医学界新聞

 

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学生自身の企画・運営による
メディカルインタビュートレーニング

加藤徹男(宮崎医科大学5年・MIT実行委員長)


 基本的臨床能力の習得をめざした新しい医学卒前教育が全国的に展開される中,私たち宮崎医大学生有志も模擬患者(SP)の方や民間病院の先生方にご協力いただいて「Medical Interview Training(MIT)」を開催しています。
 まず,MIT開催の契機となった「医療面接体験学習会」から紹介させていただきます。これは昨年12月に「模擬医療面接」を学内に初めて紹介する目的で私たち学生が主催したものです。京大総合診療部の福井次矢教授をお招きして「医療面接」とそのトレーニングの重要性を紹介していただき,実際に学生数人がSP(黒岩かをるさん・九州山口SP研究会代表)と面接を試み,フィードバックを受けるというものでした。患者さんとのコミュニケーションのとり方や関係の築き方を学ぶ場としてはもちろんのこと,患者情報収集能力や診断能力向上のために模擬医療面接が優れた訓練方法であることを,学生が初めて認識する機会となりました。

宮崎医大5年生25人が共通の問題意識から企画

 MITは「医療面接体験学習会」の好評を受けて宮崎医大5年生25名により企画されました。参加型の実践的なトレーニングをめざし,コミュニケーション・共感能力,患者情報収集能力,病歴からの鑑別診断能力の向上をMITの3つを大きな到達目標としましたが,背景には以下の点が参加学生共通の認識としてありました。
(1)患者さんとのコミュニケーション・信頼関係について,ベッドサイドでその困難さを痛感することが多いが,教育目標化されているとは言いがたく,十分かつ具体的な指導を得られにくい
(2)各疾患について検査や治療などの知識を中心に学ぶことの多い現カリキュラム(疾患の縦断的学習)では,症候に関する情報や患者プロフィールを十分引き出し,それらの情報から類似の疾患を鑑別するという思考プロセス(疾患の横断的学習)が身につきにくい

症候からの鑑別診断を学ぶ

 トレーニングの効果を高めるためにMITを全3回のシリーズ(循環器系・呼吸器系・消化器系)とし,5月より毎月1回開催することにしました。また各MIT前に学習会を開くこともしました。
 事前学習会では各器官系由来の症候について担当を決め,『臨床入門 臨床実習の手引き』(福井次矢,医学書院)で推奨されている
・Location
・Quality
・Quantity
・Timing
・Sequence
・Factors
・Associated manifestations

という病歴情報収集項目に沿って,具体的な質問を作りながら症候からの鑑別診断を学ぶという方法をとりました。なお,mailing listにSPやドクターを含む全参加者を登録し,随時ネット上で議論のやり取り・情報交換できる環境を用意し,活用されてきました。

市中病院の医師,SPらが協力

 患者背景の設定とともに,ある医学的整合性の下,鑑別すべき疾患が多数示唆される「構造化」されたシナリオとファシリテーターの確保が学生主催のMITでは重要だったわけですが,前者については宮崎生協病院の菊川誠先生(参照)とSP黒岩さんの全面的な協力が得られ,全シリーズ,計6つのシナリオを共同制作していただきました。また当日は,川崎医大総合診療部で学ばれた鹿児島生協病院の吉見太助先生(参照)にファシリテーターとしてご参加いただくことができました。
 なおシナリオ制作には,佐賀医大総合診療部の大西弘高先生に教育的側面から助言をいただく幸運を得ました。この他,当該器官系の面接役には指名されない学生もシナリオを確認する手続きをとり,学生自身の視点をもシナリオに反映させていただきました。

学生主体の学習だからこそ得るものは大きい

 参加型を謳うMITの運営面に関しては,当番制で学生自身がホスト役となり,面接役も学習会で担当した器官系以外のテーマの際に,直前にくじ引きで選ぶという方法を採用し,各参加者が緊張感の中で取り組まざるを得ない環境を作り出しました。
 また,面接の振り返りにはファシリテーターとSPに加え,宮崎生協病院の他の医療職の方々や実際の患者さんにも参加していただき,より広い視点から患者さんと向き合う際の「気づき」を得る努力をしてきました。特に患者さんとの議論を通して,患者共感的とされる対応の仕方や面接の進め方を,さらに説得力をもって習得できたのは実に大きな収穫となりました。
 「現カリキュラムでは,十分に体験することが困難な模擬医療面接を学びたい」との思いから皆で始めたMITですが,自ら模索して築き上げた分だけ,得たものも大きいような気がしています。MITに終わることなく,今後ともさらに臨床能力を磨く学生主体的な学習法をめざしたいと考えています。