多職種連携で支える災害医療
身につけるべき知識・スキル・対応力
災害医療はすべての医療従事者で行うべきもの
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2011年3月の東日本大震災のあと、災害医療で変わったことは何だったのか。これまでの経験で活かされたことは何だったのか。本書には、38名の執筆者の経験に裏付けされた知識やスキルが記載されており、これからの災害に備える考え方や対応力をつけられる内容になっている。また、災害医療は急性期対応にとどまらず、長期ケアも重要であり、医師や看護師だけでなく、すべての医療従事者とともに対応する必要性が実感できる。
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- 目次
- 書評
序文
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序
東日本大震災(以下,3.11)から6年になるが,われわれは今この6年で何ができて,何ができていないのかを考える必要がある。
3.11において行われた災害医療に関しては,さまざまな学会や検討会で論議され,その課題と対応策が示されてきた。厚生労働省においても,「災害医療等のあり方に関する検討会」がもたれて2011(平成23)年10月に報告書が提出され,災害拠点病院,災害派遣医療チーム(DMAT),中長期における医療提供体制に関して,今後の課題と対応策が示された。また,2012(平成24)年3月には,厚生労働省医政局長通知「災害時における医療体制の充実強化について」において,具体的な今後の9つの目標が示された。これらにより,3.11の課題と対応策は示され,現在はこれらをいかに具現化するかというフェーズに入っている。
その一方で,トリアージ,応急処置,後方搬送,救護所での健康管理などの災害医療に関しては,検証が行われたと思うが,食料,栄養,水,衛生,感染症予防,精神衛生など公衆衛生面での検証に関しては十分とはいえない。3.11における災害医療の経験談や評論は,学会誌,商業誌,書籍などですでに多く発刊されている。災害医療においては実災害例はきわめて少ないので,当事者らの経験を共有することは,各々の災害対応能力の向上には不可欠であり,これらの報告は非常に重要である。しかし,今必要なのは,3.11で行われた災害医療をもう一度検証し,地震災害にとどまらず,すべての災害に対し次のステップとして災害医療に何が必要かに目を向けることである。3.11により何に気づかされたのか,災害医療をどのようにひろげなければならないのか,明確にすることが,本書の目的である。
そして,本書に込めた思いとして,災害医療は3.11を経験して,2つの意味でひろがるべきと考える。1つ目は面としてのひろがりである。被災傷病者への直接的な医療だけでなく,その周辺領域の保健福祉および公衆衛生全域に関わる調整と実践も災害医療には必要ということである。職種としては,医師,看護師,薬剤師のみならず,歯科医師,理学療法士などメディカルスタッフすべてを巻き込んだ体制が必要ということになる。2つ目は時間軸のひろがりである。災害医療といわれるとどうしても急性期に重きを置きがちになるが,災害関連死および生活不活発病(廃用症候群)の予防まで考えると,災害医療は長期間に渡りシームレスに展開する必要がある。面と時間の両面でひろがった災害医療を解説していくというのが,本書のテーマである。
本書は,雑誌 「看護教育」 の2013年9月号から2015年4月号まで連載された 「ひろがる災害医療と看護」 から,これからの災害に備えられる普遍的な内容を選び出し,さらに医師・看護師のみならず薬剤師や理学療法士,柔道整復師や鍼灸師などさまざまな方々に新たにご執筆いただいた。また,災害医療コーディネート,放射線災害や化学災害,国際災害対応などの章も設けた。どの章も3.11において第一線で活躍された方々が執筆くださった。執筆者には個人としての体験,気付きを含めて原稿の作成を依頼した。まさに実践から学んだこれからの災害医療が示されていることと思われる。
