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エキスパート直伝 運動器の機能破綻はこう診てこう治す[Web動画付]

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指がしびれる、肩の前側がゆるい、膝がぐらつく…だが画像所見では筋骨格の「構造」にそれほど異常はみられず、臨床像と一致しない。そうした「運動器の機能破綻」にこそ、理学療法士ならではの視点・思考を活かす醍醐味がある。一連の評価・観察のなかで患者を悩ませる運動学上の破綻を的確に捉え、構造的要因と機能的要因を明らかにし、策を講じる。本書では運動器理学療法で実績のある執筆者陣にこれらの戦略を披瀝いただいた。
*「理学療法NAVI」は株式会社医学書院の登録商標です。
シリーズ 理学療法NAVI
福井 勉
発行 2019年06月判型:B5頁:184
ISBN 978-4-260-03835-5
定価 3,850円 (本体3,500円+税)

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シリーズ刊行にあたって 「理学療法NAVIシリーズ」のねらい(網本 和)/はじめに―運動器の機能破綻に立ち向かう(福井 勉)

シリーズ刊行にあたって
「理学療法NAVIシリーズ」のねらい

New Approach for Various Issues)
 今日,多くの理学療法課程を学ぶ学生が存在し,新人理学療法士もまた急増している.一人ひとりの学生や新人にとってみれば,学ぶべき医学的事項は飛躍的に増加し,膨大化する情報は錯綜している.このような状況においては,真に必要で価値のある基本的な知識と新しい技術の修得が求められる.ここでのNAVIはナビゲーション(航海術)を表しており,情報の大海のなかで座礁することなく海路を拓いてゆくための方略である.
 本「理学療法NAVIシリーズ」は,理学療法,リハビリテーション医療において,きわめて基本的で不可欠な情報を厳選して示すことで,この世界に踏み出そうとするフロンティアのための水先案内人となることを志向している.

 2016年9月
 首都大学東京・教授 網本 和


はじめに―運動器の機能破綻に立ち向かう

 腰を反ると痛い,足の付け根が詰まる,手の指がしびれる……運動器の機能破綻症例は,経験年数の多寡にかかわらず,多くの理学療法士が担当・対応するものです.肩関節挙上動作の際に疼痛があるけれど,単純X線像では異常所見がみられない,または,異常所見がみつかったとしても,臨床症状とのずれがある―すなわち,骨構造には破綻がみられないものの,機能破綻(障害)が生じている状態です.
 検査画像では異常がなくとも患者を悩ませるこれらの機能破綻を詳細に評価していくと,「正常に動いていない」ということは明確になります.しかし「正常運動」とは,どのようなことを指すのでしょうか.
 「機能破綻」という言葉は多くの事柄を含んでいるため,理学療法士が評価できることには限界があります.例えば筋作用のタイミングなどの評価は適切なものがないのが現状であり,機能破綻が生じていることを論理的に追究するには難しさがあります.しかしここにこそ,運動器のエキスパートとしての理学療法士ならではの視点・思考を活かすことができる醍醐味があるのです.
 骨折後に松葉杖歩行をするのは,骨に対する免荷のためであり,松葉杖を使わなくてはならない原因は明らかに骨折です.ところが,ジャンパー膝の疼痛の原因はジャンプという運動にあります.「ジャンプの機能破綻」ということもできるし,「overuse(過用)」ともいわれる所以ですが,これは練習量という量的なものだけでは語れません.「膝関節伸展機構の使い過ぎは全身運動の結果もたらされた」,と考えるのが妥当ではないでしょうか.
 理学療法士が患者の動作を観察する際に,現在観察している動作が疾患の「原因」なのか「結果」なのかを判断することは,治療立案上きわめて重要です.なかでも前者,すなわち運動が原因となると話は少し難しくなります.なぜなら原因である運動の要素を見極めるためには,動作の良好な変化こそがアウトカムになるからです.徒手筋力テストでは筋力,関節可動域評価では関節可動域の評価が可能ですが,この評価項目単独では,「筋力低下に対する筋力強化」,「関節可動域制限に対する関節可動域運動」という発想になってしまいます.これでは因果律が狭いのです.外傷や手術後の理学療法では個別評価が重要になりますが,運動自体が原因の場合には頭を切り替える必要があります.
 例えば,変形性膝関節症における大腿筋膜張筋の高い筋緊張は多くの患者に共通してみられる所見ですが,この筋緊張は変形性膝関節症の「原因」,「結果」どちらなのでしょうか.メカニカルストレスの経時的変化がもたらす変形,疼痛,筋力低下,関節可動域制限など膝周囲の問題は原因,結果どちらによるものなのかを追究する必要があり,安易に結果に対してアプローチすべきではない場合もあるのです.
 前述の「構造破綻」と「機能破綻」の関係には,動作をどのように評価に取り込むのかという大命題が隠されています.つまり動作自体の原因に踏み込まざるを得ないときがあるのです.しかし昨今の理学療法の現場において,こうした機能破綻症例に対し,理学療法士は適切な,そして戦略的・効果的なアプローチを実践できているでしょうか? 漫然と当たり障りのない理学療法を行い,「効果がない」と嘆いていないでしょうか?
 理学療法士が十分な動作観察のスタンダードテクニックをもち合わせていない今,治療のストラテジー(戦略)を立てる方法のヒントはその道のエキスパートが有しています.本書では,各エキスパートに機能破綻に対する傑出したアイデアを披露していただき,読者の皆さんが臨床上の難問に取り組むヒントになればよいと考えています.同時に,執筆者がそのように考えるに至ったプロセスを学ぶことが,読者の皆さんの大きな動機づけになることも期待しています.
 それでは理学療法士がよく遭遇するさまざまな機能破綻に立ち向かうための,エキスパートたちのストラテジーをみていくことにしましょう.

