臨床の“疑問”を“研究”に変える
臨床研究 first stage

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どのように研究のテーマをつかむ? 対象や研究デザインはそれでOK? 統計の落とし穴にはまっていない? 理学療法士による、理学療法士のための臨床研究入門書の決定版! 実際に陥りがちな失敗例や改善例、また用語解説を多く配しているので初学者でも通読できる。はじめての学会発表・論文投稿・英語での発表もこの1冊で怖くない! 臨床研究のプロによるやさしい解説でaccept(受理)をめざそう。
*「理学療法NAVI」は株式会社医学書院の登録商標です。
シリーズ 理学療法NAVI
網本 和 / 高倉 保幸
発行 2017年10月判型:A5頁:296
ISBN 978-4-260-03227-8
定価 3,300円 (本体3,000円+税)

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シリーズ刊行にあたって 「理学療法NAVIシリーズ」のねらい(網本 和)/これから臨床研究をはじめようとするみなさんへ(網本 和)

シリーズ刊行にあたって
「理学療法NAVIシリーズ」のねらい

New Approach for Various Issues)
 今日,多くの理学療法課程を学ぶ学生が存在し,新人理学療法士もまた急増している.一人ひとりの学生や新人にとってみれば,学ぶべき医学的事項は飛躍的に増加し,膨大化する情報は錯綜している.このような状況においては,真に必要で価値のある基本的な知識と新しい技術の修得が求められる.ここでのNAVIはナビゲーション(航海術)を表しており,情報の大海のなかで座礁することなく海路を拓いてゆくための方略である.
 本「理学療法NAVIシリーズ」は,理学療法,リハビリテーション医療において,きわめて基本的で不可欠な情報を厳選して示すことで,この世界に踏み出そうとするフロンティアのための水先案内人となることを志向している.

 2016年9月
 首都大学東京・教授 網本 和


これから臨床研究をはじめようとするみなさんへ

 筆者が新人のころ,担当させていただいたケースについてお話しします.70歳台の男性で,発症後3か月経過した広範囲な左脳梗塞,重度右片麻痺,全失語で日常生活は座位保持が可能,右上下肢他動運動時に疼痛を訴えていました.移乗動作は中等度の介助,歩行は平行棒内で全面的な介助により理学療法を行っていました.当初,患者さんは疼痛があり関節可動域維持改善のための他動運動に強い拒否を示されました.失語症状もあり,なかなかお体に触れさせてもらえず新人だった筆者にはお手上げ状態でしたが,付き添われていた奥様はなぜか本人の意思を理解しておられ,奥様をとおして何とか立位,歩行練習にこぎつけました.2か月くらいかかってバランスが改善し,歩行も軽介助程度になり,これもなぜかはわかりませんが筆者のいうことにも協力して動作を行っていただけるようになりました.
 最終的に歩行自立には至りませんでしたが,退院時にお別れの挨拶をすると,発語はありませんが涙を浮かべた表情から大変感謝されていたことがよくわかり,筆者もまた深い感銘をうけました.筆者は自らの臨床力不足に無力感を覚えましたが,それでも多少の臨床的改善が得られたのはなぜかという思いをもちました.筆者の行った理学療法が効いたのでしょうか.いやいや自然によくなったと考えるのがそれこそ「自然」というものでしょう.
 自分が行っている(行おうとしている)理学療法が,本当に効果があるのか,適切な方法なのか,という問いかけは臨床家であればだれでももつものと思います.本書はこのような基本的疑問に応えるために,臨床研究をわかりやすく解説したものです.おそらく日々向き合うケースから生まれるさまざまな疑問を研究に変えていき,さらに研究から臨床へのフィードバックによって臨床力が高められるのではないでしょうか.
 シリーズ名称であるNAVIはナビゲーション(航海術)で,臨床の大海のなかで座礁することなく海路を拓いてゆくことを示しています.臨床研究を始めようとするとき,臨床研究で迷いが生じたとき,本書を手元に置き参照することで新しい理学療法にささやかながら役立つことができるとすれば,これほどうれしいことはありません.

 2017年 初秋のころ
 編者を代表して 網本 和

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序 これから臨床研究をはじめようとするみなさんへ

1 臨床研究のススメ
 (1)臨床研究の意義-臨床研究はなぜ必要?
 (2)臨床研究の分類-デザインさまざま,臨床研究

2 臨床研究-素朴な疑問からはじめよう
 (1)その研究は本当に重要?-テーマの見つけ方
 (2)研究テーマについての情報を得るために-研究につながる抄読会・勉強会
 (3)どんなキーワードが必要?-文献の集め方
 (4)特性を踏まえて活用しよう-ガイドラインを読む・使う