書名はすべての医療従事者が関わらないと,災害関連死などの防ぎえた災害死はなくならないという強い思いで,「多職種連携で支える災害医療」とさせていただいた。日本は災害多発国である。どこに住んでいようがマグニチュード7級の地震に見舞われる可能性がある。また地震のような大災害だけでなく,局所災害による多数傷病者発生事案は,より身近に起こる可能性がある。その意味で,いつ誰が災害の矢面に立たされるかわからない。災害医療は医療従事者であれば誰もが身につけなければならない事項である。本書が個々の災害対応能力の向上に益することを願っている。
2017年元旦
編者 小井土雄一,石井美恵子
東日本大震災(以下,3.11)から6年になるが,われわれは今この6年で何ができて,何ができていないのかを考える必要がある。
3.11において行われた災害医療に関しては,さまざまな学会や検討会で論議され,その課題と対応策が示されてきた。厚生労働省においても,「災害医療等のあり方に関する検討会」がもたれて2011(平成23)年10月に報告書が提出され,災害拠点病院,災害派遣医療チーム(DMAT),中長期における医療提供体制に関して,今後の課題と対応策が示された。また,2012(平成24)年3月には,厚生労働省医政局長通知「災害時における医療体制の充実強化について」において,具体的な今後の9つの目標が示された。これらにより,3.11の課題と対応策は示され,現在はこれらをいかに具現化するかというフェーズに入っている。
その一方で,トリアージ,応急処置,後方搬送,救護所での健康管理などの災害医療に関しては,検証が行われたと思うが,食料,栄養,水,衛生,感染症予防,精神衛生など公衆衛生面での検証に関しては十分とはいえない。3.11における災害医療の経験談や評論は,学会誌,商業誌,書籍などですでに多く発刊されている。災害医療においては実災害例はきわめて少ないので,当事者らの経験を共有することは,各々の災害対応能力の向上には不可欠であり,これらの報告は非常に重要である。しかし,今必要なのは,3.11で行われた災害医療をもう一度検証し,地震災害にとどまらず,すべての災害に対し次のステップとして災害医療に何が必要かに目を向けることである。3.11により何に気づかされたのか,災害医療をどのようにひろげなければならないのか,明確にすることが,本書の目的である。
そして,本書に込めた思いとして,災害医療は3.11を経験して,2つの意味でひろがるべきと考える。1つ目は面としてのひろがりである。被災傷病者への直接的な医療だけでなく,その周辺領域の保健福祉および公衆衛生全域に関わる調整と実践も災害医療には必要ということである。職種としては,医師,看護師,薬剤師のみならず,歯科医師,理学療法士などメディカルスタッフすべてを巻き込んだ体制が必要ということになる。2つ目は時間軸のひろがりである。災害医療といわれるとどうしても急性期に重きを置きがちになるが,災害関連死および生活不活発病(廃用症候群)の予防まで考えると,災害医療は長期間に渡りシームレスに展開する必要がある。面と時間の両面でひろがった災害医療を解説していくというのが,本書のテーマである。
本書は,雑誌 「看護教育」 の2013年9月号から2015年4月号まで連載された 「ひろがる災害医療と看護」 から,これからの災害に備えられる普遍的な内容を選び出し,さらに医師・看護師のみならず薬剤師や理学療法士,柔道整復師や鍼灸師などさまざまな方々に新たにご執筆いただいた。また,災害医療コーディネート,放射線災害や化学災害,国際災害対応などの章も設けた。どの章も3.11において第一線で活躍された方々が執筆くださった。執筆者には個人としての体験,気付きを含めて原稿の作成を依頼した。まさに実践から学んだこれからの災害医療が示されていることと思われる。
