ゾリンジャー外科手術アトラス 第2版
外科手術書のロングセラー待望の改訂版
もっと見る
一般外科手術書のロングセラー、待望の改訂版。編集委員の一新に伴い目次構成も見直された。新たに食道切除、スリーブ胃切除、腎移植、腋窩郭清などが加わり、全146の手術術式・手技を収載。定評あるイラストを多数用い手技を丁寧に解説する。日本の読者のために訳注が随所に挿入され、手術適応、術前準備から術後管理まで外科医が知っておきたい情報を過不足なく記載。長年にわたり磨き上げられた魅力溢れる手術アトラス。
原著 | E. Christopher Ellison / Robert M. Zollinger, Jr. |
---|---|
訳 | 安達 洋祐 |
発行 | 2018年09月判型:A4頁:576 |
ISBN | 978-4-260-03228-5 |
定価 | 16,500円 (本体15,000円+税) |
更新情報
-
更新情報はありません。
お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。
- 序文
- 目次
- 書評
序文
開く
序(E. Christopher Ellison, MD,Robert M. Zollinger, Jr., MD)/訳者 序(安達洋祐)
序
この手術アトラスは約75年前に作成され,一般外科医が日常的に行っていた実績のある安全な手術手技を記述してきました.これまでの改訂では,消化管の器械吻合や低侵襲手術などを含め,多くの改善や修正を行ってきました.第9版では,器械吻合と低侵襲手術が結びついて満開の状態であり,1990年代には先端技術と思われていた腹腔鏡手術が現在は日常的に施行され,外科修練プログラムでは必須事項として指導されています.
新しい第10版には,重要な改善点がいくつかあります.編集委員は手術手技の専門家として改訂に従事し,掲載すべき新しい手術手技の決定を援助し,記載内容の有意義な改善を行い,19の新しい手術手技を追加しました.一般外科の実践に重要と考えられる手術は8つあり,腋窩リンパ節郭清,腹膜透析カテーテル挿入,筋膜切開,焼痂切開,下大静脈フィルター挿入,腹壁ヘルニア修復(腹壁分離法),尿管修復,胸腔鏡です.複雑な胃腸手術は4つあり,食道筋層切開(腹腔鏡),病的肥満に対するスリーブ胃切除,経腹的食道切除,経胸的食道切除です.新しい血管手術は4つあり,大腿動脈血栓除去,大腿-大腿動脈バイパス,下肢静脈瘤レーザー焼灼(ELA),上腸間膜動脈血栓除去です.残り3つは腎摘出(HALS),腎移植,腹腔鏡診断です.
編集委員の大がかりな再編も行われ,18人の専門家が編集委員に加わり,臓器系統別の手術手技に各々の専門的知識を伝授し,ローマ数字による分類をやめて手術手技のタイトルを見つけやすくするとともに,執筆者と編集委員が批判的に吟味し,今回は第10版全体を最新のものに更新しました.約50章の本文とイラストについては,手術適応から術後管理まで,すべての手術手技に関する科学的内容に有意義な改善を行って現行のものにしました.
第10版の準備中に,オハイオ州立大学(OSU)外科のBrian Belval医師から貴重な助言をいただきました.前回の第9版では,カラー製版と印刷技術の進歩を導入し,メディカル・イラストレーターが新旧の図版に着色し,生き生きとした現実感をもたせ,解剖学的に明瞭なイラストになるように改良してくれましたが,今回の第10版では,スクラッチボードにペンとインクで描いていた原画を,メディカル・イラストレーターのMarita Bitansさんが新しく描き換え,コンピューター・グラフィックスによる高解像度カラーで芸術的な作品を提供してくれました.
また,「歴史的補遺」をオンライン上に作成し,過去70年間のアトラスの改訂中に削除した多くの歴史的な手術にアクセスできるようにしました.歴史的手術の中には,縫合器・腹腔鏡・画像ガイド下低侵襲手術などの近代技術を駆使した新しい手技に代わった手術もあれば,まれにしか行われない手術もあり,いくつかの手術は適応が変わって消滅しました.
以前は二つ折り用紙による機械的作図と製本技術が原因で,イラストレーターと執筆者にはページ制限があり,裏面の印刷物が透けて見える「裏抜け」を回避し高品質のイラストを再現するには,分厚いコート紙の在庫が必要でした.結果的に1980年代半ばに到達した500ページ程度に制限され,器械や腹腔鏡を使った新たな手術手技を追加しようとすると,まれにしか行われない手術(たとえば門脈下大静脈シャント)や専門医が行うようになった手術(たとえば開胸手術や肺手術)は,削除せざるをえませんでした.
かつて日常的に行われていた多くの手術は失われてはならず,ページ制限がない電子媒体で「歴史的補遺」に保管しなければならないと,本書の著者と出版社は感じています.日常診療の性質上,教科書に掲載されていないような状況に一般外科医が遭遇することはまれではなく,特殊な状況や複雑な状況においては,今でも多くの歴史的手術が施行されています.特別な状況において外科医は,即座に外科的な解決を行わなければならず,そのようなときは一般原則や経験に頼ることが多く,とくに器械吻合や腹腔鏡手術などの高価な使い捨て手術器具を利用できない状況では,「古い手術」に助けられることになるでしょう.