 2019年5月
 福井 勉

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1 足の付け根が詰まる―股関節屈曲時のimpingementの改善

2 骨盤側方swayを大きくする―股関節症における治療効果を判定する重要な症候

3 手の指がしびれる―機能障害の特定と筋緊張の改善

4 肩の前側がゆるい―肩関節前方不安定症のコントロール

5 体幹が硬い,弱いと肩関節を痛めやすい―体幹から図る肩関節安定化

6 膝が不安定―膝前十字靱帯再建術後の不安定性予防

7 歩くと膝が痛い―高齢者の膝関節の疼痛コントロール

8 尿失禁と腰痛に悩む産後女性―インナーユニットの機能破綻への対応

9 歩くと痛い―足底筋膜とアキレス腱の歩行時痛とそのコントロール

10 座ると傾く―座位不安定の改善

11 腰を反ると痛い―伸展時の腰痛の改善

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親切でユニークな工夫満載のエキスパートによる直伝書
書評者: 吉尾 雅春 (千里リハビリテーション病院副院長)
 多くの方はご存じであろうと思うが,私は脳卒中に代表される中枢神経障害を持つ患者の理学療法をより専門にしている。とはいえ,回復期リハビリテーション病棟のみで構成される病院に勤務していることから運動器に問題を持つ入院患者も相応に存在する。多重骨折や頭部外傷を伴う骨折例も多く,人工股関節では回復過程で難渋する事例が多い。その問題に直面したときに長年,札幌医大解剖学教室で学んださまざまな知識や思考過程が生かされている。

 運動器の障害を持つ患者の理学療法は脳卒中のそれとは比較にならないほど科学的であると受け止めているが,時に私には理解できないような説明がなされることがある。それは評価においても運動療法においても存在する。一番大きな原因として私自身に十分な経験がないことが挙げられる。書籍で矢印を用いて運動方向などを細かく図説されていてもリアルに理解することはかなり難しいことである。

 この直伝はそうそうたるエキスパートの理学療法士たちによるものであり,それらの内容には自ずと重みもある。確たる知識があって,患者を視て,観て,触って,診ているからこそ書ける内容であろう。とはいえ,微妙な力で細かい動きやタイミングを伴うような評価を文字や矢印で解説するには限界もある。いや,それは不可能であろう。それを一気に解決したのがQRコードおよびURLによるWeb動画である。動画は76点にも及ぶ。代表的な冠のついた評価法はもちろんのこと,図解では限界がありそうな細かい動きやタイミングが実によくわかる。やはり動きは動きで説明したほうがよいということである。

