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日常診療に潜むクスリのリスク
臨床医のための薬物有害反応の知識

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市販されている薬剤は実にたくさんあるが、一般臨床医がよく遭遇する薬剤と薬物有害反応の組み合わせには決まりがある。本書では、頻度の高い薬物有害反応を取り上げ、特によく処方される薬剤を中心にエビデンスに基づいてわかりやすく解説。また、薬物有害反応を頭では理解していても、医師や患者が「念のためのクスリ」を求めることは稀ではないことから、薬物有害反応が減らない理由を心理学的な観点からも取り上げた。
上田 剛士
発行 2017年04月判型:A5頁:164
ISBN 978-4-260-03016-8
定価 3,080円 (本体2,800円+税)

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  • 序文
  • 目次
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 すべての薬剤(クスリ)には薬物有害反応のリスクが伴います.非常に大雑把に見積もって,100人の患者さんを診療すれば10人に薬物有害反応が出現します(総論I参照).しかもその10人のうち3~5人の薬物有害反応は注意さえすれば予防しうるものとされており,処方医師の責任は重大です.
 筆者は内科医ですが,自分の処方が1年間でどれだけの薬物有害反応を生み出しているのか,また自分が医師を終えるまでにどれほどの薬物有害反応を生み出してしまう可能性があるのかを考えると恐ろしくなります.
 薬物有害反応を減らすには正しい知識と姿勢が必要になります.
 現在市販されている薬剤は非常に多数ありますが,一般臨床医がよく遭遇する薬剤と薬物有害反応の組み合わせには決まりがあります.本書は雑誌「総合診療」の連載「クスリとリスク」をもとに加筆しまとめたものになりますが,遭遇頻度の高い薬物有害反応を取り上げ,特に処方頻度の高い薬剤を中心にエビデンスに基づいて解説致しました.臨床医が日常診療でよく遭遇する薬物有害反応の正しい知識の整理となることを期待しています.
 また,薬物有害反応が減らないのは,薬物有害反応を十分に理解していないためだけではありません.薬物有害反応を頭では理解をしていても,医師や患者さんの心が「念のためのクスリ」を望むことはまれではありません.本当に薬物有害反応を減らすためには,クスリを望む心にまで理解を進めなければなりません.そこで本書では薬物有害反応が減らない理由を心理学的な観点からも取り上げました.頭だけでなく心まで理解することで初めて薬物有害反応に対する姿勢が変わるものと思います.
 本書により,薬物と薬物有害反応に対する正しい知識と姿勢を身につけ,クスリのリスクを下げるお手伝いができることを願っています.臨床医のみならず,適正な薬剤使用を推進する立場にある指導医や薬剤師の先生方にもお手元にとって頂ければ幸いです.

 2017年3月
 洛和会丸太町病院 救急・総合診療科 上田剛士

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薬を処方する前にぜひ知っておいてほしいこと
 I.日常診療に潜む危機
  よく使う薬だからこそ,よく知らなければならない
  薬物の副作用はどれほど日常診療に潜んでいるのか
  いかなる症候でも薬物の副作用の可能性を考えるべき
  高齢者は薬物副作用のハイリスク群
  ポリファーマシー
  処方の連鎖
  ポリファーマシーは薬剤の効果も下げうる
   column 1 薬が良いものと信じ込む3つの理由

 II.なぜ「風邪に抗菌薬」がいまだになくならないのか?
  抗菌薬処方を減らせ!
  風邪に抗菌薬は効くのか?
  抗菌薬を不適切に処方してしまう理由
  医師への教育手段
  監視システムでは管理できない?
  効率のよいシステム
  患者からの要望で抗菌薬を処方?!
  患者教育の必要性
   column 2 いかなる薬剤も安定剤代わりに処方するな

