医学界新聞

 

診療報酬包括化は看護の質を上げるのか

第6回日本看護管理学会が開催される


 第6回日本看護管理学会が,さる8月23-24日の両日,金井Pak雅子会長(東女医大)のもと,東京・西新宿の京王プラザホテルで開催された。なお今学会では,「人々の健康に携わる看護が組織の中でどのように改革に取り組んでいくのかが問われる時代。本学会において,組織としていかにリスクを回避させていくか,またそのための戦略的なリーダーシップについて追究していくとともに,病院,看護部,などそれぞれの単位でのリスクに焦点をあて,組織改革へとつなげていく手段を摸索したい」(金井氏)とのことから,「組織の刷新-リスク管理とリーダーシップ」をメインテーマに掲げた。
 プログラムは,会長講演「看護経済学-理論と実践の接点」をはじめ,教育講演「個のナレッジをベースとした学習する組織への脱却」(日本総合研究所 高梨智弘氏),参加型講演「リスク管理とリーダーシップ-コックピットから学ぶ」(産能大 斎藤貞雄氏),学会恒例のディベート「診療報酬包括化は看護の質をあげるか」を企画。その他のプログラムとしては,インフォメーション・エクスチェンジ(1)「日本看護管理学会学術推進委員会の活動報告と今後のあり方」(コーディネーター=同学術推進委員長 井部俊子氏),(2)「看護管理者の倫理的意思決定-管理者倫理・組織倫理に向き合う」(同=兵庫県立看護大 勝原裕美子氏)が行なわれた。なお,一般演題は,13群(口演11群,示説2群)56題が発表された。


リスクマネジャーの理想像は「スターウォーズ」のヨーダ

 金井氏は,「看護経済学」を学問的に概念構築する必要性から,海外の大学における看護経済学のシラバスやテキストを分析,また米英の看護経済に関する研究者や日本の看護管理者へのインタビューなどを実施し,「看護経済学の概念モデル」の構築を試みた。氏は会長講演で,「経済学」を基礎に,保健・医療・福祉全般にわたる経済(へルスケアエコノミクス)に立脚した「看護経済学の概念モデル」を提示。その上で,実践の科学としての一分野として,看護経済学がその理論と実践の接点をどこに求めていくのか,看護実践の経済評価は何を規準とするのか,管理職に求められる経済の視点は何か,などについて概念モデルを通しての見解を示した。
 また,社会構造の変化に伴い病院施設も大型化したものの,「多くの病院で組織を変化することなく,特に看護においては病床数が増えたが,看護部長から看護師へという直結型は,500床を超える施設でも変わることがなかった」ことを憂慮。大組織にあっては,その機能を活かすためにも,院長の下に診療部門,看護部門,事務部門の副院長制を敷くこと,看護部においては看護部長(副院長)の下に複数の副看護部長を置く構造の必要性を強調した。
 さらに,院長を補佐する「リスクマネジャー」,「経営マネジャー」の配置は欠かせない機能とし,氏はそれらにふさわしい人材として,リスクマネジャーには映画「スターウォーズ」の「理力の指導者」であるヨーダを,経営マネジャーには日産自動車のカルロス・ゴーン氏の名をあげ,「常に組織の理念に叶ったスタッフが配置されているか」を把握しておく必要性を論じた。
 教育講演を行なった高梨氏は,「ナレッジ・マネジメント」の意義を解説。個からグループへ,そして組織へと発展させる構図を具体的に示し,個々の業務・知の共有の重要性を指摘した。また斎藤氏は,会場の参加者の意向を取り入れながら講演するという「参加型講演」を行なった。氏は,航空会社などでリーダー研修に使用する,飛行機事故発生での事前・事後のリスク管理の1例を提示。参加者はその対応をめぐり,斎藤氏からトレーニングを受ける形で,チームマネジメントの重要性を体得した。

政策参画のきっかけとなる論議が展開

 本年4月の診療報酬改定では,特定機能病院での診療報酬包括支払い方式の実施が提示された。また,「つじつま合わせ」との批判はあるものの,初の「マイナス改定」を実施。今後も未整備・未実施減算が加わるなど,これまでにない改定となった。
 本学会で恒例となっているディベートでは,今回の診療報酬改定を取りあげ,「診療報酬包括化は看護の質をあげるか」をテーマに,上泉和子(青森県立保健大),小島恭子(北里大病院)両氏の司会のもと,肯定派・否定派に分かれて論じ合った。
 肯定派(聖路加国際病院 井部俊子氏,NTT東日本関東病院 坂本すが氏,千葉大大学院 手島恵氏)は,「患者の疾患に応じた包括払いの原則」を提示するとともに,「医療の標準化や医師の独占から看護も評価の対象となった診療報酬改定(本紙6面記事参照)からは,効率的で質のよいケアの提供が可能」とし,「包括化は看護の質をあげる好機」とまとめた。
 一方,否定派(東医歯大病院 鶴田恵子氏,慶大病院 木村チヅ子氏,神戸市看護大 林千冬氏)は,厚労省の調査データから,特定機能病院における包括化の動向と問題点を報告。また,医療費抑制策から考えられることとして(1)安い賃金の人材を確保,(2)ケアを減らす,(3)人を雇えないので今いる人でがんばる,などをあげ,「差が広がるだけの包括化が,看護の質をあげる保証はどこにもない」と結論づけた。
 なお,本ディベートをめぐっては,会場の参加者31名に肯定派・否定派,どちらの論が優勢だったかの判定を依頼。結果,肯定派:16票,否定派:15票となった。明年の学会でのディベートは,「看護と政策」をテーマに展開される予定である。