実践ストレスマネジメント
「辞めたい」ナースと「疲れた」師長のために

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「週刊医学界新聞」 の好評連載 「ストレスマネジメント その理論と実践」 が書籍に。いつもと違う様子のスタッフへの声がけ、部署異動時の面接、辞めたいスタッフへの対応……。とかく大変な病院において、看護管理者である筆者が大切にしていることとは? 看護職のストレス特性を知り、自部署(と自分)のメンタルヘルス対策に取り組みたい師長・主任クラスに捧ぐ!
久保田 聰美
発行 2010年10月判型:A5頁:176
ISBN 978-4-260-01190-7
定価 2,420円 (本体2,200円+税)

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はじめに

 ナースを取り巻く環境はストレスで溢れています。日々増えるばかりの業務,業務以外の委員会活動,対応困難な患者さんとそのご家族,医師や多職種との人間関係,同僚・先輩・上司・部下との人間関係,割に合わない報酬等……数えあげればきりがありません。「そういったストレスから逃れるためには辞めるしかないか」なんて思っている人も少なくないようです。
 本書は,そんな思いを抱いたナースや,辞めたいナースへの対応に疲れてしまっている看護管理者の皆さんを読者に想定して書かれています。どこの病院でもありそうな身近な事例を具体的に示して,その背景の問題を整理し,解決のヒントをお示しする形式をとっています。本書のもとになったのは,「週刊医学界新聞」 の連載 「ストレスマネジメント その理論と実践」(2006年4月~2007年12月の全21回)です。書籍化にあたっては,いくつかの事例を加筆・修正してIV部に再構成しました。事例を補完するためのコラムや「言葉の引き出し」集も加えています。
 連載時はそのタイトルにも表記されているように,「理論と実践」を繋げる内容に強いこだわりをもって書いてきました。それは,巷に溢れるストレスマネジメントのHow to本とは一線を画したいという思いからでした。ナース対象のストレスマネジメントに関するセミナー等では,「こんな事例で困ったのですが,答えを教えてください」という質問を私自身がよく受けます。しかし,残念ながらストレスマネジメントに正解はありません。それぞれの事例の抱える背景や構造的な問題を視野に入れつつ,要因を整理し,次に出合う事例に活かしながら経験を積むこと。さらに,そうやって整理する枠組みを明確にしていく過程こそが,ストレスマネジメントなのです。その整理する視点を与えてくれるのが理論であり,過去の研究成果ともいえるでしょう。連載終了後に加筆した内容は,看護管理者として臨床現場での経験を大切にした結果,より実践色が強くなったために『実践ストレスマネジメント』いう書籍名になりましたが,この思いは今も変わっていません。
 また,本書の基本的な方針として,具体的な事例を理論や過去の文献での枠組みに当てはめ,できる限り一般化することに努めました。事例については,私自身が日々現場で見聞きする話や連載中の読者からの相談,講演での質問等をもとにして,細かな状況設定については意図的にフィクションとしました。つまり,あくまでも架空のエピソードですが,どの現場でもありがちな話を提示しています。
 「ストレスマネジメント」というと,ややもするとネガティブな印象を与え,また誤解を招きやすいテーマです。しかしそこであえて事例性を重視したのは,「看護の前提は,対象者とそれを取り巻く環境との相互作用の中にある」という思いからです。その相互作用の中で,ナースがバーンアウトすることなく,「看護が大好きだ」と思えること,そんな自分自身に誇りをもてること。そうやって生き生きと働くことができる環境をいかに創造していくかが,看護管理者としての私のテーマでもあります。
 ちょっととっつきにくい理論や過去の研究を紐解きながら,臨床現場における身近な困った事例を整理してみてください。本書が,「辞めたい」ナースや「疲れた」師長の「ストレスマネジメント」の一助になればと願っています。