各論
 1.薬剤による浮腫
  NSAIDsによる浮腫
  Ca拮抗薬による浮腫
  漢方薬による浮腫
   column 3 保険を掛けるべきとき
 2.高Ca血症
  海外における非活性型ビタミンD製剤
  アルファカルシドールとカルシトリオール
  エルデカルシトール
  活性型ビタミンD製剤の半減期
  ビタミンD製剤とCa製剤の併用
  活性型ビタミンD製剤は高Ca血症の最多原因?
   column 4 双曲割引が副作用を割り引く?
 3.ジギタリス中毒
  適切な血中濃度
  ジギタリス中毒の臨床所見
  ジギタリスによる心電図変化
  ジゴキシン製剤の投与量
  メチルジゴキシン製剤の投与量
   column 5 せっかくの成功例も符号効果で失敗例と勘違い
 4.テオフィリン中毒
  テオフィリン急性過量服薬と長期投与者における中毒
  長期投与者における中毒の特徴
  適切な血中濃度とは
  必要投与量の予測
  急性気道感染症罹患時の注意
   column 6 責任の所在は人それぞれ
 5.気管支喘息患者に安全な薬剤
  アスピリン喘息の頻度
  外用薬(湿布)の安全性
  アセトアミノフェンの安全性とCOX-2阻害薬の安全性
  静注ステロイド製剤の安全性
  身近な誘発因子〔ミント,保存料(安息香酸),アルコール〕
   column 7 幸せの数値化
 6.高齢者に対する向精神薬
  コリンエステラーゼ阻害薬の有用性
  コリンエステラーゼ阻害薬の有害性
  抗精神病薬は死亡率を高める
  その他の抗精神病薬の有害性
  睡眠薬の有用性?!
  睡眠薬のリスク
  Z drugsやメラトニン受容体作動薬は安全か?
  高齢者の不眠は生理的変化の1つ
   column 8 効かない薬をやめられないわけ
 7.薬剤による消化管出血
  抗血栓療法併用について
  消化管出血には弱い?! 新規経口抗凝固薬
  抗血小板薬による消化管出血
  胃にやさしいNSAIDsはない!
  NSAIDsや抗血小板薬は下部消化管からの出血も増やす
  その他消化管出血の原因となる薬
   column 9 EBMと自覚症状のどちらを優先するべきか
 8.意外に多い?! PPIの副作用
  Clostridium difficile 感染症(CDI)が増える,再発する
  サルモネラ感染症,カンピロバクター感染症,特発性細菌性腹膜炎,肝性脳症も起こる
  肺炎を増やす
  貧血が増える
  下部消化管傷害(小腸粘膜障害や顕微鏡的大腸炎)も起こす
  PPIは離脱症状を起こす
  胃癌の発生が増えるかもしれない
  骨折も増える
  認知症,頭痛,腎障害も?!
  使うか否かの目安
   column 10 賢い選択は賢い提案から
 9.薬疹
  紅色小丘疹があれば,2~3週間以内の新規薬剤服用がないか確認する
  抗菌薬・抗けいれん薬・解熱鎮痛薬は,特に薬疹を起こしやすい
  粘膜皮膚移行部病変の有無は必ず確認する
  SJSは1~3週間前に開始した抗菌薬,解熱鎮痛薬,アロプリノールなどが被疑薬となる
  服薬開始から発症までの期間が長い重症薬疹は薬剤性過敏症症候群(DIHS)を考える
  小膿疱を伴う急性汎発性発疹性膿疱症(AGEP)
  薬剤によるリンパ球刺激試験(DLST)による原因薬物同定
   column 11 “念のための処方”ではなく,“念のための説明”をしよう
 10.薬剤熱
  薬剤熱の機序
  抗菌薬・抗てんかん薬は,薬剤熱を起こしやすい
  2~3週間以内の新規薬剤を,まずは疑う!
  「比較三原則」が参考になるかもしれない
  薬剤熱の診断には,薬剤を中止するのが最もよい
  関節痛があれば,「血清病様反応」や「薬剤性ループス」を考える
   column 12 選択肢があなたを縛る
 11.薬剤性肺炎
  薬剤性肺炎の疫学
  典型的な薬剤性肺炎
  よく使う薬剤による薬剤性肺炎
   column 13 霊感商法とインフォームド・コンセントの違い
 12.薬剤性肝障害
  薬剤性肝障害の疫学
  薬剤性肝障害のパターン
  薬剤性肝障害の診断
  重症度分類
   column 14 革新者は時代遅れ?!
 13.薬剤性血球減少
  薬剤性血球減少の疫学
  薬剤性無顆粒球症
  薬剤性血小板減少
   column 15 依存しているのは医師のほうかもしれない

索引

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日常診療で頻用する薬の副作用を詳細に分析
書評者: 山中 克郎 (諏訪中央病院総合内科/院長補佐)
 上田剛士先生(洛和会丸太町病院救急・総合診療科)は数多くの文献から重要なメッセージを抽出し,わかりやすい表やグラフにして説明してくれる。評者と同様,『ジェネラリストのための内科診断リファレンス』(医学書院,2014年)を座右の参考書としている臨床医は多いであろう。これは臨床上の問題点に遭遇したとき,そのエビデンスを調べる際に非常に重宝している。

