看護コミュニケーション
基礎から学ぶスキルとトレーニング
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看護の専門家として対人関係を築くために必要なコミュニケーションのスキルを、基礎から段階的に学べるテキスト。ロールプレイや模擬患者とのセッションのシナリオを用いることで、臨床で想定されるやりとりをイメージしながら、会話をトレーニングすることが可能である。さらに、臨床で遭遇することが考えられる状況での対応方法を「高度なコミュニケーション」として解説。臨地実習の場でも役立つ1冊となっている。
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- 序文
- 目次
- 書評
序文
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はじめに
2010年の厚生労働省「看護基礎教育の充実に関する検討会報告書」においてコミュニケーション能力の強化が求められて,数年が経過しています。コミュニケーション技術は,看護教育において学習者が修得しなければならない重要な技術であることは誰もが承知していることです。しかし看護基礎教育においては,コミュニケーション技術の何を学び,何を教えればよいかについては,コンセンサスが得られているとは言い難い現状があります。
看護師に求められるコミュニケーションは,看護の対象となる人や家族をケアするためには必須であり,また同時にヘルスケアチームの一員として,看護師間や他職種との連携においても必要不可欠です。知識だけではなく実践できる技術として修得することが望まれます。
そこで本書では,看護師に必要なコミュニケーションの知識と実践能力を修得するため,以下の3部で構成いたしました。
第1部「コミュニケーション論」では,看護を学ぶ初学者を対象に,コミュニケーションの基本的技術を解説しました。
第2部「看護におけるコミュニケーション」では,「看護の専門家として対人関係を築くために必要なコミュニケーション技法」として,看護の場面で必要となる関係構築の技法Interpersonal communication skillを,例を挙げながら解説しました。その後,「看護の対象を生物心理社会モデルでとらえることができる看護面接技法」として,13のSTEPからなる看護面接のプロセスに沿って説明しています。ここでは,演習に使用できるシナリオ,振り返りについても盛り込みました。
第3部「高度なコミュニケーション」では,実際の看護の現場で遭遇することが予測されるコミュニケーション困難な状況での対応方法を解説するほか,多職種連携時のコミュニケーションの実際についても取り上げ,実習など臨床の場面をイメージできるようにしました。
また,本書では筆者なりに以下の点に配慮しました。
・科学的根拠に基づいて説明する
・一貫性がある
・理解しやすい
・学修(教育)が可能となるように,学修目標や確認テストを示す
・トレーニング方法やトレーニング用のシナリオを提示する
・具体的に例示して説明する
・さらに学修を発展することができるように参考論文や書籍を提示する
本書が看護学生や新人看護師にとって,コミュニケーションを基礎から学ぶためのガイドとして役立つことを願っています。
最後に,本書をまとめるにあたり,企画から完成までご尽力いただいた医学書院の近江友香氏,北原拓也氏に心より感謝いたします。
2015年1月
著者 篠崎惠美子・藤井徹也
2010年の厚生労働省「看護基礎教育の充実に関する検討会報告書」においてコミュニケーション能力の強化が求められて,数年が経過しています。コミュニケーション技術は,看護教育において学習者が修得しなければならない重要な技術であることは誰もが承知していることです。しかし看護基礎教育においては,コミュニケーション技術の何を学び,何を教えればよいかについては,コンセンサスが得られているとは言い難い現状があります。
看護師に求められるコミュニケーションは,看護の対象となる人や家族をケアするためには必須であり,また同時にヘルスケアチームの一員として,看護師間や他職種との連携においても必要不可欠です。知識だけではなく実践できる技術として修得することが望まれます。
そこで本書では,看護師に必要なコミュニケーションの知識と実践能力を修得するため,以下の3部で構成いたしました。
第1部「コミュニケーション論」では,看護を学ぶ初学者を対象に,コミュニケーションの基本的技術を解説しました。
第2部「看護におけるコミュニケーション」では,「看護の専門家として対人関係を築くために必要なコミュニケーション技法」として,看護の場面で必要となる関係構築の技法Interpersonal communication skillを,例を挙げながら解説しました。その後,「看護の対象を生物心理社会モデルでとらえることができる看護面接技法」として,13のSTEPからなる看護面接のプロセスに沿って説明しています。ここでは,演習に使用できるシナリオ,振り返りについても盛り込みました。