 2010年10月
 久保田聰美

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はじめに

第I部 組織で取り組むストレスマネジメント
 イントロダクション
 セルフケア ストレスって何もの?
 ラインによるケア(1) はじめてのヒヤリ・ハットレポート
 ラインによるケア(2) マネジャーがKey Personになる意味
 ラインによるケア(3) クレーム対応の過程におけるケア(上)
 ラインによるケア(4) クレーム対応の過程におけるケア(下)
 産業保健スタッフによるケア 産業保健スタッフと事業者の役割
 ライン外スタッフによるケア(1) 効果的なラインとの連携のために
 ライン外スタッフによるケア(2) 新人ナースが心を開く場所
 事業場外資源によるケア 医療機関の特殊性を考慮して

第II部 コミュニケーションスキルとその周辺
 イントロダクション
 対処行動を左右する認知の歪み
 心理的距離のとり方
 苦手な相手への対処 自分の陰性感情と向き合う
 技術となるための前提
 「思いのずれ」が招くコミュニケーションエラー
 傾聴の意味 相手の感情に耳と心を傾ける
 沈黙の意味 相手の想いに寄り添いながら

第III部 キャリア・ストレス-仕事を継続する過程で出合うストレス
 イントロダクション
 最短距離を目指すナース
 ワーク・ライフ・バランス
 新人指導に関わるスタッフへの支援
 意欲的すぎるナースへの関わり
 中堅ナースのストレス からっぽの自分と向き合う
 部署異動時の面接 あなたが必要というシンプルな理由
 「辞めたい」というスタッフへの対応

第IV部 お互いの価値観を大切に
 イントロダクション
 患者の要望と医療者の「それは無理」
 マネジャー自身のストレスマネジメント
 グループ・ダイナミクスへの配慮
 スタッフと師長の関係づくり
 ケアする側への支援システム
 「ハラスメント」と患者の権利 対等な関係であるために
 被害者意識からの脱却
 お互いの価値観を尊重できる感受性を

おわりに
索引

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悩んだり迷ったりする管理者に与えてくれる勇気
書評者: 任 和子 (京大教授・臨床看護学)
 本書のもとになったのは,2006年4月から2007年12月までの「週刊医学界新聞」上の連載である。連載時のタイトル「ストレスマネジメント その理論と実践」から若干聞き飽きたコンセプトのように当初は思えたが,執筆者が現役の看護師長で博士課程在籍中(後に看護部長/看護学博士),さらに産業カウンセラーであることを知り,新鮮な発想に期待感を抱いた記憶がある。連載第2回「はじめてのヒヤリ・ハットレポート」を読んで,経験に根ざして事象をとらえ,それを温かい視点と鋭い分析で解説する筆力に感銘を受け,それ以来,記事を毎回スクラップするほどのファンとなった。

 書籍として出版されたことを知ってすぐに購入した。机の上に置き,ちょっとしたときに開いて読んでいる。その日の気分で,読みたい項目が異なるのが面白い。評者の周囲で日々起こる出来事や,気になったり考えたりすることとの共通事項が満載である。各項読み切りになっているので,どこからでも読み進めることができる。

 特に何度も読むのは「ライン外スタッフによるケア」の項である。各病棟の診療・看護チームと部署横断的に活動するチームとがつながって成果を出す「チーム医療」の時代であるがゆえに,新たな課題も生じている。そうした課題の多くが,部門間やチーム間,職種間の垣根をどのように超えるかという点に集約される。看護部組織も,従来のラインに加え,部署横断的に活動するチームや人が増えている。これによって医療の質向上に大きく貢献している一方で,「ラインとライン外の管理をどのようにつなぐか」という課題も生じている。ラインとライン外の垣根は必要だが,ゆるやかなほうがよい。「気づき」と「対話」がキーワードだが,それが現実には難しいこともある。

 本書では,ライン外スタッフとラインが連携して効果的にケアするための注意点を整理した上で,新人ナースがライン外スタッフを“駆け込み寺”とした例を挙げて,その心の機微を丁寧に説明している。ラインの長である看護師長なら,一度は経験したことのある状況であろう。当事者である新人ナースのプライバシー尊重を前提に,「心を開く場」をつくるための情報共有をするという問題解決法は,すぐにも各現場で使える。この事例を新人ナースのみならず,チームリーダーや認定看護師,副看護師長に置き換えて考えることもできる。チーム医療においては,患者や家族,横断的チームとの関係にも適用できる。従来の病院組織が変革している今,看護管理者が垣根を超えたリーダーシップをとる上での示唆を与えてくれるに違いない。

