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グループワーク その達人への道

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学生の主体的な学びや社会的スキルを育むにはグループワークが効果的な方法の1つ。だからこそ、実際の授業でどのようにグループワークをすれば、効果的な学びにつながるのか、具体的に知りたい。そのような方には本書がオススメ。本書には、学生の学びを促すグループワークのしかけが、筆者の長年の経験をもとに多数紹介されている。まずは、グルーピングのしかたで学びの効果が左右されることに気づくでしょう。
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三浦 真琴
執筆協力 水方 智子
発行 2018年08月判型:B5頁:144
ISBN 978-4-260-03626-9
定価 2,640円 (本体2,400円+税)

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―おりをしり,時にしたがうて,格をこへ,物にかゝハらずして,物の心をえてふるまふ,是まことの達人なりと云わらんべ草-二1)


はじめに

初心者を大歓迎します
 本書は,授業にグループワークを導入したいけれども,どのようにデザインをしたらよいのかがよくわからずになかなか歩みだせない人,授業にグループワークを導入してみたものの,計画していたような展開ができず,また効果があるのかどうかも不明で困惑している人,あるいはもっと学生がいきいきと活動するようなグループワークはできないものかと模索している人,そのような人たちを主な読者として想定しています。すでにグループワークの経験が十分にあり,よりいっそうの高みをめざす人だけを想定しているのではない,ということです。「達人への道」との冠をつけてはいますが,それは初心者を門前払いするということではありません。
 グループワークについては,本文のなかで,順次,可能な限り丁寧に話を展開していきますので,ここでは「達人」について筆者が考えていることを申し述べておきたいと思います。初めてグループワークを授業に採り入れようと考えている人をも熱烈大歓迎していることが少しでも伝わればと願ってのことです。

達人になるための時間について
 そもそも達人とはどのような人であるのか,いくつかの辞書・辞典から語義をひろってみましょう。大辞林には「豊富な経験と長年の鍛錬により,その道の真髄を体得した人」とあります。経験を蓄積するためのまとまった時間と,その経験を身体化・言語化するための深い省察が必要だと思わせる表現です。「真髄」を獲得するに至る道のりの遥かなること,平らかならざること,さらに,その道を前へ歩んでいくために,一意専心,一行三昧,一念通天,面壁九年,とにもかくにも修業が必須であるという厳しさが伝わってくるようです。大辞泉には「技芸・学問の奥義に達している人。深く物事の道理に通じた人」とありますが,こちらも常人が近寄りがたい境地に到達した完成者という印象を抱かせる説明になっています。「真髄」や「奥義」とは,容易に人に伝えることのできない(あるいは安易に伝えることを許されない),奥深く最も重要な事柄という意味ですから,長きに亘る修業の末にそれを携えることが認められた者は,なるほど「達人」と呼ぶにふさわしいに違いありません。常人の与り知らぬ域に到達し,奥義秘伝を掌中に収め,いついかなる時にも動じることなく,見事に目的を達成する練達の者,それが達人だとしたら,あたかも雲上人のごとく,なんと遠い存在なのでしょう。
 ところで,マルコム・グラッドウェル(Malcolm Gladwell)によると,世界レベルの技術に達する(その道のプロとして必要な技量を身につける)にはどんな分野でも1万時間の練習が必要なのだそうです2)。日曜日を除いて毎日3時間の練習をすると10年かかる計算になります。先に掲げた「面壁九年」とは,壁に面して悟りを開くまで座禅を続けるのなら9年の歳月を要するということですが,来る日も来る日も3時間の座禅を続けると9年間でその積算が1万時間になりますから,故事に照らし合わせてもあてはまる法則なのかもしれません。とはいえ9年,10年はあまりに長すぎます。では,一日あたりの練習量を増やしてみるとどうなるでしょうか。日曜日を除いて毎日5時間のレッスンを続けるとすると6年半弱,平均的就業時間(8時間)を年中無休の修業に費やせば3年と5か月の時間を要することになります。しかし,グループワークをつつがなく運営するにいたるまでに3年半足らずの歳月をかけることは,困難というよりは不可能でしょう。なにより現実的ではありませんし,それが理にかなっているとも思えません。では,達人の域に達するまでに要する時間の問題にどのように対処すればよいのでしょうか。
 心強いことに,この有名な「1万時間の法則」に真っ向から異を唱えている人がいます。その人ジョシュ・カウフマン(Josh Kaufman)によれば,「たいていのことは20時間で習得できる」のだそうです3)。もっとも,それはプロとして独立できるレベルの技量を修得するためのものではなく,その技の楽しさを知るための時間と考えたほうがよさそうです。それは,たとえばプロのギタリストのような演奏はできないけれども,周囲の人とギターの演奏を十分に楽しむことができるようになる,ということです。本書では,まず教師の皆様にグループワークの楽しさを知ってもらいたいと願っています。その楽しさを知ることこそを達人への道の大切な一歩として位置づけているので,先に引用した「達人」の語義から,時として苦痛を伴う「長年の鍛錬」をまずは外そうと思います。

