脳の機能解剖と画像診断 第2版
神経疾患の臨床に携わるすべての方々に
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脳の基本構造と主な神経機能系伝導路をCT、MRIの基準断面に投影、シェーマと色図で図示・解説し、好評を博した参考書が待望の改訂。前版同様、多方向のスライス面の詳細な図譜とCT、MRI画像を収載。脳の構造と神経機能系、血管分布が手に取るようにわかる。さらに今版では、グラフィックの精度を向上させ、脳の成熟過程、側頭骨の構造、脳血管と神経機能系の情報も追加。画像読影をより力強くサポートする一冊となった。
原著 | Heinrich Lanfermann / Peter Raab / Hans-Joachim Kretschmann / Wolfgang Weinrich |
---|---|
訳 | 真柳 佳昭 / 渡辺 英寿 |
発行 | 2018年10月判型:A4頁:552 |
ISBN | 978-4-260-03551-4 |
定価 | 22,000円 (本体20,000円+税) |
更新情報
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正誤表を掲載しました。
2024.07.30
- 序文
- 目次
- 書評
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序文
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日本語版第2版 訳者の序(真柳佳昭)/原書第4版の序(Heinrich Lanfermann,Peter Raab,Hans-Joachim Kretschmann,Wolfgang Weinrich)
日本語版第2版 訳者の序
Hans-Joachim Kretschmann, Wolfgang Weinrich著“Neuroanatomie der kranielle Computertomographie(1984)”「日本語訳:CT診断のための脳解剖と機能系(1986)」と,“Klinische Neuroanatomie und kranielle Bilddiagnostik(1991)”「日本語訳:画像診断のための脳解剖と機能系(1995)」,“Klinische Neuroanatomie und kranielle Bilddiagnostik(2003)”「日本語訳:脳の機能解剖と画像診断(2008)」は,名著として国際的に高い評価を受け,本邦でも多くの読者に支持された。
本書は,その第4版“Klinische Neuroanatomie-kranielle MRT und CT”の邦訳である。
CT診断のための図譜を中心に出発した本書は大きく成長し,脳の構造・機能・血流分布・臨床症状など,内容も豊富になった。訳書のタイトルは好評だった前版を踏襲し,「脳の機能解剖と画像診断 第2版」とした。MR画像,CT画像の読影のために最高の教科書であることに変わりはない。
今回の改訂では機能系についての図譜とコンピュータ・グラフィックによる脳血管分布図が増した。MR技術の進歩によって微小脳梗塞の急性期診断が可能となり早期血栓溶解術という新しい治療法が発達してきたことに対応している。また微小脳腫瘍や微小血管奇形に対する定位的放射線治療の際にも,本書が大きく貢献するであろう。
解剖用語に関しては,原著のテキストではラテン語とドイツ語が使われており,図譜はラテン語で統一されている。国際解剖学会における用語統一の問題については,第1章4節を参照されたい。本訳書では,日本語の解剖用語は,解剖学用語,改訂13版(医学書院,2007)に従った。疾患名や症候名については,岩田 誠著:神経症候学を学ぶ人のために(医学書院,1994),神経学用語集,改訂第3版(文光堂,2008),脳神経外科学用語集,改訂第3版(日本脳神経外科学会ホームページで公開),放射線診療用語集,改訂第4版(日本医学放射線学会ホームページで公開)などを参照した。
今版より渡辺英寿先生に新規部分の訳をお願いした。また医学書院の方々にはすべての工程にわたって,激励と尽力を頂いた。ここに心からの感謝を表したい。
