認知症はこう診る
初回面接・診断からBPSDの対応まで

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「認知症は日常的に診るけれど、イマイチ診方がわからない。薬を出すだけでいいの?」そんなかかりつけ医のお悩みに効く本が登場! 当事者の「心」を理解して、治療やBPSDへの対応をうまく進めるコツを、豊富な事例をもとに具体的に提示。「病名は告知する?」「抗認知症薬って効くの?」といった疑問にも考え方の道筋を示した、従来型認知症診療に新たな視点をもたらす1冊。
*「ジェネラリストBOOKS」は株式会社医学書院の登録商標です。
シリーズ ジェネラリストBOOKS
編集 上田 諭
発行 2017年10月判型:A5頁:264
ISBN 978-4-260-03221-6
定価 4,180円 (本体3,800円+税)

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編集のことば

 超高齢社会のなかで,認知症は誰もがよく知る病気となり,患者数はますます増えようとしています.それに呼応し,医療の側では,精神科や神経内科だけにとどまらず,かかりつけ医を含めたほとんどすべての診療科で,認知症を診る対応に迫られています.認知症を専門に診ようとする精神科,神経内科,脳外科などの医師はもとより,総合診療医やそれを目指す医師,一般内科の開業医・勤務医,さらに後期研修医たちも,認知症に対する基本的な正しい知識と適切な対応法を知っておかなければなりません.

 ところが,いまだ現状は好ましいとはいえません.画像所見やスクリーニング検査の偏重,認知機能低下をもたらす身体疾患の見逃しといった診断上の問題,さらには,正しい診断が行われても,その後の治療が抗認知症薬の投与のみに終始し,患者と介護家族の悩みに対応できていない状況が目につきます.認知症が根治療法のない「治らない病気」であり,薬物療法の効果には限界があるという現実から,この疾患をどのように考え,患者側に何をどのように提供すればよいのか――患者の急増に対応が追いつかず,真摯な医師ほど迷いを抱いたとしても無理はないのかもしれません.

 このような現状に対して,認知症を診るあらゆる医師,とくにプライマリ・ケアを担う医師に向けて,認知症診療の明確な指針を示すべく作られたのが本書です.
 本書は,認知症という疾患を,超高齢社会で誰にも生じうるものと肯定的に考えます.悲観的にとらえる傾向の強いメディアや社会の目にさらされて,自信をなくしかかっている認知症の人の,心情と生活に注目することを,診療の基本的姿勢としました.本人への注目が,家族や介護者の支援の基礎にもなると考えます.
 アルツハイマー病を主な対象として,診断から投薬,生活指導まで,診療の流れを示すとともに,受診が続かない人への介入の仕方,生活面に現れる種々の障害や認知症の行動・心理症状(BPSD)など,課題への対応の仕方を具体的に述べました.昨今話題になることの多い「車の運転」や「患者本人の意思決定」についても,あるべき方向性を示しました.「本人への病名告知をどうしたらよいか?」,「抗認知症薬はいったい効くのか?」という議論が分かれるテーマでは,賛成・反対の論者に語ってもらう「Pros and Cons」の形式で展開しました.読者が混乱されないよう,最後には編者が議論をまとめて一定の指針を示しています.血管性認知症,レビー小体型認知症,前頭側頭型認知症についても,アルツハイマー病との違いを中心に病態と対応を紹介しました.

 本書が,医師の方々にとって,認知症診療の強力な道しるべと大きな助けになることを,心より願います.

 2017年8月
 編者 上田 諭

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編集のことば
編者紹介

イントロダクション 認知症診療 こう進めたい

第1章 診療のためにまず知るべきこと
  認知症(アルツハイマー病)の「脳」と「心」の基礎知識
  診断の流れ:問診から他疾患との鑑別まで
  「治る認知症」とその除外のための検査
  かかりつけ医としての認知症への対応の基本
 Pros and Cons その1 本人への病名告知はどうする?
  「本人に伝える」立場から
  「本人には伝えない,家族には伝える」立場から
  編者からひとこと

第2章 認知症診療,こんなときどうする?
 課題をかかえた患者さんは,医療・介護にこうつなぐ
  こんなときどうする? (1)独居の人への介入
  こんなときどうする? (2)受診を拒否する人への対応
  こんなときどうする? (3)受診後,音沙汰のない人への介入
  こんなときどうする? (4)当事者の家族に課題がある場合の対応
 生活障害への対処-薬以外でこれだけできる
  家庭の外でできること
  家庭内でできること
 もう悩まない,BPSDへの対処法
  認知症の人の思いを知る
  BPSDへの抗精神病薬の使い方
  こんなときどうする? (1)帰宅願望
  こんなときどうする? (2)徘徊
  こんなときどうする? (3)物盗られ妄想
  こんなときどうする? (4)家族の顔がわからない(家族誤認)
  こんなときどうする? (5)同じことを何度も言う/尋ねる
  こんなときどうする? (6)誤りを認めず,取り繕う
 「車の運転を続けたい」と言われたら?
 患者の意思決定支援が必要になったときは?
 Pros and Cons その2 抗認知症薬は効く? 効かない?
  「効く」立場から
  「効かない」立場から
  編者からひとこと

