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続・がん医療におけるコミュニケーション・スキル
実践に学ぶ悪い知らせの伝え方

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がんの診断、再発、積極的抗がん治療中止をはじめとする悪い知らせ-Bad Newsをどのように伝えるかという困難なコミュニケーションに日々直面している医療者に向けて、いかに困難な場面においても、患者との意志疎通をはかるために必須のコミュニケーションの基本から効果的な技法までを、がん種ごとにケースをあげて実践的にまとめた書。がん医療にいまや必須であるコミュニケーションの向上をめざして。
編集 藤森 麻衣子 / 内富 庸介
発行 2009年10月判型:A5頁:240
ISBN 978-4-260-00870-9
定価 3,080円 (本体2,800円+税)

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 「がん対策基本法」の理念の下,2007年6月,患者の視点を大幅に取り入れた「がん対策推進基本計画」が閣議決定された。がん医療の初期段階から患者の意向を尊重した医療を提供するために,「がん医療における告知等の際には,がん患者に対する特段の配慮が必要であることから,医師のコミュニケーション技術の向上に努める」ことが取り組むべき施策に盛り込まれた。
 これまでに,コミュニケーションに関する医師のエキスパートオピニオンによるガイドラインは少なからず存在したが,最近の調査結果から,ガイドラインは必ずしも患者の意向を反映していないことが分かった。例えば「手や肩に触れながら悪い知らせを伝える」といった推奨があるが,これは日本のみならず意外にも米国でも望まれていないことが報告されている。また,われわれは厚生労働省第3次対がん総合戦略事業研究費「QOL向上のための各種支援プログラムの開発研究(平成18年度報告書)」の援助を受け,悪い知らせを伝えられる際の患者の意向を明らかにする目的で,まず約50名の患者・医師に面接調査を重ね,悪い知らせの際の意向に関する質問票を作成した。そして500名を超えるがん患者にその質問票に記入していただいた結果,患者は伝えられる内容に関してだけでなく,伝えられた後の気持ちへの配慮を望むことや,他の患者がどのような質問をするのかを知りたい等,わが国の文化的特徴も明らかとなってきた。そこで,このようながん患者の声を踏まえ患者の視点を取り入れて開発したのが,コミュニケーション技術プロトコール:SHAREである。
 コミュニケーションの知識だけで行動を変えることは困難である。そこで,ロール・プレイ(模擬演習)中心に行動を変えていくコミュニケーション技術研修(CST)プログラムを合わせて開発した。これまでも海外で推奨されているコミュニケーション技術にそった研修会が散発的に行われてきたが,2006年からは日本サイコオンコロジー学会(http://www.jpos-society.org/)を通じてコミュニケーション技術プロトコール:SHAREを用いて行うことが可能となった。2007年度から厚生労働省委託事業として医療研修財団(http://www.pmet.or.jp/)が全国数箇所で研修会を実施し,国立がんセンター東病院をはじめがん専門病院の院内研修,文部科学省がんプロフェッショナルプランの一部として採用されている。また,SHAREの基本部分はがん診療拠点病院などで全国開催されている緩和ケア研修会で学ぶことができる。
 がん対策推進基本計画の直後に発刊された前書 「がん医療におけるコミュニケーション・スキル」 (医学書院より,2007年10月刊行)から約2年が経過し,SHAREの理論や研修会による体験面の学習は確実に広がりをみせている中で,医師が専門とするさまざまながん種のシナリオでより実践に即した学習をしたいとの声や,講師役としてさまざまな質疑に対応できるQ&A集がほしいとの声が寄せられていた。そこで,本書は,鳥居薬品プロダクトマネジメント部企画「医薬の門」で特集された原稿を出発点に加筆していき,さらにアストラゼネカ社により作成されたQ&A集を資料に加えることで1冊にまとめることができた。関係者のご厚意に深く感謝する。執筆陣は,2006年度日本サイコオンコロジー学会主催CSTファシリテーター養成講習会を修了し,現在,CST研修会でファシリテーターとして一緒に汗を流す,経験豊富なオンコロジスト・精神保健の専門家である。玉稿を寄せてくれた執筆者に,この場をお借りし厚くお礼を申し上げたい。
 本書ががん患者と医師の間のコミュニケーションの橋渡し役となり,医師ががん患者と見通しを共有し,患者の視点を取り入れた(perspective taking),患者の意向にそった医療を提供する,そのようながん医療の実現の一助となれば幸いである。