2018年9月
訳者を代表して 真柳佳昭
原書第4版の序
“古典”を進化させることができるだろうか? 本書の新版を作るという申し出を受けたとき,Kretschmann教授とWeinrich教授はこうした疑問を尋ねなければならなかった。その答えを,いまこうして皆さんにご覧いただけることとなった。本書はゆるやかな進化を遂げ,意義深い加筆が行われた。脳の成熟および側頭骨に関する新しい章,ならびに脳血管および「神経機能系」の部分が拡張された。また,CTで通常用いられる断面の角度に,軸位断の角度を合わせることも必要であった。加えて,見開きで示した解剖学的構造の番号づけも,新しい図で標準化されている。主要メーカー各社によって多様な機器が開発されており,その包括的な評価は本書の焦点外にあるため,断層画像診断の開発に関する記述は減少している。読者の知り得ないところだが,新版で最も注力したのは,解剖学的脳断面層の高解像度グラフィックスをアナログ伝送した,Kretschmann教授とWeinrich教授による非常に詳細な画像である。
今版では,デジタル化の未来への道を出版元と舗装していく必要があった。労力を要したが,最終的にはインターネット経由でのアクセスに不可欠の作業であった。これには,図版リンクの技術を変更する必要があった。
私たちを動機づけ,支援してくれたHannover医科大学(MHH)の診断放射線医学研究所の同僚に感謝する。特にFAグラフィックスの計算と作成についてP. Dellani博士に感謝したい。Cornell大学のT. Liu博士の寛大な協力のおかげで,QSMマップの解析がなし得た。
Thieme社のすべての関係者,特にChristian Urbanowicz博士,Susanne Huiss,Martina DörsamとAnja Jahn,編集者のDoris Kliem博士 とグラフィックデザイナーのBarbara Gayに感謝の意を表す。
Hannoverにて,2015年秋
Heinrich Lanfermann
Peter Raab
Hans-Joachim Kretschmann
Wolfgang Weinrich
日本語版第2版 訳者の序
Hans-Joachim Kretschmann, Wolfgang Weinrich著“Neuroanatomie der kranielle Computertomographie(1984)”「日本語訳:CT診断のための脳解剖と機能系(1986)」と,“Klinische Neuroanatomie und kranielle Bilddiagnostik(1991)”「日本語訳:画像診断のための脳解剖と機能系(1995)」,“Klinische Neuroanatomie und kranielle Bilddiagnostik(2003)”「日本語訳:脳の機能解剖と画像診断(2008)」は,名著として国際的に高い評価を受け,本邦でも多くの読者に支持された。
本書は,その第4版“Klinische Neuroanatomie-kranielle MRT und CT”の邦訳である。
CT診断のための図譜を中心に出発した本書は大きく成長し,脳の構造・機能・血流分布・臨床症状など,内容も豊富になった。訳書のタイトルは好評だった前版を踏襲し,「脳の機能解剖と画像診断 第2版」とした。MR画像,CT画像の読影のために最高の教科書であることに変わりはない。
今回の改訂では機能系についての図譜とコンピュータ・グラフィックによる脳血管分布図が増した。MR技術の進歩によって微小脳梗塞の急性期診断が可能となり早期血栓溶解術という新しい治療法が発達してきたことに対応している。また微小脳腫瘍や微小血管奇形に対する定位的放射線治療の際にも,本書が大きく貢献するであろう。
解剖用語に関しては,原著のテキストではラテン語とドイツ語が使われており,図譜はラテン語で統一されている。国際解剖学会における用語統一の問題については,第1章4節を参照されたい。本訳書では,日本語の解剖用語は,解剖学用語,改訂13版(医学書院,2007)に従った。疾患名や症候名については,岩田 誠著:神経症候学を学ぶ人のために(医学書院,1994),神経学用語集,改訂第3版(文光堂,2008),脳神経外科学用語集,改訂第3版(日本脳神経外科学会ホームページで公開),放射線診療用語集,改訂第4版(日本医学放射線学会ホームページで公開)などを参照した。