達人が習得する奥義について
 「時間」に続いて「奥義」についても考えておきましょう。この言葉からは,全容が見えにくく,そこにたどり着くのはもちろんのこと,言語化することさえ難しいものであるとの印象を抱かれると思います。しかし,実際はそうではないのです。武術や芸術の世界では師匠が弟子に奥義のすべてを書伝として授けますが,それはつまり技能・技芸の一切が言語化されているということです。この免許皆伝に示されるのは,言語化が可能で明示的な「型」ですから,これを形式知と呼んでも差し支えないでしょう。
 奥義とは型であり,形式知である,このように定義してしまうと,奥深さが雲散霧消してしまうように感じるかもしれませんが,型を学んだ後に,その型に縛られることなく独自の型を創り出していくところにこそ,奥深さがあるのだと思います。それはまさに「型破り」ということなのですが,型を破るとは,伝えられた型(形式知)をもとに実践を積み重ねては新しい型(実践知・暗黙知)を独自に創発していくということです。これはまさに,それぞれの経験から実践知を獲得しながら成長していく看護者の姿に重なります。つまり,奥義とは形式知の到達点であるとともに,新たな暗黙知の出発点でもある,ということになります。奥義とは,型の完成,完成型を意味するものではない,本書ではそのように考えることにします。そもそも,奥義として伝えられる形式知も先人たちの経験から得られた暗黙知をもとにして構築されたものであることを忘れてはなりません。このように,形式知と暗黙知は相互変換できるものであり4),伝えられた形式知に暗黙知を加えていくことで,その人独自の奥義(truth)が編み出される,ひとまずそのようにとらえておきましょう。

あらためて達人とは何者なのか
 さて,難所と思われる時間と奥義の問題をクリアしました。ここで再び達人について書き留めておこうと思いますが,少し趣を変えてみることにします。
 本書がめざす「達人」には,どのような英語が該当するのかを考えてみます。和英辞典によると,達人に相当する英語として,adept,artist,consummator,dab,demon,expert,fiend,master,maven,mavin,paragon,proficient,whiz,wizなどがあげられています。それぞれ文脈に応じて使い分けられるのですが,残念なことに,このなかには本書がめざす「達人」の姿にしっくりとあてはまるものがありません。ここで講談社の日本語大辞典の登場です。この辞典では日本語の語義に対応する英単語が存在する場合にはそれが示されます。第一義の「学問・技芸に通じた人」に該当する英単語としては使用頻度の高いexpertが掲げられているのですが,第二義の「人生を達観した人。さとりをひらいた人」にはphilosopherの語が当てられています。これは和英辞典の類には登場しない言葉です。Philosopherの原義はlover of wisdomです。知を愛する者とは,すなわち,自らの知的好奇心に忠実となり,頭と心を存分に働かせて,新たに知を創出していく人のことだと筆者は考えています。その知とは形式的な知識ではなく,実践に耐えうる知恵のことです。知識は経験を伴わなくても獲得できますが,知恵を得るためには経験が必要です。実践と思考をともに重ねながら,自分にとっての真実(truth)を探求していく,それが達人の姿なのだと思います。
 ところで,真実を探求する途次に,積み重ねられた経験や想いを省察するために,あるいはそれを人に伝えるために,経験や想いを明示的な形式知へと変更する必要の生じることがあります。暗黙知を育むとともに,それを形式知へと変換することができるのは知を愛でる心あってのことなのです。繰り返しますが,本書では達人をこのように知を愛し,その知のために思考と実践を継続する存在としてとらえたいと思います。
 本書が考える「グループワークの達人」とは,上手にグループワークを展開するための思索を重ね,然るべき知識とスキルを獲得して,それを実践に機械的に反映する人のことではありません。学生を生涯にわたってアクティブに学ぶ人間(lifelong active learner),個人の責任において継続学習のできる自立した職業人に育てるために,何をすべきで,何をすべきではないのか,それを丁寧に考えながら実践の可能性を探究していく人のことです。もちろんそこにはグループワークに関するノウハウに先立って,philosophyがなくてはなりません。
 以上を簡単にまとめておきましょう。グループワークの達人になるために,長い時間も難解な知識やスキルも必要ありません。出発は明示的な言葉で記された形式知です。ここにご自身の経験や想いを加味しながら思考と実践を積み重ねて自分なりのphilosophyをかたちづくり,個性的なグループワークの姿・かたちを創っていけばよいのです。

