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症例で学ぶ肺非結核性抗酸菌症

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『呼吸器ジャーナル』誌の好評連載「症例で学ぶ非結核性抗酸菌症」をアップデートして書籍化。近年、著しい増加傾向にある肺非結核性抗酸菌症。患者の拾い上げが進む一方、不明点も多く「いつからいつまで、どのように治療すべきか」、臨床上の課題が多く残されている。本書では具体的な症例を元に、これまでにわかっているエビデンスと、臨床現場ではこのように対応すべきというエキスパートオピニオンとを交えて解説する。
編集 長谷川 直樹 / 朝倉 崇徳
発行 2020年11月判型:B5頁:264
ISBN 978-4-260-04249-9
定価 5,500円 (本体5,000円+税)

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 この度,『呼吸と循環』および同誌をリニューアルした『呼吸器ジャーナル』誌(医学書院)において22 回にわたり連載された「症例で学ぶ非結核性抗酸菌症」を書籍としてまとめることになりました.同連載は,特定非営利活動法人非結核性抗酸菌症・気管支拡張症研究コンソーシアム(NTM-JRC)の協力のもと,患者数は顕著に増加している一方で未解決の臨床的課題が多い肺非結核性抗酸菌(NTM)症への対応について,臨床例を呈示しエキスパートの対話を通して解説してきました.今回,2020年7月に米国胸部疾患学会/欧州呼吸器学会/欧州臨床微生物感染症学会/米国感染症学会(ATS/ERS/ESCMID/IDSA)から肺NTM症の治療ガイドラインが発せられましたが,各国の診療ガイドラインと同様に,どのような患者に対して,いつ,どのような治療法で,いつまで治療を続けるのかについては,いまだ定まっておらず,患者背景や原因菌種,画像所見などを総合的に勘案し,個々の症例ごとにその都度最適な判断が求められており肺NTM 症診療の難しさを物語っています.
 本書では,臨床現場で遭遇する可能性のあるさまざまな臨床的諸問題について,課題ごとに実際の症例を取り上げ,『呼吸器ジャーナル』誌に掲載時以後の情報やエビデンス,エキスパートの考え方(エキスパートオピニオン)を織り交ぜながら具体的にどのように診療を進めていくべきかについて解説しています.また,今回の書籍化にあたっては,新たなエビデンスを取り入れ,わが国の状況も鑑みて肺NTM 症の疫学,診断,治療,診療ガイドラインに関する総論原稿を追加しましたので,すでに連載をご愛読いただいた先生方にも十分お役立ていただけると思います.
 2020年1月,「日本結核病学会」は「日本結核・非結核性抗酸菌症学会」に改称されました.同学会の総会・支部地方会において,NTM関連の発表が大幅に増えてきましたが,それは肺NTM症診療に携わる医療者が増え続けていることを示しています.本書が皆様のお役にたちましたら幸いです.

 2020年9月
 長谷川直樹

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第1章 総論
 疫学─増加する肺非結核性抗酸菌症
 診断総論─どのような患者を,どのように診断するか
 治療総論─治療における一般的な注意点
 ガイドラインup-to-date

第2章 症例で学ぶ肺非結核性抗酸菌症
 1.肺MAC 症の診断・治療─難治性病態も含めた治療戦略
  各論1 人間ドックで異常を指摘された中葉舌区陰影
  各論2 新規に診断された肺MAC症
        ─誰を,いつからいつまで,どのように治療すべきか
  各論3 予定通りに肺MAC症の治療ができないときの対応
   (1)肝機能障害・薬疹
  各論4 予定通りに肺MAC症の治療ができないときの対応
   (2)視神経症・その他
  各論5 標準治療では効果が不十分な肺MAC症
        ─フルオロキノロンおよびアミノグリコシド系薬の役割
  各論6 治療経過中にみられたクラリスロマイシン耐性の肺MAC症
  各論7 肺切除術を考慮された難治性肺NTM症─外科手術の適応
 2.知っておきたいMAC 以外の肺NTM症
  各論8 肺結核症と類似する肺NTM症─肺M. kansasii
  各論9 近年増加傾向にある肺NTM症─肺M. abscessus complex症
  各論10 喀痰から検出された同定困難なNTM─稀な菌へのアプローチ
 3.肺NTM症に関連する注意すべき合併症
  各論11 肺アスペルギルス症の合併が疑われた肺NTM症
  各論12 突然の呼吸困難をきたした肺NTM症─気胸の合併
  各論13 経過中に喀血をきたした肺NTM症
  各論14 胸水から培養されたNTM─胸膜炎
  各論15 肺NTM症の経過中に増大した結節陰影─肺癌の合併
  各論16 経過中に緑膿菌が持続的に検出された肺NTM症
 4.こんなNTM症もあります─特殊な病型のNTM症
  各論17 亜急性の経過で出現した胸部異常陰影─過敏性肺炎型の肺MAC症
  各論18 結節から検出されたNTM─孤立肺結節型の肺NTM症
  各論19 肺・血液・肝臓・骨髄から検出されたNTM
        ─抗IFN γ中和自己抗体陽性の播種性NTM症
 5.合併症としての肺NTM症─基礎疾患に要注意
  各論20 肺NTM症の背景に隠された基礎疾患─気管支拡張症の鑑別
  各論21 関節リウマチ患者にみられた胸部異常陰影

索引

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肺非結核性抗酸菌症診療のクリニカル・パール
書評者:喜舎場 朝雄(沖縄県立中部病院呼吸器内科部長)

 近年,非結核性抗酸菌症例の検出率と診断症例の上昇が顕著で,呼吸器感染症の中でも注目されている疾患である。しかしながら,わが国での疫学・診断方法・治療開始の時期などについては不明な点も多い。

