト,(4)極端に少ない入院日数,(5)入院治療の役割などの「臨地実習の運用形態」や,(6)実践者である米国の看護教員の視点からみた「教員の資質維持・向上」を報告。1ベッドにつき看護職の数が米国では1.74であるのに対して日本は0.52であること,米国の勤務交替時間は7:00,15:00,23:00で,モーニングケアは日勤者が行ない,どのシフトでも同じ看護職数がおり,シフトの交替は月単位で選択が自由であることなどの違いをあげた。また,入院1泊が最低で10万円,平均が20-30万円,50万円も稀でなく,1週間を超える入院はまずない。そのために,病院そのものがICU化し,患者は医療依存度が高いままに退院となり,従来の「一般病棟」という存在は消失している実態を述べた。さらに,「米国ではワークシェアリングが確立しており,勤務パターンの選択に多様性がある。パートタイム勤務による実践維持が可能であり,勤務者でないと実践家ではありえない」として,教育と臨床現場がユニフィケーションしている実態を述べた。
 これらを受けた全体討論では,司会の川島会長が「教習所の教官と臨床指導者」の共通項は「命がけであること」として,かつての実習では「婦長が患者にインフォームドコンセントを事前に行ない,学生を当たらせていた」として話題提供。フロアからは「基礎教育の中では,『一人前』の教育はできない。エキスパートになるには,同一の場所で数年かかる」「患者は教材ではない。教育の場で環境を整える必要がある」「病院側が学生への制限をしているのではない。教育側がここまでの実習教育は必要がないと狭めている」などの意見が出された。閉幕にあたり川島会長は,「教育ってすばらしい!と学生も教員も思える教育体制でありたい」とまとめた。
◆日本看護技術学会ホームページ:
 URL=http://homepage3.nifty.com/JSNAS