第3章 知っておきたい,MCIとさまざまな認知症
 MCIの基礎知識,これだけは
 その他の認知症の病態と対応-アルツハイマー病との違いを中心に
  血管性認知症
  レビー小体型認知症
  前頭側頭型認知症

索引

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事例に学ぶ,「患者の主観」を踏まえた認知症診療
書評者: 繁田 雅弘 (慈恵医大教授・精神医学/附属病院メモリークリニック)
 認知症疾患の診療実践を解説した本である。臨床現場で中心的な役割を果たしている人たちが執筆していることがメンバーを見るとよくわかる。この種の本を読んで自分と同じ診療のスタイルだとわかると自信につながるが,それより大切なことは自分のスタイルと異なる診療をしている人の意図を理解することによって自らの診療の幅を広げることだろう。

 事例を通して印象に残る教えがいくつもあった。例えば松本一生氏による,認知症の母を介護する娘が介護スタッフや医師と激しく衝突する事例は実地で経験するものの,この種の本で取り上げられることはあまりなかったのではないか。無理難題には応じず一定の心理的距離をとって対応していくという助言は長年の経験に基づくものであろう。北田志郎氏による「この家を離れたくない」と答えた独居の事例から,自宅に住むことしか考えられないことと,自宅での生活と施設での生活を比較して自宅に住むことを選択することは,まったく違うことだと教えられた。また大石智氏による受診が途絶えた事例への対応を読んで,自分の診療を大いに反省した。地域のスタッフと同じ立ち位置での粘り強い対応に学ぶことができた。高橋幸男氏は帰宅願望や徘徊の事例を示し,それらが癒しを求める行動であると解釈する優しい眼差しにも学ぶところ大であるが,それだけでなく,周囲とのつながりを取り戻せる場所と対応が必要との助言は明日からの実践に応用できるものである。松田実氏は,物盗られ妄想の背景には精神的孤立や不安感,不如意感,自己満足感の欠乏が,また同じことを何度も言ったり尋ねたりする行動の背景には寂しさや孤立感が存在すると解釈し,高橋氏と同様に周囲とつながりが感じられるような対応や心を満たすような対応が重要であると教えてくれた。

 私は精神科医であるにも関わらず,認知症疾患といえば記憶障害や遂行機能障害,失語,失行,失認といった症状ばかりを従来記載していた。しかし治療するためには,すなわち患者を救うためにはさまざまな主観的症状を記載し,解釈し,それを踏まえて支援しなければならないと近年とみに感じている。その想いを事例を通じて示してくださった執筆者に敬意を表したい。本書は自分の臨床を振り返り,あらためて考え直すよい機会になる。
認知症医療にかかわる多くの人に読んでほしい一冊
書評者: 宮岡 等 (北里大教授・精神科学)
 認知症患者数が急増する中,総合診療医,家庭医といった非専門医が,認知症専門医と良好な連携をとって,認知症患者を診ることが求められている。しかし自治体から認知症疾患医療センターを委託されている病院の精神科医である評者は,「物忘れを訴えたら,脳画像検査を実施され,認知機能の十分な評価なしに,抗認知症薬を処方された」「高齢者施設で少し興奮したら,話も聞かれることなく,BPSDと診断され,抗精神病薬を出された」「認知症の治療中に,ゆううつ感と不眠を訴えたら,すぐ抗うつ薬と睡眠薬を処方された。薬の種類は増え,かえってぼーっとしている」「あの医師は認知症を専門に診ていると言うが,生活面のアドバイスを何もしてくれないし,地域にどんな社会資源があるかも知らないようだ」などの不満を,患者,患者家族,認知症ケアに当たる医師以外のスタッフから聞くことが多い。問題は認知症の過剰診断,抗認知症薬の過剰処方,薬物療法以前の基本的な対応不足などに集約されるであろう。各自治体ではかかりつけ医を対象とした認知症対応力向上研修が開催され,認知症に関する書籍も数多くあるが,認知症の診断と治療における課題はなかなか改善されない。