本書がお伝えすること
 本書では,筆者がこれまで学生に学びを楽しんでもらうために培ってきた想い,感覚,思考のフレーム,もののとらえ方や,グループワークの体験を通じて学んだことなどの暗黙知を,可能な限り言語化して読者の皆様にお伝えします。
 暗黙知には,「外からの観察が可能で,記述が容易なもの」「見ることは困難だが,言語化できるもの」「当事者は自覚していないが,第三者が聞き出して言語化できるもの」「当事者が無意識に行い,言語化が不可能なもの」の四層があり,それぞれに解明するための手段があるとされています5)。そこには単純ではない手続きが必要とされるものもありますが,幸いなことに,筆者は授業において学生スタッフ(ラーニング・アシスタント:LA)を活用しているため,グループワークの実践記録は豊富にありますし,筆者が無意識に発した言葉やとった行動の本意を彼ら彼女たちに尋ねられることで自身の実践を省察する機会も作ってもらっています。そのおかげで暗黙知を形式知に変換するためのヒントや情報には事欠きません。四層に及ぶ暗黙知であっても,そのほとんどを形式知に変換してお届けできると思います。
 とはいえ,お伝えするものが形式知だからといって,これをマニュアルとしてとらえないようにしてほしいと願います。グループワークの進歩や学生の成長を願うのであるならば,マニュアルは功を奏さないと心得ておかなければなりません。マニュアルがあると一定の安心感は得られるかもしれませんが,その安心感は実は何の役にも立ちません。マニュアルがあるというだけで,学生,教師の別を問わず依存心が生まれ,そこに書かれていることにしか注意を払わなくなってしまいがちです。同様に,マニュアルにないことにはまったく目を向けなくなってしまいます。マニュアルに依存するとは,すなわち形式知のレベルに留まり,新たに暗黙知を創出することに思いを馳せなくなるということなのです。その結果,グループワークの可能性が著しく狭められ,多くの場合,グループワークはかなり窮屈なものとしてとらえられてしまうのです。
 先ほど申し上げたように,本書では奥義を型の完成や完成型を意味するものとしてはとらえませんが,同様にグループワークにも到達すべき完成型があるとは考えていません。グループワークに到達すべき完成型があることを前提にすると,予定調和ばかりが重視され,完成型との距離や差異ばかりに目が向いてしまいます。大切なのは,その時その場で学生が何を感じ,何を考え,何を学んだのかであって,授業の指導案や授業計画通りにグループワークを展開することではないのです。グループワークについて,bestのかたち,たどりつくべき姿,マニュアルといったものを優先するような正解主義から,まずは自由になることが肝要なのです。達人への道の入口はそこにあると考えてみてください。
 お伝えすることはすべて,読者のみなさまが独自に暗黙知を創っていくためのヒントです。これを文字で伝えなければならないもどかしさはありますが,今日から始まるみなさまの実践のお役に立つことを願っています。

―実験室に入る時は「学説」という上着を脱がねばならぬ。
クロード・ベルナール6)