書名はすべての医療従事者が関わらないと,災害関連死などの防ぎえた災害死はなくならないという強い思いで,「多職種連携で支える災害医療」とさせていただいた。日本は災害多発国である。どこに住んでいようがマグニチュード7級の地震に見舞われる可能性がある。また地震のような大災害だけでなく,局所災害による多数傷病者発生事案は,より身近に起こる可能性がある。その意味で,いつ誰が災害の矢面に立たされるかわからない。災害医療は医療従事者であれば誰もが身につけなければならない事項である。本書が個々の災害対応能力の向上に益することを願っている。
2017年元旦
編者 小井土雄一,石井美恵子
目次
開く
第1章 新しい災害医療体制
[1] 1.17の教訓で生まれた日本の災害医療体制
[2] 3.11においてできたこと
[COLUMN] 災害対策基本法で改正された点
[3] 3.11でできなかったことと今後の対応
1 医療ニーズの正しい捉え方
2 シームレスな医療支援の実現
[COLUMN] 派遣調整本部・地域災害医療対策会議
3 情報伝達手段の確保
4 公衆衛生的視点の導入
5 災害関連死の予防
[COLUMN] クラスターアプローチ
[COLUMN] CSCATTT
第2章 災害時こそチーム医療が機能する-ひろがった専門家の連携の輪
[1] 災害看護に必要な知識とスキル
1 甚大かつ広域であったがゆえの災害経験者のひろがり
2 看護を取り巻く社会変化による専門的なひろがり
3 看護の原点・理論に立ち戻るという意味でのひろがり
4 看護職が身につけるべき知識とスキル
[2] 薬剤師の活動
1 3.11での活動
2 災害時における医薬品の供給
[3] リハビリテーション専門職の活動
1 組織体制について
2 具体的な活動について
[COLUMN] 理学療法士としてのネパールでの活動
[COLUMN] 災害と柔道整復師
第3章 災害医療コーディネート
[1] 災害時の人的資源の確保
[2] 支援体制の構築と災害コーディネーターの必要性
[3] 災害医療コーディネート体制の誕生
[4] 災害医療コーディネート体制の整備における課題
[COLUMN] 歯科医師・歯科衛生士の活躍
[COLUMN] 災害時における鍼灸師の活動について
第4章 東日本大震災対応の経験から見えてきた災害対応ストラテジー
[1] 事前に想定できなかったこと
[2] 震災後に直面した問題とその対応
1 軽症者や処方希望者への対応
2 行政による避難所情報の把握の乏しさ
3 避難所の食料/衛生問題
4 個別に参集する全国からの救護チームの統括
5 要介護者対応
6 症状の軽快が遅れる危惧のある傷病者への対応
7 回復の遅れた地域への対応
[3] 今後の災害に対して必要な備えや心がけ
第5章 災害時に求められるリーダーシップ
[1] 災害対応の特徴
[2] なぜ,災害対応でリーダーシップが重要なのか
[3] 意思決定プロセスとレジリエンス
[COLUMN] 福祉関連施設における災害対策と津波避難
第6章 救護所で医師が行うこと,看護師が行うこと
[1] 広域災害で設置される救護所と医療行為
1 広域災害で設置されるさまざまな医療救護所
2 広域災害で設置される救護所における医療行為
[2] 局地災害現場に設置される災害現場救護所と医療行為
1 たまたま局地災害現場に居合わせた際の初期活動
2 局地災害現場に医療チームとして到着した際の救護所活動
[COLUMN] 限られた医療資器材
[3] 災害時における救護所の特徴と看護
1 緊急医療救護所
2 避難所医療救護所
3 局地災害現場に設置される災害現場救護所
4 原子力防災に関連した救護所
第7章 病院支援側と受援側に必要なこと
[1] 病院が被災するということ
[2] 病院支援を行う側に必要なこと
1 事前準備
2 必要な支援を見極める
3 支援活動の記録および評価
[3] 受援側に必要なこと
1 自立的な活動継続を想定する