 本書は「イントロダクション-認知症診療 こう進めたい」と,「診療のためにまず知るべきこと」「認知症診療,こんなときどうする?」「知っておきたい,MCIとさまざまな認知症」の3章からなり,さらにPros and Consとして議論が分かれている2つの問題(「本人への病名告知はどうする?」と「抗認知症薬は効く? 効かない?」)をとりあげている。

 評者が本書を認知症医療にかかわる多くのスタッフに読んで欲しいと思うのは,特に以下の2点からである。
 第一に,よくBPSDと呼ばれる症状を含む行動の変化や生活の困難さへの非薬物的対応に多くのページが割かれている。しばしば参照される厚労省研究班による図(本書,p.136)は,確かに「非薬物的介入を優先する」としているが,薬物に関する記載が多いため,かえって現場の適切な対応の妨げになっているのではないかと気にしていた。非薬物的介入について,本書が教えるさまざまな事例と対応はまさにすぐ活用すべき知識である。ただ評者もかつて述べたことがある〔「BPSDという用語は使わない方がいい!」(「日経メディカル Online」,連載:宮岡等の「精神科医のひとりごと」2015年6月16日,日経BP社)〕が ,薬物療法を第一と考えず,これほど症例ごとの対応が求められる時,BPSDという診断名とも症状名ともつかない用語は不要に思える。
 第二に,Pros and Consで,それぞれの問題について賛否の立場から2名が執筆し,編者がその議論をまとめている。一定の指針を決めるよりも読者が自ら考えて対応すべきと強調しているように思え,臨床家の姿勢として重要である。ただ抗認知症薬を勧める立場から「著効例では意欲が向上しADLが改善」のような記載があるのは気になった。添付文書に記載されている効能・効果は「認知症症状の進行抑制」である。意欲低下やADL低下の改善が目的であれば,それは適応外使用といえるかもしれない。

 編者である上田諭氏の認知症観,医療観は「イントロダクション」に凝縮されており,教えられることが多い。認知症医療が混乱しているこの時期に本書を編集してくださったことに感謝したい。また本書は総合診療医や家庭医に有用であるのは言うまでもないが,実は精神科医こそ本書を読み,患者の心と暮らしをみようとする初心を取り戻さねばならない。
認知症診療のエッセンスがスラスラと頭に入ってくる
書評者: 大蔵 暢 (やまと在宅診療所大崎・院長)
 先月,ある高齢男性が自身の講演会で,自ら認知症であることを明らかにした。その男性とは,認知症医療の第一人者,長谷川和夫先生(88歳)である。「長谷川式(認知症スケール)」(HDS-R)の開発者といったほうがピンとくるかもしれない。それぐらい長谷川式は日本の認知症診療に根付いている。半世紀ものあいだ診療と研究に心血を注いでこられた権威でも認知症にかかるのであるから,やはりその予防は難しいのであろう。先生はご自身で診断し認知症治療薬も服用されているという。これからもありのままを受け入れながら生きていくとおっしゃる一方で,“認知症になっても安心して楽しく生活できる社会づくり”と“その人中心のケア”の重要性を訴えられておられた。

 認知症ほどその人の生活や,とりまく社会に影響を与える病いはない。他の疾患と同様に,予防や診断,治療といった医学モデルが重要なのはいうまでもないが,それ以上にケアや地域・社会づくりといった生活モデルに注目する必要がある。そのような包括的な視点から書かれた認知症の教科書がようやく出版された。編者の上田諭先生はイントロダクションでこう強調する。「本当に目指すべき治療目標は,認知機能の変化いかんにかかわらず,認知症の人が生き生きと生活できること,日々の役割や生きがいをもって暮らしていけること」だと(p.3)。
 本書を読むと,まるで教室で講義を受けているかのように,認知症診療のエッセンスがスラスラと頭に入ってくる。事例が多いのと平易な言い回しのためだろう。医学モデルと生活モデルの絶妙なミックスとそのタイミングが秀逸だ。認知症診断の解説の後には,「本人への病名告知はどうする?」のように臨床医が常に迷う問題が議論されているし,行動・心理症状(BPSD)の章でも薬物的・非薬物的介入がバランスよく扱われている。受診の拒否や徘徊への対応など,他ではあまり議論されない話題にも向き合っている。

 宮城県の農村部に住むコウキチさん(88歳,男性)は中等度の認知症があり,私の訪問診療を受けていた。小一時間ほどの野山の散策が毎日の日課だった。ある日の夕方に長女さんから診療所へ電話があった。コウキチさんが帰ってこない。懸命な捜索が続けられたが,3日後に数Km離れた池の中で無残な姿で見つかった。「認知症になっても安心して楽しく生活できる社会づくり」は急務であり,本書がその道しるべとなると確信している。

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