1) 狂言方の作法・稽古・演技・演出の心得から能楽一般の故実までを著した伝書。引用は二十六段より。大野虎明[著],笹野堅[校訂](2013)『わらんべ草(第4刷)』,145,岩波文庫
2) マルコム・グラッドウェル[著],勝間和代[訳](2009)『天才!成功する人々の法則』,講談社(原題は“OUTLIERS:The Story of Success”)
3) ジョシュ・カウフマン[著],土方奈美[訳](2014)『たいていのことは20時間で習得できる』,日経BP社(原題は“THE FIRST 20 HOURS:How to Learn Anything…Fast”)
4) 野中郁次郎,竹内弘高[著](1996)『知識創造企業』,東洋経済新報社
5) 森和夫(2013)「暗黙知の継承をどう進めるか」『特技懇誌』268:43-49
    http://www.tokugikon.jp/gikonshi/268/268tokusyu2-4.pdf(2018年3月28日閲覧)
6) フランスの医師,生理学者。パスツールとともに低温殺菌法の実験を行ったことで名を知られています。

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第1章 学習パラダイムにおける教師のスタンス
 1.アンケートの結果を本書の指針にする
 2.なぜグループワークなのか
 3.学生の過去・現在・未来を大切にする
 4.アクティブ・ラーニングを正しくとらえる
 5.パラダイムシフトの意味を丁寧に考える
 6.グループワークの導入を検討する前に

第2章 学生の「学び」を実現するために
 1.学生の知識獲得のスタイルについて考える
 2.熱意は必ずしも奏功しない・過ぎたる親切は善とは限らない
 3.グループワークで協調性を育む

第3章 グループワークの準備は入念に
 1.スケジュールを立てる
 2.グルーピングの準備をする
 3.学生が自主的に決めるグルーピング
 4.グラフィック・ファシリテーションを導入する準備

第4章 グループワーク初日の楽しさを演出する
 1.グルーピングを工夫する-「後楽体験」のすすめ
 2.グループの体温を上げる-自己紹介でアイスブレイク
 3.グループワークで留意すべきことを体験する
 4.グループワークの難しさと楽しさを予感する

第5章 グループワークの序盤で心がけること
 1.相手の立場になって考えることの大切さを体験する
 2.唯一無二の正解,最適解に拘泥しない姿勢を学ぶ
 3.意思伝達の難しさを体験する・情報の可視化の必要性を実感する
 4.情報の可視化の方法は一つとは限らないことを知る
 5.情報の要不要の判断に留意する
 6.判断するための選択肢の数を増やす
 7.多数決に頼らない合意形成

第6章 スモールワークで大切なことを再確認する
 1.相手の立場になって考えることの大切さを再確認する
 2.多面的に物事をとらえることの大切さを再確認する
 3.目の前にない情報の存在に気づくことの大切さを確認する
 4.水平思考が大切であることを確認する

第7章 グループワークにアクセントを
 1.他のグループの動向を知る
 2.自分たちのグループワークの現在地と目的地を把握する
 3.「自分史」を描く

第8章 コミュニケーションのチャンネルを増やそう
 1.学生と教師の意思疎通のチャンネルを創る
 2.卒業生が参加する機会を設ける
 3.学生の提案を授業運営・授業内容に反映させる
 4.学生にロールモデルを演じてもらう

索引

COLUMN
 [ここで一息]グループワークで学生も教員も笑顔になる
 [ティータイム]教えない勇気
 [おやつの時間]転ばぬ杖は必要?
 [ちょっとより道]学生を信じて一任する
 [コーヒーブレイク]グループワークの目的と目標(インパクトシート)
 [デザートはいかが?]卒業生が参加する授業
 [ひとやすみ]学生が創る授業

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グループワークを当たり前に実施する私たちにさらなる学びを与えてくれる
書評者: 鳥井元 純子 (美原看護専門学校学校長)
 この本を手にして,ページをめくっていると,三浦真琴先生の「グループワーク」の研修に参加した時のことを思い出します。

 私はその研修で,グループワークが効果的にできるための方略を学び,そして多くの方法を教えてもらおうと考えておりました。おそらく参加者の多くも私と同じような考えと期待を持っていたであろうことは容易に推察できました。

 そのときの三浦先生の研修は,マニュアルをひそかに期待して参加した私の姑息な考えをはるかに凌駕する内容でありました。明るく楽しくお話になる中に,先生の学習者に対する想いの深さが感じられました。また,その時その場で学生たちが何を考え,何を学んだかを大切にしなければならないという言葉が今さらのように胸に刺さったことを思い出します。私も含め参加者たちは,三浦先生の研修の楽しさと深い内容に引き込まれました。