2 支援を受け入れる体制を整備する
3 看護業務を継続・評価する
第8章 避難所で心がける医療者の役割と態度
[1] 避難所とは
[2] 避難所において注意すべき疾患とその特徴
1 急性呼吸器感染症(ARI)
2 インフルエンザ,急性下痢症,食中毒
3 脱水,深部静脈血栓症(DVT)
4 生活不活発病(廃用症候群)
5 こころのケア
6 看護師が被災するということ
[3] 東日本大震災以降の避難所に関連する法律の改正
[4] 避難所における看護の原則
1 避難所におけるCSCA
2 避難所における3つの看護
[5] 避難所における生活環境を整備するために活用できるツール
1 「避難所生活における良好な生活環境の確保に向けた取組指針」
2 「男女共同参画の視点からの防災・復興の取組指針」
3 スフィア・プロジェクト-人道憲章と人道援助における最低基準
4 その他の資源
[COLUMN] 災害後のエコノミークラス症候群と簡易ベッド
第9章 災害時の地域ケアシステムの構築による保健師の要支援者等への対応
[1] 東日本大震災における保健師による公衆衛生看護活動
1 公衆衛生看護活動の観点から捉えた従来の国内災害との相違点
2 保健師活動の実際
3 保健師による公衆衛生看護活動上の課題
4 災害時の保健師活動のマニュアルの改訂
[2] 災害時の地域ケアシステムの構築と要支援者等への対応
1 地域ケアシステムの構築とは
2 地域ケアシステムの構築のプロセス
[COLUMN] PDCAサイクル
3 地域ケアシステムの成熟プロセス
4 地域ケアシステムの構築と災害支援
5 震災を教訓とした平常時における地域ケアシステムの構築事例
第10章 災害時に必要なパブリックヘルスの視点と実践
[1] 災害時のパブリックヘルスとは
[2] 災害時に必要なパブリックヘルスの課題
[COLUMN] 災害時健康危機管理支援チーム(DHEAT)
1 食事・栄養
2 水
3 トイレ
4 住環境
5 感染症対策
6 動物・衛生害虫
7 環境・職業要因
[3] 看護師のパブリックヘルスへの関わり方
[COLUMN] ネパール大地震での経験-看護診断の活用
第11章 重度要支援者を支えるための細やかな対応
[1] 医療依存度が高い人たちへの支援
1 透析
2 人工呼吸器
3 在宅酸素療法
4 吸引
[2] 小児,新生児,妊産褥婦のケア
1 小児の特徴と留意点
2 新生児や乳児のケア
3 妊産婦へのケア
4 褥婦へのケア
第12章 被災者・支援者のメンタルヘルスとケア
[1] 災害直後のこころのケア応急処置
1 サイコロジカル・ファーストエイド(PFA)誕生までの歴史
2 WHO版PFAとは
3 PFAの支援のあり方
4 PFAの活動原則
5 PFAの普及と今後
[2] 災害時のメンタルヘルスケアと看護活動
1 メンタルヘルスケアに看護師はいかに関わるか
2 被災地での支援を看護の原点に戻って考える
第13章 災害時の精神疾患患者への対応
[1] 災害の時間経過と精神疾患
1 急性期
2 中長期
[2] 代表的な精神疾患と災害時の対応
1 てんかん
2 統合失調症
3 気分障害
4 アルコール関連障害
5 発達障害,知的障害
6 認知症
[3] 対応する際に注意すべき点について
[4] 災害派遣精神医療チーム(DPAT)
1 DPAT設立までの経緯
2 DPATの設立
3 DPATの研修・訓練
4 DPATの活動
第14章 放射線や化学による特殊な災害への備え
[1] 放射線災害
1 身につけるべき放射線基礎知識
[COLUMN] 放射性物質による体表面汚染傷病者診療時の二次被ばく
2 放射線災害におけるCommand and Control(指揮統制・調整)
3 放射線災害におけるSafety(安全管理)
4 放射線災害におけるCommunication(情報伝達)
5 放射線災害におけるAssessment(評価)
6 放射線災害におけるTriage(トリアージ)