今では多くの医学図書館が,出版された教科書や医学雑誌をすべて購入・保存することはなく,ほとんどすべての医療施設や医師が,インターネットで世界中にアクセスできます.私たちは,電子版「歴史的補遺」が歴史的な手術手技を参照するときの隙間を埋めてくれるものと信じています.
Cutler医師が共同執筆者を継承させたように,父は私を後継に指名しましたが,今回は私の番です.またE. Christopher Ellisonが本書を継続する新しい編集責任者になりました.彼は「Zollinger-Ellison症候群」のもう1人の息子であり,OSU医療センターの外科教授です.本書の主要な責務を担い,私の父が40年以上にわたって本書を育てたコロンバスのOSU外科部門に制作拠点を移すことを承諾してくれました.
最後に,歴史的に重要な点として,父の論文と書物および本書の初期の版のイラストがOSU健康科学図書館医学遺産センターに保管されており,これらの資料が目録にまとめられオンラインで利用できることを追記しておきます.
E. Christopher Ellison, MD
Robert M. Zollinger, Jr., MD
訳者 序
「ゾリンジャー」は世界中の外科医が読んでいる手術書です.見開きの左が解説,右が線画というスタイルは定評があり,正確で美しい高品質のイラストが魅力です.1937年の初版から信頼と実績を誇り,2011年に原書第9版,2016年に原書第10版が出版されました.
第9版はイラストがすべてカラーになり「Zollinger-Ellison症候群(1955年)」の息子同士が共著者になりましたが,第10版は編集委員が入れ替わって内容が大きく改訂され,150章のうち50章を大幅修正,3つの古い手術を削除,19の新しい手術が追加され,各章の見出しは手術名になり,イラストは全部で1,710図になりました.
アメリカ外科医の元祖ハルステッドは「丁寧な手術」を提唱し,(1)丁寧な操作(gentle handling of tissue),(2)確実な止血(accurate hemostasis),(3)鋭的剥離(sharp anatomical dissection),(4)無血術野(clean & dry field),(5)集束結紮の回避(avoidance of mass ligation),(6)細い縫合糸(fine suture material)を実践・指導しました.
「ゾリンジャー」の根底には安全性を最優先したハルステッドの「丁寧な手術」があり,例えば「丁寧に/やさしく gently」という言葉は114か所,「注意して carefully」は374か所,「同定する」は201か所,「確認する」は438か所に使われています.
「ゾリンジャー」は日本でも長く親しまれてきた手術書です.手術を学び始めた研修医や専門医を目指す専攻医から指導医・上級医まで広く利用されており,手術室や医局にも備えておきたい1冊です.今回も翻訳にあたっては「正確で読みやすい文章」を心がけ,随所に「訳注」を添えて説明を加えました[合計305か所].
第9版の翻訳出版から5年,外科の現場を離れて教育職に移ったあとも再び世界的名著の出版をお手伝いすることができ,医学書院には心からお礼申し上げますとともに,私が外科医として仕事を共にしたすべての先輩・同僚・後輩に感謝します.
2018年7月
安達洋祐
序
この手術アトラスは約75年前に作成され,一般外科医が日常的に行っていた実績のある安全な手術手技を記述してきました.これまでの改訂では,消化管の器械吻合や低侵襲手術などを含め,多くの改善や修正を行ってきました.第9版では,器械吻合と低侵襲手術が結びついて満開の状態であり,1990年代には先端技術と思われていた腹腔鏡手術が現在は日常的に施行され,外科修練プログラムでは必須事項として指導されています.
新しい第10版には,重要な改善点がいくつかあります.編集委員は手術手技の専門家として改訂に従事し,掲載すべき新しい手術手技の決定を援助し,記載内容の有意義な改善を行い,19の新しい手術手技を追加しました.一般外科の実践に重要と考えられる手術は8つあり,腋窩リンパ節郭清,腹膜透析カテーテル挿入,筋膜切開,焼痂切開,下大静脈フィルター挿入,腹壁ヘルニア修復(腹壁分離法),尿管修復,胸腔鏡です.複雑な胃腸手術は4つあり,食道筋層切開(腹腔鏡),病的肥満に対するスリーブ胃切除,経腹的食道切除,経胸的食道切除です.新しい血管手術は4つあり,大腿動脈血栓除去,大腿-大腿動脈バイパス,下肢静脈瘤レーザー焼灼(ELA),上腸間膜動脈血栓除去です.残り3つは腎摘出(HALS),腎移植,腹腔鏡診断です.
編集委員の大がかりな再編も行われ,18人の専門家が編集委員に加わり,臓器系統別の手術手技に各々の専門的知識を伝授し,ローマ数字による分類をやめて手術手技のタイトルを見つけやすくするとともに,執筆者と編集委員が批判的に吟味し,今回は第10版全体を最新のものに更新しました.約50章の本文とイラストについては,手術適応から術後管理まで,すべての手術手技に関する科学的内容に有意義な改善を行って現行のものにしました.