第3部「高度なコミュニケーション」では,実際の看護の現場で遭遇することが予測されるコミュニケーション困難な状況での対応方法を解説するほか,多職種連携時のコミュニケーションの実際についても取り上げ,実習など臨床の場面をイメージできるようにしました。
また,本書では筆者なりに以下の点に配慮しました。
・科学的根拠に基づいて説明する
・一貫性がある
・理解しやすい
・学修(教育)が可能となるように,学修目標や確認テストを示す
・トレーニング方法やトレーニング用のシナリオを提示する
・具体的に例示して説明する
・さらに学修を発展することができるように参考論文や書籍を提示する
本書が看護学生や新人看護師にとって,コミュニケーションを基礎から学ぶためのガイドとして役立つことを願っています。
最後に,本書をまとめるにあたり,企画から完成までご尽力いただいた医学書院の近江友香氏,北原拓也氏に心より感謝いたします。
2015年1月
著者 篠崎惠美子・藤井徹也
目次
開く
はじめに
序章 なぜ看護師はコミュニケーションを学ぶのか
1 医療者のコミュニケーションが注目される背景
2 医療者のコミュニケーション
3 看護におけるコミュニケーションが必要な場面
確認テスト
第1部 コミュニケーション論
第1章 コミュニケーションとは何か
1 コミュニケーションとは
2 コミュニケーションの構成要素と成立過程
3 コミュニケーションの特徴
確認テスト
第2章 コミュニケーションの種類
1 言語的コミュニケーション
2 非言語的コミュニケーション
3 言語的コミュニケーションと非言語的コミュニケーション
確認テスト
第3章 コミュニケーションに影響するもの
1 コミュニケーションにおける4つの交流
2 コミュニケーションに影響する要因
3 良好なコミュニケーションに必要なこと
確認テスト
第2部 看護におけるコミュニケーション
第4章 医療(看護)におけるコミュニケーション
1 看護におけるコミュニケーションとは
2 患者中心の看護面接
確認テスト
第5章 良好なコミュニケーションに必要な技法-質問技法-
1 コミュニケーションの場面を設定する(環境を整える)
2 聴くための技法:質問技法
確認テスト
第6章 積極的傾聴と共感
1 積極的傾聴とは
2 共感とは
3 積極的な傾聴と共感
4 看護学生にとっての共感とは
確認テスト
第7章 良好なコミュニケーションに必要な技法-関係構築の技法-
1 なぜ関係構築の技法が必要なのか
2 感情探索の技法
3 感情操作の技法
4 良好なコミュニケーションには促進の技法を統合して活用する
確認テスト
第8章 看護面接のプロセスの13 STEP
1 患者中心の面接
2 医療者中心の面接への移行
3 統合された看護面接
確認テスト
第9章 看護面接のトレーニング
1 コミュニケーションスキルトレーニングの方法
2 コミュニケーション評価の視点
3 模擬患者とのトレーニング
確認テスト
ロールプレイ用シナリオ
第3部 高度なコミュニケーション
第10章 高度なコミュニケーション-臨地実習で遭遇する事例をもとに-
1 臨地実習で看護学生が遭遇するコミュニケーション困難な状況
2 臨地実習で看護学生が遭遇するコミュニケーション強化が必要な状況
確認テスト
第11章 多職種連携とコミュニケーション
1 医療における多職種間でのコミュニケーション
2 看護師間でのコミュニケーション
3 医師とのコミュニケーション
4 アサーティブなかかわり
確認テスト
第12章 患者家族とのコミュニケーション
1 患者と家族の関係
2 患者の家族とのコミュニケーション
確認テスト
確認テスト 解答
索引
序章 なぜ看護師はコミュニケーションを学ぶのか
1 医療者のコミュニケーションが注目される背景
2 医療者のコミュニケーション
3 看護におけるコミュニケーションが必要な場面
確認テスト
第1部 コミュニケーション論
第1章 コミュニケーションとは何か
1 コミュニケーションとは
2 コミュニケーションの構成要素と成立過程
3 コミュニケーションの特徴
確認テスト
第2章 コミュニケーションの種類
1 言語的コミュニケーション
2 非言語的コミュニケーション
3 言語的コミュニケーションと非言語的コミュニケーション
確認テスト
第3章 コミュニケーションに影響するもの
1 コミュニケーションにおける4つの交流
2 コミュニケーションに影響する要因
3 良好なコミュニケーションに必要なこと
確認テスト
第2部 看護におけるコミュニケーション
第4章 医療(看護)におけるコミュニケーション
1 看護におけるコミュニケーションとは
2 患者中心の看護面接
