臨床整形外科 Vol.57 No.10
2022年 10月号

ISSN 0557-0433
定価 2,860円 (本体2,600円+税)

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特集 整形外科領域における人工知能の応用

整形外科領域に対する人工知能の応用の現状と今後の展望 中原龍一
医療AI研究はAIプログラムの無料化によって大きく進歩している.本稿では,画像を分類する画像分類,疾患を検出する物体検出,特定領域を選択するセグメンテーションの基本AI技術のほかに,大量の数値を解析する機械学習,距離を計測する深度画像などの手法がどのように整形外科領域のAI研究に用いられているかを解説し,本誌で紹介されているAI研究で著名な先生方による論文理解のガイドとなることを目指す.また言語系AIから生まれた新しい画像AIの現状についても概説する.

深層学習を用いたMRIでの脊髄腫瘍自動位置検出システムの構築 伊藤定之,他
深層物体検出手法のYou Only Look Once version3(Yolov3)を用いて脊椎MRIから神経鞘種の自動位置検出を可能とするシステムを構築した.T1強調画像を用いた検討では122枚中94枚(77.0%),T2強調画像では122枚中111枚(91.0%)で神経鞘腫の位置を同定可能で,T1,2を統合したシステムでは122枚中114枚(93.4%)であった.2人の脊椎外科医はそれぞれ122枚中110枚(90.2%),122枚中109枚(89.3%)で神経鞘腫の位置を同定可能であった.今回構築したシステムは脊椎外科医と同等の精度であり,スクリーニング検査として期待が持てる精度であると考えられる.

深層学習を用いた単純X線画像のみからの前腕遠位部3次元骨形状推定 塩出亮哉
Computed tomography(CT)から生成する3次元骨モデルは臨床的有用性が高い一方で,骨モデルの作成にかかる多大なコストと労力,時間,さらには医療被曝が課題である.それらの課題を解決するために,単純X線画像から直接高精度な3次元骨モデルを推定構築するための深層学習ネットワークを開発した.健常成人の手関節のCT画像と単純X線画像のデータセットを用いるうえで,CTから生成する疑似X線画像を学習に用いることで,医用画像における問題点を解決した.

人工知能を活用した骨粗鬆症性椎体骨折の画像診断補助システム
—MR画像における新鮮椎体骨折の識別 藪 晋人,他 

畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を用いてMR画像(T1強調画像,矢状断)による新鮮骨粗鬆症性椎体骨折(OVF)の診断を行い,その精度を2人の脊椎外科医と比較した.新鮮OVFの診断においてCNNのROC曲線下面積は0.949であった.感度,特異性および精度は(CNN/脊椎外科医1/脊椎外科医2)感度:0.881/0.881/1.000,特異度:0.879/0.862/0.655,精度:0.880/0.870/0.800であった.MR画像を用いた新鮮OVF診断において,CNN分類器の診断能は良好であり,また脊椎外科医と同等であった.

母指運動に着目した手根管症候群スクリーニングアプリの開発 藤田浩二,他
手根管症候群(CTS)では,重症化に伴い母指球筋が萎縮し母指対立運動障害が出現する.重症化前に手術介入することで良好な治療効果が得られるが,症状の自覚が遅れ受診時には重症化していることも多い.CTSの早期発見を目的に,疾患スクリーニング用のスマートフォンゲームアプリを開発しその精度を検証した.ゲーム中の母指運動を解析し機械学習を用いることで,感度,特異度90%以上でCTSを発見することができる診断モデルを作成するに至った.今後,整形外科専門医のいない環境での疾患スクリーニングを目指す.

3Dデプスセンサと人工知能による側弯症検出システム 小甲晃史,他
脊柱側弯症は学童期の発症頻度が高い疾患の1つであり,進行例では装具治療や手術治療を要する.そのため学校検診における早期発見が重要である.しかし,今まで客観的な評価方法がなく,発見率の低さや学校医の負担が問題視されていた.われわれは,デプスセンサで背表面の3次元画像を撮影し,背面の左右非対称性から側弯角を予測する診断支援システムを開発した.本報では,本システムに人工知能を組み込むことで,X線撮影で得られた側弯角と予測側弯角の相関係数と予測誤差を改善させることができた.本システムは側弯症検診において,客観的かつ高精度な機器として活用されることが期待される.

深層学習による頚椎単純X線像に基づく頚椎後縦靱帯骨化症の鑑別診断 三浦正敬,他
頚椎単純X線側面像を用いて,頚椎症,頚椎後縦靱帯骨化症,正常例を鑑別するための畳み込みニューラルネットワーク(CNN)の診断能力を,脊椎外科医の診断能力と比較した.CNNの性能は,脊椎外科医と同等かそれ以上であった.

機械学習による頚椎後縦靱帯骨化症患者の手術成績の予測モデルの構築 牧 聡,他
本研究では頚椎後縦靱帯骨化症(OPLL)の手術症例データベースに基づき術後1年と術後2年時点でminimal clinically important difference(MCID)を達成できるかを予測する機械学習モデルを作成した.患者背景,臨床症状,画像所見のデータを特徴量として解析を行った.機械学習を用いてOPLLの手術の予後予測モデルの構築に成功し,脊椎手術の予測モデルへの機械学習の適応の可能性を示すことができた.