今版より渡辺英寿先生に新規部分の訳をお願いした。また医学書院の方々にはすべての工程にわたって,激励と尽力を頂いた。ここに心からの感謝を表したい。
2018年9月
訳者を代表して 真柳佳昭
原書第4版の序
“古典”を進化させることができるだろうか? 本書の新版を作るという申し出を受けたとき,Kretschmann教授とWeinrich教授はこうした疑問を尋ねなければならなかった。その答えを,いまこうして皆さんにご覧いただけることとなった。本書はゆるやかな進化を遂げ,意義深い加筆が行われた。脳の成熟および側頭骨に関する新しい章,ならびに脳血管および「神経機能系」の部分が拡張された。また,CTで通常用いられる断面の角度に,軸位断の角度を合わせることも必要であった。加えて,見開きで示した解剖学的構造の番号づけも,新しい図で標準化されている。主要メーカー各社によって多様な機器が開発されており,その包括的な評価は本書の焦点外にあるため,断層画像診断の開発に関する記述は減少している。読者の知り得ないところだが,新版で最も注力したのは,解剖学的脳断面層の高解像度グラフィックスをアナログ伝送した,Kretschmann教授とWeinrich教授による非常に詳細な画像である。
今版では,デジタル化の未来への道を出版元と舗装していく必要があった。労力を要したが,最終的にはインターネット経由でのアクセスに不可欠の作業であった。これには,図版リンクの技術を変更する必要があった。
私たちを動機づけ,支援してくれたHannover医科大学(MHH)の診断放射線医学研究所の同僚に感謝する。特にFAグラフィックスの計算と作成についてP. Dellani博士に感謝したい。Cornell大学のT. Liu博士の寛大な協力のおかげで,QSMマップの解析がなし得た。
Thieme社のすべての関係者,特にChristian Urbanowicz博士,Susanne Huiss,Martina DörsamとAnja Jahn,編集者のDoris Kliem博士 とグラフィックデザイナーのBarbara Gayに感謝の意を表す。
Hannoverにて,2015年秋
Heinrich Lanfermann
Peter Raab
Hans-Joachim Kretschmann
Wolfgang Weinrich
目次
開く
I 序章
1.はじめに
1.1 課題と目標
1.2 脳構造の位置決めのための3次元座標系
1.3 生体と死体における神経解剖
1.4 学術用語
1.5 本書の使い方
2.断層画像診断と目印構造
2.1 CT
2.2 MRI
2.3 断層画像診断の目印構造
2.4 新しい画像診断法の臨床的価値
II 図譜
3.前額断シリーズ
4.矢状断シリーズ
5.横断シリーズ
6.脳幹シリーズ
III さまざまな平行断面における頭部,頸部構造のトポグラフィー
7.神経頭蓋,頭蓋内腔と頭蓋内構造のトポグラフィー
7.1 神経頭蓋
7.2 頭蓋腔
7.3 頭蓋内髄液腔
7.4 脳動脈とその灌流域
7.5 脳静脈
7.6 脳神経
7.7 脳の領域
7.8 脳の成長
8.顔面頭蓋と腔のトポグラフィー
8.1 顔面頭蓋
8.2 鼻腔と副鼻腔
8.3 眼窩
8.4 口腔
8.5 咀嚼器官
8.6 外側顔面
9.頭頸移行部のトポグラフィー
9.1 咽頭と咽頭側隙
9.2 頭蓋頸椎移行部
9.3 頭頸部の血管
IV 神経─神経機能系と神経伝達物質
10.神経機能系
10.1 体性感覚系
10.2 味覚系
10.3 上行性網様体賦活系
10.4 前庭系
10.5 聴覚系
10.6 視覚系
10.7 嗅覚系
10.8 運動系
10.9 小脳系
10.10 言語野
10.11 辺縁系
10.12 自律神経系
10.13 ニューロンネットワーク(神経網)
11.神経伝達物質と神経調節(ニューロモデュレーション)のトピックス
11.1 カテコールアミン作動性ニューロン
