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看護のための人間発達学 第5版

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人間が胎児期から乳幼児期、学童期、思春期、青年期、成人期、老年期へと成長発達していく過程における、さまざまな心と身体の正常な発達に関する解説書。第5版では、各種データを更新し、内容の充実を図るとともに、家庭・子どもの貧困、ニート、引きこもりといった今日的な話題も充足した。
舟島 なをみ / 望月 美知代
発行 2017年02月判型:B5頁:312
ISBN 978-4-260-02875-2
定価 3,300円 (本体3,000円+税)

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第5版 序

 本書『看護のための人間発達学』は,1995年12月に誕生し,版を重ね,すでに21歳になった。この間,本書は多くの方々に愛用して頂き,ほぼ毎年の増刷に向け,『国民衛生の動向』の出版に合わせ,内容を更新することが筆者の重要な仕事の一つになった。
 1990年から3年間,在職していた短期大学の看護学科,理学療法学科の授業担当が本書誕生の契機となったことは初版の序に述べたとおりである。時折,出会う当時の学生たちはすでに大学教員,看護管理者,看護師,理学療法士などとなり,その多くが見事な職業的発達を遂げている。この状況が版を重ねるエネルギー源の一部となっている。
 初版に続く第2版では,次のような改訂を行った。(1)厚生省(現:厚生労働省)で「成人病」を「生活習慣病」として基本的な考え方に変化が生じたので関連箇所を改めた。(2)第2章の発達理論の項に,看護学教育において古くから活用されているハヴィガーストを追加した。(3)1998年当時,大きな社会問題となっていた児童虐待,家庭内暴力,老人虐待などについて,それぞれのライフサイクルの中に加筆した。
 第3版では,主に次のような改訂を行った。(1)未成年の喫煙や性感染症,犯罪が増加し,社会問題となっていたため,第5章にこれらに関する内容を加筆した。(2)群発自殺・ひきこもり・フリーター・ニートなども同様に青年期の人々を主とした社会問題となっており,第6章にこれらに関する内容を加筆した。(3)SARSが世界的規模で流行し,今後も人類の生命を脅かす重大な問題となる可能性があったため,同様の特徴を持つエイズ(AIDS)に続けて論述した。
 第4版では,主に次のような改訂を行った。(1)第Ⅱ部「人間のライフサイクルと発達」に,第3章として「胎児期」を加えた。その結果,本書は全9章構成になった。(2)メタボリックシンドロームや老年期の孤立や孤立死について加筆した。
 そして,第5版となった本書では,変動し続ける社会とそこに生きる人間の関係を確認しながら,主に次のような改訂を行った。(1)データや関連法規,根拠となる研究成果を最新のものに改めた。(2)子どもの貧困を発達に関わる問題として加筆した。(3)成人期の発達という観点からワーク・ライフ・バランスや定年退職について加筆した。
 また,著者の一人として望月美知代さんが加わったことも第5版の大きな変化の一つである。本書とともに,21年間,歩み続けた筆者も発達の最終段階に入った。本書の将来に向けての可能性を考えたとき,本書の根底に流れる理念を理解し,その上で,本書を発達させていくためには,本書の執筆に必要な能力を持ち,惜しみない努力を継続できる共著者が必要だという結論に至った。望月美知代さんは,これまで本書の増刷,改訂に向け尽力し続けたという実績を持ち,今後の本書の発展に向けても著者としての役割を果たしていける人材であると確信している。
 本書は,第5版に至る約20年間,編集を継続してくださった医学書院の杉之尾成一氏に代わり,吉田拓也氏,川口純子氏が編集・制作を担当してくださった。丁寧な仕事に敬意を表するとともに心より感謝申し上げる。
 本書の表紙と章扉の写真は,ノルウェーの彫刻家・ヴィーゲランの作品であり,グラフ社より提供して頂いている。筆者が20代の後半に,ノルウェーを訪れた際,偶然出会い,魅了された彫刻である。

 2017年2月
 舟島なをみ

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第Ⅰ部 人間発達学の概説
 第1章 人間と発達
  人間発達学とその意義
    人間を理解するための視点
    人間発達学の定義
    人間発達学の意義
  人間発達学における発達とその関連用語
    発達の定義
    発達をとりまく関連用語
  人間の発達における共通性
    発達の方向性
    発達の連続性
    臨界期(感受性期)
    発達の個人差
  発達に影響を及ぼす因子
    遺伝
    神経
    ホルモン
    栄養
    季節,気候,酸素濃度
    病気
    対人関係
    文化
 第2章 発達理論とその歴史的展開
  発達理論を理解する前提-用語「理論」の理解
  発達理論の歴史的展開
    前成説と後成説
    ロックの理論
    ルソーの理論
  現代の発達理論
    ゲゼルの発達理論
    エリクソンの自我発達理論
    ピアジェの認知発達理論
    ボウルビィの愛着の理論
    レビンソンの成人の発達理論
    ハヴィガーストの発達理論