確認テスト
第5章 良好なコミュニケーションに必要な技法-質問技法-
1 コミュニケーションの場面を設定する(環境を整える)
2 聴くための技法:質問技法
確認テスト
第6章 積極的傾聴と共感
1 積極的傾聴とは
2 共感とは
3 積極的な傾聴と共感
4 看護学生にとっての共感とは
確認テスト
第7章 良好なコミュニケーションに必要な技法-関係構築の技法-
1 なぜ関係構築の技法が必要なのか
2 感情探索の技法
3 感情操作の技法
4 良好なコミュニケーションには促進の技法を統合して活用する
確認テスト
第8章 看護面接のプロセスの13 STEP
1 患者中心の面接
2 医療者中心の面接への移行
3 統合された看護面接
確認テスト
第9章 看護面接のトレーニング
1 コミュニケーションスキルトレーニングの方法
2 コミュニケーション評価の視点
3 模擬患者とのトレーニング
確認テスト
ロールプレイ用シナリオ
第3部 高度なコミュニケーション
第10章 高度なコミュニケーション-臨地実習で遭遇する事例をもとに-
1 臨地実習で看護学生が遭遇するコミュニケーション困難な状況
2 臨地実習で看護学生が遭遇するコミュニケーション強化が必要な状況
確認テスト
第11章 多職種連携とコミュニケーション
1 医療における多職種間でのコミュニケーション
2 看護師間でのコミュニケーション
3 医師とのコミュニケーション
4 アサーティブなかかわり
確認テスト
第12章 患者家族とのコミュニケーション
1 患者と家族の関係
2 患者の家族とのコミュニケーション
確認テスト
確認テスト 解答
索引
書評
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患者さんと向き合う,コミュニケーションスキル (雑誌『看護管理』より)
書評者: 吉村 浩美 (聖隷三方原病院 看護部長)
◆コミュニケーションを思索する
コミュニケーションのことを扱った書籍は一般書から専門書まで数多く出版されており,誰もが1冊くらいは読んでいるテーマでしょう。私たちは,何らかの意味を伝え,分かり合うためにコミュニケーションを用いますが,同一の文化圏で共通言語を使用していても,他者と分かり合う難しさを感じているのではないでしょうか。
特に看護においては,ナイチンゲールが『看護覚え書』の補章において,「自分自身が決して感じたことのない他人の感情のただ中へ自己を投入する能力をこれほど必要とする仕事は他に存在しない」と述べているように,看護師は自らが感じたことのない状況にいる患者さんからのメッセージを受け取り,その意味を深く推察しながらフィードバックする,つまりは理解し合うことがとても大切な仕事です。
また,患者さん自身が伝える言葉を持たない場面やどのように伝えようかと模索していることもあるでしょう。そのため,著者は非言語的コミュニケーションもあらゆるコミュニケーションにおいて重要であると述べています。
本書は看護教員の立場から,コミュニケーションを知識の習得だけでなく,トレーニングを含めたコミュニケーションスキルとして教育し,患者さんに向き合う必要性を説いています。そのために,知識を得て確認テストで自身の考えを振り返り,さらにロールプレイ用シナリオを活用してスキルが習得できるように構成されています。このような展開により,視聴覚教材よりも,自問自答する,思い巡らすなど,読者自らが思索する時間を大切にできるのではないでしょうか。
◆人との関係性を大切にするために
著者は,患者さんから信頼を得るためには,積極的傾聴と共感が重要であるとし,「積極的傾聴により相手の話に耳を傾け,批判や判断をすることなく相手の話を受け入れる気持ちや,相手の興味関心ごとに焦点を当てることに集中することが,ケアリングにもつながり,共感にもつながる」と述べています。スキルを持たない看護師の唐突な質問や不用意な返答は,患者さんを混乱させ,看護師への信頼をなくします。読者には本書の2部「看護におけるコミュニケーション」から知識を学び,トレーニングを積んだ上で患者さんへ向かってほしいと期待しています。
もうひとつ面白い構成が,word欄とコラム欄であり,あるコラムでは前頭葉と扁桃体の活動を調べたLiebermanらを引用し,感情を「語る」ことで前頭葉が活性化され,恐怖や不安といった感情をコントロールすることができると紹介しています。興味深く読者を引き込み,著者が知識として伝えたい内容をより分かりやすくしてくれます。
臨床家である私は,本書で語られる場面に「そうそう,こういった場面は本当に悩むのよね」と,そのリアリティに引き込まれます。そして著者から,コミュニケーションを通して人と人(患者さんと看護師)の関係性を大切にしていこうという,看護学生や看護師に対しての優しいメッセージを受け取ることができるのです。