 事例が豊富でわかりやすく,読めば読むほど著者と対話しているように感じる。悩んだり迷ったりする看護管理者としての自分を許して,笑顔でスタッフの前に立つ勇気を与えてくれる良書である。
ワーク・ライフ・バランス実現に必要なスキルを
書評者: 原田 博子 (九大准教授・看護管理学)
 本書は,「週刊医学界新聞」連載(2006年4月-07年12月,全21回)を基にまとめられたものです。以前,「週刊医学界新聞」でこの記事を目にしたとき,なにか直感的に「これは重要な内容だ」と感じ,毎回大切に保存していたことを思い出します。

 私は現在,日本看護協会の「地域へのワーク・ライフ・バランス普及推進プロジェクト」委員長として,看護職が働き続けられる労働条件・労働環境の整備に取り組んでいます。ワーク・ライフ・バランスの実現のためには,「ストレスマネジメント」と「タイムマネジメント」という2つのマネジメントスキルが必要だとされています。タイムマネジメントは時間の整理ですから,それほど難いことではないでしょう。しかし,ストレスマネジメントは考え方や心の整理が重要で,これはとても難しいことだと思います。

 ストレスマネジメントに困っている方,今さまざまな悩みがあって仕事を続けようかどうかと迷っている方は,本書の目次を見て,興味がある箇所から読むことをお勧めします。一つずつの事例から,著者の実践・研究を踏まえてさらに深く学べるように構成してあります。そのため,疲れていてもいつの間にか読み進めることができ,読み終わるころにはなんだかほっとすることでしょう。本書「はじめに」の部分で書かれているように,「理論と実践」をつなげる内容に強いこだわりを持って書かれています。理論というと堅苦しいイメージがあるのですが,読み進めて行くうちに「もっと深く学んでみよう」という気持ちになり,参考文献がその思いに応えてくれています。

 現代は,身体的な面での医療は大きく進みましたが,精神的な面での医療や看護はまだまだ立ち後れ,そのため苦しんでいる人がたくさんいる時代です。私たち看護者は専門職として,自らのストレスマネジメント,組織のストレスマネジメントだけでなく,まわりの人のストレスマネジメントにも気遣うことができる「優しい社会づくり」を進めてゆくことが求められています。ぜひ手にとって,読みたい箇所から読み進めてください。元気になれます。
看護現場の身近な事例を理論で読み解く
書評者: 松月 みどり (北野病院看護部長)
 ひとことで評すれば,精緻で魅力に溢れる,久しぶりに出合った「良書」です。タイトルと書籍の内容は見事に一致しています。読者は,手にとって読み始めたときの期待以上の深い知識と納得と希望を得ることができるはずです。「ストレスから逃れるためには辞めるしかない」と追い込まれているナース,そして疲れてしまっている看護管理者は,本書に登場する身近な事例に引き込まれていくでしょう。読み進めるうちに,問題の背景を整理しながら,解決のヒントひとつひとつに「なるほど!」と納得し,爽やかな気持ちになることができます。それは著者が,自ら習得した理論やモデル,経験知を通して深く考察しているからだと思います。

 臨床看護現場のどこにでも見られる事例が,適度な分量の物語になっていて,リアルでとても共感できます。そして次に続く事例の解説は理論的に考察されているのですが,よく噛み砕いた平易な文章で記述してあり,誰でも理解し納得できます。「あれ! これで終わり……。この理論についてもっと詳しく知りたいなあ」と感じると,その項の最後には参考文献が記載されています。高級レストランでとても行き届いたサービスを受けたときの心地よさと豊かな気持ちを読者は味わうことができるでしょう。また,随所に盛り込まれたコラムも魅力的です。