第10版の準備中に,オハイオ州立大学(OSU)外科のBrian Belval医師から貴重な助言をいただきました.前回の第9版では,カラー製版と印刷技術の進歩を導入し,メディカル・イラストレーターが新旧の図版に着色し,生き生きとした現実感をもたせ,解剖学的に明瞭なイラストになるように改良してくれましたが,今回の第10版では,スクラッチボードにペンとインクで描いていた原画を,メディカル・イラストレーターのMarita Bitansさんが新しく描き換え,コンピューター・グラフィックスによる高解像度カラーで芸術的な作品を提供してくれました.
また,「歴史的補遺」をオンライン上に作成し,過去70年間のアトラスの改訂中に削除した多くの歴史的な手術にアクセスできるようにしました.歴史的手術の中には,縫合器・腹腔鏡・画像ガイド下低侵襲手術などの近代技術を駆使した新しい手技に代わった手術もあれば,まれにしか行われない手術もあり,いくつかの手術は適応が変わって消滅しました.
以前は二つ折り用紙による機械的作図と製本技術が原因で,イラストレーターと執筆者にはページ制限があり,裏面の印刷物が透けて見える「裏抜け」を回避し高品質のイラストを再現するには,分厚いコート紙の在庫が必要でした.結果的に1980年代半ばに到達した500ページ程度に制限され,器械や腹腔鏡を使った新たな手術手技を追加しようとすると,まれにしか行われない手術(たとえば門脈下大静脈シャント)や専門医が行うようになった手術(たとえば開胸手術や肺手術)は,削除せざるをえませんでした.
かつて日常的に行われていた多くの手術は失われてはならず,ページ制限がない電子媒体で「歴史的補遺」に保管しなければならないと,本書の著者と出版社は感じています.日常診療の性質上,教科書に掲載されていないような状況に一般外科医が遭遇することはまれではなく,特殊な状況や複雑な状況においては,今でも多くの歴史的手術が施行されています.特別な状況において外科医は,即座に外科的な解決を行わなければならず,そのようなときは一般原則や経験に頼ることが多く,とくに器械吻合や腹腔鏡手術などの高価な使い捨て手術器具を利用できない状況では,「古い手術」に助けられることになるでしょう.
今では多くの医学図書館が,出版された教科書や医学雑誌をすべて購入・保存することはなく,ほとんどすべての医療施設や医師が,インターネットで世界中にアクセスできます.私たちは,電子版「歴史的補遺」が歴史的な手術手技を参照するときの隙間を埋めてくれるものと信じています.
Cutler医師が共同執筆者を継承させたように,父は私を後継に指名しましたが,今回は私の番です.またE. Christopher Ellisonが本書を継続する新しい編集責任者になりました.彼は「Zollinger-Ellison症候群」のもう1人の息子であり,OSU医療センターの外科教授です.本書の主要な責務を担い,私の父が40年以上にわたって本書を育てたコロンバスのOSU外科部門に制作拠点を移すことを承諾してくれました.
最後に,歴史的に重要な点として,父の論文と書物および本書の初期の版のイラストがOSU健康科学図書館医学遺産センターに保管されており,これらの資料が目録にまとめられオンラインで利用できることを追記しておきます.
E. Christopher Ellison, MD
Robert M. Zollinger, Jr., MD
訳者 序
「ゾリンジャー」は世界中の外科医が読んでいる手術書です.見開きの左が解説,右が線画というスタイルは定評があり,正確で美しい高品質のイラストが魅力です.1937年の初版から信頼と実績を誇り,2011年に原書第9版,2016年に原書第10版が出版されました.
第9版はイラストがすべてカラーになり「Zollinger-Ellison症候群(1955年)」の息子同士が共著者になりましたが,第10版は編集委員が入れ替わって内容が大きく改訂され,150章のうち50章を大幅修正,3つの古い手術を削除,19の新しい手術が追加され,各章の見出しは手術名になり,イラストは全部で1,710図になりました.
アメリカ外科医の元祖ハルステッドは「丁寧な手術」を提唱し,(1)丁寧な操作(gentle handling of tissue),(2)確実な止血(accurate hemostasis),(3)鋭的剥離(sharp anatomical dissection),(4)無血術野(clean & dry field),(5)集束結紮の回避(avoidance of mass ligation),(6)細い縫合糸(fine suture material)を実践・指導しました.
「ゾリンジャー」の根底には安全性を最優先したハルステッドの「丁寧な手術」があり,例えば「丁寧に/やさしく gently」という言葉は114か所,「注意して carefully」は374か所,「同定する」は201か所,「確認する」は438か所に使われています.
「ゾリンジャー」は日本でも長く親しまれてきた手術書です.手術を学び始めた研修医や専門医を目指す専攻医から指導医・上級医まで広く利用されており,手術室や医局にも備えておきたい1冊です.今回も翻訳にあたっては「正確で読みやすい文章」を心がけ,随所に「訳注」を添えて説明を加えました[合計305か所].
第9版の翻訳出版から5年,外科の現場を離れて教育職に移ったあとも再び世界的名著の出版をお手伝いすることができ,医学書院には心からお礼申し上げますとともに,私が外科医として仕事を共にしたすべての先輩・同僚・後輩に感謝します.
