消化器外科のエビデンス
気になるテーマ30

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外科医が日頃から気になる30のテーマを取り上げ,最新のエビデンスを明らかにする。世界に通用する優れた論文を精選し,根拠のない主張や主観的な意見は完全に排除。信頼性の高い知見から導かれた「結論」が,臨床上の判断を助ける。日常的に広く行われている処置や手技を徹底的に問い質し,“外科の常識”を再検証する。
安達 洋祐
発行 2003年04月判型:B5頁:360
ISBN 978-4-260-12247-4
定価 7,150円 (本体6,500円+税)
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I 胃外科
II 大腸外科
III 直腸外科
IV 肝胆膵外科
V 治療手技
VI 患者管理
外科年表
参考書籍
索引

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消化器癌と戦うすべての医師へ
書評者: 森 正樹 (九大教授・生体防御医学研究所分子腫瘍学)
◆推薦できる理由

 安達洋祐先生による『消化器外科のエビデンス―気になるテーマ30』を消化器外科医のみならず,消化器癌をとり扱う内科医,放射線科医など多くの医師に心からお薦めしたい。本書は日常の臨床の際に誰しもが1度は疑問に思うであろう30のテーマについて,私見を介入させず,国内外の優れた論文を客観的に解析し結論を導き出している。いろいろな参考書が多い中で,本書は「痒いところに手が届く」,そのような本である。本書をお薦めするのは以下の理由による。

1)テーマが鋭い
 胃,大腸,直腸,肝胆膵の各臓器の外科,および治療手技と患者管理の6項目に分けられているが,そのどの項目も,今知りたい,あるいは前から知りたかったがなかなか調べることができず,気になっていた具体的なテーマが厳選されている。読んだ後には「ああ,こういうふうに考えられているのか」と納得でき,また安心できる。テーマを見るだけで本書を読んでみようかという気分にさせてくれる。また,一つのテーマに要するページ数は多くも少なくもなく,大変読みやすい長さになっている。

2)客観的である
 著者が最初に本書のなりたちを紹介している。その中でも強調しているように,昔から経験的に行なってきた外科の診断,治療などのポイントについて,現時点で何がわかっていて何がわかっていないかの解答を論文に求め,主観を排してデータを引用し記しているため信頼性がきわめて高い。著者自身が読破し咀嚼した最新の1,500余りの論文が,客観性の裏打ちに大切な役割を果たしている。

3)〈文献〉,〈結論〉がよい
 これは外せないと思う最新の論文が必ず網羅されている。参考文献の質,量はともに申し分ない。また,本文の最後にそのテーマについての結論が書かれている。ここでは,現在明らかな結論が出ていないものには正直に「どちらともいえない」と書かれており,若い研究者には逆にこれを研究して立派なエビデンスを作り上げて欲しいとの著者の期待が込められているように思う。

4)〈Note〉が役立つ
 各テーマの本文の最後には〈Note〉と記された項目がある。ここには主題テーマに関連したcoffee break的なことが記されているが,きわめて有用であり,ここだけを急いで読んでも大変面白い。エビデンスのレベル,生存曲線,カンファレンス,ドレーンの種類,やさしい手術など多彩な内容で,短い中に豊富な内容を凝縮させている。

5)〈My Opinion〉が読みごたえがある
 各章の最後には,その分野でもっとも活躍されているオーソリティーに意見を書いていただいている。厳しい意見,もっともな意見,優しい意見などさまざまであるが,どの先生も表面的ではなく深い考察をもって意見を述べておられるのは,本書の内容のインパクトが強いため自然に力が入ったのではないかと推察している。

 以上のような特長を備えた本書は,臨床の場で日常的に遭遇する疑問点に対し,現時点でのエビデンスを示すことにより明快で有用な情報を提供してくれる良書,必読の書である。この本の基礎は著者の前任地である大分医科大学での四人組の勉強会にあるという。安達先生とともに適切なテーマをとらえて真摯に勉強してこられた大分医大の四人組にも敬意を表したい。
消化器外科臨床の「現時点での結論」
書評者: 兼松 隆之 (長崎大教授・移植・消化器外科)
◆教育への情熱を基盤に

 私は著者の安達洋祐氏を,彼の学生時代から知る者である。彼はサッカー部の主将を務め,チームをまとめるのに抜群の才能を有することは当時から定評があった。縁あって私と同じ教室で外科を学ぶことになったが,研修医の頃から,勉強会でも,スポーツでも,また夜の宴会においても,常にグループのまとめ役,けん引役であり,後輩ながらとても頼りになる男であった。

 そのような安達氏が大学で責任のある地位について,教育に並々ならぬ情熱を傾けていることは風聞耳にしていた。大分医科大学へ着任後3年目から,とくに研修医教育に力を入れて取り組まれたようである。まず研修プログラムを作り,次の年からは病院のゴミの処理や給食部の食事と残飯など,医療を支える現場での模擬実習をはじめたという,それは彼らしいユニークなものであった。もちろん,手術手技についての教育も組み込まれているし,定期的に研修医と指導医がそれぞれを評価し合うシステムを作って,研修医のみならず指導医の育成にも視点がおかれている。安達氏は言う。「“教える”ことは学ぶ態度を身につけさせることである。したがって,学習者が主役・中心であり,指導者はその脇役・介助だ」。

 その安達洋祐氏がこの度,『消化器外科のエビデンス―気になるテーマ30』を上梓した。この本は,安達氏が今まで実践してきた外科医の指導や研修医の教育に基盤を置いて制作にあたったものである。具体的にはスモールグループで毎週勉強会を開き,1回1つのテーマについて担当者が文献を収集して,お互いに情報交換を行なった成果の積み重ねを基としている。“これまでにどこまで明らかになっているか?”,“いま未解決の問題は何か?”といったことを事細かくチェックしていき,エビデンスのレベルを明確にしていったとのことである。本書では現在,外科臨床の実地で迷うことの多い30のテーマを取り上げ,どのように考えたらよいかの指針が示されている。例をあげれば,「胃癌の手術でリンパ節廓清は生存率を高めるか?」,「切除不能な膵癌に予防的胃空腸吻合は必要か?」「手術患者のドパミン投与は腎不全を減少させるか?」などの話題が取り上げられている。

◆統一性と客観性を保ったオリジナリティあふれる1冊

 この本をまとめるにあたって,安達氏は自ら図書館に足を運び,あるいはコンピュータのキーを叩いて関連の文献を渉猟し直し,内外の最新かつ質の高い論文を参酌して,現時点での「結論」をここに凝集した。その中身は採れたての“みかん”をギュッと絞って得られたばかりの果汁のごとく新鮮で,味も濃厚である。本書は安達氏の単独執筆であるが故に,統一性もとれている。従来の分担執筆の著書で時に見受けられる各章ごとのちぐはぐな違和感はまったくない。その際の落とし穴となりがちな著者の独りよがりの意見,立場を脱却するため,問題を客観的にとらえている配慮が随所にみられるのも本書の特徴である。たとえば,自分なりの結論を明確にした上で,わが国でもその道の第一人者である方々に,各テーマに関する考えを“My Opinion”という形でまとめてもらい,それが掲載されている。最終的には読者の判断をも仰ぐといった手法は見事という他はない。

 最近の医学書の中には,残念ながらどこかで見たことのあるような内容の焼き直し本に遭遇することもある。しかし,本書はアイディアと企画力に富み,オリジナリティも高い。「これは面白い。すぐに病棟で役に立つ情報がここにある!!」というのが私の印象である。疑いもなく,ここに安達洋祐氏の医学教育の集大成があり,かつこれは渾身の作である。

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