11.2 セロトニン作動性ニューロン
11.3 ヒスタミン作動性ニューロン
11.4 コリン作動性ニューロン
11.5 GABA作動性ニューロン
11.6 グルタミン酸作動性およびアスパラギン酸作動性ニューロン
11.7 ペプチド作動性ニューロン
V 付録
12.研究資料と研究方法
13.文献
略語
索引
1.はじめに
1.1 課題と目標
1.2 脳構造の位置決めのための3次元座標系
1.3 生体と死体における神経解剖
1.4 学術用語
1.5 本書の使い方
2.断層画像診断と目印構造
2.1 CT
2.2 MRI
2.3 断層画像診断の目印構造
2.4 新しい画像診断法の臨床的価値
II 図譜
3.前額断シリーズ
4.矢状断シリーズ
5.横断シリーズ
6.脳幹シリーズ
III さまざまな平行断面における頭部,頸部構造のトポグラフィー
7.神経頭蓋,頭蓋内腔と頭蓋内構造のトポグラフィー
7.1 神経頭蓋
7.2 頭蓋腔
7.3 頭蓋内髄液腔
7.4 脳動脈とその灌流域
7.5 脳静脈
7.6 脳神経
7.7 脳の領域
7.8 脳の成長
8.顔面頭蓋と腔のトポグラフィー
8.1 顔面頭蓋
8.2 鼻腔と副鼻腔
8.3 眼窩
8.4 口腔
8.5 咀嚼器官
8.6 外側顔面
9.頭頸移行部のトポグラフィー
9.1 咽頭と咽頭側隙
9.2 頭蓋頸椎移行部
9.3 頭頸部の血管
IV 神経─神経機能系と神経伝達物質
10.神経機能系
10.1 体性感覚系
10.2 味覚系
10.3 上行性網様体賦活系
10.4 前庭系
10.5 聴覚系
10.6 視覚系
10.7 嗅覚系
10.8 運動系
10.9 小脳系
10.10 言語野
10.11 辺縁系
10.12 自律神経系
10.13 ニューロンネットワーク(神経網)
11.神経伝達物質と神経調節(ニューロモデュレーション)のトピックス
11.1 カテコールアミン作動性ニューロン
11.2 セロトニン作動性ニューロン
11.3 ヒスタミン作動性ニューロン
11.4 コリン作動性ニューロン
11.5 GABA作動性ニューロン
11.6 グルタミン酸作動性およびアスパラギン酸作動性ニューロン
11.7 ペプチド作動性ニューロン
V 付録
12.研究資料と研究方法
13.文献
略語
索引
書評
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脳の機能解剖と立体的な位置関係が統合的にわかる一冊
書評者: 森 墾 (東大大学院准教授・放射線診断学)
脳解剖の理解は神経連絡に尽きる。つまり神経機能解剖の理解が目的である。では,神経核がどこにあって,それをつなぐ神経線維がどう走行しているか,マクロ解剖の知識があればそれで十分であろうか。残念ながら画像検査には不十分である。脳に限らず,生体などの立体構造を機械的に切った場合の断層像を理解するのは意外と難しい。想像していた解剖学的な位置関係と,画像上の断層像での実際の描出との齟齬にビックリすることもしばしばである。これは,なまじ機能解剖を知っているせいで,親しみのある解剖学的構造は大きく,近くあるように感じてしまっているせいかもしれない。この機能解剖と立体的な位置関係との統合の架け橋として本書はとても有用である。われわれが本当に知りたいのは機能解剖であるが,そのためには実際の位置関係をミリ単位で追った断層像での理解が非常に役に立つのである。単なる図譜やアトラスだけの類書と異なり,そこに意味を与える機能解剖の詳細な解説を含むのが本書の大きな魅力といえる。
もちろん本書にも改善点はある。例えば,学術用語は学派によって使い方に多少の差異がある。Reid平面(Reid基準線)の基準点は「眼窩下縁と外耳孔中点(p.6)」であると記載されているが,通常は「外耳孔上縁」を使用する1)。Wikipediaにも「外耳孔中点」と誤記されているが,言葉は時代によって変化するので,字義の幅は許容すべきなのかもしれない。ただし,翻訳本ゆえの記述であろうが,CT検査で上眼窩後頭下線が「主流になっており(p.6)」という記述は看過できない。確かに水晶体への被曝を低減させるために上眼窩後頭下線をCT基準面として採用している日本の施設もあるが,決して主流ではない。多くは眼窩外耳孔線(OML, orbitomeatal line:眼窩中点-外耳孔中点)を模した外眼角耳孔線(CML, canthomeatal line:外眼角-外耳孔中点)で撮像している。したがって,CT解剖アトラスとしてこの書籍を参照する場合は仰角にかなりの差があることを考慮しなければならない(臨床で使用する横断面と書籍の図譜とが一致しない)。
