解剖実習室へようこそ

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「剖出(ボウシュツ)」って何?――専門課程の“登竜門”、解剖実習をより貴重な時間とするための実習サブテキストが初登場。「その臓器にがんができたら?」など基礎と臨床をつなぐ目からウロコの視点を伝授。実際の解剖の順序に沿った構成で、実習前に一章ずつ読めば予習可能。CGによる豊富なイラスト群、要所要所の骨休めクイズに、悩める学生が主役の物語展開。これで無理なく読める・よくわかる。
監修 廣川 信隆
前田 恵理子
発行 2005年05月判型:B5頁:224
ISBN 978-4-260-10080-9
定価 4,180円 (本体3,800円+税)

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  • 目次
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I. Introduction
 1. 「剖出」とは?
 2. そこにがんができたら?
II. 体幹・上肢
 3. Breast Cancer
 4. 頚部の立体解剖
 5. 脊髄損傷
 6. Shoulder Girdle
 7. Brachial Plexus
 8. マッスルマニア
 9. デルマトームと皮神経
 10. 脊椎・脊髄高位差
 11. 急性腹症
III. 胸部
 12. 縦隔I;大血管と肺門部
 13. 縦隔II;その「住所」
 14. 縦隔III;食道&縦隔の神経
 15. Clinical Cardiac Anatomy
 16. 冠動脈の解剖
 17. 追う,追う,追う!!!
IV. 腹部
 18. Clinical Hepatic Anatomy
 19. 体腔と漿膜
 20. 上腹部の腹膜関係
 21. アッペの手術
 22. 結腸の全長を追いながら
V. 骨盤・下肢
 23. Pelvic Girdle
 24. 下肢帯の筋
 25. Lumbosacral Plexus
 26. 内外腸骨動脈ともう1つの神経系
 27. 膝のスポーツ外傷
 28. クイズ;骨盤CT
 29. ヘルニア
VI. 頭頚部
 30. 気管切開
 31. Cranial Nerves
 32. 頭頚部の領域分け
 33. 骨学実習;再び
 34. 頬から咽頭までの立体解剖
 35. 頚椎の高さで切った頭頚部解剖
 36. 耳,顔面神経,側頭骨
エピローグ
解答・付録
索引

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初習者の理解を深める優れた頼れるガイド
書評者: 柴田 洋三郎 (九大副学長/大学院教授・形態機能形成学)
 実におもしろく,しかもためになる,『解剖実習室へようこそ』は医学書としては珍しい本である。なにしろ裏表紙には,若い男女が腕を広げて抱き合った絵が描かれている。気管支と肺動脈との相互関係を示すものだという。そういわれれば女性は男性の左肩上と右腕下に不自然に抱きつき,男性は抱き合うでもなく大きく両腕を広げて“お手上げ”といった体である。万事このような調子で,次々に人体各部の理解と整理が進められ,従来の解剖学教科書とは全く違う発想の,日本の解剖書としては画期的な書物である。題名から連想する,解剖にまつわる既刊のエッセイ集とは明確に一線を画した,異色の副読本である。著者の前田恵理子先生は,卒後数年の若い医師で,学部6年生時のクリニカルクラークシップでTA(ティーチングアシスタント)として下級生の解剖学実習指導にあたった際の指導メモをまとめたものが,本書だそうだ。さぞや,わかりやすい楽しい実習だったであろう。

 医学生への洗礼/儀礼としての解剖学実習や,ともすれば無味乾燥な用語の羅列に陥りがちな系統解剖学講義の対極として,本書では(1)臨床医学の概念と視点,(2)臨床の香りを届けて楽しくする工夫により,そのギャップを埋めるようなテキストをめざしている。そして「将来の安全で正確なうまい医療行為に活きてきます」という,明確な目標設定により,「目と指先で3次元的立体感覚を養う,この作業が実習である」ととらえている。単なる棒暗記のコツなどでなく,繰り返し整理して理解を深めることにより,「いろいろな角度から繰り返しふれることで全体像が見えてきて理解できる概念がたくさん」あるという。さらに繰り返し・反復により「頭の中に情報圧縮回路ができて,指数関数的に処理能力が向上する」という説得力のある方針をも示している。本書で動機づけられて,解剖実習にのぞんでもらえば,ずいぶんと理解と意欲がわいてくることだろう。ぜひ副読本として活用していただきたい。

 解剖学教育にはいろいろな切り口がある。おそらくどの実習室でも,教員は多少なりともこのような話題で学生の興味をひきつけ,関心を高めているだろうが,本書にはそれをめざした全面的な集大成の観がある。できるだけ平易な言葉を用い,結合組織を土に,剖出を埋蔵構造の掘り出しにたとえるなどの親身な説明や,整理のためのグループ分けと区分・区画分類に単純なオブジェ風スキーム模型図などを多用し,3次元的に理解することを試みるなど,ユニークで楽しいアイデアにあふれている。本書は全36章に分かれ,部位ごとの理解に供するための,総括的な概説が述べられている。われわれ従来の教育を受けた者にとっても,改めて知識を再整理するのに役立つことが多くある。すでに教育にあたっている教員には,多少首をひねるところもあろうが,若い人に説明する際のわかりやすい整理法として参考になろう。36章のなかには,「アッペの手術」 「ヘルニア」などはともかく,「マッスルマニア」など,これが解剖学書?! といった奇抜な項目が並んでいる。例えば「追う,追う,追う!!!」というのは,CT像14枚の連続写真からなる,縦隔と胸部の立体解剖再構築の力試しパズルである。このように若い豊かな発想から,直近の先輩として初習者と同じ目線で親身になって説明されると,改めて医学教育における,若い人・学生の視点による教育の可能性や,TAの積極的な登用の有効性が実証される。