3 研究デザインのポイント-陥りやすい罠とは?
 (1)患者さんの理学療法の効果を知りたいとき,どのような研究デザインを考える?
    -研究デザインの選択
 (2)それぞれの研究デザインの特徴を把握しよう-研究デザインの概要
 (3)研究の対象者の選び方,それでOK?-基準の数と対象者バイアス
 (4)研究の価値を損なわないために-アウトカムの設定,測定方法とバイアス
 (5)症例研究をはじめよう-症例研究に必要な項目
 (6)リハビリテーション場面でよく用いられる1人の被験者を対象とした実験研究法
    -シングルケース法の基本と解析法
 (7)シングルケース法を使った研究はどのように発表する?
    -シングルケース法の実際と限界
 (8)理学療法アウトカムの原因と結果の関係を解析する研究法
    -後ろ向き観察研究の基本と解析法
 (9)「原因から結果」という時間軸で経過を観察しよう
    -観察研究:前向き研究の利点と欠点
 (10)質問から患者さんの意識や認識,行動について知りたい
    -調査研究:アンケート調査の方法
 (11)新しい治療法は臨床応用可能?-介入(実験)研究の方法論
 (12)より明確に治療効果を証明するための工夫
    -介入(実験)研究の実際例と限界
 (13)理学療法介入効果についての質の高いエビデンス構築のために
    -メタアナリシスの進め方

4 研究倫理-これなしに研究はすすめない
 (1)倫理的問題があると研究の価値を失ってしまう-研究倫理とは?
 (2)研究計画に倫理的な問題がないことを確認する-倫理審査委員会とは?
 (3)申請する前に教育・研修が必要-倫理審査委員会への申請
 (4)機器の提供を受ける,企業から講演料を受け取る-利益相反とは?

5 測定機器の適応と限界-何を測定するのか,正確に測定できるのか?
 筋力・筋活動を測定しよう-HHD,BIODEX,CYBEX,EMG
 関節可動域を評価しよう
  -ゴニオメータ,フレキシブルゴニオメータ,スパイナルマウス
 呼吸機能を評価しよう
  -トレッドミル,自転車エルゴメータ,呼気ガス分析装置,スパイロメータなど
 脳機能を測定しよう-fMRI,fNIRS,TMS,tDCS
 バランス機能を測定しよう-静的・動的重心計
 動作・運動分析を行おう-2次元・3次元動作解析装置

6 統計学に気をつけて-シンプルイズベスト
 (1)まずはじめに尺度とPECOを考えよう-統計手法の選択
 (2)収集したデータをどのように要約・表現する?-尺度と記述統計
 (3)本当に2つのグループには差がある?-差の検定
 (4)2つの変数の関係を表し,全体像を把握するには?-分割表の検定
 (5)比較したい対象が3群以上あるときに適している統計手法は?
     -一元配置分散分析と多重比較法
 (6)2つの要因による影響を同時に解析するには?-二元配置分散分析
 (7)新しい運動負荷試験の信頼性について研究したい-信頼性分析
 (8)2つの変数をデータとしてその関係を調べたい-単回帰分析
 (9)10m障害物歩行時間(秒)に影響する要因は単純ではない
     -重回帰分析・多重ロジスティック回帰分析
 (10)統計解析ソフトを使って検定を行おう-各種ソフトの活用

7 研究の果実-ここまで来たらあとは発表するだけ
 (1)発表してみよう!-口述・ポスター発表の要点と注意点
 (2)英語で発表してみよう!-英語の場合の定型的挨拶表現
 (3)論文化のルール,これだけは!-学術論文執筆の注意点
 (4)図表作成のポイント
 (5)どの雑誌に投稿するか?-投稿先の選択と投稿規定の確認
 (6)ルールを知らないと大変!?-国際誌への投稿と査読者への返信

コラム
 質的研究の意義と難しさ

索引

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長年の臨床経験と研究実績を基盤とした「研究法」のナビゲーション(航海術)
書評者: 木村 貞治 (信州大教授・基礎理学療法学)
 超少子高齢社会という情勢において,理学療法には,治療的介入と予防的介入の両面からの対応による,国民の健康や生活の質向上に向けての貢献が求められている。このような中で,安全で効果的な理学療法を実践していくために理学療法士の力源となるものは,対象者の健康や生活の質の向上を願う熱意と,自身の専門性の向上を追求し続けるプロフェッションとしての自律的な向上心である。

 その志を具現化するための第一歩は,対象者の臨床的,心理・社会的特性と,自身が実施した理学療法の内容,そして,その結果に関する正確な記述と振り返りである。このような臨床活動の記述と振り返りという能動的な学びが継続されなければ,臨床実践の経験は,個々の理学療法士の記憶の引き出しの中に,無形の「暗黙知」としてとどまることになる。そこで,理学療法における臨床実践の経験的事実を,可能な範囲で「形式知」として明示化し,経験科学という枠組みの中で体系的に整理していくことが,生涯学習における重要な礎となる。この臨床実践の形式知化を通して,評価・治療・指導方法やその効果に関する疑問などさまざまな臨床的疑問(Clinical Question:CQ)が生じることになる。