一方,MRI検査に関しては前交連-後交連線(両交連面:AC-PC line)を基準面に採用しており評価できる(脳幹についてはMeynert軸に垂直な断面)。脳の図譜として頭蓋骨ではなく脳実質の解剖学的構造を基準とするのは極めて妥当だからである。ただし,その根拠として「(無作為抽出試験にて)外眼角耳孔面と両交連線との角度は2度以下とされている(p.6)」からMRIとCTでの横断面がほぼ一致するかのように記述しているのは正確ではない2)。細かいことをいうとTalairach両交連面の基準点は前交連上縁-後交連下縁,Schaltenbrand両交連面は両交連の中点が定義であるが,どちらであれMRIで採用されている両交連面とCTでの外眼角耳孔線に大きな角度差があるため各施設で困っているのが現状である2)。
CT基準面の採用に改善点はあるものの,われわれの知りたい神経機能解剖と画像上での描出との架け橋となる貴重な書籍であることに変わりはない。日常臨床で困った際に,折に触れて立ち返るために常にそばに置いておくべきであろう。
●参考文献
1) World federation of neurology. Problem commission of neuroradiology.Brit J Radiol.1962;35:501-3.
2) Weiss KL, et al.Clinical brain MR imaging prescriptions in Talairach space:technologist- and computer-driven methods.AJNR Am J Neuroradiol.2003;24(5):922-9.
MRI・CT画像と図譜との絶妙なコンビネーション
書評者: 新井 一 (順天堂大学長・脳神経外科)
このたび,『脳の機能解剖と画像診断 第2版』が出版される運びとなった。本書は,Hannover医大のKretschmann教授,Weinrich教授らによる原著の邦訳であるが,その最初は『〔日本語訳〕CT診断のための脳解剖と機能系』(1986年)に遡ることができる。画像診断の進歩に伴い『〔日本語訳〕画像診断のための脳解剖と機能系』(1995年),『〔日本語訳〕脳の機能解剖と画像診断 初版』(2008年)と続編が出版されてきたが,いずれも世界そして本邦において高い評価を受けている。実際のところ,私どもの施設の脳神経外科の医局や神経放射線科の読影室の書籍棚には,表紙の磨り減ったこれらの図書が鎮座しており,今回の『脳の機能解剖と画像診断 第2版』も同様の運命をたどることになると思われる。
本書の特徴は,MRI・CT画像と図譜との絶妙なコンビネーションであり,これが読者を魅了する。冠状断と矢状断はMRI-T1・T2強調画像と図譜に続いて骨条件のCT画像,水平断についてはMRI-T2強調画像と図譜,そして脳および骨条件のCT画像が示されている。その後に,脳幹,錐体骨に焦点を絞った画像が呈示され,脳室,動脈,静脈の画像・図譜が続くことになる。特に,動脈についてのコンピューターグラフィクスは出色であるし,図譜を用いた動脈の支配領域に関する解説は臨床家にとっては極めて有用である。その他,拡散強調画像による白質内線維束の描出,新生児・乳児から幼児に至る髄鞘化の変容,顔面頭蓋・頭頸移行部の図譜による解説,そして神経伝導路の詳細な局在表示などなど,大変に盛りだくさんの内容になっている。
本書を通読して感じることは,脳という今も昔も変わらぬ存在を対象にする画像診断,その進歩が私たちに何をもたらしたかである。すなわち,従来は微細な解剖をいかに正確に描出するかが課題であった画像診断が,いつしかその機能にまで立ち入ることになったという事実である。まさに本書の邦訳タイトルにある,“機能解剖と画像診断”がその真髄を表しているように思う。