2018年7月
安達洋祐
目次
開く
第I部 基本―SECTION I BASICS
[CHAPTER]
1 手術手技
2 麻酔
3 術前準備と術後管理
4 外来手術
第II部 外科解剖―SECTION II SURGICAL ANATOMY
[CHAPTER]
5 上腹部臓器の動脈
6 上腹部臓器の静脈とリンパ管
7 大腸の解剖
8 腹部大動脈と下大静脈の解剖
9 胸部と肺の解剖
第III部 開腹と開胸―SECTION III GENERAL ABDOMEN AND THORAX
[CHAPTER]
10 開腹と閉腹
11 気腹(Hasson)
12 気腹(Veress針)
13 腹腔鏡診断
14 腹膜透析カテーテル挿入
15 開胸と閉胸
16 胸腔鏡
第IV部 胃と食道の手術―SECTION IV ESOPHAGUS AND STOMACH
[CHAPTER]
17 胃瘻造設
18 胃瘻造設(内視鏡)
19 潰瘍穿孔閉鎖,横隔膜下膿瘍
20 胃空腸吻合
21 幽門形成,胃十二指腸吻合
22 迷走神経切離
23 迷走神経切離(横隔膜下法)
24 胃半切除(Billroth I,手縫い)
25 胃半切除(Billroth I,器械)
26 胃切除(亜全摘)
27 胃切除(亜全摘),大網切除
28 胃切除(Polya)
29 胃切除(Hofmeister)
30 胃半切除(Billroth II,器械)
31 胃全摘(手縫い)
32 胃全摘(器械)
33 胃空腸吻合(Roux-en-Y)
34 噴門形成
35 噴門形成(腹腔鏡)
36 食道筋層切開(腹腔鏡)
37 Roux-en-Y胃バイパス(腹腔鏡)
38 スリーブ胃切除(腹腔鏡)
39 調節性胃バンディング(腹腔鏡)
40 食道切除(経腹)
41 食道切除(経胸)
42 幽門筋切開
第V部 小腸と大腸の手術
―SECTION V SMALL INTESTINE, COLON, AND RECTUM
[CHAPTER]
43 腸重積修復,Meckel憩室切除
44 小腸切除
45 小腸切除(器械)
46 小腸吻合(器械)
47 腸瘻造設
48 虫垂切除
49 虫垂切除(腹腔鏡)
50 大腸の外科解剖
51 回腸ストーマ
52 結腸ストーマ
53 ストーマ閉鎖
54 結腸吻合(器械)
55 右側結腸切除
56 右側結腸切除(腹腔鏡)
57 左側結腸切除
58 左側結腸切除(腹腔鏡)
59 腹会陰式直腸切除
60 結腸全摘,大腸全摘
61 直腸前方切除(端端吻合)
62 直腸前方切除(器械)
63 直腸前方切除(Baker)
64 回腸肛門吻合
65 直腸脱修復(会陰法)
66 ゴム輪結紮と痔核切除
67 膿瘍・痔瘻・裂肛の治療
68 毛巣洞切除
第VI部 胆嚢と肝臓の手術
―SECTION VI GALLBLADDER, BILE DUCTS, AND LIVER
[CHAPTER]
69 胆嚢摘出(腹腔鏡)
70 胆嚢摘出(開腹)
71 総胆管切開(開腹)
72 総胆管切開(経十二指腸)
73 胆管十二指腸吻合
74 胆嚢摘出(下行性),胆嚢部分切除
75 胆嚢外瘻
76 胆管空腸吻合
77 肝門部腫瘍切除(Klatskin)
78 肝生検
79 肝臓の解剖と切除
80 肝部分切除(非解剖学的)
81 肝右葉切除(区域V~VIII±I)
82 肝左葉切除(区域II~IV±I)
83 拡大肝右葉切除(区域IV~VIII±I)
第VII部 膵臓と脾臓の手術―SECTION VII PANCREAS AND SPLEEN
[CHAPTER]
84 膵嚢胞ドレナージ
85 膵空腸吻合(Puestow-Gillesby)
86 膵体尾部切除
87 膵体尾部切除(脾温存,腹腔鏡)
88 膵頭十二指腸切除(Whipple)
89 膵全摘
90 脾摘
91 脾摘(腹腔鏡)
92 脾温存
第VIII部 生殖器と泌尿器の手術―SECTION VIII GENITOURINARY
[CHAPTER]
93 婦人科手術の概要
94 経腟手術
95 腹式子宮全摘
96 卵管切除,卵巣摘出
97 子宮頸部の診断手技(円錐切除,拡張掻爬)
98 尿管損傷修復
99 腎摘出(HALS)
100 腎移植
第IX部 腹壁と鼠径の手術―SECTION IX HERNIA
[CHAPTER]
101 腹壁ヘルニア修復(腹腔鏡)
102 腹壁ヘルニア修復(腹壁分離法)
103 臍ヘルニア修復
104 外鼠径ヘルニア修復
105 外鼠径ヘルニア修復(Shouldice)
106 内鼠径ヘルニア修復(McVay)
107 鼠径ヘルニア修復(メッシュ,Lichtenstein)
108 鼠径ヘルニア修復(メッシュ,Rutkow & Robbins)
109 大腿ヘルニア修復
110 大腿ヘルニア修復(メッシュ)
111 鼠径部の腹腔鏡的解剖
112 鼠径ヘルニア修復〔腹腔鏡,経腹的腹膜前法(TAPP)〕