 2009年9月
 編者

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第I章 総論
 がん医療における心のケアとコミュニケーション
 がん医療におけるコミュニケーション・スキル:SHAREとは
 がんに関連する悪い知らせを伝えられる際のコミュニケーションに対する
  患者の意向:知見のまとめ
 コミュニケーション・スキルをこれから学ぶ人たちに!
  血液腫瘍医からの熱いメッセージ

第II章 ケースに学ぶコミュニケーションの実際
 血液腫瘍におけるコミュニケーション・スキル(男性)
 血液腫瘍におけるコミュニケーション・スキル(女性)
 肺がんにおけるコミュニケーション・スキル(男性)
 肺がんにおけるコミュニケーション・スキル(女性)
 食道がんにおけるコミュニケーション・スキル
 乳がんにおけるコミュニケーション・スキル
 大腸がんにおけるコミュニケーション・スキル
 膵臓がんにおけるコミュニケーション・スキル
 胃がんにおけるコミュニケーション・スキル(男性)
 胃がんにおけるコミュニケーション・スキル(女性)
 婦人科腫瘍におけるコミュニケーション・スキル
 小児血液腫瘍におけるコミュニケーション・スキル
 肝臓がんにおけるコミュニケーション・スキル
 前立腺がんにおけるコミュニケーション・スキル

第III章 家族・他の医療者とのコミュニケーション
 家族とのコミュニケーション・スキル
 医療者間のコミュニケーション・スキル
 在宅医療におけるコミュニケーション・スキル

第IV章 コミュニケーション・スキルの教育
 コミュニケーション技術トレーニングにおけるファシリテーターの役割
 模擬患者の役割
 院内におけるコミュニケーション・スキル教育活動

 [資料]がん患者さんとのコミュニケーションQ&A集
 索引

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わかちあうことでインフォームド・コンセントをめざす「SHARE」を (雑誌『看護教育』より)
書評者: 嶋崎 和代 (愛知総合看護福祉専門学校専任教員)
 本書は,前編同様,がん医療のみならず,いずれの医療現場においても求められる普遍的なコミュニケーションのあり方を示したものである。冒頭では,こんな一節が述べられている。「インフォームド・コンセントの和訳『説明と同意』という言葉からは人の心である知・情・意の『情』がすっぽりと抜け落ちている。(中略)本来,患者の感情を理解することもインフォームド・コンセントには含まれているはずである。」すでに医療現場に浸透している「インフォームド・コンセント」が適切になされていないという声をしばしば耳にする。実際,病状と治療方法の説明を受けて,自ら治療方針を自己決定できる患者は少ないという。この背景には,日本人の文化的背景やパターナリズムに影響されて生まれた「おまかせ式医療」の根強い存在が垣間見える。とりわけ,“悪い知らせ”つまりがんという病気がもたらすイメージとその現実は,患者・医療従事者双方ともの希望を失わせ,インフォームド・コンセントの成立をいっそう困難にする。

 本書では,Supportive environment(支持的な環境),How to deliver the bad news(悪い知らせの伝え方),Additional information(付加的な情報),Reassurance and Emotional support(安心感と情緒的サポート)の4要素からなるSHAREの概念に基づき,さまざまな事例とシナリオが提示されている。悪い知らせを伝える際は,衝撃を緩和するための心の準備を患者に促すこと,わかりやすく明確に伝え,かつ,侵襲的ながんという言葉を繰り返さないこと等が具体的な会話や態度とともにわかりやすく説明されている。

 人が他者にむけて発する言葉は,自らにとってのメッセージともなり,行動を促す作用をもつ。相手をいたわる言葉,共感する言葉,支えようとする言葉を発することによって,それを全うしようとする行動を引き起こすのである。医療従事者が,治す側から共に歩む側へという立場の変換をするためには,自らが発する言葉のもつ力を認識し,意図的に用いることも必要であろう。「Share」という言葉には“わかちあう”という意味が含まれている。がん患者・家族と医療従事者が病という体験と,そこに生じる感情をわかちあうことができれば,患者の残された生活には希望が見えるはずである。もし私たちが,ここに書かれた言葉や態度をそのまま実践するならば,本書はただのマニュアルテキストとなり,その価値を失ってしまうだろう。本書を手に取られる方々が,ここで得たヒントを,患者に相応しく自分らしい形にアレンジして実践することによって,著者らがSHAREの概念に込めた思いが,本来あるべき姿のインフォームド・コンセントの実現につながることを願う。

(『看護教育』2010年5月号掲載)

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