 日々の臨床実践から生じたCQを解決するためには,CQに関連したエビデンスの内容,自身の臨床能力(知識,技能,経験則),施設の設備・環境と,対象者の意向や価値観との折り合いをつけながら最適な臨床判断を行うための行動様式である「根拠に基づく理学療法(Evidence-based Physical Therapy:EBPT)」を地道に実践していくことが重要となる。日常の臨床活動において,CQに関するエビデンスも参照しながら真摯に対象者に対峙していく中で,次なる疑問が生じることになる。それは,より深く,より科学的に,臨床像を把握したり,理学療法の効果を検証したりするための評価方法や,より安全で効果的な治療方法,指導方法を考究する過程で派生してくる研究疑問(Research Question:RQ)である。このように日常の臨床活動から生じたCQとEBPTの実践,そして,その実践結果との照合から生じたRQを解決していくためには,正しい「研究法」の理解に基づいて,妥当性と信頼性のある臨床研究を地道に積み重ねていくことが,極めて重要な課題となる。

 本書は,編者や筆者の方々の長年にわたる臨床経験と研究実績を基盤として,理学療法士が,日々の臨床活動の中でCQやRQに直面したときに,臨床という大海原で,臨床研究の針路を正しく進んでいくために不可欠な「研究法」というナビゲーション(航海術)の全容が,とてもわかりやすく示されている。海図としての本書の内容は,臨床研究の概念・哲学にはじまり,研究デザインの分類と実施上の要点,研究倫理,測定機器の特性と実際の測定方法,臨床例を題材とした統計解析の具体的な進め方,研究成果の学会発表や論文化の要点,そして,国際誌への投稿方法までが,図や表も活用しながら,とてもきめ細やかに,そして,包括的に解説されている。特に,研究デザインや統計学などの章において組み込まれた「Case」というコーナーでは,代表的な神経疾患や運動器疾患など具体的な理学療法の事例が紹介されているため,理学療法における臨床研究の実際をとてもイメージしやすいように工夫されている。また,要所に記された「用語解説」のコーナーでは,臨床研究を進めていく上で鍵となる用語がわかりやすく解説されているため,研究法を理解していくための大切な道標になっている。

 本書の理解を通して,次代を担う理学療法士の皆さんが,エビデンスを使う臨床活動と,エビデンスを作る臨床研究活動というものを一体化させていくことの本質的な意義をしっかりと感じ取られ,そして,自律的な生涯学習を通して,わが国の理学療法の質を高めていくための力源として活躍していかれることを心から期待したい。
学部生や大学院生,研究指導者にも頼りになる素晴らしい一冊
書評者: 鈴木 俊明 (関西医療大大学院教授・保健医療学)
 『《理学療法NAVI》臨床の“疑問”を“研究”に変える臨床研究first stage』(網本和・高倉保幸編)を拝読した。長年,臨床研究をしている私にとって,大変楽しい書籍であった。

 本書は,臨床研究の意義,研究デザインのポイント,研究倫理,測定機器の適応と限界,データ処理に必要な統計学,学会発表・論文への投稿に至るまで,臨床研究に必要な全てを網羅しているところが特徴である。

 著者の顔ぶれをみると,理学療法の臨床研究におけるベテランの先生から,現在第一線で頑張っている若手研究者まで,多彩な面々で構成されている。そのため,理学療法の臨床研究にふさわしい具体例を挙げて説明されているところが多く,これから臨床研究を始めようとする理学療法士にもわかりやすく書かれている。今まで,理学療法研究に関する書籍をいくつか拝読したが,ここまで臨床に即した書籍はないと感じた。また,これは編者の思いであると感じるが,国際学会での発表の仕方,国際誌への投稿での留意点も詳細に書かれている。若い理学療法士に「国際的にも活躍してほしい」と願っていることが実感できる書籍である。

 私は日頃から,大学・大学院の学生に,「病院,施設などで理学療法士として勤務しながら,自分の疑問点を解決するためには臨床研究が重要である」と熱く語っている。しかし,臨床現場で勤務しながら,もしくは大学院に通いながら理学療法の研究を行っていた理学療法士が,ある程度の成果を挙げた後に「これからは臨床研究からは離れて,理学療法士としての臨床を頑張っていきたいです」という話をしてくる。こういうとき私は,自分の指導者としての未熟さを痛感するわけで,「臨床研究の大切さ」を伝えきれなかったつらさに打ちひしがれている。そのような時に,本書が発刊されていたら私が指導した若手理学療法士も,思いとどまることができたのではないかと思うのである。

 本書は,理学療法士で臨床研究をする方だけでなく,学部生や大学院生が臨床研究を始める前にぜひとも読んでほしい。また,私のように臨床研究を指導する方にとっても臨床研究の手法,指導法を再確認できる素晴らしい書籍である。

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