7 放射線災害におけるTreatment(治療)
8 放射線災害におけるTransport(搬送)
[2] 化学災害-CBRNE対応を考える
1 CBRNE災害・テロへの医療対応における重要概念
2 CBRNE災害・テロへの医療対応の脆弱性
3 救急医療機関に求められる原因物質によらない診療体制の整備
4 CBRNE災害・テロ対応院内体制・診療手順の確立
5 CBRNE災害・テロに対する体制整備に関する提言
第15章 災害関連死をめぐる課題
[1] 災害時の死亡
1 直接死と間接死
2 死亡統計からみた災害関連死
3 住民の表現型と関連死:災害関連死予防と急性期医療チーム
[2] 過去の災害関連死
[3] 3.11における災害関連死の内訳
[4] 災害関連死に関わる課題
[5] 災害関連死を防ぐために
1 生活不活発病の予防を-それは被災者自立の過程
2 身につけるべき考え方
第16章 国際災害対応-災害医療の世界の潮流
[1] 大規模災害時における国際医療支援の現状
[2] 医療分野における支援調整の萌芽
1 医療行為の質の担保
2 支援の交通整理
3 リソースの動員メカニズムの強化
[3] 具体的な調整システム
1 国際チームの能力分類
2 国際派遣を意図するチームの事前登録
3 既存の調整システムの強化
[4] 災害医療の次への展開
[5] 国内外一致の重要性-おわりにかえて
索引
[1] 1.17の教訓で生まれた日本の災害医療体制
[2] 3.11においてできたこと
[COLUMN] 災害対策基本法で改正された点
[3] 3.11でできなかったことと今後の対応
1 医療ニーズの正しい捉え方
2 シームレスな医療支援の実現
[COLUMN] 派遣調整本部・地域災害医療対策会議
3 情報伝達手段の確保
4 公衆衛生的視点の導入
5 災害関連死の予防
[COLUMN] クラスターアプローチ
[COLUMN] CSCATTT
第2章 災害時こそチーム医療が機能する-ひろがった専門家の連携の輪
[1] 災害看護に必要な知識とスキル
1 甚大かつ広域であったがゆえの災害経験者のひろがり
2 看護を取り巻く社会変化による専門的なひろがり
3 看護の原点・理論に立ち戻るという意味でのひろがり
4 看護職が身につけるべき知識とスキル
[2] 薬剤師の活動
1 3.11での活動
2 災害時における医薬品の供給
[3] リハビリテーション専門職の活動
1 組織体制について
2 具体的な活動について
[COLUMN] 理学療法士としてのネパールでの活動
[COLUMN] 災害と柔道整復師
第3章 災害医療コーディネート
[1] 災害時の人的資源の確保
[2] 支援体制の構築と災害コーディネーターの必要性
[3] 災害医療コーディネート体制の誕生
[4] 災害医療コーディネート体制の整備における課題
[COLUMN] 歯科医師・歯科衛生士の活躍
[COLUMN] 災害時における鍼灸師の活動について
第4章 東日本大震災対応の経験から見えてきた災害対応ストラテジー
[1] 事前に想定できなかったこと
[2] 震災後に直面した問題とその対応
1 軽症者や処方希望者への対応
2 行政による避難所情報の把握の乏しさ
3 避難所の食料/衛生問題
4 個別に参集する全国からの救護チームの統括
5 要介護者対応
6 症状の軽快が遅れる危惧のある傷病者への対応
7 回復の遅れた地域への対応
[3] 今後の災害に対して必要な備えや心がけ
第5章 災害時に求められるリーダーシップ
[1] 災害対応の特徴
[2] なぜ,災害対応でリーダーシップが重要なのか
[3] 意思決定プロセスとレジリエンス
[COLUMN] 福祉関連施設における災害対策と津波避難
第6章 救護所で医師が行うこと,看護師が行うこと
[1] 広域災害で設置される救護所と医療行為
1 広域災害で設置されるさまざまな医療救護所
2 広域災害で設置される救護所における医療行為
[2] 局地災害現場に設置される災害現場救護所と医療行為