113 鼠径ヘルニア修復〔腹腔鏡,完全腹膜外法(TEP)〕
114 陰嚢水腫修復
第X部 内分泌臓器の手術―SECTION X ENDOCRINE
[CHAPTER]
115 甲状腺亜全摘
116 副甲状腺摘出
117 両副腎摘出
118 左副腎摘出(腹腔鏡)
119 右副腎摘出(腹腔鏡)
第XI部 頭頸部の手術―SECTION XI HEAD AND NECK
[CHAPTER]
120 気管切開
121 気管切開(経皮拡張法)
122 根治的頸部郭清
123 Zenker憩室切除
124 耳下腺切除
第XII部 皮膚と乳房の手術―SECTION XII SKIN, SOFT TISSUE, AND BREAST
[CHAPTER]
125 センチネルリンパ節生検(黒色腫)
126 乳房の解剖と切開
127 乳房切除
128 センチネルリンパ節生検(乳がん)
129 腋窩郭清
130 皮膚移植
第XIII部 血管の手術―SECTION XIII VASCULAR
[CHAPTER]
131 頸動脈内膜剥離
132 血管アクセス(動静脈シャント)
133 ポート留置(内頸静脈穿刺)
134 中心静脈カテーテル挿入(鎖骨下静脈)
135 腹部大動脈瘤修復
136 大動脈大腿動脈バイパス
137 上腸間膜動脈血栓除去
138 大腿大腿動脈バイパス
139 大腿膝窩動脈バイパス
140 伏在静脈動脈バイパス
141 大腿動脈血栓除去
142 下大静脈フィルター挿入
143 下肢静脈瘤レーザー焼灼
144 門脈静脈シャント
第XIV部 四肢の手術―SECTION XIV EXTREMITIES
[CHAPTER]
145 筋膜切開
146 焼痂切開
147 切断の原則
148 膝上切断
149 手感染巣の切開ドレナージ
150 腱縫合
索引
[CHAPTER]
1 手術手技
2 麻酔
3 術前準備と術後管理
4 外来手術
第II部 外科解剖―SECTION II SURGICAL ANATOMY
[CHAPTER]
5 上腹部臓器の動脈
6 上腹部臓器の静脈とリンパ管
7 大腸の解剖
8 腹部大動脈と下大静脈の解剖
9 胸部と肺の解剖
第III部 開腹と開胸―SECTION III GENERAL ABDOMEN AND THORAX
[CHAPTER]
10 開腹と閉腹
11 気腹(Hasson)
12 気腹(Veress針)
13 腹腔鏡診断
14 腹膜透析カテーテル挿入
15 開胸と閉胸
16 胸腔鏡
第IV部 胃と食道の手術―SECTION IV ESOPHAGUS AND STOMACH
[CHAPTER]
17 胃瘻造設
18 胃瘻造設(内視鏡)
19 潰瘍穿孔閉鎖,横隔膜下膿瘍
20 胃空腸吻合
21 幽門形成,胃十二指腸吻合
22 迷走神経切離
23 迷走神経切離(横隔膜下法)
24 胃半切除(Billroth I,手縫い)
25 胃半切除(Billroth I,器械)
26 胃切除(亜全摘)
27 胃切除(亜全摘),大網切除
28 胃切除(Polya)
29 胃切除(Hofmeister)
30 胃半切除(Billroth II,器械)
31 胃全摘(手縫い)
32 胃全摘(器械)
33 胃空腸吻合(Roux-en-Y)
34 噴門形成
35 噴門形成(腹腔鏡)
36 食道筋層切開(腹腔鏡)
37 Roux-en-Y胃バイパス(腹腔鏡)
38 スリーブ胃切除(腹腔鏡)
39 調節性胃バンディング(腹腔鏡)
40 食道切除(経腹)
41 食道切除(経胸)
42 幽門筋切開
第V部 小腸と大腸の手術
―SECTION V SMALL INTESTINE, COLON, AND RECTUM
[CHAPTER]
43 腸重積修復,Meckel憩室切除
44 小腸切除
45 小腸切除(器械)
46 小腸吻合(器械)
47 腸瘻造設
48 虫垂切除
49 虫垂切除(腹腔鏡)
50 大腸の外科解剖
51 回腸ストーマ
52 結腸ストーマ
53 ストーマ閉鎖
54 結腸吻合(器械)
55 右側結腸切除
56 右側結腸切除(腹腔鏡)
57 左側結腸切除
58 左側結腸切除(腹腔鏡)
59 腹会陰式直腸切除
60 結腸全摘,大腸全摘
61 直腸前方切除(端端吻合)
62 直腸前方切除(器械)
63 直腸前方切除(Baker)
64 回腸肛門吻合
65 直腸脱修復(会陰法)
66 ゴム輪結紮と痔核切除
67 膿瘍・痔瘻・裂肛の治療
68 毛巣洞切除
第VI部 胆嚢と肝臓の手術
―SECTION VI GALLBLADDER, BILE DUCTS, AND LIVER
[CHAPTER]
69 胆嚢摘出(腹腔鏡)
70 胆嚢摘出(開腹)
71 総胆管切開(開腹)
72 総胆管切開(経十二指腸)
73 胆管十二指腸吻合
74 胆嚢摘出(下行性),胆嚢部分切除
75 胆嚢外瘻
76 胆管空腸吻合
77 肝門部腫瘍切除(Klatskin)
78 肝生検
79 肝臓の解剖と切除