 この本にはグループワークのための入念な準備の数々,グループワークの楽しさを引き出す演習のみならず,グループワークの主役である学生の学びを引き出すための多くの工夫や細やかな観察にも触れています。それらの記述には,三浦先生の教育に対するお考えがあふれていて,読み手にもよく伝わってくるでしょう。グループワークの持つ効果が学生たちの成長に役立つには,教員はしっかりと準備し,丁寧にかかわることが必要であることと,学生たちが十分な合意を形成できるよう教員が働きかけていく力を持つことが必要であること,グループワークの過程で,相手の立場に立つことを気付かせ,思考の幅を広げていく効果が大きいことを再確認できます。

 当たり前のようにグループワークを実施している私たちに,グループワークの素晴らしさと奥深さ,そしてさらなる学びを与えてくれる本であり,「やってみよう」という気持ちにさせてもらえる内容です。

 また,執筆協力者の水方智子先生のコラムは,とても具体的で,学生をおおらかに見守る姿が,三浦先生の明るく元気な語り口調と重なり,お二人の教育観に触れることができました。

 このタイトルの「達人」には到底到達できるはずもありませんが,「グループワークに完成型はない」こと,「マニュアルを優先する正解主義からまずは自由になること」という先生の言葉に力をいただき,これからもグループワークを続けていこうとの自らの気持ちを再確認いたしました。
学生の力を信じて,グループワークに取り組むための導きの書(雑誌『看護教育』より)
書評者: 興梠 清美 (東京慈恵会教務主任養成講習会教育責任者)
 学生の主体的な学びや社会的スキルを育むにはグループワークが効果的な方法の1つであり,看護教育の現場においても以前から熱心に取り入れられている。2012年中央教育審議会答申のなかで,高等教育改革のキーワードとしてアクティブ・ラーニングが明示され,具体的な学びの方法の1つとしてグループワークが提示された。しかしグループワークを行えば確実に目的が達成できるとは限らない。何のためにグループワークをするのか,どのようにグループワークを展開すれば学生の能動的な学習が促進されるのかを考えて行うことが重要である。

 本書には,著者の長年の経験をもとに学生の学びを促すグループワークのしかけが多数紹介されており,実践に役立つものばかりである。しかし,本書はいわゆるマニュアル本ではない。著者は,「グループワークの進歩や学生の成長を願うのであればマニュアルでは功をなさない。大切なのはグループワークを通して,その時その場で学生が何を感じ,何を考え,何を学んだかである」と,グループワークのノウハウに先立ってphilosophyがなくてはならないと述べている。

 本書は8章から構成されている。第1,2章はアクティブ・ラーニングを正しくとらえる土台として,協同学習,PBL,協調的学習の本来の考え方について説明されている。第3~6章は,学生がグループワークを進めるうえで注意すべきことに気づき,グループワークの意義や価値について理解できるよう授業の進度に応じて,ゲーミフィケーションの要素を取り入れたワークが数多く紹介されている。第7章は,学生のモチベーションを維持するための工夫,第8章は学生と教師の意思疎通・情報共有のあり方について述べている。

 また,執筆協力者である水方智子先生(松下看護専門学校)によるcolumnは実践例として理解しやすい。「転ばぬ先の杖は与えすぎない」「教えない勇気をもつ」という教員間での共通認識のもと教育改革が進められ,その状況において学生がどのように変化(成長)したのかという,能動的学修の成果が伝わり,教育の喜びが感じられる。

 「授業では手取り足取りしないけど,そうではないところで学生を信じ見守るそのようなスタンスは不可欠である。特に医療従事者をめざす学生が,あたたかな配慮や広きに届くまなざしに包まれているという感覚,包まれる体験は,将来の医療行為における姿勢やスタンスを形作るための重要な基盤になる」という著者の考えは非常に説得力がある。本書の根底に流れるのは一貫して,学生の成長を望み,学生を信じる著者のあたたかな深いまなざしである。

 学生の成長を願いグループワークを展開されている多くの人にも読んでいただきたい一冊である。

(『看護教育』2018年11月号掲載)

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