 本書は11名のエキスパートの解説で構成されるが,そのタイトルが実にわかりやすい。決して難しい言葉を使わず,とても臨床的である。その著者を見ると納得,である。

 それぞれの章は症候の説明に始まり,機能解剖,機能破綻と構造破綻の関係性,どう評価するか,どう治療するか,という流れになっている。本書に登場するエキスパートの真骨頂は「機能破綻と構造破綻」の解説にある。ここの理解ができなければ漫然とした理学療法擬きが日々繰り返されることになる。ここに注目,という項である。

 読者のための細かい工夫も多くみられる。重要な箇所には下線を施してあり,自ずと目を向ける。また,「どう評価するか」という項では特に重要と思われる小見出しに[最重要]と付記してある。さらに,評価のまとめとして3項目程度の「評価のポイント」とエキスパートからのアドバイスが提示されている。

 「どう治療するか」の項はとてもユニークである。エキスパートなりに治療すべき項目を挙げて解説しているが,それぞれに[有効★],[技あり★★],[一本★★★]と表示して有効性や重要性を伝えようとしている。評価と同じように,ここでも治療のポイントとエキスパートからのアドバイスで締めくくっている。

 とても親切でユニークで読みやすく,それでいて臨床的で十分重みのある書籍に出合えた。
福井勉が選んだ運動器理学療法のエキスパート軍団の豊富な臨床経験がこの一冊に集約
書評者: 荒木 茂 (石川県立明和特別支援学校)
 編者の福井勉教授の人脈と眼力で集めた,運動器の理学療法のエキスパートが書いた本。これだけで新人理学療法士だけでなく,私のような昭和の理学療法士にとっても必読の本であることは間違いない。

 腰痛や股関節,膝関節痛など,運動器疼痛症候群は明らかな外傷や,腫瘍,感染症などレッドフラッグを除けばその人の長年の姿勢や生活習慣,職業,スポーツなどにより特定の組織に物理的ストレスが,繰り返しまたは持続的にかかることによる累積加重型損傷が多い。何らかの機能破綻による特定の組織に対する物理的ストレスの蓄積が痛みの原因となり,ついには構造破綻を起こす。痛みのある部位を治療し患者の訴えが一時的に改善したとしても,原因となっている機能破綻(異常姿勢アライメントや異常な運動パターン)を改善しなければまた再発を起こす。再発を防ぐためには痛みの原因となる機能破綻に対する運動療法が必要であり,理学療法士の専門性が発揮されるところである。

 しかし,患者によって異なる機能破綻を評価により特定することはかなり知識が必要になる。MMTやROMテストなどの量的な評価ではこの機能破綻をみつけることはできない。姿勢アライメントや運動の質を評価することが必要であり,その方法が本書では代表的な症候に対して記載されている。

 本書の構成は1,2章が「股関節・骨盤」,3章「上肢」,4,5章「肩関節・胸椎」,6,7章「膝関節」,8章「骨盤底筋」,9章「足部」,10,11章は「体幹,腰椎」の機能破綻についてと,ほぼ全身の問題について網羅されている。そしてそれぞれについて,(1)症候,(2)機能解剖,(3)機能破綻と構造破綻の関係性,(4)どう評価するか,(5)どう治療するかという項目について簡潔に書かれている。1章ごとに完結しているので臨床の場でも短時間で読むことができる。まずは全体を一読し,次に臨床で困ったときに該当する章を読み参考にするとよい。

 新人理学療法士はもちろん経験のある理学療法士にとってもルーチンワーク化した治療を見直すためのよい教材になることは間違いない。おそらく今まで気が付かなかった新しい視点を多く発見することができるだろう。評価,治療はWeb動画もついているので実際のイメージもつかみやすい。

 運動療法は身体に障害がある者に対して医行為として行われる,理学療法士の専門分野である。医学的な根拠に基づいて行われなければならないし,医学の進歩とともに運動療法も変化していかなければならない。しかし,現場では関節可動域運動やストレッチ,筋力テストの肢位での徒手的抵抗運動による古典的筋力強化法がまだまだ主流のように感じられる。もちろん基本は大切にしなければならないが,本書を参考に多くの理学療法士が機能破綻の治療という視点で現場を変えていくことができれば,出版を企画した福井教授の思いが叶うことであろう。

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本書の記述の正確性につきましては最善の努力を払っておりますが、この度弊社の責任におきまして、下記のような誤りがございました。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。

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