80 肝部分切除(非解剖学的)
81 肝右葉切除(区域V~VIII±I)
82 肝左葉切除(区域II~IV±I)
83 拡大肝右葉切除(区域IV~VIII±I)
第VII部 膵臓と脾臓の手術―SECTION VII PANCREAS AND SPLEEN
[CHAPTER]
84 膵嚢胞ドレナージ
85 膵空腸吻合(Puestow-Gillesby)
86 膵体尾部切除
87 膵体尾部切除(脾温存,腹腔鏡)
88 膵頭十二指腸切除(Whipple)
89 膵全摘
90 脾摘
91 脾摘(腹腔鏡)
92 脾温存
第VIII部 生殖器と泌尿器の手術―SECTION VIII GENITOURINARY
[CHAPTER]
93 婦人科手術の概要
94 経腟手術
95 腹式子宮全摘
96 卵管切除,卵巣摘出
97 子宮頸部の診断手技(円錐切除,拡張掻爬)
98 尿管損傷修復
99 腎摘出(HALS)
100 腎移植
第IX部 腹壁と鼠径の手術―SECTION IX HERNIA
[CHAPTER]
101 腹壁ヘルニア修復(腹腔鏡)
102 腹壁ヘルニア修復(腹壁分離法)
103 臍ヘルニア修復
104 外鼠径ヘルニア修復
105 外鼠径ヘルニア修復(Shouldice)
106 内鼠径ヘルニア修復(McVay)
107 鼠径ヘルニア修復(メッシュ,Lichtenstein)
108 鼠径ヘルニア修復(メッシュ,Rutkow & Robbins)
109 大腿ヘルニア修復
110 大腿ヘルニア修復(メッシュ)
111 鼠径部の腹腔鏡的解剖
112 鼠径ヘルニア修復〔腹腔鏡,経腹的腹膜前法(TAPP)〕
113 鼠径ヘルニア修復〔腹腔鏡,完全腹膜外法(TEP)〕
114 陰嚢水腫修復
第X部 内分泌臓器の手術―SECTION X ENDOCRINE
[CHAPTER]
115 甲状腺亜全摘
116 副甲状腺摘出
117 両副腎摘出
118 左副腎摘出(腹腔鏡)
119 右副腎摘出(腹腔鏡)
第XI部 頭頸部の手術―SECTION XI HEAD AND NECK
[CHAPTER]
120 気管切開
121 気管切開(経皮拡張法)
122 根治的頸部郭清
123 Zenker憩室切除
124 耳下腺切除
第XII部 皮膚と乳房の手術―SECTION XII SKIN, SOFT TISSUE, AND BREAST
[CHAPTER]
125 センチネルリンパ節生検(黒色腫)
126 乳房の解剖と切開
127 乳房切除
128 センチネルリンパ節生検(乳がん)
129 腋窩郭清
130 皮膚移植
第XIII部 血管の手術―SECTION XIII VASCULAR
[CHAPTER]
131 頸動脈内膜剥離
132 血管アクセス(動静脈シャント)
133 ポート留置(内頸静脈穿刺)
134 中心静脈カテーテル挿入(鎖骨下静脈)
135 腹部大動脈瘤修復
136 大動脈大腿動脈バイパス
137 上腸間膜動脈血栓除去
138 大腿大腿動脈バイパス
139 大腿膝窩動脈バイパス
140 伏在静脈動脈バイパス
141 大腿動脈血栓除去
142 下大静脈フィルター挿入
143 下肢静脈瘤レーザー焼灼
144 門脈静脈シャント
第XIV部 四肢の手術―SECTION XIV EXTREMITIES
[CHAPTER]
145 筋膜切開
146 焼痂切開
147 切断の原則
148 膝上切断
149 手感染巣の切開ドレナージ
150 腱縫合
索引
書評
開く
内視鏡手術の時代にこそ必要とされる良質の手術書
書評者: 土岐 祐一郎 (阪大大学院教授・消化器外科学)
手術は目で学ぶものなので昔から手術アトラスというのは外科医にとって最も大事な教科書である。われわれが研修医のころは「○○手術体系」という全40巻以上の大作があり,手術の前には図書館に行ってコピーしたものである。また,コピペのない時代なので手術所見を書くときはその中の絵を丁寧に模写し,それが手術の復習にもなっていた。
そして時代は進み最近は手術の動画が簡単にインターネットで見られるようになった。今更仰々しい手術書などいらないのではないか,この本もやや否定的な気持ちで開いてみた。500ページの中に実に150にも及ぶ手術の綺麗な線画と適切な解析が載っている。多くの術式は2ページに(最長は膵頭十二指腸切除術の18ページだがそれでも簡潔といえよう)まとまっており,動画を何分も見続けるより,ずっと容易に手術が理解できる。事典的に使うのであればインターネットよりはるかに便利だなというのが第一印象であった。しかし読み続けているうちに手術ビデオとの決定的な違いに気が付いた。