1 たまたま局地災害現場に居合わせた際の初期活動
2 局地災害現場に医療チームとして到着した際の救護所活動
[COLUMN] 限られた医療資器材
[3] 災害時における救護所の特徴と看護
1 緊急医療救護所
2 避難所医療救護所
3 局地災害現場に設置される災害現場救護所
4 原子力防災に関連した救護所
第7章 病院支援側と受援側に必要なこと
[1] 病院が被災するということ
[2] 病院支援を行う側に必要なこと
1 事前準備
2 必要な支援を見極める
3 支援活動の記録および評価
[3] 受援側に必要なこと
1 自立的な活動継続を想定する
2 支援を受け入れる体制を整備する
3 看護業務を継続・評価する
第8章 避難所で心がける医療者の役割と態度
[1] 避難所とは
[2] 避難所において注意すべき疾患とその特徴
1 急性呼吸器感染症(ARI)
2 インフルエンザ,急性下痢症,食中毒
3 脱水,深部静脈血栓症(DVT)
4 生活不活発病(廃用症候群)
5 こころのケア
6 看護師が被災するということ
[3] 東日本大震災以降の避難所に関連する法律の改正
[4] 避難所における看護の原則
1 避難所におけるCSCA
2 避難所における3つの看護
[5] 避難所における生活環境を整備するために活用できるツール
1 「避難所生活における良好な生活環境の確保に向けた取組指針」
2 「男女共同参画の視点からの防災・復興の取組指針」
3 スフィア・プロジェクト-人道憲章と人道援助における最低基準
4 その他の資源
[COLUMN] 災害後のエコノミークラス症候群と簡易ベッド
第9章 災害時の地域ケアシステムの構築による保健師の要支援者等への対応
[1] 東日本大震災における保健師による公衆衛生看護活動
1 公衆衛生看護活動の観点から捉えた従来の国内災害との相違点
2 保健師活動の実際
3 保健師による公衆衛生看護活動上の課題
4 災害時の保健師活動のマニュアルの改訂
[2] 災害時の地域ケアシステムの構築と要支援者等への対応
1 地域ケアシステムの構築とは
2 地域ケアシステムの構築のプロセス
[COLUMN] PDCAサイクル
3 地域ケアシステムの成熟プロセス
4 地域ケアシステムの構築と災害支援
5 震災を教訓とした平常時における地域ケアシステムの構築事例
第10章 災害時に必要なパブリックヘルスの視点と実践
[1] 災害時のパブリックヘルスとは
[2] 災害時に必要なパブリックヘルスの課題
[COLUMN] 災害時健康危機管理支援チーム(DHEAT)
1 食事・栄養
2 水
3 トイレ
4 住環境
5 感染症対策
6 動物・衛生害虫
7 環境・職業要因
[3] 看護師のパブリックヘルスへの関わり方
[COLUMN] ネパール大地震での経験-看護診断の活用
第11章 重度要支援者を支えるための細やかな対応
[1] 医療依存度が高い人たちへの支援
1 透析
2 人工呼吸器
3 在宅酸素療法
4 吸引
[2] 小児,新生児,妊産褥婦のケア
1 小児の特徴と留意点
2 新生児や乳児のケア
3 妊産婦へのケア
4 褥婦へのケア
第12章 被災者・支援者のメンタルヘルスとケア
[1] 災害直後のこころのケア応急処置
1 サイコロジカル・ファーストエイド(PFA)誕生までの歴史
2 WHO版PFAとは
3 PFAの支援のあり方
4 PFAの活動原則
5 PFAの普及と今後
[2] 災害時のメンタルヘルスケアと看護活動
1 メンタルヘルスケアに看護師はいかに関わるか
2 被災地での支援を看護の原点に戻って考える
第13章 災害時の精神疾患患者への対応
[1] 災害の時間経過と精神疾患
1 急性期
2 中長期
[2] 代表的な精神疾患と災害時の対応
1 てんかん
2 統合失調症
3 気分障害
4 アルコール関連障害
5 発達障害,知的障害
6 認知症
[3] 対応する際に注意すべき点について
[4] 災害派遣精神医療チーム(DPAT)
