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エキスパートナースの実践をポライトネス理論で読み解く
看護技術としてのコミュニケーション

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エキスパートナースの実践と思考の流れを描写し、看護コミュニケーションの分析にも有効な「ポライトネス理論」を用いて看護場面でのコミュニケーション方略を明らかにする。看護実践を言語学的視点で分析することで、あらゆる場面で応用できるコミュニケーションスキルが身につく1冊。
編集 舩田 千秋 / 菊内 由貴
発行 2017年02月判型:B5頁:176
ISBN 978-4-260-03025-0
定価 3,080円 (本体2,800円+税)

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 ポライトネス(Politeness)は,直訳すると,礼儀正しさ,丁重さ,慇懃,という行為や行動の日本語が示されます。これらの日本語がもつ意味そのものは,大変奥深いものがあり,いずれも対人関係のなかで問われるものです。
 本書では,言語の運用をとらえるものとして「ポライトネス」という視点から,「配慮」という現象を全体像としてとらえようとしています。また,良好な人間関係をつくるための方略として,看護コミュニケーションの有用な分析技法として,「ポライトネス理論」の詳細な説明とその実践例を具体的に示しています。すなわち,患者・家族とのコミュニケーション場面でエキスパートナースが行っている看護実践を記述(可視化)し,どのようなコミュニケーション技術が用いられているかを明らかにしています。

 さて,看護学は実践の科学です。看護実践によって可視化され,看護学特有の科学性が立証される学問です。
 看護実践は,看護を必要とする人(患者・家族・住民)と看護を提供する人(看護師・保健師・助産師)との信頼関係に基づく人間関係によって成り立つものですが,看護の科学性には,医学に限らず進歩・発展する人文科学分野との連携も重要であり,看護実践の質を担保する源にもなっております。

 本書は,大きく「理論編」と「実践編」とで構成されています。
 看護実践におけるコミュニケーションの重要性と看護師に求められるコミュニケーションスキルについて概説している「イントロダクション」に続き,「理論編」では,ポライトネス理論について概説しています。
 「実践編」は,16の事例を実践的に展開するものです。実践事例の対象は多種多様であり,状況や場面の設定は多岐にわたるものです。事例の展開は,「[1] 事例の紹介:場所,患者の背景,相談に至る背景」「[2] エキスパートナースの対応:具体的対話の展開(エキスパートナースの思いや考えたことの記述も描写)」「[3] ポライトネス理論による分析」,の構成となっています。

 本書は,臨床での看護実践において,その根幹となる看護技術の1つであるコミュニケーション技術の質向上を図るための実践書です。
 本書の活用は,エキスパートと呼ばれるベテラン看護師に限らず,看護の初心者である新人看護師にとっても有用です。患者・家族が良質な看護ケアを受けることができる,そのためのコミュニケーション力の向上につながることを願っています。

 2016年12月
 佐藤禮子

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 序

 イントロダクション:看護技術としてのコミュニケーション
   1.自分の行動の意味を知るということ
   2.コミュニケーションの重要性
   3.看護師に求められるコミュニケーションスキル

理論編 ポライトネス-言語使用の理論で読み解く看護コミュニケーション
 1.フェイスとポライトネス・ストラテジー
   1.ストラテジーとしてのポライトネス
   2.フェイス
   3.フェイス侵害行為
   4.目的から手段を導き出す「合理性」
   5.ストラテジー選択について
   6.フェイス侵害行為(FTA)の深刻度
 2.ポライトネス・ストラテジーの言語への現れ
   1.ポジティブ・ポライトネス
   2.ネガティブ・ポライトネス
   3.間接的に言う
   4.それぞれのストラテジーを使用した場合の利点
 3.看護コミュニケーションへの応用について

実践編 エキスパートナースの実践をポライトネスで読み解く
 実践編の読み方
 1.A病院で手術が予定されているが複数の医療機関に相談をもちかける
  手術前患者の対応
 2.内服化学療法中の患者の就労(職場復帰)に関する相談
 3.生活保護で児童相談所に子どもを預け治療を受ける母親の葛藤に対する対応
 4.家族や知人のサポートがなく医療者に依存的な患者への対応
 5.通院が不便な地域に居住している緩和期の患者の相談
 6.治療の場の選択に関して本人が不満を訴えた家族からの面談
 7.苦痛の緩和のみを希望しながらも意思決定が揺らいだ患者への面談
 8.治療の場と療養の場の変更に関する相談への対応
 9.がん告知の翌日の面談
 10.通院治療室での対応
 11.治療法の相談
 12.入院予定の患者へ各種説明,問診を行う場面での対応
 13.母親に悪い知らせをする手段としてセカンドオピニオンを利用しようと考える娘の相談
 14.子どもに自分の病気のことを伝える方法についての相談
 15.遠方に住む娘宅での在宅療養移行の相談
 16.精神的落ち込みに関する相談

 あとがき
 索引

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がん患者の相談場面で,エキスパートナースはどのような相談支援をしているのかを読み解く(雑誌『看護管理』より)
書評者: 渡邉 眞理 (神奈川県立保健福祉大学看護管理学 准教授 がん看護専門看護師)
◆ポライトネス理論を看護に