本書は,看護学生や看護師,看護教員へ向けて書かれていますが,例えば,家族や友人が病気になったとき,その人に寄り添う“人”として読み進めてみても意味の深い1冊となっていると思います。
(『看護管理』2015年8月号掲載)
よりよいケアを提供するための看護コミュニケーション (雑誌『助産雑誌』より)
書評者: 工藤 美子 (兵庫県立大学看護学部教授)
母性看護の実習で,何かをしてあげることが看護であると誤解している学生は,自立している妊婦さんや褥婦さんには「何もすることがない」と困惑する。そして,してあげることを情報提供することだと考えた学生は,その人自身を捉える前に,この人はこういう人だからという思い込みから,「この情報が必要」と,パンフレットづくりに邁進する。そんな学生に,まずは本書第10章のコラムに掲載されているレオ・ブスカリア博士の詩を紹介したい(p.113)。
患者との専門的なコミュニケーションは,患者によりよいケアを提供するために必要不可欠なものであり,まずは,相手の言わんとしていることをしっかり聞き,その意味をくみ取ることからよいケア提供は始まります。また,コミュニケーションは双方向的で,互いの関係性を構築し,さらに相手の人となりを知る道具です。
本書は,3部構成となっており,看護するなかで用いられるコミュニケーション,つまり対象の人となりを理解し,対象の視点に立ちその人が抱えている問題や課題を明らかにするためのコミュニケーションの方法を,1つひとつ紐解きながら解説しています。この本に書かれていることは,『助産雑誌』2014年10月号の特集「コミュニケーション術をみがいて,いいお産をめざす」の座談会 で明らかにされたコミュニケーション術を,理論的に裏づけてもいます。
妊産褥婦を対象とする領域で看護を展開する時,本書で紹介されているコミュニケーション技法を用いて必要な看護を考え提供するためにも,そして,何かをしてあげるのが看護という思考から脱するためにも,看護や助産を学ぶ学生や新人看護職にお勧めしたい1冊です。
(『助産雑誌』2015年7月号掲載)
事例満載! 現場がイメージできる実践技術のガイド本 (雑誌『看護教育』より)
書評者: 青木 智子 (四日市医師会看護専門学校)
本書は,「看護基礎教育の充実に関する検討会報告書」におけるコミュニケーション能力の強化を受け,初学生向けに,“実践技術”としてのコミュニュケーション技術の修得を目指して構成されています。本を読んで実践技術が修得できるのであれば,臨床実習指導でこれほど苦労するわけがない……。と,学生のコミュニケーション能力のなさに嘆いておられる先生方の声が聞こえてきそうです。私自身も「コミュニケーション技術の修得は臨床実習場面で」と,あまりテキストには大きな期待をもっていない派でありましたが,この本を読ませていただき,改めて,科学的根拠に基づいた「知識」の修得と,臨床実習での「経験」の学習段階がなければ,実践技術は修得できないと再確認しました。
テキストの内容は,3部構成です。この3部の学習段階がとてもわかりやすい!
第1部の「コミュニケーション論」では,コミュニケーションの基本的技術論で構成されており,その構成要素,成立条件,種類,影響要因等について解説されています。イラストがとてもわかりやすく,看護学生として,“通常のコミュニュケーションとの違い”といった新しい発見ができ,コミュニケーション技術に大いに興味関心がもてるよう工夫されています。
第2部の「看護におけるコミュニケーション」では,看護の専門家としての対人関係を築くために必要なコミュニケーション技法について,13のSTEPからなる看護面接のプロセスに沿って説明されています。看護過程の展開において,学生は受け持ち患者さんの会話ペースに同調してしまい,必要な情報収集が進まないことがあります。本書の「患者中心の面接から医療者中心の面接への移行」は,学生にとってはまさに目からウロコの技法ではないでしょうか。実習前の予備学習または実習後のコミュニュケーション評価に大いに活用できます。
第3部の「高度なコミュニケーション」では,実際の看護場面で遭遇することが予測されるコミュニケーション困難な状況での対応方法が解説されており,学生が実習を十分イメージできる構成となっています。この章では,実習中「私はどう対応すべきか?」と,具体的例示をもとに考え,看護の専門家としてのコミュニケーション技法をトレーニングすることができます。
従来のテキストとは異なり,繰り返しトレーニングでき,章ごとに理解度を確認できる問題も掲載されていますので,段階をおって学習が進められます。基礎教育,卒後の新人教育の学習用テキストとしてお勧めだと思います。
(『看護教育』2015年4月号掲載)
臨床で求められるコミュニケーションの知識と技術が修得できる1冊
書評者: 佐々木 真紀子 (秋田大学大学院教授・基礎看護学)
