医学界新聞

 

第19回日本性科学学会より

性科学者からみた日本の性の現状


 さる10月9日に,三重県の三重県立看護大学で開催された第19回日本性科学学会では,「性科学のコラボレーション」をメインテーマにさまざまなプログラムが企画された(参照)。
 同プログラムのパールセッション「性科学のコラボレーション-性科学者からみた」(座長=同学会理事長 野末源一氏)は,「性科学の研究では,基礎科学から臨床面,さらに精神面,一般の啓蒙まで含めた広い分野からの観察と協力が原動力となるため,コラボレーションが大切な骨組みとなる」との視点から開催。「イマージェンシー・ピル」を松本清一氏(日本家族計画協会)が,「性ある所感染症あり-性病・感染症への偏見をなくせ」と題し熊本悦明氏(日本性の健康医学財団),不妊については婦人科の立場から「女性の不妊と性」を本多洋氏(三井記念病院)が,泌尿器科の立場から「男性不妊症」を長田尚夫氏(聖ヨゼフ病院)がそれぞれに口演を行なった。

性交後の避妊・性感染症

 松本氏は,レイプ,避妊具の使用ミス等による避妊の失敗など,望まない妊娠を防ぐためにあくまでも緊急用として用いられる経口避妊薬(高用量ピル)に関し,欧米における歴史や効果を解説。無防備な性交の場合に予想される妊娠率が4.7-6.8%に対して,緊急避妊法を行なった場合には0.2-2.0%に止まることや,24-60時間以内に効果がみられることを報告した。一方で,緊急避妊法として用いられる避妊薬には,副作用として悪心(46-70%)や嘔吐(22-30%)がみられること,また血栓症,乳癌,卒中,偏頭痛などが禁忌であると指摘するとともに,緊急ピル以外には性交後5-10日以内の子宮内避妊器具の挿入,72時間以内に2回服用すると100%ではないものの妊娠率を効果的に下げるRU486(mifepristone)の投与法などを紹介した。
 熊本氏は,医学の進歩や性の自由化による性関係の多様化が,無症候化の強い性感染症を普及させていることを憂慮。「21世紀に残る感染症は性感染症。ピルが無症候性の感染症を増加させる」と指摘する一方で,「日本はHIV感染が少ないものの,性器クラミジア感染(CT)がある」として,CTの検査を普及させることが重要と述べた。また,淋菌にも無症候傾向がみられ,生殖年齢でもある10-30代(特に20代前半)の女性に性感染症が増えていることから,不妊-少子化にもつながることを懸念する発言を呈した。

女性の不妊と男性の不妊

 本多氏は,不妊の状態にある女性が「不妊症」と呼ばれる条件には,(1)リプロダクティブ・エイジに達していること,(2)性交渉を有していること,(3)妊娠を欲し,挙子を強く希望すること,(4)その期間がある程度長期(2年間)に及んでいること,(5)さらにそのことが女性の心身に苦悩を及ぼしていることをあげ,「大部分の不妊にある女性は,身体的に健康であり性生活も正常で,日常的には何らの支障がみられない。女性不妊は,『子なきは去る』に代表されるパターナリズムなどを背景とする一種の社会病でもある」と述べた。その上で,不妊治療としての生殖補助医療技術(ART)を解説。また,「性交なき生殖は性科学の問題としても重要な課題だが,人工妊娠中絶,月経異常,婦人科疾患手術などと不妊の関係を心配する女性が多いことから,メンタル面でのフォローも大切」と指摘した。
 長田氏は,不妊を男性側から考察。男性不妊の原因は,原因不明の精巣での精子形成障害によるものがほとんどだが,突発性が60%を占める。氏は,男性不妊の治療法として,薬物療法,外科的療法,ARTがあることを示し,外科的療法での「精巣の温度を下げる手術」について解説するとともに,ARTの進歩や遺伝子治療の可能性までを示唆した。一方,最近話題となっている「ヒト精子の半減」に関しては,「環境ホルモンの影響が示唆されているものの確かな検証はない」としながらも,現在,正常男性の生殖機能に関する国際共同研究が進められており,日本も同研究に参加し,調査活動を始めていることを紹介した。