第Ⅱ部 人間のライフサイクルと発達
 第3章 胎児期の心と身体
  人間のライフサイクルにおける胎児期
  心と身体の特徴
  形態・機能的側面の発達
    形態の発達
    身体各部のつりあい
    身長と体重
    機能の発達
  心理的側面の発達
    意識の芽生え
    自我の形成
    性格の素因の形成
  発達の評価
    身体の評価
    肺成熟の評価
    中枢神経系機能の評価
  胎児の発達に関わる問題と発達に影響を及ぼす因子
    胎児の死亡原因
    胎児の発達に影響を及ぼす因子
  発達に必要な支援
    母親の健康状態の確認と胎児の順調な発達の確認
    胎児の異常の早期発見・早期対応
 第4章 乳幼児期の心と身体
  人間のライフサイクルにおける乳幼児期
  心と身体の特徴
  形態・機能的側面の発達
    身体各部のつりあい
    身長と体重
    身体の評価
    頭囲と胸囲
    歯
    骨
    脳・神経系
    反射
    呼吸と循環
    消化吸収
    排泄
    免疫
    運動
  心理・社会的側面の発達
    自我,思考,愛着
    遊び
    言語
  発達の評価
    知能の評価(知能指数)
    多側面の発達の総合評価
  発達に関わる健康上の問題
    死因順位・受療率から見た問題
    排泄行動獲得の過程で生じる問題
    アレルギー
    児童虐待
  発達に必要な支援
    健全な家族の育成と子育て支援策の推進
    順調な発達の確認と異常の早期発見・早期対応
    感染症の予防
 第5章 学童期の心と身体
  人間のライフサイクルにおける学童期
  心と身体の特徴
  形態・機能的側面の発達
    身長・体重
    身長と体重による肥満とやせの評価
    歯
    骨
    呼吸と循環機能
    リンパ系組織
    運動
  心理・社会的側面の発達
    自我,思考,愛着
    自己概念
  発達に関わる健康上の問題
    死因順位・受療率から見た問題
    運動能力と生活
    肥満・やせと生活
    過密な生活スケジュールと疲労
    離婚による両親との別離
    子どもの貧困
  発達に必要な支援
    健康診断と健康相談による発達状態の確認と異常の早期発見
    自らの健康管理,改善に必要な知識,技術の習得の支援
    安全の確保に向けた知識,技術の習得の支援
 第6章 思春期の心と身体
  人間のライフサイクルにおける思春期
  心と身体の特徴
  形態・機能的側面の発達
    内分泌の変化
    第2次性徴の出現
    身長・体重の変化と発達加速化現象
  心理・社会的側面の発達
    認知と自我
    社会的地位の変化
    統合体としての思春期
  発達に関わる健康上の問題
    死因順位・受療率から見た問題
    生活行動に関連する問題
    法に触れる行為や犯罪
    薬物乱用
    高等学校中途退学
  発達に必要な支援
 第7章 青年期の心と身体
  人間のライフサイクルにおける青年期
  心と身体の特徴
  形態・機能的側面の発達
  心理・社会的側面の発達
    アイデンティティ
    職業的社会化
    親密感の獲得
  発達に関わる健康上の問題
    死因順位・受療率から見た問題
    若年無業者とひきこもり
    カルト
    晩婚化と非婚化
  発達に必要な支援
    大学における学生支援体制の活用
    就職支援システムの活用
    地域に開かれた相談機関の活用
 第8章 成人期の心と身体
  人間のライフサイクルにおける成人期
  心と身体の特徴
  形態・機能的側面の発達
  心理・社会的側面の発達
    成人期とストレス
    成人期と喪失体験
  発達に関わる健康上の問題
    死因順位と受療率から見た問題
    成人期の自殺
    うつ病
    成人女性の閉経と更年期障害
    成人期とワーク・ライフ・バランス
    定年退職
  発達に必要な支援
    健全な生活習慣の確立による生活習慣病の予防
 第9章 老年期の心と身体
  人間のライフサイクルにおける老年期
  心と身体の特徴
  形態・機能的側面の発達
    形態の変化
    機能の変化
  心理・社会的側面の発達
    老年期と死
    老年期の知能と記憶
    老年期の生活
  発達の評価
    生活機能評価
    障害をもつ高齢者の日常生活の評価
    知能検査
  発達に関わる健康上の問題
    死因順位と受療率から見た問題
    認知症
    健康障害と「寝たきり」
    社会的孤立
    虐待
    生活と事故
  発達に必要な支援
    法的基盤の理解とそれに伴う社会資源の活用
    個人への支援とソーシャルサポート

索引
著者略歴

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生物・心理・社会モデルから生涯発達を捉える
書評者: 田副 真美 (ルーテル学院大学教授・臨床心理学)
 心理学の基礎分野の発達心理学では,乳幼児期から青年期までの発達過程に重きが置かれていた時代があったが,現在は胎児期,成人期,老年期についても取り上げられるようになり,人の一生を連続的に捉え,生涯を通して発達し続けているという生涯発達として認識されるようになった。また,私の専門分野の臨床心理学では,心理アセスメントや心理的援助において,個人の発達や心身の健康に影響を与える要因を生物・心理・社会モデルという3つの側面で捉える枠組みがある。現在,医療・教育・福祉などにおける臨床では,生物・心理・社会モデルをもとに,さまざまな要因の相互作用を総合的に把握し,問題解決や治療に必要な専門領域と協働することが求められている。