「あなたならなんと答えますか?」という問いが,本書の最初のページを開くと飛び込んできた。「死ぬために入院してきた」という患者に対して,あなたならどう答えるか,というものである。この問いは私を一挙に数十年も昔の新卒時代の1コマに引き戻した。
準夜勤務の私がナースステーションで翌日の予定を板書していた時のこと,1人の患者がいつものように「こんばんは」と声をかけてきた。新卒で仕事に慣れない私をいつも励ましてくれる患者であった。患者は働き盛りの年代であったが,がんに冒され,放射線治療の後に手術を予定していた。私が翌日の患者の予定を板書しているのを見ながら,ふと「俺ってがんなの?」と聞いてきた。その時代,患者へのがんの告知は一般的ではなく,問いかけはあまりに突然であった。唐突な問いに私は返事もできず無言のまま,どう答えてよいか戸惑っていた。おそらく顔も真っ赤になっていただろう。そんな私を見て患者は,「なんちゃってね」と言って部屋に戻っていった。私の反応は何より真実を物語り,患者ががんであることを肯定したのだと思った。
看護学生も看護師も,ひとたび臨床に出ると,このような重い問いに向き合わなければならないことがある。経験を重ね,今でこそ,この時に自分はどう患者と向き合えばよかったのかを語ることができるようになったと思うが,学生時代に本書のように実践できる知識と技術を学修できていれば,対応はまた異なっていたであろう。
本書では,医療におけるコミュニケーションは,「人間の生命に直接関わる」「患者は感情的に負の状況にある」「人中心の現場であり,患者の負の状況は感情に影響する」という特徴があり,一般的なコミュニケーションとは異なること,患者へのよりよいケアには専門的コミュニケーションが不可欠であり,その上達にはトレーニングが必要であることを強調している。著者らが冒頭で述べている通り,看護基礎教育において,コミュニケーション技術の何をどう学ぶべきかは必ずしもコンセンサスが得られていないが,本書は看護の初学者に対して,どのような知識とスキルが必要かを明確に示し,具体的な事例が示され,実践できる技術として修得できるよう構成されている。
看護面接のプロセス13 STEPでは,患者の「解釈モデル」を聴くという患者中心の面接,医療者中心の面接,それらを統合して面接を終えるまでのプロセスが丁寧に説明されている。これらを読み通すだけでも,看護面接をシミュレーションすることが可能である。面接の準備の際に,「自分の感情を準備する」という一節は,自分の個人的な問題や価値観,先入観を排除して患者と向き合うことの重要性をあらためて思い起こさせる。経験を積んでも,はっとする言葉がある。後半の章にはロールプレイの進め方やシナリオも掲載されている。本書は著者らの研究や専門的知識に裏付けられ,看護コミュニケーションの教育を行っている教員にも大いに参考となる1冊である。
コミュニケーションスキルを根拠に基づき学べる参考書
書評者: 菊池 和子 (岩手県立大教授・基礎看護学)
看護職者は,対象となる人々と対人関係を構築しながら援助を行っています。その前提としてコミュニケーションスキルが必須のものとなります。また,コミュニケーションスキルは看護職者間や多職種との連携においても必要不可欠なものです。
本書は,著者らが聖隷クリストファー大学で過去5年間にわたり教授なされた看護コミュニケーション論の授業内容をまとめたものです。
まず,第1部「コミュニケーション論」では,コミュニケーションとは何か,コミュニケーションの種類,コミュニケーションに影響するもので構成され,根拠を示しながらコミュニケーションの基本的技術を解説しており,初学者にとってわかりやすい内容となっています。
第2部「看護におけるコミュニケーション」では,医療(看護)におけるコミュニケーション,良好なコミュニケーションに必要な技法として質問技法と関係構築の技法,積極的傾聴と共感,看護面接のプロセスの13 STEP,看護面接のトレーニングについて会話例を挙げながら,より具体的にイメージできるように挿絵が挿入され,わかりやすく書かれてあります。用語の解説があることで初学者にとっては理解が深まり,看護職者には,知識を再確認できるように工夫されて書かれています。
看護面接のプロセスの13 STEPでは,演習に使用できるシナリオや振り返りが盛り込まれて丁寧に解説がなされ,実際に演習することでコミュニケーションスキルの修得に活用できます。これは,著者らが模擬患者を活用し実際に教育した内容であり,より具体的で実際的に書かれてあります。
第3部「高度なコミュニケーション」では,臨床場面で遭遇すると考えられる困難事例への対応や,多職種連携時のコミュニケーションの実際について,実習場面や臨床場面をイメージして学べるように解説がなされています。
本書は,各章の冒頭に学修目標が示されており,最後に確認テストが設けられています。それらを用いて学習の修得状況がチェックでき,ステップを踏みながら,コミュニケーションの知識と技術を確認し修得していくことができます。