最後に,訳者である真柳佳昭先生と渡辺英寿先生に心より敬意を表さなくてはならない。お二人は,わが国におけるてんかん外科の大家であるが,極めて多彩な才能をお持ちの脳神経外科医としてもつとに有名である。さて,てんかん外科の手術を考えると,脳実質内の発作焦点を正確に診断しこれを切除するわけであるが,安全かつ確実な手術を行うためには脳の解剖と機能を正しく理解しておく必要がある。その意味からも,真柳先生,渡辺先生は本書の訳者として最適任であることは間違いなく,またお二人のフィルターを介して訳された本書の意味するところは極めて大きいように思う。
本書が,脳の機能と解剖を理解しようとする若き学徒に,大きな示唆を与えることを確信している。
書評者: 森 墾 (東大大学院准教授・放射線診断学)
脳解剖の理解は神経連絡に尽きる。つまり神経機能解剖の理解が目的である。では,神経核がどこにあって,それをつなぐ神経線維がどう走行しているか,マクロ解剖の知識があればそれで十分であろうか。残念ながら画像検査には不十分である。脳に限らず,生体などの立体構造を機械的に切った場合の断層像を理解するのは意外と難しい。想像していた解剖学的な位置関係と,画像上の断層像での実際の描出との齟齬にビックリすることもしばしばである。これは,なまじ機能解剖を知っているせいで,親しみのある解剖学的構造は大きく,近くあるように感じてしまっているせいかもしれない。この機能解剖と立体的な位置関係との統合の架け橋として本書はとても有用である。われわれが本当に知りたいのは機能解剖であるが,そのためには実際の位置関係をミリ単位で追った断層像での理解が非常に役に立つのである。単なる図譜やアトラスだけの類書と異なり,そこに意味を与える機能解剖の詳細な解説を含むのが本書の大きな魅力といえる。
もちろん本書にも改善点はある。例えば,学術用語は学派によって使い方に多少の差異がある。Reid平面(Reid基準線)の基準点は「眼窩下縁と外耳孔中点(p.6)」であると記載されているが,通常は「外耳孔上縁」を使用する1)。Wikipediaにも「外耳孔中点」と誤記されているが,言葉は時代によって変化するので,字義の幅は許容すべきなのかもしれない。ただし,翻訳本ゆえの記述であろうが,CT検査で上眼窩後頭下線が「主流になっており(p.6)」という記述は看過できない。確かに水晶体への被曝を低減させるために上眼窩後頭下線をCT基準面として採用している日本の施設もあるが,決して主流ではない。多くは眼窩外耳孔線(OML, orbitomeatal line:眼窩中点-外耳孔中点)を模した外眼角耳孔線(CML, canthomeatal line:外眼角-外耳孔中点)で撮像している。したがって,CT解剖アトラスとしてこの書籍を参照する場合は仰角にかなりの差があることを考慮しなければならない(臨床で使用する横断面と書籍の図譜とが一致しない)。
一方,MRI検査に関しては前交連-後交連線(両交連面:AC-PC line)を基準面に採用しており評価できる(脳幹についてはMeynert軸に垂直な断面)。脳の図譜として頭蓋骨ではなく脳実質の解剖学的構造を基準とするのは極めて妥当だからである。ただし,その根拠として「(無作為抽出試験にて)外眼角耳孔面と両交連線との角度は2度以下とされている(p.6)」からMRIとCTでの横断面がほぼ一致するかのように記述しているのは正確ではない2)。細かいことをいうとTalairach両交連面の基準点は前交連上縁-後交連下縁,Schaltenbrand両交連面は両交連の中点が定義であるが,どちらであれMRIで採用されている両交連面とCTでの外眼角耳孔線に大きな角度差があるため各施設で困っているのが現状である2)。
CT基準面の採用に改善点はあるものの,われわれの知りたい神経機能解剖と画像上での描出との架け橋となる貴重な書籍であることに変わりはない。日常臨床で困った際に,折に触れて立ち返るために常にそばに置いておくべきであろう。
●参考文献
1) World federation of neurology. Problem commission of neuroradiology.Brit J Radiol.1962;35:501-3.