 完成度の高い,こなれた文章で構成された書物に久しぶりに出合えた感動があります。著者の久保田聰美さんのメンタルヘルス事業の産業カウンセラー,保健師や病院看護師としての経験,大学院(博士)での学習成果などがうまく融け合って,この本に詰まっているのです(それと,久保田さんの元気のもとも)。理論と実践をつなげることに強いこだわりを持って書く。その意気込みが端々に溢れています。臨床看護実践家をはじめ多くの方に読んでほしい,お勧めの一冊です。
「一味違う」実践と理論のマリアージュ
書評者: 坂本 洋子 (日本赤十字九州国際看護大名誉教授・精神看護学)
 2010月10月18日付(2900号)の「週刊医学界新聞」において,本書の著者である久保田聰美氏(近森病院看護部長)と勝原裕美子氏(聖隷浜松病院副院長兼総看護部長)との対談「組織で取り組むストレスマネジメント」が本書出版に連動して大きく掲載されていた。そこでは,お二人の看護管理者による先進的,創造的な対談の中で,本書執筆の目的や想いが生の言葉で語られている。昨今のナースを取り巻く環境のストレスフルな厳しさゆえ,「辞めたいナース」とその対応に苦慮する「疲れた師長」は増えるばかりである。バーンアウトを軽減する方略として,個人の気づき(感性)の促しやコミュニケーションスキルの向上,ポジテイブ思考のすすめ等を説くと同時に,スタッフと管理者の双方を支援する体制,誰もが本音で語り合える職場となるための組織としての取り組みやその重要性について,看護管理の視点から示唆・提言されている。

 私は,2006年4月より「週刊医学界新聞」に連載されていた「ストレスマネジメント その理論と実践」(連載一覧第1回)を毎回共感し楽しみに読んでおり,そのころからカウンセリングに造詣深い久保田さんにお会いしたいと思っていた。2009年,九州大学病院の「女性医療人きらめきプロジェクト」が,講演会の講師として久保田さんをご招待した。外部評価委員の私も初めて,そしてやっと久保田さんと言葉を交わすことができた。予想通り久保田さんは爽やかで活動的,少し早口で頭の回転の速い方だった。“新卒看護師(1年以内)離職0”の驚くべき職場づくりを実現した素敵な看護部長であり,看護管理の実践ポイントを要領よくまとめたプレゼンテーションを見せてくださった。その後,遠方にある私の勤務する大学にも,1回目は学生対象,2回目はFD/SDとしてご講演をいただいた。

 本書は数あるストレスマネジメント関連書物とは「一味違う」魅力を有している。読み終わったとき,読者諸氏はきっと共感,納得,癒しを覚え,「私もやってみよう」という気になるのではないか。

 理由は2つ。まず,著者の人間性がみえるからである。全体を通して,どこの職場にもあり,誰もがよく体験する事例が豊富に挿入されており,著者自身の現場での実践(問題解決)への悩みや喜び,部下への愛情,絶えず絶えず勉強し工夫する姿勢,時に不安や苦悩の自己開示がある。さすがは産業カウンセラーである。カウンセラーの必要条件である自己一致,本音で語る誠実さを,読者はそこから感じることができる。

 2つ目は,実践(問題解決)のための考え方や方略に学問的な裏付けが示されているからである。各自の経験やレベルに応じて本書の「一味違う」味をくみ取る楽しさがある。実践歴豊富な保健師としての視点も見逃がせない。厚労省がメンタルヘルス指針として初めて策定した「事業場における労働者の心の健康づくりのための指針」の4つのケア,NIOSHの職業性ストレスモデル,リチャード・ラザルスの相互作用モデルなど,枠組みの活用は事象の分析や実践評価に役立つ。実践には理念と同時にスキルが必要であり,本書では,自分の認知の歪みに気づき修正するアルバート・エリスの論理療法,巻き込まれ(共依存),苦手な相手への対処法,傾聴,非言語コミュニケーションの効用などを事例を通して学べる。

 看護職者の自己実現キャリア開発過程で遭遇するキャリアストレスに多くの頁を割いていることも,本書の「一味違う」魅力である。

 なお,組織のストレスマネジメントとして相談体制が重要である。近年では,「組織内に生きる個人」と「個人の生きる環境としての組織」との相互依存関係に焦点を当てた「オーガニゼーショナル・カウンセリング」が,米国ジョンスホプキンス大学院において,カウンセラー養成カリキュラムとして設置されている。組織としての取り組みの一助となるので,評者の得た知見として本稿に付け加えたい。

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