1 DPAT設立までの経緯
2 DPATの設立
3 DPATの研修・訓練
4 DPATの活動
第14章 放射線や化学による特殊な災害への備え
[1] 放射線災害
1 身につけるべき放射線基礎知識
[COLUMN] 放射性物質による体表面汚染傷病者診療時の二次被ばく
2 放射線災害におけるCommand and Control(指揮統制・調整)
3 放射線災害におけるSafety(安全管理)
4 放射線災害におけるCommunication(情報伝達)
5 放射線災害におけるAssessment(評価)
6 放射線災害におけるTriage(トリアージ)
7 放射線災害におけるTreatment(治療)
8 放射線災害におけるTransport(搬送)
[2] 化学災害-CBRNE対応を考える
1 CBRNE災害・テロへの医療対応における重要概念
2 CBRNE災害・テロへの医療対応の脆弱性
3 救急医療機関に求められる原因物質によらない診療体制の整備
4 CBRNE災害・テロ対応院内体制・診療手順の確立
5 CBRNE災害・テロに対する体制整備に関する提言
第15章 災害関連死をめぐる課題
[1] 災害時の死亡
1 直接死と間接死
2 死亡統計からみた災害関連死
3 住民の表現型と関連死:災害関連死予防と急性期医療チーム
[2] 過去の災害関連死
[3] 3.11における災害関連死の内訳
[4] 災害関連死に関わる課題
[5] 災害関連死を防ぐために
1 生活不活発病の予防を-それは被災者自立の過程
2 身につけるべき考え方
第16章 国際災害対応-災害医療の世界の潮流
[1] 大規模災害時における国際医療支援の現状
[2] 医療分野における支援調整の萌芽
1 医療行為の質の担保
2 支援の交通整理
3 リソースの動員メカニズムの強化
[3] 具体的な調整システム
1 国際チームの能力分類
2 国際派遣を意図するチームの事前登録
3 既存の調整システムの強化
[4] 災害医療の次への展開
[5] 国内外一致の重要性-おわりにかえて
索引
書評
開く
災害医療システムの理解と多職種連携の促進のための必読書
書評者: 佐々木 吉子 (東医歯大大学院教授・保健衛生学)
わが国は歴史的に幾多の大災害を経験し,そのたびに反省を踏まえて法の制定や改正,災害対応の仕組みの改善が重ねられ,今日の災害医療体制へと進化を遂げてきた。
阪神・淡路大震災では,多くの“防ぎえた災害死”を経験し,迅速な医療救護の展開と医療資源や傷病者についての情報共有の必要性が唱えられ,日本DMAT(災害派遣医療チーム)やEMIS(広域災害救急医療情報システム)が整備された。その後に発生した新潟県中越沖地震では,発災後即座にEMISによって全国のDMATに待機要請が配信され,派遣されたDMATによる医療救護活動が行われた。
東日本大震災においても,発災後全国からDMATが参集して医療活動が展開されたが,被災地では津波被害により多くの方が亡くなり,沿岸部の医療機関の損壊や医療情報の喪失,慢性疾患の人が常用する薬剤を失ったために,急性期以降も災害関連疾患への対応や甚大な喪失を経験した人々への心のケア,公衆衛生対策などのニーズが持続し,災害対応としての新たな課題が見出された。また,災害応急対応者の二次災害や急性ストレス反応も問題となり,これらに従事する人々の安全確保についても後に法で明示された。さらに,さまざまな職種,個人や団体が被災地に押し寄せ,横の情報共有や役割分担が十分でなかったために,医療提供や配布資源の偏在が生じ,連携の必要性が認識され,そのための試みがなされた。
そして,先に発生した熊本地震では,DMATは被災地のニーズに応じて,医療救護だけでなく情報収集や医療コーディネーションを行ったほか,被災地では,医療職のみならずさまざまな団体の連携拠点が置かれた。
