医学界新聞

 

Vol.16 No.6 for Students & Residents

医学生・研修医版 2001. Jun

なぜいま医学生・研修医は
ACLSを学ぶのか?

 ACLSという言葉を聞いたことがあるだろうか? これは「Advanced Cardiac Life Support」の略で,「2次救命処置」と訳される。心肺停止患者さんに対して1次救命処置(BLS;Basic Life Support)に引き続いて行なわれる処置のことだ。
 昨春,エビデンスに基づいたACLSのスタンダードを示す『ACLSマニュアル-心肺蘇生法への新しいアプローチ』(医学書院刊)が刊行されたこともあり,この1年で急速にACLSトレーニングへの関心が高まっている。卒前教育・卒後教育の中にACLSを組み込む医学部や施設が増えているだけでなく,医学生自らがACLS勉強会を立ち上げ,学生同士で教え,学び合う動きが出てきたのだ。
 このような流れの中,3月末には「心肺蘇生を学びたい医学生・研修医のためのワークショップ」と題する全国規模のワークショップが東京で開催され,さらに,4月末には臨床救急医学会の協賛のもと,学会会期中にACLSコースが開催された。本号では,これらの取材から,医学生・研修医の関心を集めるACLSについて特集記事を組んでみた。(12-13面に関連記事を掲載)
      関連記事
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■全国規模のACLS学生WS開催

 さる,3月26-28日の3日間,東京の東医歯大で「心肺蘇生を学びたい医学生・研修医のためのワークショップ」が開催された。主催者は岩渕千太郎さん(当時東医歯大6年,現亀田総合病院研修医)を代表とする医学生25人(東大,東医歯大,東女医大,日医大,千葉大の4-6年生),一方,参加者は全国各地から参集した医学生25人(17大学の3-6年生)と研修医2人だ。

皆で楽しく学ぶことができる

 集まった医学生たちは,ほとんどが初対面。やや緊張した面持ちでワークショップは始った。しかし,岩渕さんが「皆で楽しく学ぶことができるのが,この勉強会の長所」と言うように,プログラムが進むにしたがって,徐々に参加者たちの表情が緩んでいった。
 ACLS研究会の主催するACLSコースをもとに作られたプログラムは,講義,実技,口頭試問が反復され,最終日にはMega-Code(即席で作られた蘇生チームのリーダーとしてACLSを行なうシミュレーション)を含む実技試験と口頭試問が行なわれるという本格的なものだ。参加者たちには「講義で一方的に学ぶのとは違って,実に効率的に学習できる」と好評だった。

全国へ広がれ

 ワークショップでの学習は決して楽なものではないが,医学生たちはリラックスした雰囲気の中にも,時に真剣な眼差しで取り組んでいるのが印象的だった。
 最終日,実技試験が終り,ワークショップの総括を終えた時には,主催者,参加者全員の表情に充実感がにじみ出ていた。「このワークショップで築かれた経験と交流を礎に,ACLSの勉強会が全国へ広がっていけば嬉しい」満足げな笑顔で,主催者の1人はこう言っていた。

■大切なのは「SHERE」すること

学生でもできる

 もともと,このワークショップの企画は,千葉大で学生主催のACLS勉強会を立ち上げた大野博司さん(当時6年,現飯塚病院研修医)と岩渕さんの出会いから始まる。千葉大の勉強会の記事を「週刊医学界新聞」で読んだ岩渕さんは,大野さんにE-mailを出し,勉強会に参加した。その経験をもとに,勉強会が東医歯大へも広がり,さらに全国規模のワークショップ企画へ結びついたわけだ。2人の学生の積極性が大きな学習・交流の場を作り上げた。
 大野さんは「ACLSコースで出会った青木重憲先生からいただいた『学生でもACLS勉強会は十分できる』という励ましの言葉と,『医師になるからには心肺蘇生くらいは……』という思いがすべて原動力だった」と,勉強会を始めた当時を振り返る。

患者さんを中心にした医療

 本来,人の命を救う心肺蘇生法は医師として必ず身につけなくてはならない技術だ。したがって,「なぜいま医学生・研修医はACLSを学ぶのか?」という本特集タイトルの問いは,愚問でしかない。しかし,単に医師として身につけるべき技能,知識以上のものをACLSを学ぶ学生たちは求めているようにも感じる。
 「以前までは,自分だけわかればよい,できればよい,といった気取った考え方をしていました。しかし,ある時,『SHARE』という考え方に気づきました。皆がそれぞれ知っていること,得意なことを持ち寄って,皆で共有することによって,患者さんを中心にした共通した治療方針が立てられ,常にある一定以上の医療を行なうことができる……。自分たちも,知っていることを相手に教え,知らないことを相手から教わることでレベルアップしていける……」
 大野さんのこんな言葉に,なぜ若者がACLSを学ぶのか,その答えがあるように感じた。ACLS――それは「SHARE」という考え方なしにはできない,複数の医療者の協力態勢があって初めて機能するものだから。

 

 

■ACLSコースを学会会期中に開催

 一方,4月26-27日の両日には,名古屋国際会議場でACLSコース(ACLS研究会主催)が開催された。これは,第4回日本臨床救急医学会(会長=愛知医大教授 野口宏氏)の会期中に,初めて学会の協賛のもと行なわれたもので,学会で講演したHoward J. Swidler氏らAHA(米国心臓学会)スタッフも参加し,充実したものとなった(ACLS研究会 青木氏のインタビューを別掲)。

参加した研修医らの声

 参加した研修医の1人,山本有紀さん(飯塚病院)は「学生時代には「(ACLSについて)知識の教育はあったが,実際には何もできない。医師になるにあたり,『心肺蘇生法ぐらいは身につけていないと……』と不安になり参加した」という。初めてだというシミュレーションを用いたトレーニングでは,「実践的でとても有意義」と声を弾ませた。
 また,学生時代にACLSについての勉強会を主催してきた同じ病院の大野博司さんは,「2000ガイドライン(青木氏インタビューを参照)をそのまま日本でのACLSに導入することはまだ時期尚早であろうことを知り,また,AHAのスタッフから話を聞くことができ有意義だった」と感想を述べるとともに,これまで自分たちで実施してきた勉強会での経験を振り返り,「改めてユニバーサルアルゴリズム(BLS)の重要性を再確認できてよかった」,「自分たちが学生主体で行なってきたACLS勉強会が,やはり大切であることを再確認した。学生でもACLSに関するトレーニングをきちんとした形で継続して行なうことで,知識面でも技術面でも卒業時点で『心肺蘇生』に対し,適切な対応が可能になるに違いない」と,学生勉強会の意義に自信を深めた様子だった。