BRAIN and NERVE Vol.74 No.6
2022年 06月号

ISSN 1881-6096
定価 2,970円 (本体2,700円+税)

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特集 脳神経内科医に求められる移行医療

 移行医療とは,小児期発症の疾患を有する患者が成人期に向かう際,それまでの小児期医療から個々の患者に必要な成人期医療への橋渡しを行う医療を指す。成人期特有の症状に対する適切な医療の提供とともに,患者自身が自らの疾患と向き合い,管理するヘルスリテラシーの獲得を目指すものである。
 スムースな移行のためには,病態への理解はもちろん,小児科と成人診療科のみならず多職種間での連携が求められ,持続可能な体制づくりも課題である。また,保護者・患者の不安を和らげる丁寧な説明が不可欠で,小児科と成人診療科を併診しながら移行することが有効な場合もある。
 本特集では,移行医療に取り組む医師たちの活動を紹介するとともに,小児疾患における移行の実践例や診療のポイントを解説した。移行医療への理解をいっそう深め,その実現に寄与していただくことを願っている。

オーバービュー 望月秀樹
 医療の進歩に伴い,重症小児神経疾患患者においても成人を迎えることが可能となり,小児期から成人期に移行する際の支援体制が必要となった。日本神経学会においてもこのような現状に対応できるように,2020年に小児-成人移行医療対策特別委員会を日本小児神経学会からもメンバーを募り設置した。脳神経内科医が考慮すべき小児-成人移行医療の課題と,日本神経学会小児-成人移行医療対策特別委員会の現在の活動状況を概説する。

移行医療の現状と課題──脳神経内科の立場から 望月葉子
 当院は障害児・者に対する総合医療療育施設で,脳神経内科医と小児科医とで移行医療に取り組んでいる。移行チェックリストと移行カンファレンスを利用し,多職種の協力も得て,患者に適切な診療と地域医療連携,福祉サービス利用を推進している。さらに,患者・家族のセルフマネジメントの向上,患者の最善の利益を考えた協働意思決定にも努めている。近年,移行医療支援体制の中で脳神経内科医の必要性が高まっている。

移行医療の現状と課題──小児神経科の立場から 藤井達哉
 小児期発症の神経・筋疾患患者を脳神経内科へ医療移行することは容易ではない。その原因は患者側の問題と移行システムの問題に分けられる。これらを解決するためには,①小児期から患者・患者家族に将来の移行についての理解を進めること,②移行支援部門を設置して受け入れ可能医療機関の情報収集とコーディネートをすること,そして何よりも③脳神経内科医と小児神経科医との密なる情報交換が重要である。

移行医療の外来診療 﨑山快夫
 われわれの施設は救命センターを有する地域の基幹病院であるが,近隣の小児医療センターの移転に伴い多くの移行症例が脳神経内科に紹介された。てんかんを有し,発作抑制が困難な症例や医療的ケアを要する重症心身障害児(者)に相当する症例が大半であった。移行にあたっては医療相談室を中心に多職種の連携を行った。移行後は痙攣発作や肺炎などの感染症での救急搬送が多かった。移行教育,人生会議,地域連携が課題であった。

千葉県移行期医療支援センターにおける取り組み 桑原 聡
 小児期発症の慢性疾患の予後向上を受けて,厚生労働省は各都道府県における中核拠点となるべき移行期医療支援センターの設置を求めており,2019年以降7都府県において同センターが設置された。本論では医療体制・ネットワーク構築と自立(自律)支援の観点から千葉県移行期医療支援センターの現状,取り組み,将来像について概説する。移行医療の対象となる患者は多くの小児発症慢性疾患で増加し続けており,個人レベルでの対応は難しいため,各地域の移行期医療支援センターを核として多職種連携による医療連携・ネットワーク構築,行政への働きかけが求められている。

移行医療の支援体制 掛江直子
 小児期発症の慢性疾患を有する児童の多くが,近年の医学の進歩,医療技術の発展により,慢性疾患を抱えつつ成人できるようになった。そのため,小児期発症慢性疾患を有する成人患者に対する適切かつ継続的な医療の提供や成人移行支援が新たな課題となっている。厚生労働省では,小児慢性特定疾病対策および難病対策において移行医療施策を打ち出し,これらの制度の連携により,移行支援体制の構築を進めている。