看護学生にとってはコミュニケーションスキルを学ぶ最適な本であり,看護職者として働いている方々にとっても,その学び直しができるだけでなく,高度なコミュニケーションを学ぶことができます。コミュニケーションの基礎から応用まで,根拠に基づき臨床に根ざした具体例が示された本書を,臨床場面に活かすことのできる参考書として推薦します。
書評者: 吉村 浩美 (聖隷三方原病院 看護部長)
◆コミュニケーションを思索する
コミュニケーションのことを扱った書籍は一般書から専門書まで数多く出版されており,誰もが1冊くらいは読んでいるテーマでしょう。私たちは,何らかの意味を伝え,分かり合うためにコミュニケーションを用いますが,同一の文化圏で共通言語を使用していても,他者と分かり合う難しさを感じているのではないでしょうか。
特に看護においては,ナイチンゲールが『看護覚え書』の補章において,「自分自身が決して感じたことのない他人の感情のただ中へ自己を投入する能力をこれほど必要とする仕事は他に存在しない」と述べているように,看護師は自らが感じたことのない状況にいる患者さんからのメッセージを受け取り,その意味を深く推察しながらフィードバックする,つまりは理解し合うことがとても大切な仕事です。
また,患者さん自身が伝える言葉を持たない場面やどのように伝えようかと模索していることもあるでしょう。そのため,著者は非言語的コミュニケーションもあらゆるコミュニケーションにおいて重要であると述べています。
本書は看護教員の立場から,コミュニケーションを知識の習得だけでなく,トレーニングを含めたコミュニケーションスキルとして教育し,患者さんに向き合う必要性を説いています。そのために,知識を得て確認テストで自身の考えを振り返り,さらにロールプレイ用シナリオを活用してスキルが習得できるように構成されています。このような展開により,視聴覚教材よりも,自問自答する,思い巡らすなど,読者自らが思索する時間を大切にできるのではないでしょうか。
◆人との関係性を大切にするために
著者は,患者さんから信頼を得るためには,積極的傾聴と共感が重要であるとし,「積極的傾聴により相手の話に耳を傾け,批判や判断をすることなく相手の話を受け入れる気持ちや,相手の興味関心ごとに焦点を当てることに集中することが,ケアリングにもつながり,共感にもつながる」と述べています。スキルを持たない看護師の唐突な質問や不用意な返答は,患者さんを混乱させ,看護師への信頼をなくします。読者には本書の2部「看護におけるコミュニケーション」から知識を学び,トレーニングを積んだ上で患者さんへ向かってほしいと期待しています。
もうひとつ面白い構成が,word欄とコラム欄であり,あるコラムでは前頭葉と扁桃体の活動を調べたLiebermanらを引用し,感情を「語る」ことで前頭葉が活性化され,恐怖や不安といった感情をコントロールすることができると紹介しています。興味深く読者を引き込み,著者が知識として伝えたい内容をより分かりやすくしてくれます。
臨床家である私は,本書で語られる場面に「そうそう,こういった場面は本当に悩むのよね」と,そのリアリティに引き込まれます。そして著者から,コミュニケーションを通して人と人(患者さんと看護師)の関係性を大切にしていこうという,看護学生や看護師に対しての優しいメッセージを受け取ることができるのです。
本書は,看護学生や看護師,看護教員へ向けて書かれていますが,例えば,家族や友人が病気になったとき,その人に寄り添う“人”として読み進めてみても意味の深い1冊となっていると思います。
(『看護管理』2015年8月号掲載)
よりよいケアを提供するための看護コミュニケーション (雑誌『助産雑誌』より)
書評者: 工藤 美子 (兵庫県立大学看護学部教授)
母性看護の実習で,何かをしてあげることが看護であると誤解している学生は,自立している妊婦さんや褥婦さんには「何もすることがない」と困惑する。そして,してあげることを情報提供することだと考えた学生は,その人自身を捉える前に,この人はこういう人だからという思い込みから,「この情報が必要」と,パンフレットづくりに邁進する。そんな学生に,まずは本書第10章のコラムに掲載されているレオ・ブスカリア博士の詩を紹介したい(p.113)。
私の話を聞いてください,と頼むとあなたは助言を始めます。私はそんなことを望んでいないのです。
私の話を聞いてください,と頼むとあなたはその理由について話し始めます。申し訳ないと思いつつ,私は不愉快になってしまいます。
私の話を聞いてください,と頼むとあなたはなんとか私の悩みを解決しなければならないという気持ちになります。おかしなことにそれは私の気持ちに反するのです。
祈ることに慰めを見出す人がいるのはそのためでしょうか。神は無言だからです。助言したり,調整しようとはしません。神は聞くだけで悩みの解決は自分にまかせてくれます。