 本書は,人間発達について生物・心理・社会モデルの視点で記述しており,看護の分野だけではなく,医療・心理・教育・福祉分野で対人援助の仕事をめざす者やすでに職に就いている者にとっても大変有用な一冊である。

 本書は,第I部「人間発達学の概説」,第II部「人間のライフサイクルと発達」の2部構成になっている。第I部では,なぜ人間発達学が人間理解に必要なのかということについて述べている。そして,発達の定義を心理学,医学,教育など多くの学問領域から捉え統合し,本書としての定義を「発達とは,身体・心理・社会的側面の統合体としての人間が変化する過程であり,その変化の過程には高度の分化や複雑さ,機能の効率を獲得していくことに加え,構造と機能の減退を含む」と定めている(p.7)。発達理論の歴史と現代の理論については,簡潔にわかりやすく,それぞれの特徴を説明している。用語の説明,人間発達の共通性や発達に影響を及ぼす因子に関する記述により,第II部の各ライフステージをスムーズに理解できるような工夫がなされている。

 第II部の各ライフステージでは,心と身体の特徴,形態・機能的側面の発達,心理・社会的側面の発達,発達の評価,発達にかかわる健康上の問題,発達に必要な支援について記述されている。胎児期,乳幼児期では,発達の評価項目を設けている。各ライフステージで重要とされる内容は,表やチェックリスト等で提示され理解しやすい。例えば,乳幼児期,学童期の心理・社会的側面では,エリクソン(心理・社会的),ピアジェ(認知的),ボウルビィ(愛着)の理論を一つの表にまとめ(p.102),老年期の発達評価では生活機能評価における「基本チェックリスト」を載せている(p.265)。各章では,現在の社会環境の変化や社会情勢に関する最新のデータを取り入れ,各ライフステージの特徴と関連付けている。新たに学童期では子どもの貧困,成人期ではワーク・ライフ・バランス,定年退職が加筆された。

 本書はわかりやすい文章構成で組み立てられ,見やすい図表が多く,初学者に理解しやすい。また,図表のデータは,最新の情報を取り入れているため,教育者の指導書としても活用できる。
専門領域の基盤となる,対象理解にまずこの一冊(雑誌『看護教育』より)
書評者: 佐藤 圭子 (茨城県立つくば看護専門学校)
 1995年に初版本を見て「この本を学生のときに読みたかった」と思いました。人間の発達を「心」と「体」の両側面から論じ,その関連性が述べられた本は私の学生時代にはなかったからです。
 本書は,人間のライフサイクル各段階の心身の発達過程と健全な発達に影響を及ぼす因子と発達に必要な支援について述べられています。通読すれば胎児期から老年期を経て死に至るまでの一生涯の変化を概観することができます。また各発達段階について詳しく知りたい場合も,各章を開けば必要な知識が得られます。
 看護は,あらゆる発達段階にある人たちが対象であり,また対象理解が重要です。しかし,自らの限られた経験で対象を理解することは,難しいことです。そのようなとき,本書は,対象を理解するための基礎をつくることができます。
 本書は,II部構成となっています。第I部は人間発達学の概説です。人間発達学の意義や用語の定義,発達における共通性や影響を及ぼす因子,現代までの発達理論を取り上げています。第II部では人間のライフサイクルとその発達について,胎児期から乳幼児期,学童期,思春期,青年期,成人期,老年期まで述べられています。心身の正常な発達,健康上の問題,必要な支援,社会資源についてわかりやすく解説している点から本書は,学生の教科者や参考書として非常に優れています。また章扉に掲載されているビーゲラントの彫刻の写真は,各発達段階のイメージを湧き起こさせ興味と関心を引きます。
 本校では,対象理解のために「人間発達学」という科目を1年次に設定し,教科書として初版から本書を使用しています。さらに小児看護学や成人・老年看護学では参考書として用い,胎児期から取り上げられているため,母性看護学でも活用しています。
 本書を初版より教科書としている理由は,現在の社会の出来事との関連を反映させている「時代性」です。第5版に至るまで,変容する社会情勢とライフサイクル,そのなかで生きる対象を理解するための情報が多様な研究データをもとに追加され続けています。それらは第5版では,さまざまなデータ類の更新はもとより,子どもの貧困,ワーク・ライフ・バランスや定年退職といった今日的な話題が加筆されています。
 本書は,対象理解に留まらず,本書で学ぶその人自身の手引書にもなります。現在の発達段階から過去を振り返り,今後たどっていく発達段階を知ることで改めて自分自身と向き合い,今後の生き方を考える機会となります。
 専門領域にとらわれず,学生の対象・自己理解を進めたい教員のみなさんに,手に取っていただきたいお勧めの一冊です。

(『看護教育』2017年6月号掲載)

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