 今回,医学書院から『症例で学ぶ肺非結核性抗酸菌症』が上梓された。本書の構成は大きく総論と各論に分かれ,総論では最新のわが国の疫学情報,臨床的および細菌学的基準の意義,菌種ごとの使用治療薬の相違点と使用上の注意点,2020年に公表された米国胸部疾患学会/欧州呼吸器学会/欧州臨床微生物感染症学会/米国感染症学会(ATS/ERS/ESCMID/IDSA)ガイドラインの臨床的疑問に対する推奨とその解説をして,具体的な症例の診断・治療のイメージが湧くように配慮がなされている。

 各論では日常診療で遭遇する具体的な症例を呈示し,対話形式で大変わかりやすく個々の症例をひもといている。会話の中で特に読者に伝えたいメッセージについては太字で強調して非専門医にも理解が深まる構成になっている。また,症例のまとめの後にこれまでに明確になっているエビデンスを項目別にまとめ,最後にはエキスパートオピニオンとして箇条書きで各症例のポイントを絡めて記載されており,肺非結核性抗酸菌症診療のクリニカル・パールがここに散りばめられていると言っても過言ではない。エビデンスにも日本の保険適用に関する情報がしっかり盛り込まれ,結節・気管支拡張型での隔日投与の可能性などにも触れられており,より適切な治療を意識していることも読み取れる。

 さらにわが国で近年増加傾向にあるMycobacterium abscessus complex(MABC)について,診断のみならず内科的・外科的な治療についても詳細に記述され,苦手意識のある読者の悩み・疑問に十分に答える内容になっている。

 また,代表的な合併症も個別に丁寧に記載され,疾患そのものの合併症としてのアスペルギルス症の予後不良因子と治療の優先順位もエビデンスをきちんと示して解説されている。そしてM. avium complex(MAC)症の重要な合併症である気胸と喀血について予測因子,遭遇した際の管理と治療の実際についても豊富な参考文献に裏付けされた推奨が記載されていて,現場でしっかり活用できるようになっている。最後のほうの症例では背景疾患の捉え方について現場の先生方が知りたい内容にしっかりと触れられている。

 以上のように本書の概要について述べてきたが,若い先生方には各症例呈示の中の現病歴に注目してもらいたい。病歴で必要な情報が漏れなく簡潔に述べられており,内科疾患の病歴聴取の参考にして欲しいと思う。また,複数の医師による対話形式でのテーマ別の解説は臨場感に溢れ,読者も一緒に個々の症例の担当医の気持ちになって読んでいける構成である。エビデンスとエキスパートオピニオンを読み込むことで肺非結核性抗酸菌症への親近感が湧き,実際の診断・治療への自信が持てると思われる。この1冊を手にすることで肺非結核性抗酸菌症の全てを理解し,より適切な診断と治療が全国の先生方の各施設・地域で展開されることを願います。


肺非結核性抗酸菌症診療のレボリューショナリー
書評者:倉原 優(国立病院機構近畿中央呼吸器センター呼吸器内科)

 医学書を読んで,鳥肌が立ったのは一体何年ぶりだろうか。こんなことを書くと,書評だから大げさに書いているのではないかと誤解されそうだが,事実である。

 ちまただけでなく,医学出版の世界も現在コロナ一色なのだが,呼吸器内科領域で脅威となりつつあるのが非結核性抗酸菌(NTM)である。その理由は,結核は近いうちに低まん延化する見通しだが,肺NTM症は今後高まん延化する懸念があるからだ。

 国際的には,肺Mycobacterium avium complex(MAC)症の主要薬剤はアジスロマイシン(AZM)とされている。クラリスロマイシン(CAM)よりも推奨度が上がったのだ。日本結核・非結核性抗酸菌症学会社会保険委員会の尽力もあって,2020年にようやくAZMが肺NTM症に対して保険適用されるようになった。しかしながら,3日間以上AZMが処方されているのをみて,いまだ奇異の目を向ける人が多い状況であり,肺NTM症診療の時計の針はなかなか進んでいない。

 肺NTM症診療は,エビデンスやガイドラインレベルで片が付いている部分と,エキスパートオピニオンレベルでこうすべきだという部分が混在しているため,目の前の課題がどちらなのかがわからず,診療を苦手とする医師が多い印象である。

 この本は,前半でエビデンス・ガイドラインレベルの話がまとめられており,後半では症例を検討しながらエキスパートたちがディスカッションする。実診療上のlimitationも加味した上で,症例に対して熱い議論が交わされる。CAM耐性の肺MAC症をどう治療するか,肺アスペルギルス症合併の肺MAC症をどう治療するか。意見が少し違う方向を向いていても,なぜそう思うのかというデータや私見を述べている。本書の出版直前,13年ぶりに米国胸部疾患学会/欧州呼吸器学会/欧州臨床微生物感染症学会/米国感染症学会(ATS/ERS/ESCMID/IDSA)ガイドラインが改訂されたのだが,それを反映した内容に仕上がっている。

 NTMの専門家には,レジェンドと呼ばれる人たちが何人かいて,彼らとともに患者と向き合ってきた将来のNTM界を担っていくレボリューショナリーが存在する。この本は両者の共演であるが,レボリューショナリーの産声でもある。とはいえ,読者がそのレベルまで“NTM力”を高める必要はない。あくまで現在,この世界の診療がどうなっているのかだけでも知っておく価値がある。

 そして,肺NTM症の高まん延化を迎えるにあたり,プライマリ・ケアでもそろそろ本症のことを意識する必要がある。もう時計の針は進み始めているのだ。

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