股関節単純X線画像を用いた骨粗鬆症診断 山本乃利男
近年,人工知能の研究が発展し,各画像から骨粗鬆症の有無を推測する研究が増えている.今回私たちは,股関節正面単純X線画像から深層学習を用いて骨粗鬆症の有無を推測できるかを検討した.結果は股関節正面単純X線画像から骨粗鬆症の有無を推測することがある程度の識別能で可能であった.また,股関節正面単純X線画像に患者因子を追加することで診断予測が向上した.特に感度が良好であったので,骨粗鬆症の有無についてのscreening toolとして有用であると考える.人工知能を用いた骨粗鬆症診断関連研究は今後も発展することが予想されるため,知見を継続的にupdateすることが必要であると考える.

人工知能を用いた腰椎単純X線からの椎体骨折の診断 村田寿馬,他
椎体骨折の画像診断において単純X線側面像の読影は不可欠であるが,非専門医による読影は非常に精度が悪いことが知られる.臨床では必ずしも専門医による診察を受けられるわけではなく,需給のミスマッチが生じる.人工知能を用いた画像診断はこうしたミスマッチを是正する可能性のある新規医療技術であるが,診断精度は不明である.椎体骨折患者の単純X線を用いて,人工知能に骨折椎および非骨折椎の画像分類を学習させた.診断精度,感度・特異度,偽陽性率・偽陰性率はそれぞれ86.0%(95%CI:82.0〜90.0%),84.7%(95%CI:78.8〜90.5%),および87.3%(95%CI:81.9〜92.7%),であり,椎体骨折の画像診断でも有効性が示唆される.

 AI(人工知能)を用いた,大腿骨近位部骨折に対する術中使用インプラントサイズ予測モデルの
多施設共同開発 佐藤洋一,他

術前計画は重要である一方,煩雑な手順や時間的制約を理由に十分に行えないことがある.われわれは,AI(人工知能)による解析・予測技術を用いて,患者情報(年齢・性別・身長)から大腿骨近位部骨折に対する術中使用インプラントサイズを予測する機械学習モデルを開発した.機械学習モデルは,約96.3〜98.5%の精度でインプラントサイズ(前後2サイズ以内)を予測した.また,インプラントサイズごとの使用確率をヒストグラムにより描出可能とした.簡便な手順でインプラントサイズを想定し得ることで,医師や関係者の業務負担を減らし,安全な手術遂行に寄与できる可能性がある.

股関節外科領域の人工知能の活用 髙尾正樹,他
人工知能の医療への応用は,整形外科においては画像診断を中心に2019年以降報告が増え,股関節外科領域においても近年報告が増えている.単純X線画像自動診断,予後予測,3次元画像解析などに応用されている.われわれは,CTデータから筋骨格モデルを抽出するAIを開発し,骨格では表面距離誤差0.1mm,筋肉では表面距離誤差0.9mmの精度を達成した.術後CT画像評価のための金属アーチファクト低減,CT/MRI画像変換,単純X線骨盤正面像からの3次元筋骨格構造の再現や骨粗鬆症診断,サルコペニア診断などにも取り組んでいる.

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特集 整形外科領域における人工知能の応用

緒言
大鳥精司

■総論
整形外科領域に対する人工知能の応用の現状と今後の展望
中原龍一

■各論
深層学習を用いたMRIでの脊髄腫瘍自動位置検出システムの構築
伊藤定之・他

深層学習を用いた単純X線画像のみからの前腕遠位部3次元骨形状推定
塩出亮哉

人工知能を活用した骨粗鬆症性椎体骨折の画像診断補助システム──MR画像における新鮮椎体骨折の識別
藪 晋人・他

母指運動に着目した手根管症候群スクリーニングアプリの開発
藤田浩二・他

3Dデプスセンサと人工知能による側弯症検出システム
小甲晃史・他

深層学習による頚椎単純X線像に基づく頚椎後縦靱帯骨化症の鑑別診断
三浦正敬・他

機械学習による頚椎後縦靱帯骨化症患者の手術成績の予測モデルの構築
牧 聡・他

股関節単純X線画像を用いた骨粗鬆症診断
山本乃利男

人工知能を用いた腰椎単純X線からの椎体骨折の診断
村田寿馬・他

AI(人工知能)を用いた,大腿骨近位部骨折に対する術中使用インプラントサイズ予測モデルの多施設共同開発
佐藤洋一・他

股関節外科領域の人工知能の活用
髙尾正樹・他


●Lecture
Teepee View
佐藤直人・他

●臨床経験
全身麻酔に上肢伝達麻酔を併用した小児上肢骨折の治療経験
佐久間昭利・他

●症例報告
術中脊髄モニタリングの使用により腰椎Pedicle Subtraction Osteotomy併用矯正固定術後の重篤な神経麻痺を回避できた1例
冨田貴裕・他

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