脳性麻痺 荒井 洋
 移行期にさしかかる年代における脳性麻痺の有病率は0.2%程度と考えられ,比較的多い中枢神経疾患である。運動障害以外にもさまざまな障害を合わせ持つため,その病態を理解したうえで包括的な医療を提供する必要がある。周産期医療の飛躍的な進歩に伴って病態は年々変化しており,今後は2000年以降に出現した超早産児型脳病変への理解が求められる。生活習慣病や精神疾患のリスクにも注意した内科的管理が必要である。

小児期発症てんかん患者の移行医療 阿部裕一
 脳神経内科医が成人移行で紹介の小児期発症てんかん患者の診療を行う場合,発症年齢別のてんかん症候群分類や病因を理解することが重要である。成人移行の段階で発作がコントロールされていない場合には,抗てんかん薬の見直し,整理,および治療目標を再確認することが重要である。また基礎疾患および併存症の診療が難しい場合には,総合内科医や在宅往診医との協力体制のもとでてんかんの診療を行うことも必要である。

子どもの権利擁護に根差した移行医療──発達障害を中心に 田中恭子
 移行医療実践において,重要で忘れてはならないことは,“移行医療は医療機関の都合のために存在するのではなく,大人になりゆく患者の最善の医療のために存在している”,ということである。そしてそのためには,子どもの自立に向けた家族の関係性や役割機能を変化させていくことも必要となる。どの領域においても,よりよい移行医療を実現していくために必要となる概念を,本論で触れてみたい。

運動異常症を主体とした神経難病 佐々木征行
 小児期発症の運動異常症を主体とする神経難病の一部を概説した。患者ニーズに合わせて多職種連携で移行医療を提供することが勧められる。移行を考慮する患者に対しては担当小児科医が主体となり,医療的な選択肢のメリット・デメリットについてアドバイスを行いながら,患者自身と家族・保護者の自己決定権を尊重して納得のいく選択ができるようにすべきである。移行困難の要因となる問題点などについて簡単に触れた。

筋ジストロフィー 松村 剛,齊藤利雄
 本邦の筋ジストロフィー医療は,専門医療機関による集学的医療で発展し,生命予後の著しい延長をもたらした。患者の生活の場は施設から地域へ移行し,受診機関も多様化した。筋ジストロフィー患者は神経発達症候群など中枢神経障害を抱えることも多く,移行医療の時期は身体的・精神的に不安定なことが多いため,早期からリハビリテーションなどで専門機関の受診機会を持つ,一定の併診期間を設定するなどの工夫が望ましい。

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特集 脳神経内科医に求められる移行医療

オーバービュー
望月秀樹

移行医療の現状と課題──脳神経内科の立場から
望月葉子

移行医療の現状と課題──小児神経科の立場から
藤井達哉

移行医療の外来診療
﨑山快夫

千葉県移行期医療支援センターにおける取り組み
桑原 聡

移行医療の支援体制
掛江直子

脳性麻痺
荒井 洋

小児期発症てんかん患者の移行医療
阿部裕一

子どもの権利擁護に根差した移行医療──発達障害を中心に
田中恭子

運動異常症を主体とした神経難病
佐々木征行

筋ジストロフィー
松村 剛,齊藤利雄


■総説
WHO脳腫瘍分類2021第5版──主な変更点
小森隆司

■症例報告
高血圧による一過性の神経血管圧迫症候群をきたした遺残性三叉動脈と遺残性舌下動脈の併存例
朝山康祐,他

■神経画像アトラス
特徴的なMRI所見で診断した無症候性multinodular and vacuolating neuronal tumor(MVNT)の1例
本郷 卓,他


●脳神経内科領域における医学教育の展望──Post/withコロナ時代を見据えて
第10回 DX時代の病院と臨床教育の実践
黄 世捷,伊佐早健司

●臨床神経学プロムナード──60余年を顧みて
第16回 Cluster headacheは群発頭痛と訳されるが,「head」は頸より上全体を指す「首」である──病名呼称の難しさ
平山惠造

●LETTERS
脳をみる「窓」としての網膜の可能性
森 望

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