だからあなたもどうか黙って私の話を聞いてください,話をしたかったら,私が話し終えるまで少しだけ待ってください。そうすれば私は必ずあなたの話に耳を傾けます。
患者との専門的なコミュニケーションは,患者によりよいケアを提供するために必要不可欠なものであり,まずは,相手の言わんとしていることをしっかり聞き,その意味をくみ取ることからよいケア提供は始まります。また,コミュニケーションは双方向的で,互いの関係性を構築し,さらに相手の人となりを知る道具です。
本書は,3部構成となっており,看護するなかで用いられるコミュニケーション,つまり対象の人となりを理解し,対象の視点に立ちその人が抱えている問題や課題を明らかにするためのコミュニケーションの方法を,1つひとつ紐解きながら解説しています。この本に書かれていることは,『助産雑誌』2014年10月号の特集「コミュニケーション術をみがいて,いいお産をめざす」の座談会 で明らかにされたコミュニケーション術を,理論的に裏づけてもいます。
妊産褥婦を対象とする領域で看護を展開する時,本書で紹介されているコミュニケーション技法を用いて必要な看護を考え提供するためにも,そして,何かをしてあげるのが看護という思考から脱するためにも,看護や助産を学ぶ学生や新人看護職にお勧めしたい1冊です。
(『助産雑誌』2015年7月号掲載)
事例満載! 現場がイメージできる実践技術のガイド本 (雑誌『看護教育』より)
書評者: 青木 智子 (四日市医師会看護専門学校)
本書は,「看護基礎教育の充実に関する検討会報告書」におけるコミュニケーション能力の強化を受け,初学生向けに,“実践技術”としてのコミュニュケーション技術の修得を目指して構成されています。本を読んで実践技術が修得できるのであれば,臨床実習指導でこれほど苦労するわけがない……。と,学生のコミュニケーション能力のなさに嘆いておられる先生方の声が聞こえてきそうです。私自身も「コミュニケーション技術の修得は臨床実習場面で」と,あまりテキストには大きな期待をもっていない派でありましたが,この本を読ませていただき,改めて,科学的根拠に基づいた「知識」の修得と,臨床実習での「経験」の学習段階がなければ,実践技術は修得できないと再確認しました。
テキストの内容は,3部構成です。この3部の学習段階がとてもわかりやすい!
第1部の「コミュニケーション論」では,コミュニケーションの基本的技術論で構成されており,その構成要素,成立条件,種類,影響要因等について解説されています。イラストがとてもわかりやすく,看護学生として,“通常のコミュニュケーションとの違い”といった新しい発見ができ,コミュニケーション技術に大いに興味関心がもてるよう工夫されています。
第2部の「看護におけるコミュニケーション」では,看護の専門家としての対人関係を築くために必要なコミュニケーション技法について,13のSTEPからなる看護面接のプロセスに沿って説明されています。看護過程の展開において,学生は受け持ち患者さんの会話ペースに同調してしまい,必要な情報収集が進まないことがあります。本書の「患者中心の面接から医療者中心の面接への移行」は,学生にとってはまさに目からウロコの技法ではないでしょうか。実習前の予備学習または実習後のコミュニュケーション評価に大いに活用できます。
第3部の「高度なコミュニケーション」では,実際の看護場面で遭遇することが予測されるコミュニケーション困難な状況での対応方法が解説されており,学生が実習を十分イメージできる構成となっています。この章では,実習中「私はどう対応すべきか?」と,具体的例示をもとに考え,看護の専門家としてのコミュニケーション技法をトレーニングすることができます。
従来のテキストとは異なり,繰り返しトレーニングでき,章ごとに理解度を確認できる問題も掲載されていますので,段階をおって学習が進められます。基礎教育,卒後の新人教育の学習用テキストとしてお勧めだと思います。
(『看護教育』2015年4月号掲載)
臨床で求められるコミュニケーションの知識と技術が修得できる1冊
書評者: 佐々木 真紀子 (秋田大学大学院教授・基礎看護学)
「あなたならなんと答えますか?」という問いが,本書の最初のページを開くと飛び込んできた。「死ぬために入院してきた」という患者に対して,あなたならどう答えるか,というものである。この問いは私を一挙に数十年も昔の新卒時代の1コマに引き戻した。