 『日常診療に潜むクスリのリスク』は薬の副作用に関する本である。高齢者はたくさんの薬を飲んでいる。私たちは気が付いていないのだが,薬の副作用により患者を苦しめていることは多い。「100人の患者を診療すれば10人に薬物有害反応が出現する」(序より),「高齢者の入院の1/6は薬物副作用によるもので,75歳以上では入院の1/3に及ぶ」(p.5より)という事実は決して看過すべからざることである。「Beers基準」や「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」は存在するが,高齢者への適切な処方への応用は不十分だ。

 NSAIDsの服用により血圧が上昇する,メトクロプラミド(プリンペラン)の処方が薬剤性パーキンソニズムを起こすことは臨床医がよく経験することではないだろうか。そんな私たちが日常診療で頻用する薬により起こる副作用について詳細に分析されている。

 次の記載は特に示唆に富む。
・Ca拮抗薬による浮腫は11%で認められる。長期内服しているうちに浮腫が出現してくることが多い(p.29より)。
・高齢者ではアルファカルシドール(アルファロール)1 μg/日やエルデカルシトール(エディロール)による高Ca血症は非常によくある。食欲低下,倦怠感,便秘という非特異的症状のこともある(p.41より)。
・アスピリンやNSAIDsを服用すると,20分~3時間後に重篤な喘息発作が誘発される可能性がある。アスピリン喘息は成人喘息患者の7~9%程度で存在する。多数の患者が過敏性を自覚しているが,医療従事者が軽視している可能性がある(p.61より)。
・高齢者に睡眠薬を投与しても,満足する結果が得られるよりも害のほうが2倍生じやすい(p.76より)。
・プロトンポンプ阻害薬(PPI)は胃酸の分泌を抑制し,鉄やビタミンB12の吸収を低下させる。顕微鏡的大腸炎,骨折,認知症,頭痛,腎機能障害,貧血を起こす可能性がある(p.98より)。
・抗甲状腺薬による無顆粒球症の頻度は0.3%。投与開始3週間~3か月後の発熱・咽頭痛での発症が典型的であり,定期的な採血だけで無顆粒球症を予測することは困難(p.143より)。

 どれもヒヤッとすることばかりである。日常診療でよく処方する効果的な薬ばかりであるからこそ,潜在的な副作用についてプライマリ・ケア医は特に注意を払う必要がある。“両刃の剣”である薬の特質を理解してこそ,自らの診療をさらに高いレベルに引き上げることが可能だ。そしてコラムでは,どうして私たちはクスリを処方したくなり患者はクスリを希望するのか,ウイットに富んだ考察がなされるのである。ぜひご一読をお薦めしたい。
薬の副作用のエビデンスリソース
書評者: 徳田 安春 (群星沖縄臨床研修センター長)
 医療現場でクスリの副作用ケースが増えています。高齢化,マルチモビディティ,ポリファーマシー,新薬開発,ガイドラインによる推奨などが要因です。それでも,処方した医師には副作用を早期に発見し対処する責任があるといえます。そのためには処方する医師には「特別」な学習が必要です。なぜ特別かというと,悲しいかな,薬の副作用についての臨床的に役立つ実践的な知識は薬のパンフレットや添付文書を熟読しても習得できないからです。

 本書はそのような実践的な知識をコンパクトにまとめてエビデンスを提供してくれる新しいタイプのリソースです。著者は総合診療エビデンス界のプリンス,上田剛士先生(洛和会丸太町病院救急・総合診療科)。本書では,得意技である円グラフを駆使して,徹底的な科学的エビデンスを提供してくれています。

 まずは総論からスタート。いかに薬剤の副作用が多いかがわかります。その背景因子についてのエビデンスが記載されています。そして各論はコモンな薬剤の副作用について,薬剤と代表的な症候の両面からの切り口で紹介されています。図表も豊富であり,各章の最後には箇条書きでまとめが付いており,記憶にも残りやすいように工夫されています。

 自分が処方した薬で副作用を落としたケースで辛い思いをした医師は多いと思います。本書を読んだ医師が実臨床でこれを活かすことにより,副作用ケースの早期発見と早期対応のレベルをアップし,日本の医療の質がさらによくなると確信します。

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