最近の手術ビデオのほとんどは術者と視野を共有した内視鏡手術の動画である。そこでは鉗子の先端だけが拡大視されており,例えば胃癌では上腹部全体は見えていない。手術にとって最も大事な大局観,どの程度胃を取って,次にどこまで郭清して,その後空腸のどのあたりと吻合して,というのは常に術者の頭の中にのみあり,ビデオではその操作が始まり画面でアップになるまで見ている人にはわからないのである。滑らかな鉗子の動き,血の出ない切離に見とれるばかりで実は全体像は見えていないというのが手術ビデオの限界なのだ。一方,開腹術では術者は45度の全体視野と3度の中心視野を同時に認識している。いうまでもなく手術の流れを理解するには45度の全体視野のほうが大事なのだが,優れた手術書は全体視野と中心視野とをうまく混ぜて10枚程度のスケッチで全てを理解させる。特に本書は最新の内視鏡手術を多く取り入れているが,そこでは誰も見るはずのない内視鏡手術の全体視野の絵が多く記載されている。よほど慣れた術者が想像して書くのでなければできない仕事である。内視鏡手術の時代においても,いや内視鏡手術の時代だからこそ手術書が大事なのだとあらためて認識させられた。
最後の決め手は訳者の絶妙な訳注がたくさん載っていることである。「訳注:日本の外科医は自動縫合器を使わず,きちんと根部で結紮・切離するだろう」とあるのを原書の編集者や執筆者は知っているのだろうかと少し心配になるが,優れた外科医である安達氏のお陰で本書は日米の壁を越えた即戦力として有用性の高いものに仕上がっている。
手術の本質を知ることができる外科医のバイブル
書評者: 森 正樹 (九大大学院教授・消化器・総合外科)
「真を写す」と書いて「写真」というが,こと手術書においては写真による手術書はむしろわかりにくいことが多い。一方イラストによる手術書は,余分な情報を削ぎ落とし本当に読者に伝えたいことが線画として表現され,実にわかりやすいが,過剰にデフォルメされたイラストでは正確性に欠ける。『ゾリンジャー外科手術アトラス』は,「右ページの美しく忠実な線画と左ページの詳しい解説」を特徴とする,まさに理想の手術書であり,世界中の外科医のバイブルともいえる書籍である。このたび,その原書第10版が安達洋祐氏の手により訳され,日本語版としてわれわれの手元に届くこととなった。
本書は前版の原書第9版(日本語版初版)からカラー化され,さらに今回の第10版(日本語版第2版)はコンピューター・グラフィックスによる高解像度カラーで描かれており,もはや芸術的作品ともいえる出来映えである。さらにこの日本語版の素晴らしいところは,日本の医学を知り尽くした安達氏により,日本の実情に合わせた「訳注」が300カ所以上も追記されている点である。これはもはや訳書という範疇を超え,日本の外科医のために新たに書き下ろされた最新版と言っても過言ではない。
最近では腹腔鏡手術やロボット手術が日常診療として行われていることはご存じの通りである。本書は1937年の原書初版から改訂を重ね現在に至るが,今でも本書がバイブルとして読まれている理由の一つは,時代に合わせて腹腔鏡手術などのイラストや解説を改訂ごとに追加していることであろう。しかし本書に対して私がもっと強く感銘を受けたことは,新しい術式のみならず,かつては日常的に行われていた歴史的な手術をも本書が重要視している点である。本書の序には「日常診療の性質上,教科書に掲載されていないような状況に一般外科医が遭遇することはまれではなく,(中略)そのようなときには(中略)『古い手術』に助けられることになるでしょう」と書かれている。つまり外科手術の本質を知っておくこと,もっと簡単にいえば昔の外科医はどのようにやっていたかを知っておくことは,手術中に危機的状況に陥った時の解決策を知っておくことを意味し,そのためにも本書はまさにバイブルといえるであろう。
また安達氏が訳者の序にも書かれている通り,本書の根底に流れるもう一つの重要な考え方として,安全性を最優先した丁寧な手術をめざしている点も記しておきたい。「丁寧に/やさしく」という言葉は原書の114カ所に,「注意して」は374カ所に使われているそうである。そのように考えれば,本書は若き外科医にとっては手術手技を学ぶのみならず,手術に対する姿勢をも学ぶことができる必携の手引き書であり,また中堅以上の外科医にとっても外科医としての幅を広げる知識の泉として,ぜひ一読いただきたい名書といえる。このような手術書をわれわれの手元に届けてくれた安達氏に心から敬意を表したい。
書評者: 土岐 祐一郎 (阪大大学院教授・消化器外科学)
手術は目で学ぶものなので昔から手術アトラスというのは外科医にとって最も大事な教科書である。われわれが研修医のころは「○○手術体系」という全40巻以上の大作があり,手術の前には図書館に行ってコピーしたものである。また,コピペのない時代なので手術所見を書くときはその中の絵を丁寧に模写し,それが手術の復習にもなっていた。