 一方,いまや情報化の時代であり,断片的な知識・用語の集積とその入手は,電子化情報として,医療関係者に限らず誰にでもアクセス容易となっている。医学教育の目的が,個別知識の伝授から,概括的な体系的理解を深めることに,おのずと移っているということを考えさせてくれる本でもあった。とはいっても,当然のことながら,人体は複雑である。先般,“fresh cadaver dissection”なる研修会を見学する機会があった。防腐固定を施さないため解凍体は柔らかく,これまでの解剖体とはずいぶんと違い,局所解剖の理解のみならず,器官系や術式開発の理解把握に新たな応用展開が進んでいるようだ。本書も,解剖学の理解に加えて,人体構造に関連した,疾病の病態解説がなされており,初めて解剖を学ぶ初習者の興味関心と理解を深めるのに頼れるガイド役を果たすことになろう。そのような観点からも,本書は新たな学習教育法の開発などの可能性を秘めた,意欲的な刺激的試みの一つである。大いに活用され,真の解剖学学習の理解を深めるものとして,広く利用されることを期待し,ご推奨したい。

 なお本書では読み物として,主人公の医学生とそのガールフレンド,家族との交流が,同時進行で展開する。風邪,アッぺ,ヘルニアなどに登場人物が次々と罹患していくエピソードも気にかかる。しかしそれは読んでのお楽しみである。

医学生の視点から見た解剖学の新たな必読書
書評者: 内山 安男 (阪大教授・機能形態学)
 医学生にとって解剖学実習は通らねばならぬ登竜門です。肉眼(系統)解剖と顕微(組織)解剖を終えると,医学生としての共通の言語を理解し,基礎医学・臨床医学の勉強に親近感を覚えるようになります。特に,肉眼解剖は,人体の構造を理解するにとどまらず,生命について,また,医学について多くを考えることになるため,精神的にもインパクトのあるカリキュラムです。

 医学生がこのような肉眼解剖を学ぶにあたっては,現今,たくさんの教科書が用意されています。実習書も図譜もたくさんあります。これらは,解剖学実習を進めるうえで必需品です。しかし,予習のため実習書を読み,教科書・図譜を参考に勉強して,いざ実習室に行っても,なかなか思うような解剖学実習はできません。皮膚,皮下組織,筋膜,筋,骨,その間に,神経と血管が走り,体幹には臓器が入っており,確かに机上の勉強ではまったくわからないことだらけで,実習を進めることになります。その意味で,臨床研修と同様に,インストラクターが必要になります。

 解剖学実習を行う時に,2つの重要な理解の進め方があるのに気がつきます。1つは,構造を系統(個体)発生学的に理解して,それが生物学的にもつ意味を考察することです。これは,非常に大変ですし,なかなか適切な指導者も育っていないのが現状です。また,医学だけの問題ではなく,広く生命科学の理解を深めるために必要なことがらでもあります。肉眼解剖を専門とする研究者がすべてこの立場で研究に従事している訳ではありません。この立場の基本的な考え方(事実)は,解剖学実習の理解を深めるために重要です。もう1つは,臨床的な立場から解剖学実習を進めるものであります。私は学生が実習している所で「“解剖実習をいかにしたらより充実した実習にできるのか”は,君たちが一番よくわかることです。まとめて,本にでもしませんか」としばしば言って歩いています。そんな折,本書をみてその先見の深さに驚きました。

 前田恵理子著『解剖実習室へようこそ』は,まさに学生実習を進める医学生に必読書として薦めたい本です。著者も言っている通り,本書は決して教科書でも実習書でもありません。また,完結した本でもありません。どちらかと言うと,発展途上の本です。しかしその発想で,今まで私達教える側に欠けていたことを強く主張する本です。学生が医学生として当然持ったら面白く実習できる,という点を見事についています。臨床の専門家から非常に適切なアドバイスも入っていますので,局所解剖の解析の仕方がとてもユニークにまとめあげられています。著者が記載しているように,学生の意見が発想の根底にあります。目線が学生の立場にあるため,フットワークが非常に軽く,局所の理解を進めることができるように工夫されています。発展途上にあると述べた通り,課題は必ず増えていきますし,医学生の医学生による医学生のための必読書としてこれから育っていく本だと思います。ただ現在のサイズは手頃で,この発想が非常に重要であるという点を学生に適切に伝えられるものと思います。

 本書は基本的に臨床局所解剖の形式を取るため,イントロダクションを含めて6つの領域にわけられます。各セクションで最も基本となる問いかけをし,それを説明する形式で話を進めています。ですから実習する医学生は,各領域でどのような臨床の場が繰り広げられ,それが解剖の作業とどのように絡んでくるのかを考えさせられ,楽しくなります。その意味で,本書はヒット作であると思います。本書を企画し,それを精力的に仕上げた著者に心からエールを贈りたいと思います。

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