準夜勤務の私がナースステーションで翌日の予定を板書していた時のこと,1人の患者がいつものように「こんばんは」と声をかけてきた。新卒で仕事に慣れない私をいつも励ましてくれる患者であった。患者は働き盛りの年代であったが,がんに冒され,放射線治療の後に手術を予定していた。私が翌日の患者の予定を板書しているのを見ながら,ふと「俺ってがんなの?」と聞いてきた。その時代,患者へのがんの告知は一般的ではなく,問いかけはあまりに突然であった。唐突な問いに私は返事もできず無言のまま,どう答えてよいか戸惑っていた。おそらく顔も真っ赤になっていただろう。そんな私を見て患者は,「なんちゃってね」と言って部屋に戻っていった。私の反応は何より真実を物語り,患者ががんであることを肯定したのだと思った。
看護学生も看護師も,ひとたび臨床に出ると,このような重い問いに向き合わなければならないことがある。経験を重ね,今でこそ,この時に自分はどう患者と向き合えばよかったのかを語ることができるようになったと思うが,学生時代に本書のように実践できる知識と技術を学修できていれば,対応はまた異なっていたであろう。
本書では,医療におけるコミュニケーションは,「人間の生命に直接関わる」「患者は感情的に負の状況にある」「人中心の現場であり,患者の負の状況は感情に影響する」という特徴があり,一般的なコミュニケーションとは異なること,患者へのよりよいケアには専門的コミュニケーションが不可欠であり,その上達にはトレーニングが必要であることを強調している。著者らが冒頭で述べている通り,看護基礎教育において,コミュニケーション技術の何をどう学ぶべきかは必ずしもコンセンサスが得られていないが,本書は看護の初学者に対して,どのような知識とスキルが必要かを明確に示し,具体的な事例が示され,実践できる技術として修得できるよう構成されている。
看護面接のプロセス13 STEPでは,患者の「解釈モデル」を聴くという患者中心の面接,医療者中心の面接,それらを統合して面接を終えるまでのプロセスが丁寧に説明されている。これらを読み通すだけでも,看護面接をシミュレーションすることが可能である。面接の準備の際に,「自分の感情を準備する」という一節は,自分の個人的な問題や価値観,先入観を排除して患者と向き合うことの重要性をあらためて思い起こさせる。経験を積んでも,はっとする言葉がある。後半の章にはロールプレイの進め方やシナリオも掲載されている。本書は著者らの研究や専門的知識に裏付けられ,看護コミュニケーションの教育を行っている教員にも大いに参考となる1冊である。
コミュニケーションスキルを根拠に基づき学べる参考書
書評者: 菊池 和子 (岩手県立大教授・基礎看護学)
看護職者は,対象となる人々と対人関係を構築しながら援助を行っています。その前提としてコミュニケーションスキルが必須のものとなります。また,コミュニケーションスキルは看護職者間や多職種との連携においても必要不可欠なものです。
本書は,著者らが聖隷クリストファー大学で過去5年間にわたり教授なされた看護コミュニケーション論の授業内容をまとめたものです。
まず,第1部「コミュニケーション論」では,コミュニケーションとは何か,コミュニケーションの種類,コミュニケーションに影響するもので構成され,根拠を示しながらコミュニケーションの基本的技術を解説しており,初学者にとってわかりやすい内容となっています。
第2部「看護におけるコミュニケーション」では,医療(看護)におけるコミュニケーション,良好なコミュニケーションに必要な技法として質問技法と関係構築の技法,積極的傾聴と共感,看護面接のプロセスの13 STEP,看護面接のトレーニングについて会話例を挙げながら,より具体的にイメージできるように挿絵が挿入され,わかりやすく書かれてあります。用語の解説があることで初学者にとっては理解が深まり,看護職者には,知識を再確認できるように工夫されて書かれています。
看護面接のプロセスの13 STEPでは,演習に使用できるシナリオや振り返りが盛り込まれて丁寧に解説がなされ,実際に演習することでコミュニケーションスキルの修得に活用できます。これは,著者らが模擬患者を活用し実際に教育した内容であり,より具体的で実際的に書かれてあります。
第3部「高度なコミュニケーション」では,臨床場面で遭遇すると考えられる困難事例への対応や,多職種連携時のコミュニケーションの実際について,実習場面や臨床場面をイメージして学べるように解説がなされています。
本書は,各章の冒頭に学修目標が示されており,最後に確認テストが設けられています。それらを用いて学習の修得状況がチェックでき,ステップを踏みながら,コミュニケーションの知識と技術を確認し修得していくことができます。
看護学生にとってはコミュニケーションスキルを学ぶ最適な本であり,看護職者として働いている方々にとっても,その学び直しができるだけでなく,高度なコミュニケーションを学ぶことができます。コミュニケーションの基礎から応用まで,根拠に基づき臨床に根ざした具体例が示された本書を,臨床場面に活かすことのできる参考書として推薦します。
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