そして時代は進み最近は手術の動画が簡単にインターネットで見られるようになった。今更仰々しい手術書などいらないのではないか,この本もやや否定的な気持ちで開いてみた。500ページの中に実に150にも及ぶ手術の綺麗な線画と適切な解析が載っている。多くの術式は2ページに(最長は膵頭十二指腸切除術の18ページだがそれでも簡潔といえよう)まとまっており,動画を何分も見続けるより,ずっと容易に手術が理解できる。事典的に使うのであればインターネットよりはるかに便利だなというのが第一印象であった。しかし読み続けているうちに手術ビデオとの決定的な違いに気が付いた。
最近の手術ビデオのほとんどは術者と視野を共有した内視鏡手術の動画である。そこでは鉗子の先端だけが拡大視されており,例えば胃癌では上腹部全体は見えていない。手術にとって最も大事な大局観,どの程度胃を取って,次にどこまで郭清して,その後空腸のどのあたりと吻合して,というのは常に術者の頭の中にのみあり,ビデオではその操作が始まり画面でアップになるまで見ている人にはわからないのである。滑らかな鉗子の動き,血の出ない切離に見とれるばかりで実は全体像は見えていないというのが手術ビデオの限界なのだ。一方,開腹術では術者は45度の全体視野と3度の中心視野を同時に認識している。いうまでもなく手術の流れを理解するには45度の全体視野のほうが大事なのだが,優れた手術書は全体視野と中心視野とをうまく混ぜて10枚程度のスケッチで全てを理解させる。特に本書は最新の内視鏡手術を多く取り入れているが,そこでは誰も見るはずのない内視鏡手術の全体視野の絵が多く記載されている。よほど慣れた術者が想像して書くのでなければできない仕事である。内視鏡手術の時代においても,いや内視鏡手術の時代だからこそ手術書が大事なのだとあらためて認識させられた。
最後の決め手は訳者の絶妙な訳注がたくさん載っていることである。「訳注:日本の外科医は自動縫合器を使わず,きちんと根部で結紮・切離するだろう」とあるのを原書の編集者や執筆者は知っているのだろうかと少し心配になるが,優れた外科医である安達氏のお陰で本書は日米の壁を越えた即戦力として有用性の高いものに仕上がっている。
手術の本質を知ることができる外科医のバイブル
書評者: 森 正樹 (九大大学院教授・消化器・総合外科)
「真を写す」と書いて「写真」というが,こと手術書においては写真による手術書はむしろわかりにくいことが多い。一方イラストによる手術書は,余分な情報を削ぎ落とし本当に読者に伝えたいことが線画として表現され,実にわかりやすいが,過剰にデフォルメされたイラストでは正確性に欠ける。『ゾリンジャー外科手術アトラス』は,「右ページの美しく忠実な線画と左ページの詳しい解説」を特徴とする,まさに理想の手術書であり,世界中の外科医のバイブルともいえる書籍である。このたび,その原書第10版が安達洋祐氏の手により訳され,日本語版としてわれわれの手元に届くこととなった。
本書は前版の原書第9版(日本語版初版)からカラー化され,さらに今回の第10版(日本語版第2版)はコンピューター・グラフィックスによる高解像度カラーで描かれており,もはや芸術的作品ともいえる出来映えである。さらにこの日本語版の素晴らしいところは,日本の医学を知り尽くした安達氏により,日本の実情に合わせた「訳注」が300カ所以上も追記されている点である。これはもはや訳書という範疇を超え,日本の外科医のために新たに書き下ろされた最新版と言っても過言ではない。
最近では腹腔鏡手術やロボット手術が日常診療として行われていることはご存じの通りである。本書は1937年の原書初版から改訂を重ね現在に至るが,今でも本書がバイブルとして読まれている理由の一つは,時代に合わせて腹腔鏡手術などのイラストや解説を改訂ごとに追加していることであろう。しかし本書に対して私がもっと強く感銘を受けたことは,新しい術式のみならず,かつては日常的に行われていた歴史的な手術をも本書が重要視している点である。本書の序には「日常診療の性質上,教科書に掲載されていないような状況に一般外科医が遭遇することはまれではなく,(中略)そのようなときには(中略)『古い手術』に助けられることになるでしょう」と書かれている。つまり外科手術の本質を知っておくこと,もっと簡単にいえば昔の外科医はどのようにやっていたかを知っておくことは,手術中に危機的状況に陥った時の解決策を知っておくことを意味し,そのためにも本書はまさにバイブルといえるであろう。
また安達氏が訳者の序にも書かれている通り,本書の根底に流れるもう一つの重要な考え方として,安全性を最優先した丁寧な手術をめざしている点も記しておきたい。「丁寧に/やさしく」という言葉は原書の114カ所に,「注意して」は374カ所に使われているそうである。そのように考えれば,本書は若き外科医にとっては手術手技を学ぶのみならず,手術に対する姿勢をも学ぶことができる必携の手引き書であり,また中堅以上の外科医にとっても外科医としての幅を広げる知識の泉として,ぜひ一読いただきたい名書といえる。このような手術書をわれわれの手元に届けてくれた安達氏に心から敬意を表したい。