医学界新聞

第20回癌局所療法研究会・第7回日本癌病態研究会
合同大会および第3回日本緩和医療学会総会から


 さる3月18-20日の3日間,京都市の国立京都国際会館で開催された「CANCER WEEK IN KYOTO, 1998」(当番世話人=京府医大教授 近藤元治氏)から,第20回癌局所療法研究会・第7回日本癌病態研究会合同大会での教育講演「重イオン治療の現状と可能性」(放医研・重粒子治療センター 辻井博彦氏),および第3回日本緩和医療学会のシンポジウム「緩和医療における臨床研究のあり方をめぐって」(司会=埼玉県立がんセンター総長 武田文和氏,国立がんセンター中央病院 平賀一陽氏)を紹介する(関連記事)。

日本が世界に先駆けて開発・
臨床試行した重イオン療法

 辻井博彦氏は,放射線医学総合研究所(放医研)が世界初の大規模装置である重粒子線加速器を有し,医療用として癌治療の臨床試行を実施している内容に触れ講演。
 重粒子線治療は1975年に米・ローレンスバークレー研究所で臨床試行が開始されたが,その後は医療費抑制策を背景に撤退している。放医研では,1994年6月から炭素イオンを用いた臨床試行を実施。その特徴として辻井氏は,病巣への線量集中性が優れている,X線や陽子線よりも高い生物学効果が期待できる,従来の放射線治療では制御困難であった疾患に有用性が期待できることをあげ,1998年2月までの389例の結果を報告。「放射線量の多段階増量試験の治療で,6か月以上観察可能な201例について分析した結果,第3度以上に分類される重篤な副作用を発生した患者はいない。また,炭素イオンは特に非偏平上皮癌(腺癌,腺様嚢胞腫,悪性黒色腫,骨・軟部肉腫など)に優れた効果を示した」と,これまでX線では効果がなかった症例への有効性が示唆されたことを解説した。
 また,「重イオン治療は新薬の治験によく似ている」と述べ,安全かつ効果的な線量の適度を知るために,安全量から開始し,重篤になれば停止させるという分割照射(パッチフィールド照射法)が可能であること,別方向または4方向からの照射をすることで効果があがることを,肺癌,肝臓癌,子宮癌,骨・軟部腫瘍などそれぞれの臨床試行例および成績をもとに指摘した。
 さらに辻井氏は,これまで放医研のみが行なってきた重イオン治療の臨床試行がドイツでも開始され,また国内でも兵庫県が開始することを明らかにした。日本が世界的な先駆者となり開発してきた重イオン治療は,従来苦手としてきた放射線治療領域での可能性の増大,成績の向上も期待できることから,今後はコスト,大型機器の問題を解決できれば,世界各国で検討されること日も近いと言える。

生命倫理・インフォームドコンセント
・Evidence-based medicineをキーワードに

 一方,日本緩和医療学会のシンポジウム「緩和医療における臨床研究のあり方をめぐって」には,6名の演者が登壇。生命倫理・インフォームドコンセント・Evidence―based medicine(EBM)をキーワードにそれぞれの立場からの意見を述べた。
 まずホスピスの立場からは恒藤暁氏(淀川キリスト教病院)が,ホスピスにおける臨床研究の条件として,「(1)患者・家族が傷つきやすく弱い立場であることへの配慮,(2)患者・家族に判断能力が十分にあること,(3)患者・家族・スタッフ間に信頼関係と合意があること」をあげ,ホスピスにおける症状緩和の臨床研究がどこまでできるかを述べた。続いて精神腫瘍学的立場から内富庸介氏(国立がんセンター研)が,「緩和医療における精神的諸問題の臨床研究のあり方」を検討。癌患者,家族,スタッフ間の精神的側面に関する研究には,インフォームドコンセントを前提に,QOL,心的外傷を考慮に入れる必要性を訴えた。また,癌化学療法の立場からは江口研二氏(国立病院四国がんセンター)が,「抗癌剤の有用性の評価には,質の高い臨床試験による科学的な評価方法が必要」として,無作為化比較試験の重要性を指摘,基礎と臨床の連携した臨床研究のあり方を論じた。

欧米のEBM教育への参加を示唆

 EBMの必要性を提唱する福井次矢氏(京大)は,「日本での基礎医学研究はレベルアップをしているものの,緩和医療だけでなく他の分野にも共通して,臨床研究の立ち遅れを指摘する声が,特に欧米にある」との懸念から,「臨床研究の質と量をシステマチックに勉強できる体制を整えないと,欧米諸外国のレベルには達せないのではないか」と指摘。臨床応用として文献検索による信頼性の吟味,疑問点解決のための科学的証拠によるものか否かの判断の重要性について解説するとともに,信頼性の高い研究デザイン(無作為化比較試験)などの実施をあげた。また,「医学生が臨床疫学やEBMを勉強して育つのを待つのではなく,自らが欧米で行なわれているEBMの教育プログラムに参加して学ぶべき」との示唆を行なった。
 生命倫理の立場から星野一正氏(京都女子大国際バイオエシックス研)は,「医学の進歩はヒトにおける実験結果に依存しなければならない」との“ヘルシンキ宣言”の条文を引用,「宣言は,人を対象とする研究には,インフォームドコンセントの遵守が重要と示唆している。緩和医療における臨床研究で,特に生命倫理面において最も重要となるのがインフォームドコンセントである」と指摘。また,「医師が患者を説得して同意を得るのではなく,患者が自発的に選択する機会を与えるべき」とする一方,「患者とともに考える姿勢が大切。患者のしてほしいこと,してほしくないことを明文化することも必要」と述べた。
 濱口恵子氏(東札幌病院)は看護の立場から,緩和医療における看護研究のあり方と展望について発言。「看護の世界では,“根拠に基づいて”ということが従来より言われていたが,評価方法,基準に統一されたものがなく,患者の評価も明確にはされてこなかった」と指摘。これからの看護職は,医療チームの一員として,研究デザインから参加し,患者・家族と研究との橋渡し役をその役割にあげるとともに,研究者でありケアの実践者であることを強調した。
 司会を務めた武田氏は,「生命倫理,患者の人権,インフォームドコンセント,EBMをキーワードに論議されたが,来年はこれらを基盤に演題が集まることを期待したい」と述べ,幕を閉じた。
 なお,次回の開催は,日本癌病態治療研究会(明年5月21日,高知市),癌局所療法研究会(明年6月11日,岐阜市),日本緩和医療学会(明年6月3-5日,広島市)それぞれ独自の開催となる。