2) Weiss KL, et al.Clinical brain MR imaging prescriptions in Talairach space:technologist- and computer-driven methods.AJNR Am J Neuroradiol.2003;24(5):922-9.
MRI・CT画像と図譜との絶妙なコンビネーション
書評者: 新井 一 (順天堂大学長・脳神経外科)
このたび,『脳の機能解剖と画像診断 第2版』が出版される運びとなった。本書は,Hannover医大のKretschmann教授,Weinrich教授らによる原著の邦訳であるが,その最初は『〔日本語訳〕CT診断のための脳解剖と機能系』(1986年)に遡ることができる。画像診断の進歩に伴い『〔日本語訳〕画像診断のための脳解剖と機能系』(1995年),『〔日本語訳〕脳の機能解剖と画像診断 初版』(2008年)と続編が出版されてきたが,いずれも世界そして本邦において高い評価を受けている。実際のところ,私どもの施設の脳神経外科の医局や神経放射線科の読影室の書籍棚には,表紙の磨り減ったこれらの図書が鎮座しており,今回の『脳の機能解剖と画像診断 第2版』も同様の運命をたどることになると思われる。
本書の特徴は,MRI・CT画像と図譜との絶妙なコンビネーションであり,これが読者を魅了する。冠状断と矢状断はMRI-T1・T2強調画像と図譜に続いて骨条件のCT画像,水平断についてはMRI-T2強調画像と図譜,そして脳および骨条件のCT画像が示されている。その後に,脳幹,錐体骨に焦点を絞った画像が呈示され,脳室,動脈,静脈の画像・図譜が続くことになる。特に,動脈についてのコンピューターグラフィクスは出色であるし,図譜を用いた動脈の支配領域に関する解説は臨床家にとっては極めて有用である。その他,拡散強調画像による白質内線維束の描出,新生児・乳児から幼児に至る髄鞘化の変容,顔面頭蓋・頭頸移行部の図譜による解説,そして神経伝導路の詳細な局在表示などなど,大変に盛りだくさんの内容になっている。
本書を通読して感じることは,脳という今も昔も変わらぬ存在を対象にする画像診断,その進歩が私たちに何をもたらしたかである。すなわち,従来は微細な解剖をいかに正確に描出するかが課題であった画像診断が,いつしかその機能にまで立ち入ることになったという事実である。まさに本書の邦訳タイトルにある,“機能解剖と画像診断”がその真髄を表しているように思う。
最後に,訳者である真柳佳昭先生と渡辺英寿先生に心より敬意を表さなくてはならない。お二人は,わが国におけるてんかん外科の大家であるが,極めて多彩な才能をお持ちの脳神経外科医としてもつとに有名である。さて,てんかん外科の手術を考えると,脳実質内の発作焦点を正確に診断しこれを切除するわけであるが,安全かつ確実な手術を行うためには脳の解剖と機能を正しく理解しておく必要がある。その意味からも,真柳先生,渡辺先生は本書の訳者として最適任であることは間違いなく,またお二人のフィルターを介して訳された本書の意味するところは極めて大きいように思う。
本書が,脳の機能と解剖を理解しようとする若き学徒に,大きな示唆を与えることを確信している。
正誤表
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本書の記述の正確性につきましては最善の努力を払っておりますが、この度弊社の責任におきまして、下記のような誤りがございました。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。
更新情報
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正誤表を掲載しました。
2024.07.30