 「ポライトネス理論とは?」。本書を手にした時の最初に感じたことである。
 ポライトネス理論は,「社会で生きる人間が日常的に行う言語使用全般に関わる理論」であると本書には記されている。そして,この理論を「看護師のコミュニケーション技術に限ってみた場合,より具体的に言語使用の手段を分析的に考察することを可能にし,これによって患者からの相談や支援のためのコミュニケーションの質向上につながることが期待される」とある。本書はポライトネス理論を看護のコミュニケーションスキルの育成のために活用することを目的としている。
 内容は「理論編」と「実践編」に分かれて構成されている。「理論編」ではポライトネス理論の基本的知識とポライトネス・ストラテジー(方略)について説明され,実践編を読み解くのに役立つ。「実践編」では,エキスパートナースが対応したがん患者の相談支援の16場面について,ポライトネス理論を用いて解説している。
 これらはがん患者を対象とした相談場面であることから,病状や治療・療養の場の選択,全人的苦痛,家族間の問題など複雑で困難な状況であることが多い。それらに対してエキスパートナースがどのような相談支援をしているのか? まさにタイトル通り,ポライトネス理論を用いて読み解いている。

◆「真のニーズは何か」を見極めるための関わり

 私は本書を,「理論編」から「実践編」,また「理論編」へと行きつ戻りつを繰り返しながら読み進んだ。
 印象的だったのは,患者の「寿命とは何ですか」という言葉から唐突に始まる相談場面であった。私自身が,がん患者の相談支援を担当していた時に,相談場面の最初にがん患者が話す言葉は必ずしも本当に相談したい内容ではなかったという体験をしていたからである。その体験から,常に対象者の「真のニーズは何か」を見極めるよう意図的に関わってきた。
 このことについて本書では各ケースの最後に,相談のやり取りの始まり(入り口)と,異なる支援内容(出口)を示しており,そこで端的に表現されている。

◆「私だったらどう対応するか」-看護場面でのコミュニケーションスキル向上のために

 各ケースでのエキスパートナースの相談支援内容は「なるほど」「すごいな」「そうしていたな」「私だったらどう対応するかな」と思いながら読み,ポライトネス理論を用いると各場面がどのような意味付けになるのかということが理解できた。
 看護場面でのコミュニケーションスキルの向上のためにお勧めしたい1冊である。

(『看護管理』2017年8月号掲載)
書評(雑誌『訪問看護と介護』より)
書評者: 飛田 篤子 (訪問看護ファミリー・ホスピス本郷台)
 「もっと上手にコミュニケーションをとれるようになりたい」。看護師であれば誰もが望むことである。看護の現場では、初めて出会う患者・家族の価値観や真のニーズを読み解き、援助関係を発展させて健康問題に協働して取り組むために、あらゆる場面で看護コミュニケーションが用いられる。また、専門的な知識・技術を看護実践に落とし込むとき、医師や福祉・介護職などとの多職種連携においても、効果的なコミュニケーションを介して初めてその成果が表われてくる。しかし、日々の看護場面でコミュニケーションがうまくいかないと感じる看護師は少なくない。コミュニケーションスキルを高めることは看護専門職として生涯にわたって学習すべき重要な課題のひとつといえる。

◆看護コミュニケーションの意味を描き出す

 本書では、看護コミュニケーションを「ポライトネス」という視点からとらえている。ポライトネスとは、「良好な人間関係をつくるために、さまざまな言語表現によって配慮する」という現象を読み取っていく理論である。この理論によって、看護師が行なう患者への言語的な配慮について分析し、どのようなスキルが用いられているかを明らかにしている。
 「理論編」では、ポライトネス理論について概説している。ここでは「基本的欲求(フェイス)」という概念理解が重要となる。人間の基本的欲求として、自分の価値観が他者にとって好ましいものであってほしいという欲求「ポジティブ・フェイス」と、自分の自由を邪魔されたくないという欲求「ネガティブ・フェイス」がある。この相反する2つのフェイスを侵害しないように配慮すること(ストラテジー)がポライトネスであるととらえる。
 「実践編」では、がん患者および家族に対する看護相談16事例について、エキスパートナースと患者・家族の一連のコミュニケーションプロセスをポライトネス理論によって意味づけしている。
 具体的には、次のようなシチュエーションが紹介される。
 「医師に不信感を抱き、複数の医療機関に相談をもちかける(Case 1)」「寂しさがあり、誰かと話したいと頻繁にたずねてくる(Case 4)」「あんたが決めてくれたらいいわ、という態度を示す(Case 7)」「まだ死ぬわけにはいかない、免疫療法を受けたいと希望する(Case 11)」「子どもにがんのことをどのように伝えたらよいか教えてほしいと依頼される(Case 14)」。

◆現場で役立つ具体的な示唆

 このようなやりとりは、現場の看護師であればすでに遭遇している場面であろう。本書はこれらの対応について、ポライトネス理論の枠組みから具体的な示唆を与えてくれる。さらに、普段当たり前にしている挨拶や名前を名乗るといった行為にも重要な意味があることに気づかされる。患者・家族と良好な人間関係をつくり、その意思や価値観を尊重した看護コミュニケーションを行なうために、現場に立つ看護師にぜひ読んでほしい一冊である。

(『訪問看護と介護』2017年6月号掲載)

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