このような経過をたどる中で,法改正に伴う国や自治体の責務,それらに伴って実施された施策,さまざまな団体の結成があり,多くの聞き慣れない略語や専門用語も生まれた。一方で,災害医療においては,全ての職種が協働しなければ,その使命は達成できない状況にあり,効果的な多職種連携の実現のために,それぞれの職種が他職種の役割や事情を理解することが必須となる。
本書は,わが国の災害医療をさまざまな職種の立場から牽引してきた38名によって執筆されており,災害医療の変遷とその要点について丁寧に解説されている。また,自然災害のみならず人為災害についての対応原則が簡潔に示されている。さらに,多職種で共通認識すべき危機対応や人道支援の原則,各職種が被災地や遠隔地においてどのような趣旨で災害対応活動をしてきたのかを,実務に携わってきた当人が分担執筆しており,読者にとって大変イメージがしやすく実用的である。
本書は,災害医療を学ぼうとしている人の知識やスキルの習得を助ける有益な書であるだけでなく,急きょ災害対応に参加することになった人に効果的に多職種連携を進めながら実対応する上で心強い一冊となるであろう。
書評者: 佐々木 吉子 (東医歯大大学院教授・保健衛生学)
わが国は歴史的に幾多の大災害を経験し,そのたびに反省を踏まえて法の制定や改正,災害対応の仕組みの改善が重ねられ,今日の災害医療体制へと進化を遂げてきた。
阪神・淡路大震災では,多くの“防ぎえた災害死”を経験し,迅速な医療救護の展開と医療資源や傷病者についての情報共有の必要性が唱えられ,日本DMAT(災害派遣医療チーム)やEMIS(広域災害救急医療情報システム)が整備された。その後に発生した新潟県中越沖地震では,発災後即座にEMISによって全国のDMATに待機要請が配信され,派遣されたDMATによる医療救護活動が行われた。
東日本大震災においても,発災後全国からDMATが参集して医療活動が展開されたが,被災地では津波被害により多くの方が亡くなり,沿岸部の医療機関の損壊や医療情報の喪失,慢性疾患の人が常用する薬剤を失ったために,急性期以降も災害関連疾患への対応や甚大な喪失を経験した人々への心のケア,公衆衛生対策などのニーズが持続し,災害対応としての新たな課題が見出された。また,災害応急対応者の二次災害や急性ストレス反応も問題となり,これらに従事する人々の安全確保についても後に法で明示された。さらに,さまざまな職種,個人や団体が被災地に押し寄せ,横の情報共有や役割分担が十分でなかったために,医療提供や配布資源の偏在が生じ,連携の必要性が認識され,そのための試みがなされた。
そして,先に発生した熊本地震では,DMATは被災地のニーズに応じて,医療救護だけでなく情報収集や医療コーディネーションを行ったほか,被災地では,医療職のみならずさまざまな団体の連携拠点が置かれた。
このような経過をたどる中で,法改正に伴う国や自治体の責務,それらに伴って実施された施策,さまざまな団体の結成があり,多くの聞き慣れない略語や専門用語も生まれた。一方で,災害医療においては,全ての職種が協働しなければ,その使命は達成できない状況にあり,効果的な多職種連携の実現のために,それぞれの職種が他職種の役割や事情を理解することが必須となる。
本書は,わが国の災害医療をさまざまな職種の立場から牽引してきた38名によって執筆されており,災害医療の変遷とその要点について丁寧に解説されている。また,自然災害のみならず人為災害についての対応原則が簡潔に示されている。さらに,多職種で共通認識すべき危機対応や人道支援の原則,各職種が被災地や遠隔地においてどのような趣旨で災害対応活動をしてきたのかを,実務に携わってきた当人が分担執筆しており,読者にとって大変イメージがしやすく実用的である。
本書は,災害医療を学ぼうとしている人の知識やスキルの習得を助ける有益な書であるだけでなく,急きょ災害対応に参加することになった人に効果的に多職種連携を進めながら実対応する上で心強い一冊となるであろう。
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