医学界新聞

 

褥瘡管理をより科学的に,より実践的に

第4回日本褥瘡学会が開催される




 第4回日本褥瘡学会が,さる8月30-31日の両日,真田弘美会長(金沢大)のもと,「褥瘡管理をより科学的に,そしてより実践的に」をメインテーマに,金沢市の石川県立音楽堂および金沢全日空ホテルで開催された。
 全国から3600名を超える参加者が参集した今学会では,会長講演「褥瘡管理をより科学的に,そしてより実践的に」をはじめ,特別講演「The Braden Scale for Predicting Pressure Sore Risk:Predictive Validity Studies」(米・クレイトン大 バーバラ・ブレーデン氏),招聘講演「Evidence Based Pressure Ulcer Prevention and Management:The United States Prespective」(米・エール大 コートニー・ライダー氏)が行なわれた。また,教育講演が「難治性皮膚潰瘍の成因と治療」,「工学からみた物理的リスクファクターとその計測」の2題の他,コンセンサスシンポジウム「褥瘡発生要因の抽出とその評価」,シンポジウム「DESIGNの臨床評価」,パネルディスカッション I「褥瘡の外科的チーム医療-術前・後の創管理と看護」,同 II「褥瘡対策チーム編成に向けて-コラボレーションにおけるその専門性と調整」も企画。なお,一般書のベストセラーの著者として話題となっている日野原重明氏(聖路加国際病院)を講師に,特別公開講座「21世紀の新老人」も行なわれたが,日野原氏の講演は,「真田会長との20年来の約束によるもの」と紹介された。


褥瘡管理に必要な「他職種とのコラボレーション」を強調

 学会初の女性看護職による学会長を務めた真田氏は,会長講演で「褥瘡予測スケールであるブレーデンスケールとの出会いは米国留学中の12年前」と語った。氏は,臨床の場で活用されているこのスケールに接して,「科学的な褥瘡予測が可能」との確信に至り,褥瘡研究を進めていった経緯を紹介。「褥瘡管理の理論が実践と結びつくには,さまざまな職種とのコラボレーションが必須条件の1つ」として,他職種との共同で「二層式エアマットレス」の開発を行ない,「二層式エアマットレスの褥瘡予防における臨床実践研究」をまとめた。
 この研究は,標準,単層式,二層式のマットレスを用いて褥瘡発生数を比較,二層式エアマットレスの有効性を検討したもので,二層式での褥瘡発生は「あり」2.9%,「なし」97.1%,単層式で「あり」20.0%,「なし」80.0%,標準マットでは「あり」37.1%,「なし」62.9%との結果であった。
 また氏は,3次救急を担う大学病院ICU入室の患者100例から,「褥瘡発生率と治療コストからみたICUでの低圧保持用上敷きマットレスの使用評価」の研究成果を紹介。実験群:「低圧保持用二層式上敷きマットレス」と対照群:「従来使用の耐圧分散用具」との褥瘡発生率の比較においては,褥瘡発生「なし」が対照群で72%,実験群で94%であった。また,用具レンタル料,人件費,処置料などのトータルコストの比較では,1人あたり平均が,対照群で4万9288円,実験群で7375円と,優位な差があったことを報告した。
 さらに,創周囲洗浄や保湿剤入り皮膚洗浄の効果の研究成果も紹介し,創部管理の方法を解説した。また,今春の診療報酬改定で新設された「褥瘡対策未実施減算」にも触れ(本紙6面参照),「対策チーム」の設置などが必要要件となっていることから,今後は他職種とのコラボレーションが一層強化される必要性を強調した。

92%の褥瘡は初期の3週間で発生

 特別講演では,「知覚の認知,湿潤,活動性,可動性,栄養状態,摩擦とずれ」からみた褥瘡発生予測チェックリストである「ブレーデンスケール」の開発者として知られるブレーデン氏が登壇。ブレーデンスケールは,「リスク患者の選別や予防処置指示のツールとして正しい感度と特異度がある」として評価も高い。
 氏は講演の中で,褥瘡の発生時期と件数に関し,「褥瘡の発生は200件に対し147件で,そのうち77件(38.5%)はステージ II,もしくはそれ以上である。80%は最初の2週間で発生し,3週間以内の発生は92%」と指摘。さらに,人口統計学的特徴やバイタルサイン,食事摂取量との関連についても解説し,「多くの褥瘡は初期の3週間で発生するため,早期のリスク確認が必須」と述べた。なお,「リスクは次の指標で効果的に予測が可能」として,(1)ブレーデンスケール,(2)年齢,(3)血圧,(4)体温,(5)摂取蛋白量をあげた。

褥瘡ケア分野における国内初の調査研究を報告

 同学会では,(1)日本における褥瘡の発生率は高い(入院患者の5.8%),(2)しかしながらこれら褥瘡のケアコストは正確に把握されてこなかった,(3)より費用対効果の高い褥瘡ケアの手法が求められている,として褥瘡ケア分野では国内初となる「褥瘡管理における近代的ドレッシング材使用と伝統的ドレッシング材使用の費用対効果に関するアクティビティ・ベースド・コスティング手法を用いた臨床的比較研究」を実施。同調査にかかわった,大浦武彦氏(同学会理事長,恵翔会グループ),美濃良夫氏(同学会理事,医療法人綿秀会),真田氏が,学会2日目に行なわれたトピックス「褥瘡管理におけるコスト評価」でその結果を報告した。
 同調査は,「治療アルゴリズムと近代ドレッシングの併用は,このようなアプローチを用いない場合より費用対効果が高い」との仮説を立て,(1)近代ドレッシング材のケア+処置アルゴリズム,(2)従来のケア(軟膏とガーゼ)+処置アルゴリズム,(3)従来のケア+処置アルゴリズムなし,の3群に分け費用対効果を比較したもの。この結果から,「近代ドレッシング材は,費用を低減し,費用効果を向上させることが明らかとなった」ことが導き出された。また3氏は,(1)褥瘡のケア費用を低減するためには,材料費だけではなく人権費に注目する,(2)費用対効果の計算には,処置費用と処置に関するすべての費用,特に人件費を考慮すべきである,とも結論づけた。

75歳からが第3の人生

 日野原氏は特別公開講座で,「生涯における第1の人生は20歳までの青年期であり,第2の人生は40歳までの成人期から65歳までの旧老人期。75歳以上の『新老人』以降が第3の人生」と指摘。また,2000年9月に発足した,「老いても健やかな」75歳以上の会員で組織される,「新老人の会」の活動内容などを紹介した。